エセ関西人(笑)ってなんやねん!? 〜転生した辺境伯令嬢は親友のドラゴンと面白おかしく暮らします〜

紫南

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5th ステージ

043 だから僕を側に置いて!

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十四になる兄のフィリクスは、リンディエールとクイント達の話を聞きながらも、心を決めていた。

「ほんなら、ウチも部屋に戻るよって」

そう、ヘルナとファルビーラへ告げ、リンディエールは一歩踏み出す。それに気付いて、フィリクスは慌てて声をかけた。緊張とか、最初の印象とか、どうでもよくなる。

「ま、待ってほしい」
「ん?」

ここで初めてリンディエールはフィリクスの姿を確認した。十歳で背の低いリンディエールは、ファルビーラが隣に居ることで、そちら側の様子が全く見えなかった。

クイントとの話の時も、実はもう意識していなかったのだ。完全な空気だった。

「あ~、ハジメマシテ。晩餐お疲れ様でした」
「ありがとう……でも、大変だったのは君だろう? 宰相殿達の相手をしていたのはほとんど君だったから」

真っ直ぐに見つめられて、これは責められているのかなと、リンディエールは弱った表情で答えた。

「それゆうなら……邪魔したんちゃうかなあ」
「そんなことはない!」

答えたのは父のディースリムだった。

「邪魔なんてあり得ない。それと……すまなかった!」
「あ? 別に謝られるようなことは……」

いきなり父親に深々と頭を下げられて、リンディエールもそうは見えないが焦った。

「いいや。私は何一つ父親らしいことをして来なかった」
「貴族の親子はそうゆうもんなんやろ? もっと酷い所も知っとるし、それ考えたら恵まれとる思うけどなあ」
「そんなことはっ……領も守ってくれた」

それは、ゴブリンキングの一件のことを言っているのだろう。一度は否定のために上げた頭が、また少しずつ下を向く。

「利害が一致しただけや。ここには、世話になっとるメイドの姉ちゃんや、兄ちゃん達がおる。せめてもの恩返しに戦っただけのことやで」
「だが……」

言葉が途切れた。すると、それを繋ぐためか、今度は母セリンが慌てて口を開く。

「それでもあなたは守ってくれたのよ。私たちをっ。今度は私たちがあなたの力になるわ。ちっとも母親らしいことはしてこなかったけど……ダンスも裁縫もこれからきちんと私が教えるわ。いずれ学園に行くことになるんだもの。言語学や歴史、魔法も良い教師を選ぶわね」
「……それは跡取りの方に使ってんか……」
「いいえ! ステキな令嬢にならなくてはならないもの。そうだわ。ドレスも用意して……」

リンディエールはだんだんと顔をしかめていく。この母親は厄介だ。

察してはいた。きっと貴族の令嬢とは気が合わない。学園で全女生徒を敵に回すこともあり得ると予想していた。

セリンは伯爵家の長女だったらしい。いかにもなお嬢様だ。絶対に合わない。

「必要あらへん。あかんな……ウチはやっぱ貴族の子としては生きられんわ」

後ろ頭を掻こうとして、グランギリアが整えてくれた髪を思い出してやめる。

「え、ど、どうして? あ、ダンスとかお勉強が嫌なの? 大丈夫よ? 女だもの。それほど頑張らなくても男性がリードしてくれるし、お勉強も、あまり賢しいと逆に結婚相手がいなくなるわ。だから、程々で良いのよ?」

やっぱり話は通じない。こうやって育てられたんだなと呆れた。ちょっと逃げ道を探す。

「なあ、ばあちゃん。家から出るにはどうしたらええん? 今すぐ行方くらますことも出来るんやけど、できれば正式な手続きで出たいねん」

これにヘルナが慌てた。

「待ってリンちゃんっ。大丈夫よ。セリンは黙らせるわ。セリン! あなた何も分かってないなら黙ってなさい! だいたい、リンはダンスもマナーも勉強も、この年頃の子にはあり得ないくらい出来るわよ!」

