秘伝賜ります

紫南

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第六章 秘伝と知己の集い

312 理解してもらうには難しい

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旅館に戻って来て、しばらくすると、伊調も部屋で落ち着いたらしく、来て欲しいというメールが来た。

武雄が祖父母にきちんと話したらしく、伊調の部屋で会うことになっていたのだ。そこに、高耶も呼ばれた。

俊哉は引き続き、何やら打ち合わせがあって出て行っており、満と嶺、彰彦はそろそろ別の友人達も来るからと部屋を出て行く所だった。

離れの一画。そこが伊調達、神楽部隊がよく泊まる部屋があった。本館を出る手前で、武雄が待っていた。

「あっ、高耶~あ。案内するよ」
「すまんな。忙しいだろうに」
「ううん。ぶっちゃけ、今回はそれほど気を遣う客じゃないじゃん? 友達を家に泊める感覚っていうかさ。だから、それほど忙しくもないんだよ」

普段ならば、失礼のないように、失敗のないようにと気を張る所もあるが、今回は同窓会の会場として好きに使ってくれという感じ。

食事もしっかりしたものを出すが、気持ち的にはとても楽なものだと言う。

「ばあちゃんやじいちゃんも、普通なら、女将としてだったりして、お客を一人一人迎えたり、挨拶に行ったりするんだけど、それもないから、時間的な余裕もあるんだ。だから、伊調さん達が来てくれて、めっちゃ喜んでた」

一日中、それこそ夜でも、何かあればと気を張って生活してきた女将達にとっては、今回の高耶達はとても楽なお客らしい。

それこそ、同級生の家という感覚のため、旅館の人達にも気楽に話しかける。だから、従業員達も楽しんでいるようだ。

「その上、旅館を続けて欲しいって言われたんだ。もうさ、みんなで飛び上がって喜んでたよ。まだ詳しく話も聞いてないのにさ~」
「ここの人たちは、続けたかったんだな」
「うん。母さんも父さんも、一度は継ごうって思ってたし、閉めるってなって、ばあちゃんの落ち込みようとかも見て、思うところがあったみたい」
「なるほどな……」

いくつか近くにも旅館はあるが、ここが一番大きい。町でも一番だろう。そんな旅館を継ぐという覚悟も、閉めるという覚悟も大変なもののはずだ。

色々と周りにも葛藤があるのだろうと察せされた。

「なあ、本当に旅館ごと買ってくれるのか? その……従業員も……」
「今雇ってる人達は残ってもらえるように伝えておくよ。ただ、こっちの常識に合わせてもらわないといけないから、合わない人は出てくるかもしれないが……」
「それ、やり方っていうか、経営方針? とかを変えるってこと?」
「いや……まあ、そう……か? その辺、説明させてもらうよ」
「うん……」

武雄は少し不安そうだった。

案内された部屋には、伊調やもう一人の神楽部隊の女性と話す武雄の祖父母と両親、それから、武雄の叔父夫婦がいた。

若干気まずい雰囲気があるのは、おそらく伊調達が仕事の事について打ち明けたのだろうと推察する。

高耶が現れた事で、女将が気持ちを切り替えるようにすっと立ち上がり、武雄に確認する。

「武雄さん。そちらが?」
「うん。同級生の蔦枝高耶。高耶、こっちが女将の、俺のばあちゃん」

それを聞いて、高耶は丁寧に頭を下げた。予想したよりもとても若いおばあちゃんだ。見た目としては、六十代の、まだまだ充分働けそうな年齢に見えた。

「はじめまして。秘伝高耶と申します。お時間をいただきありがとうございます」
「っ、いえいえ。そんなっ。どうぞこちらへ」
「失礼します」

伊調の隣りに座った高耶。女将達がその向いに並んだ。

すると、伊調が高耶へ伝える。

「御当主が来られる前に、先に我々の仕事についてお話ししました。こちらにお邪魔していた理由も。まだ少し戸惑っておいでのようですので、どうでしょう……扉を繋げていただけますでしょうか。せっかくですから、他の者達にも来てもらおうと思うのです」
「構いませんよ? どちらに繋げますか?」
「姫路の六花の屋敷なのですが……」
「六花の……なら、百合の離れの奥の扉に繋げます」
「分かりましたっ」

伊調が電話するのに席を立つ。女性の方も電話を手に取っていた。

「私は管理の方に連絡いたしますね」
「お願いします」

会合に使われたり、保護する者のために連盟が用意している屋敷で、そうした屋敷は各地にあり、地方を渡り歩く神楽部隊は宿として利用することが多い。

その管理人に、扉をつなげることを連絡してくれたのだ。伊調は、そこで待機していた者達への連絡をしているらしい。

その返事を待つ間、高耶は戸惑う女将達へと説明する。

「我々が陰陽術など、そうした術を使う団体だというのは……聞いても戸惑われると思います」
「あ、いえ……その……」
「いえ。大丈夫ですよ。戸惑われる、胡散臭く思われるのは慣れていますので」
「……はあ……」

高耶の前には、不安そうな顔が並んでいる。いくら伊調達と良い関係を築いて来たとはいえ、そんな信頼もしていた相手が、霊能者、詐欺師のようにも思える職業の人だったなんて信じたくないだろう。

本来視えないものを視えると言われるのは、近しい間柄の者でも胡散臭く感じてしまうものだ。

「伊調さん達の仕事は、世界にとっても、とても重要なものです。無神論者の多い現代では特に、胡散臭く感じるでしょう……ですが、我々にとっては、神は確かに存在するものですし、話もします」

高耶達には、人と話すのと同じくらい、当たり前の話し相手だ。

「感じられない……視えない方とは、どうしても距離が出来てしまうもので……霊や精霊なんて、信じられないかもしれません。ですが、女将さんは多分、そういう出会いも既にされていますよ?」
「え……」

高耶は霊力を高め、微笑みながら手を宙に差し出す。

「……【藤】」

差し出した高耶の手に優雅に白い手が重ねられ、フワリと髪を靡かせながら姿を現したのは、瑶迦の屋敷の屋敷精霊である藤だった。









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読んでくださりありがとうございます◎
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