秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
238 / 468
第五章 秘伝と天使と悪魔

238 どこの世界でも

しおりを挟む
光を纏って現れたのは、真っ白な大きな翼を持った男性の天使。白い鎧は簡素だが、服と一体化しており、その服自体が防御力に優れているのが感じられた。一見して武器は持っていない。

その顔だけでなく、姿全ての存在自体が美しいと心に訴えかけてくるのは、上級悪魔と変わらない。そう感じているのは、彼らの存在に慣れた高耶だからだろう。

上級悪魔と同じだと言えば、きっと天使達は怒りを露わにするはずだ。だが、何よりも視覚から精神に作用する力は天使の方が強いため、厄介だ。

「常盤、黒艶、結界を強化」

静かにそう、近付いてくる天使を見つめながら口にすれば、結界内で蕩然としてしまっていた祓魔師エクソシスト達が、ゆっくりと意識を取り戻した。

とはいえ、その視線は天使から外れてはいない。そして、天使も、それが当然だと思っている。

高耶はふうと小さく息を吐く。これだけ大きな霊穴が開けば、義勇に駆られて来るだろうとは思ってはいたが、歓迎は出来なかった。

彼ら天使は、若い者ほど自分たちの正義が誰にでも当てはまる正義だと思っている。自分達の意見は誰もが賛同すべきものと思い込む、いわば、話を聞かない系の困ったちゃんだ。

もちろん、全部が全部そうではないのは、瑠璃が証明している。長く天使として存在し、世界のことわりも知った『大人』な天使は話が通じるのだ。今回来た者も、それであることを祈る。

高耶の前に浮いたまま、その天使は口を開いた。

《そこな、醜悪な存在から離れよ》
「……」

祈りは通じなかったらしい。それも、高耶を見下ろしたままだ。同じ地に足をつけることもしないのは、話の通じない若い天使の典型的な態度だった。

《これはまた……やんちゃなのが来たものだ……》

目の前の天使には伝わらないよう、調整して伝えられたクティの言葉に、高耶は小さく頷いていた。

上級悪魔とそれより下の悪魔では、家畜と人以上の隔たりがある。それさえも理解せず、悪魔と一括りにするのは、愚かなことだ。下位の悪魔を遠慮なく葬る瑠璃も、上級悪魔には、きちんと礼をもって接する。

《聞こえぬか! 矮小な生き物ごときが、天使である我のっ》
《ちょっと黙ってくれる? それと……いつまで見下ろしている?》
《っ!!》


ゴッッッ


重力と威圧を込めて、クティはその天使を地面に叩き落とした。若干、地面にめり込むくらいの力だ。突然だったため、受け身も取れず、天使は顔面から地面に埋もれた。

《まったく、これだから最近の若い者は……》

大仰おおぎょうにため息を吐いて見せるクティに、高耶は、やってしまったかと肩をすくめる。

「若い天使はこういうものでしょう……言ってみたかったんですか?」

若い天使が横柄なのは『最近』にはじまったことではないだろうと、一応指摘しておく。

《おや。バレたか。そう。言ってみたかっただけだよ。最近の流行語でしょ?》
「……言いたくなる時は多々ありますけどね……それで……いつまで押さえつけているんです?」
《はっはっはっ》

笑って誤魔化す気満々なのはわかった。クティは、重力を弱めていないのだ。天使は顔さえ上げられなくなっている。

《上位の話の分かる者が出てくるまでは、このままにしよう。どのみち、こちらもだが、下位の者は邪魔になる。アレを解放するには……な》

クティが目を向けるのは、結界内にある金と銀の鎧。後は兜だけの状態まで組み上がっているそれらは、天使が出てきた辺りから、カタカタと震えていた。

「……やはり、ただ祓うだけではいけませんか」

組み立てられていく間に、高耶は気付いていた。これは、人では昇華しきれないほどの怨念が染み付いてしまっているのだと。

《祓うことはできぬよ。やるとすれば、討つことだろう。どうやら、アレを生み出した者は、悪魔も天使も同等に肯定していたようだ。だから、最期の念もよく馴染んだ……》

クティは、あの鎧から過去を読み取っているようだ。玻璃のように触れなくても読み取れるのは、上級の中でも上位に位置しているから。

《あれはもう、アレらの願いであり、目的になっているのだろう。『天使のみを肯定する者に絶望を。悪魔を否定する者に悲劇を』だそうだ。これに、何者かの手が加わり、導き出された答えが『天使の門を閉し、悪魔の門を解放する』というものらしい》