クイントとのやり取りを聞いていれば、知識が高いことは分かったはずだ。セリンのはただの思い込みでしかない。

自分が十歳の頃には出来なかったのだから、リンディエールも出来るはずがないという思い込み。

「え……で、でも、家庭教師もつけていないですし……」
「その辺の教師よりも何万倍も博識な方が教師役をしてくれていたのよ。リンはねえ、あんた達みたいな親なんて当てにしてないのっ」
「っ、で、でも……っ」
「なに?」
「す、すみません……」

カタカタ震えるくらい、ヘルナが威圧していた。黙ったならもうどうでもいい。顔を見ていても、印象に残りそうにないなとリンディエールはもう他人事だ。

父親の方も空気感が出てきていた。唯一、フィリクスだけが数歩前に出て主張する。

「申し訳ありませんお祖母様。母上は想像力がないのです。自分がやってきたことが正しいと思っていますので、それ以外の方法があるなど考えもつかないのでしょう」
「……黒い……?」

リンディエールは目を瞬かせた。ようやくここで、フィリクスをはっきりと認識した。違和感を感じたからかもしれない。

思い出したゲームの中のフィリクスは、王子よりも王子らしかった。勤勉で穏やか。そして、ヒロインを見て愛おしそうに優しく微笑む表情はとても印象的だった。

だからだろう。まさか普通に親に対して毒を吐くとは思わなかった。びっくりしたのだ。一気に現実に引き戻されたように感じた。

「リン、今までごめん。幼い君から両親を奪っていた。そうと分かっていながらそのままにしていた私を、恨んでいるだろう?」
「いや、まったく」

これ、本音。

フィリクスがグッと次に用意していた言葉を呑み込んでいた。

「……寂しい思いをさせたはずだよ?」
「メイド長達がウチの母親で、シュルツ達が父親や。ウチの親、仰山おるやろ? そんで、若いメイドちゃん達は姉ちゃんで、ギリアンら辺が兄ちゃんや。寂しなんて思ったことないわ」

これも本音。

目を見開いて固まったフィリクス。だが、ゆっくりと目を伏せ肩の力を抜いて呟いた。

「……そっか……そっか……もうずっと前から手遅れだったんだね……ああ……本当に……なんでもっと早く部屋を出なかったんだろう……這ってでも会いに行けばこんなことに……っ」

なんだろう。本当にゲームの中で見た彼とは印象が違う。設定されている年齢は十七才頃。今から五年後だ。だから、子どもだからというのもあるかと思った。その違いだと。

「フィ、フィリクス? お、落ち着きなさい……」
「フィル……っ、あ、謝るわ。きちんと、リンに謝るからっ」

なぜか両親が脅されている人のように怯えている。

「なあ、ばあちゃん。これ、どうなっとるん? なんや、弱みでも握られとんのか?」
「……ち、違うのよ? ちょっとあの子は異常なくらいリンちゃんに執着してるみたいでね?」
「執着て……なんでや? 排除したい方面で?」
「そんなわけないでしょ! 逆よ! ちょっとフィリクス! はっきり言いなさい! リンはねえ、好意とか全くといっていいほど察せられない子なのよ! グズグス言ってるんなら、私達がリンを連れ出すわよ!」
「っ!?」

微妙に今、貶されなかっただろうかと内心首を捻る。だから、フィリクスの次の行動に対応出来なかった。

「ふえ!?」

はっとなって顔を上げたフィリクスは、泣きそうな顔をしていた。そして叫びながら抱きついてきたのだ。

「嫌だ!! リン大好きだよ! 愛してる! だからお兄ちゃんの側に居て!」
「ほわ!?」

訳が分からない。なんだコレとなるのは当然だろう。ある意味、絶縁状態だった身内からの告白。どうなっているのか詳細不明だ。

ぎゅっと離さないというように羽交い締め状態にされながら、ヘルナへ助けを求めようと目を向ける。そこにはうんうんと頷き、慈愛に満ちた目でこちらを見るヘルナ。その後ろでファルビーラは男泣きしていた。

意味が分からない。

「そうゆうことよ」
「意味不明や!」

どうしろというのか。十才の少女にしては小柄なリンディエール。これが、病弱だったとはいえ力加減も分からない十三になる少年に羽交い締めにされている。この状況、普通は大人が助ける。助けないと少女は潰れる。だが、二百以上もレベル差があるのだ。リンディエールは何ともない。

