逃げ遅れた令嬢は最強の使徒でした

紫南

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029 愚かだな……私も

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王女は静かにジルナリスの話を聞いており、そして、決意した。

「だって、あのお姉さまにお願いするのなら、それくらいして当然ですもの。それに……わたくしも今日ので思いました。強くなりたいですわ! ビスラ様の剣もフラン様の魔法も怖かったですが、凄かったのです!お姉様の弟子にしてもらえば、きっとそれが叶いますわ!」

シルフィスカのことをいつの間にか『お姉様』と自然に呼ぶほど慕っている様子に、王が焦る。彼女の立場はビスラやフランのように『辞めるんで、じゃあ』とはいかない。

「お、お前っ、だが、婚約も決まって……」
「あら。マリエス卿ならお分かりでしょうけれど、あの方は異母兄であるフラン様と、騎士の先輩であるビスラ様を尊敬しておられましたもの。間違いなく一緒に国を出ると言ってくれますわ♪」
「は……?」

マリエス卿がポカンと口を開く。分かっていなかったようだ。リア王女の婚約者に決まったのはマリエス侯爵の第二子。正妻との子だった。

「ご存知ではなかったのですか?」
「は、はい……アレを兄と知っていた……?」

ショックを受けたマリエス卿は言葉を失くして動かなくなった。そんな事は些細なこととして、リアは立ち上がる。

「では、わたくし、失礼しますわ。お母様達と相談しなくては♪」
「っ、リア!」

王が引き留めようと手を伸ばすが空を切る。リア王女は一切振り返ることもせずに部屋を出て行った。

そこで第二王子が迷いながらも王へ告げる。

「私も少し考えさせていただきます」
「っ……それは……継承権についてか……」

娘に見捨てられたことで、王は完全に弱っていた。そこへきてこの追い討ち。

「はい。今考えると、継承権に拘っていたのは、全て母上やリアのためでした……ならば……いえ、一日考えます。失礼します」
「っ……」

ボロボロと手からこぼれていくものを知って、王は泣いてしまいたくなるほど絶望していた。そんな王に魔法師長が声をかける。

「王……っ、わたくしが、ビスラとフランを説得してまいりますっ」
「わ、私もっ、今までのことも合わせてゼスタート卿へ頭を下げてまいりますのでっ」

マリエス卿もショックから立ち直り参戦する。だが、王から出た答えはとても弱々しいものだった。

「……少し考えたい……すまない……」
「……はい……」
「……承知しました……コレらのこともあります。今回の調べと警備体制を早急に見直します」
「頼む……」

未だに気絶して転がされていたミィアの捕まえてきた四人。それを運び出すように外の騎士に指示を出す。ミィアが引きずって来たことで、不審に思った騎士が数人、部屋の前で待機していたため、問題はなかった。

こういうことも見込んで、ミィアが姿を見せていたのだ。だが、そんなほんの少しの優しさに気付くこともない。ミィア的には最後だしというのと、早く牢にブチ込めるだろうという考えだ。微妙にどうでもいい優しさだ。

二人が居なくなり、王と第一王子だけになる。

「……」

気まずい沈黙が続いた。

どれだけ時間が経ったのだろう。お互いが衝撃の事実に打ちのめされていたため、時間がかかった。先に口を開いたのは王だ。

「……お前が、メイドに懸想していたことは知っていた……手を出したこともな」
「っ……ち、父上……」

頭を抱えた状態の王の表情は窺うことができない。

「だから、あの時の呪術も……彼女の関係者だろうと予想できた……まさか、本人だとはな……呪術師に身を落とすほどだ。辛かったろう……」
「っ……」

呪術を教えるという存在がある。堕ちた神だと言う者もいる。世界に絶望した不死の落伍者であるとも言われている。そんな者が、ある日突然、呪術を求めるほど絶望した者の目の前に現れ、術を授けていくのだという。呪術を知った者は不思議とその存在を忘れてしまうため、姿を知る者はいない。

そんな者に目を向けられてしまうほどの絶望。それはどれほどのものだっただろう。

「お前がずっと想い続けているのも知っていた。だからこそ、幾人もの女と付き合っていたことも……諦めさせるには、それでも良いと思った私の……間違いだ。それが、彼女を呪術師にしてしまった……」
「っ、ち、違います! わ、私が……っ……私が想いを伝え、謝れば……謝ればよかった。許してもらえなくとも……それでも、彼女の気持ちをほんの少しでも……っ」

誠意を見せ、頭を下げていたなら、呪術師になるという選択肢を消せたかもしれない。相手が反省しているかどうかだけでも、被害者の心は少しだけ軽くなる。許さないという選択肢の中に、呪うということは入らなかっただろう。

呪うことは、第一に傷付いたことに気付いてもらいたくてすること。反省を促すものだ。傷付いたことに気付かれないことが何よりも被害者が許せないことなのだから。

「さきほどもそうです。私は……きちんと彼女に謝らなかった。冤罪など……その上、怪我をさせるなど……」
「それは私もだ……ゼスタート卿に謝罪をさせて欲しいと伝えねばな……」
「はい……」

二人はノロノロと動き出した。やらなくてはならないことは沢山ある。謝罪もそうだが、王女を攫った本当の犯人を捕らえる必要もあった。何より、冒険者ギルドの問題も頭の痛いことだ。

「こうなると、あの聖女が怪しい」
「はい……リンティスについて、調べてみます。幸い、彼女は私の側に居ますので」
「……気を付けろ……いや、お前の気持ちは彼女にはないのだったな」
「……ええ……上手くやってみせます」

第一王子はずっと女性を相手に恋をしているという演技をしてきた。たった一人の女性を諦めるために。自分を偽ってきたのだ。もう、無理に忘れる必要もない。

「許されないなら……忘れなくていい……」

恨まれていたことは悲しいが、それでも、彼女が自分を忘れていなかったことが嬉しい。そんな歪んだ想いを抱えながら、第一王子は部屋を出て行った。

残った王はソファに深く身を沈める。

「……っ……愚かだな……私も……」

これは、次代を決めかねていたことにも起因する。ただ見守ってしまったのだ。変化を望みながらも、見守ることに徹してしまった。導くことをしなかった己の落ち度。

第一王子は愛を、人を想うことを知っている。自分を偽るために周りに目を向けることも学んでいた。だからこそ、王の思いと立場から、身分違いの恋を忘れるために必死になって、女好きという醜聞を稼ぐことになってしまった。

第二王子は第一王妃に虐げられる自身の母と妹にしか優しさを発揮できない。真面目ではあるが、冷徹と感じさせる性格だ。

どちらも問題がある。だから決めかねていた。だが今、第一王子も、第二王子も目を覚ました。これでどう変わってくれるかだ。とはいえ、傍観するだけになっていた自分にも問題はある。

リア王女も、愛した第二王妃も第三王妃の忘れ形見も離れていこうとしている。それは、今まで何もしなかった自分の招いた結果だ。

「……謝る……謝る……か……」

まずは謝罪を。それだけを考え、王は立ち上がったのだった。

◆  ◆  ◆

その頃、ヘスライルに飛んだシルフィスカ達は、落ち着く間もなくやって来たサクラの報告を聞いていた。

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読んでくださりありがとうございます◎
次回、24日の予定です。
よろしくお願いします◎
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