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ミッション8 王都進出と娯楽品
289 全く想像できない
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キラーリにギルド長達を刺激してくれと頼んだその日の夜。
《いらっしゃいましたぁ ♪ 》
従業員について管理するクマの屋敷管理をするダイナとは別の、淡い青色のクマが屋敷内にある専用の工房で作業をしていたフィルズに、愉しそうに報告した。
ダイナと同じ燕尾服のような上衣と小さなシルクハットの髪飾り。そして、腰には警棒のように見えるステッキがある。色は紺色。シルクハットだけはラメが入ってキラキラしている。
ダイナはスカーフを首に巻いているが、こちらは赤い蝶ネクタイだ。名はガンナ。
「おっ。さすがはキラーリのおっちゃん! 上手くやってくれたみたいだなっ」
《ファリマス様が、配置に付きました》
「リュブランとマグナは起きたか?」
《はい。反応も素早く、既にこちらに……》
「フィル君!」
「フィルさん!」
冒険者として活動することで、気配を読むというのも実践して鍛えられた二人は、侵入者の気配に気付いたようだ。
「おお、偉い偉い。ちゃんと起きたな」
手を叩いて二人の成長を喜ぶフィルズだが、リュブランとマグナに余裕はない。
「びっくりしたんだよ!? なんかおかしいって! ゾクゾクってしたよ!」
「飛び起きるなんて初めてですよ! まだドキドキしてるっ……」
「今回は屋敷の中まで呼び込む必要があるからな。大分近付いてるんだろ」
「え……な、中まで入れるの?」
「というか……今回? 今までもあったんですか?」
落ち着いた訳ではなさそうだが、声のトーンが落ちた。不安そうな二人に、フィルズは立ち上がって伸びをしながら告げる。
「あったぜ? けど、警備は厳重にしているんでな。入れても門から三メートルくらい内側に行った所か、壁を越えた時点で打ち落とっ、取り押さえられてたんだよ」
「「……」」
「カリュ達が来てからも、ヤバい奴らがポツポツとな。最近は人手不足なのか、諦めたのか、ほぼねえけど」
「……それって……暗殺者……?」
リュブランは真剣な顔でフィルズに問いかける。だから、フィルズも正直に答えた。
「半分くらいな。残り半分は情報を探りに来た諜報職のやつら。だから、隠密ウサギが返り討ちにして、付き纏わせて、下した」
「……ん? 下した?」
「付き纏わせたと言いました?」
「言ったぜ? いやあ、お陰でこっちは人員確保が出来たぜ。さすがに、そっち系の人員募集を公然と出せねえからなあ。それに、これ以上、隠密ウサギを増やすわけにもいかんからさあ」
あははと笑いながら、部屋を出ようと動くフィルズ。先ほどまでの不安も忘れて、リュブランとマグナも自然にその後に続く。唖然としてもいた。
因みに、クマのガンナが先導していく。
「……そんな、人を紹介してもらったみたいな感想……」
「送り込んだ人はそんな事、予想もしてませんよね……」
相手は敵ではあるが、気の毒に思ってしまうのは、隠密ウサギが最強過ぎるからだろう。
「一度やり込められて、隠密ウサギの有能さも知ってるから裏切らねえし、好きで裏の仕事してる訳じゃねえ奴らが多いから、ちょっと嬉しそうでさ。表情には出難いけど、まともな仕事場っての? 憧れがあったんだろうなあ」
「え? あ、う、うん……まともな仕事場では……ある?」
「諜報とか、裏の仕事をするのは変わらない気がしますけど……そ、そうですね……まとも……?」
実は、彼らも食堂を使っていたりする。夜勤の扱いなので、時間的に合わない時もあるが、昼間も普通に紛れていたりしていた。
廊下を歩きながら、フィルズは弁明する。
「別に、諜報だけやらせてねえんだぜ? 他に、測量とか任せてるし、昼間も普通に働いてくれてる」
