逃げ遅れた令嬢は最強の使徒でした

紫南

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052 邪魔したな

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原初の聖女であった頃の記憶が戻ったのは、この場に来て、アークィードと対面した時だ。その声を聞いて、ゆっくりと神に聞いていたその人の話と混ざっていく。それは不思議な感覚だった。

伝承や神から聞いた客観的な情景と、自身の中の記憶が混ざり合うのだ。外からどう見えていたか。実際その時に抱えていた想いはどんなものだったか。平面だったものが立体になるような、そんな感覚だった。

元々が孤児で、教会の外の生き方を知らなかったあの頃。全てを受け入れるのが当たり前で、求められたら与えるのが当たり前だった。

結果、使い潰されて死んだことは、仕方がなかったと思う。自身も納得していた。

けれど外を知り、実の妹のように大事に思っていてくれたシエルアークィードには納得できないものだったらしい。

今ならばその想いも分かる。

きっとシエルアークィードは思ったはずだ。なぜ、後悔もなく死ねたのかと。なぜ、恨まずにいられたのかと。

シルフィスカは一度目を閉じてから笑みを見せた。

「今ならば、シエル兄さんの気持ちも分かるよ。外の世界を知らず、ただ使い潰されて死んだなんて、今の私ならば許せない。けど、あの頃の私は戦闘機よりも、ただの人形だった。それでも幸せだった」
「っ、うそだっ……っ」

シエルアークィードは首を横に振り叫ぶ。けれど、それにシルフィスカは穏やかな笑みのまま否定するように緩やかにかぶりを振る。

「うそじゃない。あの時はそれで良かった」
「うそだ……っ」

涙を流しながら、納得できないと見つめるシエルアークィード

「私は教会を……この世界を恨んではいなかった。ただ一つだけ……あの時に思ったのは一つだ」
「……っ」

あの時のたった一つの小さな後悔。

「兄さんを置いて逝くのだけは、後悔した」
「っ……」
「だから、終わりにしよう。私の後悔も、兄さんの恨みも全部終わらせる。多分……私はそのためにここにいる」
「っ、そんな……そんなこと……っ」

シエルアークィードの姿は、次第に光に呑まれていく。溢れ出す涙はキラキラと浮かんで消えていた。

「全てを送り終えたら、また会える」
「っ、ダメだっ、傍にっ」
「少しの間、眠って待っててくれればいい。百年もかからないんだから、すぐだよ」
「っ、それでも……っ」

子どものように、嫌だと手を伸ばすシエルアークィードに、シルフィスカは苦笑した。

「これでは、妹ではなくて母か姉になった気分だ」
「っ……いやだ……っ、離れるのは、また……っ」

また、知らない内に死ぬ気かと。責めるように見えた。

シエルアークィードは、自分から最愛の妹を奪った教会や世界を恨んでいる。壊したいと思っている。けれど神子であることを捨てられないでいた。だから、中途半端なのだ。弱って、分かれてしまったのだ。

神子であることすら、恨みたいのに、それが出来ない理由。それがシエルアークィードを狂わせた。

「兄さん。気付かない?」
「……なに……を……」
「世界を見てきた兄さんなら、分かるはずだ。私達の血縁は存在しない」
「っ……」
「どこにも、居なかっただろう?」
「……居なかった……」

狂いながらも、無意識に求めていた。世界の中に失くした妹と同じ血を探していた。わずかでも、その血を感じられれば、シエルアークィードはここまで意固地にはならなかっただろう。全てを神のためにと、生きる意味を見出そうとしはしなかったはずだ。

「当たり前なんだ。私達は本当に兄妹のようなもので、神子なのだから」
「神子……っ、まさか……っ」

その答えに辿り着いたシエルアークィードは一際光を放った。

クソ親父に一発かましてくるといいよ。それで伝言。『次に行った時に一発覚悟しとけ』と」
「っ……!」
「また会おう。兄さん」
「っ!!」

パッと光が部屋に散った。シエルアークィードが居た所には、もう何の痕跡もなかった。

「さてと……これでまだカケラ一つか……呪解石を手に入れるよりも面倒臭そうだ……」

数をこなせば良いわけではないのだ。骨が折れる。

それから、注目されているのに気付いて、目を丸くしている王へ告げた。

「邪魔したな」

これにいち早く反応したのスラハ司教だった。

「っ、お、お待ちくださいっ……っ、お、お許しをっ……原初の聖女様っ……我々はっ……教会はなんてことをっ……っ」

スラハ司教は、膝を突いて懇願する。あの会話で知ったというよりも、真実を確信したという様子だ。

恐らく、記録にあったのだろう。使い潰したという、その事実が。

「謝る必要はないさ。言っただろ? 私は恨んでいなかった。だが、まあそれなりに辛いとは思っていたようだ。だから、教会に嫌悪を抱いた。腐っていたこの国の教会だけでなく、他の国でも、自分から教会に行ったことはないんだ。直感的に避けていたようでな」

自覚はないのに、嫌な過去を思い出す手前のような。そんな感覚があって避けていたのだ。まともに入ったのは、結婚の儀の時ぐらいだ。

「今後もきっと、自分から教会には行かないだろう。だから、神官達の精査は頼む。教会は神の望む、清廉なものであってくれ。人々の心に寄り添える神官であって欲しい。これ以上、神にも失望させないでくれ」
「っ、神にっ……わ、我々は……神の神子を殺した……っ」

スラハ司教はもう、真っ白な顔をして立ち上がることすら出来そうになかった。本当の神の子を害したのだから。

「そっちはもういい。人としての体が朽ちただけだ。魂はこうして無事なのだから、そこはもういいさ。言っただろう。清廉であれと。私が言った失望とは、腐らせることだよ。人々を助けるべき者たちが搾取する側に回るなど、あってはならない」
「っ、もちろんです! 二度とっ、いいえ、他の国も確認させていただきます!」
「そうしてくれ」

シルフィスカは話は終わったと背を向ける。

「あ、師匠。待ってくれよ」
「早く帰りましょう」

ビスラとフランが歩き出したシルフィスカを追う。それよりも先に、ケルストはシルフィスカの後に続いていた。

「師匠……食事……作る」
「ケルストのメシか。久しぶりだなあ。屋敷の厨房使ってくれていいぞ」
「……調理の魔導具……ある?」
「あるぞ。サクラに管理を頼んだから、いつでも使えるはずだ」
「楽しみ」

ケルストが珍しく興奮している。そんな様を、シルフィスカは楽しげに見るが、他は違う。ヒリアリアとクルチスなど、先輩であるケルストの姿に驚いていた。

「ケルスト先輩が……はしゃいでる?」
「やだっ、キュンキュンきた……可愛い……っ」
「……?」

ヒリアリアは混乱。クルチスは顔を赤らめている。

「ほっほっほっ。ケルストは昔から可愛いですぞっ」
「料理が出来るとはすごいではないか! む、忘れておった」

マーティウィンが王達を振り返った。

「我はヘスライル国、前王弟のマーティウィン・エルターナ・ヘスライル」

まさか他国の王族が居合わせているなど、当然だが思いもよらず、この場の多くの者が、ヒッと喉を詰まらせた。

*********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、一週空けて7日の予定です。
よろしくお願いします◎
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