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第一章 冒険者の始まりと最初の出会い

011 シェリスの事情

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2018. 3. 23
◎近況報告更新◎
『女神なんてお断りですっ。』最終巻について

**********

町を出たマティアスとシェリスは、のんびりと街道を進みながらクエストの確認をしていた。その際、シェリスは少々感心してもいる。

「これから向かう町の方角で達成できるクエストをよく選び取りましたね」
「ん?  そうだったのか?」

不思議そうに首を傾げたマティアスを見て、シェリスは顔をしかめた。

「……まさか、何も考えていなかったと?」
「おう。全くな」
「……」

旅をしながらクエストを受けようとする場合、目的地までの道のりで達成できるものを選ぶのが一般的だ。

報酬金額のみで選び、目的なく進むのならば構わないのだが、シェリスとマティアスは前日にどこへ向かうのかを話し合っていた。

その際、地図や方向を確認してはいたのだが、マティアスはそれを気にすることなく選んだらしい。

「因みに、選んだ理由はなんです」
「ルーモって美味いんだろ?」

嬉しそうに言うマティアス。味を想像しているようだ。それを見て、シェリスは呆れていた。

「……あなた、ランクも気にしていませんでしたね……?」
「勿論だ!」
「はぁ……」

ルーモとは、高級食材になる魔獣だ。馬ほどの大きさで、四角くずんぐりとした体を持っている。十頭ほどの群れで動き、雌雄どちらも立派な一本の角が生えている。

これに似た姿をしたジルモーという草食の魔獣がいるのだが、それは主にミルクを得るために家畜とされている。ジルモーは気性が優しく、ゆったりとした動きをするが、ルーモは見た目が同じ様でも真逆だ。

仲間意識が高く、敵と認識されれば、血走った目で睨みつけ、視界から消えるまでどこまでも追いかけてくる。

「家畜になるジルモーよりも遥かに気性が荒いですからね。動きも速いですし、身が引き締まっています。確かに美味しいのですが……まさか、肉の確保を考えて……」
「だって、肉は買わなかっただろ?」
「……報酬より物ということですか……」

シェリスは失念していたのだ。マティアスはこれまで報酬となる金銭とは無縁で生きてきた。倒すならば、それが食べられるかどうかが重要だ。ランクなど気にせず、マティアスはただ食糧になるとの判断でクエストを選んでいたらしい。

「まぁ、いいでしょう……クエスト内容はルーモを二頭以上討伐。討伐の証拠となる部位は角です。肉は売れますが、当分の食糧確保を優先しましょう」
「だなっ。これで肉は問題ない」
「ええ。一頭分でも十分ですよ。ただ、二頭とはいえ、群れでいますからねぇ……」
「ダメにするのもなんだし、多すぎる分はその……売れば良いんだろ?」
「そうですね。ただし、持てる分にも限りがありますよ?」

一頭で一体何日分の食事が賄えるだろう。恐らく、一日二人で二食としても十数日は余裕だ。かなりの巨体な上、食べられる部位が多いのだ。

凶暴性と大きさ、その上に肉も食べる雑食ということで、上から二つ目の危険度Aが付いている。

「分かってるって、でも、今はこれがあるだろ?」
「……そうでした……」

これまでは、シェリスのアイテムボックスしか頼りにできなかったのだが、つい先日、持ち運び可能な家を手に入れたことで、当てができた。

家の中には、食料を保管しておくことのできる、大きなアイテムボックスが備え付けられていたのだ。

「あれもその鞄と同じなんだろ?」
「ええ。そのはずです。容量も、恐らくこれの数倍は入るでしょうね」
「スゴイよなぁ。本当に不思議だ」

マティアスは、鞄に入れていた卵型の石を手のひらに乗せて見つめる。これが、魔力を込めて発動させると、家を出現させる古代の魔導具なのだ。

一方、隣を歩くシェリスは、それを羨ましそうに見つめる。

「ええ……もう一つくらいあれば、色々調べられるのですけれどね……」
「お、なら、探しに行くか? 別に目的地はないんだろ?」
「え、ええ……でも、いいのですか?」
「それはこっちのセリフだけどなぁ。どこまで付き合ってくれるかによるぞ?」

はじめに会った時は、ここまで一緒にいることを想定していなかった。

マティアスは町に入る常識を教えてもらうだけのつもりだったのだ。しかし、あまりにもマティアスが常識を知らなかったこともあり、シェリスが逆に放っておいては不安との思いから、今も一緒にいるのだ。

「構いませんよ。自分でも不思議なのですが、あなたといるのは苦ではありません。自分で言うのもなんですが、私は相当、他人が嫌いなのです。ここまで一緒にいられたのは、初めてですよ」
「大げさだなぁ」
「いえ、誇張でも何でもなく。里の者とも一日と一緒にいたことはありません。血の繋がった親とでさえ、同じ部屋にいるのは息が詰まるので、殆ど顔を合わせませんでした」
「それは……重症だな……」

子どもの頃からそうであったらしく、一人で部屋にこもり、魔術の研究に打ち込んでいたというから、筋金入りだ。

「それなのに、あと数十年先には、里を継がなくてはならないのですよ……そんな面倒で鬱陶しいものにならなくてはならないのなら、それまでに外の空気を吸おうと出てきたのです」

部屋に閉じこもってはいたが、立場を得て里に閉じ込められるのは考えるだけでも憂鬱だ。ということで、それまで自由を謳歌しようと思ったらしい。

「外の空気って……ああ、その国の外ってことか。随分と広い外だ。んん? 里を継ぐと言ったか?」
「はい。これでも里長の血を継いでしまっていますからね。迷惑な話です」
「ははっ。そうか。っていうか、どんな長になるんだろうなぁ。それまでに他人嫌いを治した方がよくないか?」
「わざわざそこに時間を割く気はありませんよ。まぁ……あなたと居たら、少しは変わるかもしれませんけどね……」

シェリスはマティアスに一瞬、視線を投げかける。

「ん? なんだ?」

聞こえていなかったマティアスは、首を傾げていた。

「いいえ。それより、前方に盗賊に襲われている馬車がいますね。迂回しましょう」

前方、まだこちらの姿まで確認できていないであろう距離に馬車が見える。その周りでは十数名の盗賊らしき者達が囲んで剣を抜いていた。

「え? ここは助けるんじゃないのか?」
「あの馬車は貴族のものです。下手に助けたら面倒なことになりますよ。こちらの姿を見られる前に道から外れますよ」
「貴族? それってのは……う~ん……なら、様子を見ながら迂回ってことで」
「……いいでしょう」

マティアスはこの時、まだ貴族というものを知らなかったのだ。

**********

舞台裏のお話。


冒険者A  「あの二人の後を付けるのはやめた方がいい」

冒険者B  「なんでだ?」

冒険者C  「バカっ、明らかに格が違うだろっ」

冒険者B  「そうなのか?」

冒険者A  「ということで、私はあの二人の傍に寄ろうとする者達を排除しようと思う」

冒険者C  「……排除なのか……」

冒険者A  「排除だ」

冒険者B  「それ、面白そうだな」

冒険者A  「む、早速か……そこの者っ! これ以上は近づくな!」

冒険者C  「って、剣を抜いちゃダメだろっ」

冒険者B  「よっし、俺もっ」

冒険者C  「おぉいっ」

マティ  「人って面白いんだな」

シェリス  「……何をしているのでしょうね……」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


親衛隊みたいなものでしょうか?

シェリスには初めてできた仲間なんです。


次回、30日0時です。
よろしくお願いします◎
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