逃げ遅れた令嬢は最強の使徒でした

紫南

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031 子ども達がすまないねえ*

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ヘスライル王家には、二十二になる第一王子とシルフィスカの二つ下の十三歳になる双子の王子と王女がいた。

さすがに好意に鈍感なシルフィスカでも、特に双子に好かれているのは嫌というほどわかっている。

そして、この双子は誰であってもシルフィスカの周りにいる者に突っかかる傾向があった。

「今すぐ、彼女と別れろ!」
「お姉さまをお返しなさい!」
「っ!?」
「……」

今回目を付けられたのはレイルだったかとシルフィスカは小さくため息を吐いた。返せとはどういう意味だろうかと考えながら。

そして、元気な双子の方へ歩み寄り、ふわりと笑みを浮かべると、その頭を撫でた。

「な、なんっ」
「お、お姉しゃま……っ」
「元気なようで良かった。外に出なかっただろうな?」
「「っ、はい!」」
「ならいい」
「「っ……」」

真っ赤になって俯く二人の頭を軽くポンポンと叩いてシルフィスカは部屋の中に入る。

時間がある時に、双子の礼儀作法や勉強を見ている。そのため、シルフィスカのこんな態度も問題ない。

そんなシルフィスカに続き、王子と王女に一応一礼してビスラ達が部屋に入った。レイルも申し訳なさそうに一礼してから通り過ぎる。

双子は一切、動かなかった。シルフィスカの笑みを見た親しい者は、珍しいその表情を脳裏に焼き付ける作業に忙しく、再起動するまで時間がかかるのだ。

「あの感じで俺らも結構誤魔化されたよな……」
「微笑み付きですからね。言おうとしていたこととか、どうでも良くなるんですよね……」
「アレは俺にも効くからな……言いたいこと普通に忘れる……」
「「マジ?」」

ミィアもと聞いて、驚いたビスラとフラン。だが、すぐに同志だと頷いて目元を緩めていた。

中には、ヘスライル王と王妃。それと第一王子が穏やかに笑いながら席について待っていた。

「ははっ。子ども達がすまないねえ」

ヘスライル王の言葉に、シルフィスカはふっと息を吐く。

「気落ちしているよりは、ああして元気な姿の方が嬉しいから」
「そうだね。シルフィ……」

王が立ち上がる。それに続いて王妃と第一王子が立ち上がった。そして、揃って頭を下げる。

「今回のこと、本当に感謝している。ありがとう」
「いえ……私は謝らねばなりません。依頼されているのにも関わらず遅参したこと、申し訳ありません」

王達が顔を上げたのを確認して、今度はシルフィスカが頭を下げた。それに慌てて王が首を振る。

「何を言うっ。何があったのかは、ミィア殿から聞いた。何より、君は不在時の対策を立ててくれていただろう。聞いているよ。君のメイドの話を」

王が知ることができるほど、サクラの戦果は特異なものであった。そんなサクラは、まだ調査をするということで、今この場にはいない。

「それと……怪我をしながらも戦ってくれたこと……本当にありがとう。こちらが感謝することはあれ、君が頭を下げる必要はない」
「……ありがとうございます」

そう口にすれば、王達は困った表情をしていた。それからすぐに第一王子が歩み寄ってきて手を差し出した。

「そうだ。気付かなくてごめん。怪我をしているんだろう? ほら、早く座って」
「別に怪我は……」
「痛くないし大丈夫と言ってもダメだよ?」
「……承知しました」

王子の手を取り、席に座った。

「君たちも座るといい」
「なら俺、師匠の隣」
「では私も」
「ちっ」
「……」

ビスラが右隣、フランが左。ミィアは舌打ちしながらもフランの隣に座り、レイルが渋々ビスラの隣に座った。

シルフィスカの前には王。ビスラの前に第一王子。フランの前に王妃が座った。

「あ、兄上! 僕らを忘れないでください!」
「そうですわっ、お兄様! お姉様の手を取るなんてズルいです!」
「お前達は頭を撫でてもらっただろう? ならいいじゃないか」
「「そうですね」」
「……」

単純すぎる。双子は感触を思い出すように、それぞれ自分の頭に触れて照れ笑い。それから侍従長に言われてようやく席についた。王女がミィアの、第二王子がレイルの前だ。真っ直ぐに第二王子が見つめてくるので、レイルはとても居心地が悪そうだった。

「さあ、存分に食事を楽しんでくれ」
「はい。私もこちらの城の食事は気に入っておりますので、堪能させていただきます」

シルフィスカが貴族らしい大味の食事が好きではないことを彼らは知っている。それを知ってからは彼らも気に入り、健康的なバランスの良い食事を心がけるようになったという経緯があった。なので、ここでの食事はとても美味しい。

「料理人達の努力の成果を君に見せられる機会だ。彼らも喜んでいるよ」

そうして王が目を向けた先には、料理人の一人が居た。シルフィスカの感想待ちらしい。キラキラとした目でこちらを見ている。

「んっ、とても美味しい。こちらの料理人達はとても勤勉ですね。前にいただいた味とも違います。ありがとう」
「はっ、はひっ!」

料理人は涙ぐみながら背筋を伸ばして返事をすると、深々と一礼して部屋を出て行った。この感想を厨房に伝えに行くのだろう。

「あれはまた張り切りそうだ。そうだ。なんならこのまま、ここに住んでくれていいからね」
「……城は必要ですが、お邪魔になりますので」
「邪魔だなんてあり得ない!」
「あり得ませんわ!」

また双子が元気になってしまった。だが、すぐに隣に座る王妃と第一王子が宥めてくれた。食事が好きな双子だ。落ち着かせれば目の前の料理に夢中になるので問題ない。

しばらく食事をしながらゆったりとした歓談が続く。レイルとミィアは一切喋らず、黙々と食べていた。気に入ったらしい。

デザートが出てくる頃、第一王子が微笑みながら唐突にそれを暴露した。さすがに誰もが顔を上げる。

「そういえば、ヒルセント国王に抗議しておいたよ。よくもうちの国の英雄を拘束し、傷付けてくれたなってネっ」

ウインクされても、その笑顔は大変黒い。そして、その隣にも同じように黒い笑みを浮かべた王。この二人はとてもよく似ている。ヘスライルは次代も安泰だ。

「ミィア殿がこちらへ来たなら、あの国に脅威になる裏の者はいないからねえ。この際だからと全部調べさせたよ」
「……そうでしたか」
「君は隠してはいなかったんだね……この国にも聞こえてきているんだ。君の生家のこと……だからとても驚いて……許せなかったよ。あのような家に……っ、君は……っ」
「……」

怒っている。それを感じて、シルフィスカは首を横に振った。だが、シルフィスカが口を開く前に第一王子が割り込む。

「シルフィなら、いつでもあの家を出られたよね? それをしなかったのは理由があるはずだ。だから、私も父上もあの家には何も言っていないよ。あ、でもそこの結婚?(仮)相手(笑)の家には抗議を入れたけどね。いくら王家に忠実な騎士であったとはいえ、呪解薬のことは許せないから」

なんだかとっても含みがあった。レイルの方を向いた第一王子。そして、王や王妃もそちらを見ていた。

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読んでくださりありがとうございます◎
次回、9日の予定です。
よろしくお願いします◎
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