秘伝賜ります

紫南

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第六章 秘伝と知己の集い

351 偶然、奇跡の連発

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由姫の双子のお陰で和やかな雰囲気になった隠れ里の者達に案内され、高耶達はその場所へと向かっていた。

蓮次郎は近付くにつれ、感じられるようになったその結界の精度に驚く。

「さすがは土地神様の結界だねえ……ここまで来ないとはっきりと結界があるって感じがしない……」
「ほんになあ……確かに、瑶姫の結界も分かりずらかったが、神の結界とは何とも……」

術者の張る結界とは一線を画す性能。それが神の結界だ。

そんな中で、高耶も冷静にそれを読み取っていた。

「中へ向かう加護が強そうですね。みなさん、ほとんど病気をしなかったのではないですか?」

そう長老に尋ねると、自覚がなかったのだろう。目を丸くして振り向いた。

「そう言われてみれば……軽い体調不良はありましたが……」
「そうですね。店の方に住み込んで、体調を崩しても、里に帰って二日もすれば治りました……」
「病気で亡くなった人って……聞いた事ないかも……」
「うん。それに、怪我も外に居る時よりもすぐに治ってたんじゃない? 血のせいだって思ってたけど、もしかして……」

半魔としての血の影響で、病気に罹りにくく、怪我も治りやすいのだと思っていたようだ。

「血による強さはあるかもしれませんが、それだけではないですね。山の神の加護は長寿や健康といったものが強いので」
「そうでしたか……私たちはそんな事も知らずに……」

ここの土地神はずっと眠りについている。その眠りも、ここに住む者達への加護を十分に与えるためのものだろう。それに気付かなかったと彼女達は今更ながらに反省し、肩を落とした。

そんな彼女達に、津が少し考えながら告げる。

「でも、それでいいんじゃない? 確か、山の神様って、甘えた方が喜んでくれるって、高耶兄さま、昔言ってたじゃない」
「ん? ああ。そういえば、そんな話をした事があったな」

能力を暴走させがちだった伶と津が隔離された由姫家の屋敷は、山の中にあった。彼らの力が暴走するため、夏でも吹雪く時があり、山の天候が荒れやすいとは言っても、酷いものだった。

騒がせて申し訳ないと、山の環境を狂わせる事を詫びて、神楽部隊は数ヶ月に一度の頻度でそこの山神様に神楽を奉納していた。

誰もが、山神様は怒っていると思っていたようだが、高耶が二人の面倒を見ることになり、挨拶をした時に姿を見せてくれた山神様は、困った子どももいたものだと笑い、ただ静かに見守ってくれていたのだ。

天候がどうであっても、こうして結界を張ったり木々の配置を変えれば、環境は守れる。小さな小動物達を生かして守ることも神には容易い。

自分勝手に能力を使って乱すのではなく、きちんと挨拶をして、時節には丁寧な舞の奉納までする者を責めたりはしない。

「事情を汲み取ってくださるんだ。泰然と……そこに揺るがずある方だからな。人で言うと心が広いというか……余裕があるというか……」

人であれ、植物や動物であれ、そこに在る全ては等しく『子』なのだろう。多少、ハメを外しても仕方ないと見守ってくれる。

「親……いや、祖父母くらいの関係か。もちろん、行き過ぎる行動があれば叱られる。それも、やり直しなどきかないぞってくらいキツくな。そこまでしないと、人は心から反省しないとわかっておられるんだろう……」

それでも、人は他人事で済ませてしまったりするが、元々、神と人との感覚は違う。だからこれは仕方がない。

その意図に気付いた者が努力し、同じ人に反省を促して変えていくしかないのだ。

「まあ、だから……里に戻ったらお礼をしましょう。感謝を祈りで伝えることは、して悪いことではありませんから。気付いたのですからね」
「っ、はい」

守られていたのだと気付いたのなら、感謝を示せば良い。遅いと怒られることはないだろう。気付いたことを、誇らしく思ってくれるかもしれない。子どもが少し成長したというように喜んでくれるだろう。

「それには先ず、問題を取り除かなくてはなりませんが……」

結界の境界まであと数歩という所まで来て、一同は立ち止まった。

蓮次郎は結界を観察して確認のため口を開く。

「入れない訳じゃないねえ。これは、一般の人には、近寄り難いというか、この場所に入ろうという気を起こさせない仕様になってるけど」
「術者ならば入れそうやなあ。なにゆえ、今まで気付かへんかったんやろか?」

山の中腹。茶屋への山道からはしっかりと外れている。ここまでほぼ獣道状態の道を歩いて来た。振り返れば、距離はあるが、丁度同じ高さの位置に滝が見える。

この地には、神楽部隊がたまに訪れていた。しかし、伊調も気付かなかった。近付いていれば中に入ることも可能だっただろう。気付かなかったのはたまたまなのか、山神の意思なのかは分からないが、それでも入れることは入れそうだ。

伊調も不思議そうにしていた。

「このような結界でしたら、あの滝の位置からも気になったはずですが……仕様が変わったのでしょうか?」
「いえ。この感じは長くあったように思いますから……」

そうして考え込む高耶をチラリと見ながらも、焔泉達の方に長老が確認する。

「あ、あの? え? 入れる……んですか?」
「ああ。入れそうや。なあ、高坊」
「はい。来るもの拒まず、出る者も特に制限が……あ、幼い子どもは出られないかもしれません。守護の力が強く働いています」
「ほお」
「……確かに、子どもは十五を越えるまで、なぜか出られませんでした……」

子どもが飛び出さないとは安心だ。神の優しさを感じる。

そこで、高耶は滝を見ていて気が付いた。その確認をするため、充雪を呼ぶ。

「じいさんっ」
《ん? なんだ?》
「あの滝の所……水神のテリトリーか?」
《お? あ、あ~、そうだなっ。あそこだけ管轄が違う感じだっ。治外法権ってやつ》
「治外法権って……言ってみたかっただけだな? まあ、意味はわかる。そう言うことか。それで分からなくなってたのか」

滝からの位置ならば、この結界に気付いたはず。だが、違う神のテリトリーだったため、そこで感覚が狂った。

チャンネルが合わなくなったのだ。強制的に土地神のチャンネルから水神のチャンネルにあの場所の辺りで切り替えられ、ここを察知出来なくなったというわけだ。

「これも意図的ではないんだろうな……たまたま、運良くって感じか……」

いくつもの要因が重なり、奇跡的に発見できない隠れ里となっていたようだ。

「ん? その感じでいくと……鬼が出て来ないのは、もしかして、出られない可能性もある……?」
「どうゆうことや?」
「その……ここまで偶然が重なると考えられるのは……鬼は、本来子どもの姿をしていましたよね?」
「うむ。五歳とは言わんが、幼かったのお。ん? なるほど。そうか」
「はい……子どもと判断されて出られないのかもしれないなと……」
「……あり得そうや……」
「ありそうだね……」

ここまで偶然、奇跡を連発するならばあり得そうだと術者としての勘も告げていた。









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