鬼渡の介入があったことで、結果的には、猶予が出来たのかもしれない。もっと酷い絶望と悲劇が導き出された可能性は高い。とはいえ、このままで良いはずはない。

《止められねば、単に天使が喚び出せず、悪魔が人界に放出されるだではなく、次元そのものが歪むだろう。どちらも、完全に閉ざしていいものではないからな》
「はい……」

それらも含めて、この世界はバランスを取り、存在しているのだから。

そして、再び天使の現れた門から、光が飛び出してきた。

《ふむ……今度は話ができそうだ》

満足げにクティは呟いた。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む
感想 688

あなたにおすすめの小説

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

聖女は支配する!あら?どうして他の聖女の皆さんは気付かないのでしょうか?早く目を覚ましなさい!我々こそが支配者だと言う事に。

naturalsoft
恋愛
この短編は3部構成となっております。1話完結型です。 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★ オラクル聖王国の筆頭聖女であるシオンは疑問に思っていた。 癒やしを求めている民を後回しにして、たいした怪我や病気でもない貴族のみ癒やす仕事に。 そして、身体に負担が掛かる王国全体を覆う結界の維持に、当然だと言われて御礼すら言われない日々に。 「フフフッ、ある時気付いただけですわ♪」 ある時、白い紙にインクが滲むかの様に、黒く染まっていく聖女がそこにはいた。

モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したことに気づいたアイナ・ネルケ。 だが彼女はヒロインではない――ただの“モブ令嬢”。 「私は観る側。恋はヒロインのもの」 そう決めて、治癒魔術科で必死に学び、気合いと根性で仲間を癒し続けていた。 筋肉とビンタと回復の日々。 それなのに―― 「大丈夫だ。俺が必ず君を守る」 野外訓練で命を救った騎士、エルンスト・トゥルぺ。 彼の瞳と声が、治癒と共に魂に触れた瞬間から、世界が静かに変わり始める。 幼馴染ヴィルの揺れる視線。 家族の温かな歓迎。 辺境伯領と学園という“日常の戦場”。 「……好き」 「これは恋だ。もう、モブではいたくない」 守られるだけの存在ではなく、選ばれる覚悟を決めたモブ令嬢と、 現実しか知らない騎士の、静かで激しい溺愛の始まり。 これは―― モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまでの物語。 ※溺愛表現は後半からです。のんびり更新します。 ※作者の好みにより筋肉と気合い…ヤンデレ落ち掛けが踊りながらやって来ます。 ※これは恋愛ファンタジーです。ヒロインと違ってモブは本当に大変なんです。みんなアイナを応援してあげて下さい!!

レイブン領の面倒姫

庭にハニワ
ファンタジー
兄の学院卒業にかこつけて、初めて王都に行きました。 初対面の人に、いきなり婚約破棄されました。 私はまだ婚約などしていないのですが、ね。 あなた方、いったい何なんですか? 初投稿です。 ヨロシクお願い致します~。

婚前交渉は命懸け

章槻雅希
ファンタジー
伯爵令嬢ロスヴィータは婚約者スヴェンに婚約破棄を突きつけられた。 よくあるパターンの義妹による略奪だ。 しかし、スヴェンの発言により、それは家庭内の問題では収まらなくなる。 よくある婚約破棄&姉妹による略奪もので「え、貴族令嬢の貞操観念とか、どうなってんの?」と思ったので、極端なパターンを書いてみました。ご都合主義なチート魔法と魔道具が出てきますし、制度も深く設定してないのでおかしな点があると思います。 ここまで厳しく取り締まるなんてことはないでしょうが、普通は姉妹の婚約者寝取ったら修道院行きか勘当だよなぁと思います。花嫁入替してそのまま貴族夫人とか有り得ない、結婚させるにしても何らかのペナルティは与えるよなぁと思ったので。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿しています。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

処理中です...