それがわかっているから、ヘルナもファルビーラも動かなかった。

「お願いだリン。お嫁に行かないで! ずっと側に居て! 幸せにするから、あの宰相の家になんて行かないで!」
「……いや、宰相さんの所には、はじめっから行く気ないねんけど……」
「養うから! リンが稼いだお金は全部リンの好きにして良いから! だけど他に男は作らないで! 子どもが欲しかったらどっかから拐ってくるから!」
「普通にあかんやろ……誘拐やんか」

おかしい。これはおかしい。その辺の大人よ、きちんとツッコめと目だけ動かす。誰も目を合わせなかった。グランギリアなんかは死角に移動していた。これはリンディエール自身で解決しろということだろう。

「なら僕と子どもを作ろう! 法律でダメなだけなんだから、別にいいでしょ!」

これを聞いて、さすがのリンディエールもキレた。スコンと羽交い締めから脱出し、そのままフィリクスの腕を取る。

「良いわけあるかい! このバカ兄貴!」

背負い投げが完璧に決まった。もちろん、床に優しめに叩きつけた。痛みと衝撃は必要だ。

「っ……っ、へ……?」

思ったほど痛くなかったのと、宙を飛んだ初めての感覚に、フィリクスは仰向けになって呆然としていた。

そんなフィリクスを上から見下ろして、リンディエールは腰に手を当てる。

「何を血迷っとんのや! 妹やぞ! 手え出してええわけあるかい! それで孕んだらどうしてくれんねん! 子どもがかわいそうや!」
「……リンちゃん……そっちじゃないわ……」

ヘルナが思わずツッコむ。自分でもそっちじゃない感はあるが、そこも重要だと思ったのだ。

「だいたいなあ、ウチは兄ちゃんがどうゆう性格かも、何が好きで嫌いかも分からんのやぞ! そんな相手が抱きついてきてみい。ウチやなかったら人間不信になるわ! 男性恐怖症になったらどうしてくれんねん! 世の男ども、残らず消し炭にすんぞ!」
「……リンならやりそうだっ」

ファルビーラや部屋に残っていた男達は残らず震え上がった。これにはグランギリアもマズイと内心焦っている。表情には一切出ていないのはさすがだ。

ここでようやくフィリクスは目を瞬かせてゆっくりと起き上がる。そして、リンディエールの方を向いて正座した。お行儀良く手はグーにしてお膝の上だ。

「ご、ごめん……」
「分かればええねん。さっき口走ったことは忘れたるわ」
「え……ま、待って。リンのこと好きなのも、愛してるもの本当だから。だから……わ、忘れないで……」
「……っ」

もじもじして頬を赤め、目を潤ませて恥ずかしげに目を逸らされる。正座したままだ。

普通に可愛い。これだから美少年は困る。

「うっ……わ、わかった。そこは分かったわ……なんや、調子狂うなあ……」
「ごめんね? なら、これから僕のことも知って欲しい。もっとリンのこと知りたいし……ダメかな?」
「っ……」

この人は自分の容姿の使い方を知っている。上目遣いでウルウルされては、敵わない。

先ほどから、私と言っていたのが僕になっているのもポイントが高い。世のお姉様方は間違いなくノックアウトされる。

「う、ウチは好きにすんで?」
「いいよ! リンはリンのままで良い! 君がやりたいこと、やることの邪魔はしないから! だから僕を側に置いて!」
「……ん?」

おかしい。なんだかおかしかった気がする。

「さっきは側に居て……言わんかったか?」
「うん! けど、無理だって感じたから、なら僕の方を側に置いてくれればいいかなって。好きにして?」
「……おうふ……」

変な声が出た。手を合わせてお願いというように首を傾げられたのだ。絶対におかしい。

「も、もう好きにせえ……」
「ありがとう! 大好きだよリン。ギュッてしていい?」
「……一回だけやで……」
「うん!」

勢いよく立ち上がったフィリクスは、リンディエールをその腕の中に抱き込み、幸せそうに笑う。

「……これ、どうせえと?」

リンディエールはこの日一番、遠くを見ていた。

************
読んでくださりありがとうございます◎
次回は、四日空きます!
よろしくお願いします◎
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