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第一章 冒険者の始まりと最初の出会い

028 旅路は楽しく

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2018. 8. 17

**********

翌日、マティアスとシェリスは、この国の王都へと向かっていた。

「それにしてもあいつら、すげぇ喜んでたなぁ」
「一週間後には、その辺の森にでも撒いて棄てるつもりだったものなんですけどね」
「無駄にならなくて良かったじゃないか」

熟練の薬師であっても、薬には有効期限があるので、無駄になるものがあるのは仕方がない。

調薬は時間がかかるものだし、ものによっては、材料を何日か寝かせなくてはならないものもある。

そうなると、必要な時に作るということも不可能で、ストックしておくしかない。何より、薬を作る腕は、回数をこなさなければ上がらないのだから、無駄になると分かっていても作るしかなかった。

何年も作らないと勘も鈍るので、熟練の薬師であってもそれは変わらない。

「けど、シェリーの鞄は特別なんじゃなかったか? 中に入れた食べ物とか、長持ちするんだろ?」
「ええ。長持ちはします。とはいえ、徐々に効力が薄れていきますから、保って三ヶ月ですね」
「ん? 個々にか?」
「そうですね……慣れるといったらいいのでしょうか。影響を受けにくくなるんです」
「あ~、慣れな。なるほど」

最上級の代物ならば、本当に半永久的に保管できるとされているが、きっと限界はあるはずだ。

一般的に、アイテムボックスの登録者である持ち主が死ねばそこで発動が止まり、食べ物などは徐々に劣化していく。

「そういや、本人にしか取り出せないなら、死んだ場合どうすんだ? あの家の奴とか中身なかったが」
「家のものは特殊なので分かりませんが、故人のアイテムボックスの中身を出す専用の魔導具があるんですよ」

亡くなった人のアイテムボックスの中身を取り出すには、商業ギルドか冒険者ギルドにある特殊な魔導具が必要となる。それ専用の部屋も用意されている。

「開けて貰うにはお金も掛かりますから、冒険者の遺体から盗み取ろうとする者も殆どいません。ただ、ギルドに届ければ謝礼がもらえますが」

持ってきた者は少々高めの金額を払い、立会いの下で開示される。その後は、量によって猶予期間が設けられ、運び出しは基本的に自分たちで行わなくてはならない。別途お金を払い、運び出しや出てきた物の鑑定などをして貰う者もいるが、大抵は裕福な者達だ。

「けど、そのまま売ったら金にならねぇの? それって高いんだろ?」
「未所有の状態にならなければ、基本買ってもらえません。使えませんからね。中身を取り出さなくては、次の所有登録もできませんし、手間がかかる上にお金もかかりますからね」

売り値を考えたところであまり特があるとも思われない。それよりも、直接ギルドに届けてもらい、遺失物として一年保管された後に商業ギルドから卸された物として買い上げた方が良い。

何より食べ物は劣化するので、個人の場合はなるべく早い段階でこちらに運び込むのが常識となっている。隠されていた個人の遺物があった場合は、酷い悪臭に晒され、その後の部屋の清掃料金なども請求されるのだから、容易ではなくなるのだ。 

「なら、盗まれなさそうだな」
「知らない者は多いので一概には言えませんがね」

だが、一度どこかに売りに行けばそれを商人は説明するし、拾っただけでは使えないのだから、盗賊達の間では意外と知っている者は多かったりする。

「いいなぁ。私も欲しい」
「なら、魔族の国に行ってみますか? 更に性能の良い物が出来たと聞いたので、行こうと思っていたんです」
「へぇ、魔族の国か。行ってみたいなっ」

マティアスの目が輝く。

「ではそうしましょう。丁度、向かっている方向ですし、気になる事もありますから」
「あのブタ公爵の所にいたっていう魔族のことか?」
「ええ。というか、契約方法が気になるんですけどね。上書きとか、普通無理ですから」
「そういうもんか」

シェリスは、その魔族が気になるのではない。彼が気になるのは、その技術だ。

「奴隷契約は複雑です。解除するまで永続的に発動し、人を縛るのですからね。付与魔術とも違います」
「良く分からんが……なんか簡単じゃないのは分かった」
「それで充分です」

契約も、解除も専用の魔導具を使用しながら行われる上に、扱える者自体が契約によって縛られており、特別な認可が必要となる。秘匿された技術の扱いになる為、身につけるのにも時間がかかる。行いに違反すれば終身刑は確実で、彼らは自分達を強く律している。

「魔族の国は魔術研究が盛んです。きっとあなたも、楽しめると思いますよ? マティは魔力が高いですからね。それの使い方を知れば、また戦い方も変わると思います」
「そうなのか。それは楽しみだっ」
「とはいえ、その前に王都見物です。城を見るのは初めてでしょう?」
「おう。聞いたことはあるぞ。デッカい家だろ?」
「ふふ。まぁ、見てのお楽しみです」

家などと表現することができないものだという事も、見てみなければ分からない。何より王都は、広いのだ。きっとマティアスは驚くだろう。

「魔族の国の城と比較も出来ますしね」
「ん?」

不思議そうにするマティアスが、その城を見てどう思い、どんな表情を浮かべるのかと考えると、シェリスも楽しくなる。

そこでマティアスは思いついたように手を打った。

「ついでにブタに挨拶しようぜ」
「それは楽しそうです」

自分達にちょっかいをかけてくれた者に、キツいお灸を据えてやるのも良さそうだ。

**********

舞台裏のお話。

「良かったね! 薬が手に入ったし」
「おう。儲けたな」
「……」
「どうしたの?」
「……礼が出来なかったなと思ってな……」
「それは……うん……」
「なら、礼をしに行けばいいだろ。出直そうぜ」
「……お前……珍しくまともな事を言ったな……」
「なんだよそれ。俺だってなぁ!」
「まぁまぁ、いいじゃん。そうしようよっ。王都の方に行くって行ってたし、あの人達目立つから、追っかけられるよ」
「そうだな……何より、皆も礼をしたがるだろうし……」
「あ、それあるかも」
「じじい共がまた飛び出すんじゃねぇの?」
「……あるな……」
「それより『恩人に礼もしとらんとは何事だぁ!!』って怒られそう?」
「……」
「……」
「でも、怒られるしかないね」
「だな」
「ああ……」
「そうとなれば急いで帰ろう!」
「おうっ」
「仕方ないな」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


怒られてもそれはそれです。
さて、公爵にご挨拶?


次回、金曜24日0時です。
よろしくお願いします◎
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