「「っ、測量部隊!」」
新たに新設した、測量し地図の作成をする測量部隊。そのメンバーが元裏社会で生きて来た者達だ。隠密ウサギに返り討ちに遭った、かつての敵だった。
そんな彼らには、見張りを付けるというのもあり、一体ずつパートナーを付けている。
肩に、胸元に、愛おしそうに頬擦りをするもふもふで、まん丸な小鳥がいる。ひな鳥にしか見えないそれが、そんな裏の仕事をしていた者達を癒していた。
「あの小鳥さんを連れた人たちだよね?」
「小鳥を可愛がってる人たちですか? あの人たちが元殺し屋だったりすると!?」
「そうだけど?」
「「……全く想像できない……」」
命なんてクソ喰らえと吐き捨てて生きていた人達にはとても思えなかった。彼らは指先で小鳥を撫で、事あるごとに話しかけて微笑んでいるのだから。
「もちろん、殺しが趣味になってたワルイ奴らは国に引き渡したけど、どいつも、こいつも、結構な腕前だぜ? 隊長やらせてるやつらは、この国でもかなり有名な暗殺者だったな。」
「小鳥とお話ししてたよ……?」
「とっても嬉しそうに優しく撫でて微笑んでましたけど?」
「ははっ。元凶悪犯だけどな! 罪を償う上でも働いてもらってんだよ。それに、本当に罪があるのは、依頼人の方だしな」
「けど、凶悪犯でしょ……?」
それこそ、罪の来歴はすごいことになっていそうだ。そこで、リュブランはハッとする。
「っ、こ、ここ、神様も来られるんだよ!? 犯罪者なんてっ」
リュブランやマグナは、盗賊討伐の折に、神からも断罪される所を見ている。決して甘くはないのだと。そんな神々が気軽に降臨するこの屋敷内に、罪人となっているはずの者を入れるというフィルズが信じられなかった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
《いらっしゃいましたぁ ♪ 》
従業員について管理するクマの屋敷管理をするダイナとは別の、淡い青色のクマが屋敷内にある専用の工房で作業をしていたフィルズに、愉しそうに報告した。
ダイナと同じ燕尾服のような上衣と小さなシルクハットの髪飾り。そして、腰には警棒のように見えるステッキがある。色は紺色。シルクハットだけはラメが入ってキラキラしている。
ダイナはスカーフを首に巻いているが、こちらは赤い蝶ネクタイだ。名はガンナ。
「おっ。さすがはキラーリのおっちゃん! 上手くやってくれたみたいだなっ」
《ファリマス様が、配置に付きました》
「リュブランとマグナは起きたか?」
《はい。反応も素早く、既にこちらに……》
「フィル君!」
「フィルさん!」
冒険者として活動することで、気配を読むというのも実践して鍛えられた二人は、侵入者の気配に気付いたようだ。
「おお、偉い偉い。ちゃんと起きたな」
手を叩いて二人の成長を喜ぶフィルズだが、リュブランとマグナに余裕はない。
「びっくりしたんだよ!? なんかおかしいって! ゾクゾクってしたよ!」
「飛び起きるなんて初めてですよ! まだドキドキしてるっ……」
「今回は屋敷の中まで呼び込む必要があるからな。大分近付いてるんだろ」
「え……な、中まで入れるの?」
「というか……今回? 今までもあったんですか?」
落ち着いた訳ではなさそうだが、声のトーンが落ちた。不安そうな二人に、フィルズは立ち上がって伸びをしながら告げる。
「あったぜ? けど、警備は厳重にしているんでな。入れても門から三メートルくらい内側に行った所か、壁を越えた時点で打ち落とっ、取り押さえられてたんだよ」
「「……」」
「カリュ達が来てからも、ヤバい奴らがポツポツとな。最近は人手不足なのか、諦めたのか、ほぼねえけど」
「……それって……暗殺者……?」
リュブランは真剣な顔でフィルズに問いかける。だから、フィルズも正直に答えた。
「半分くらいな。残り半分は情報を探りに来た諜報職のやつら。だから、隠密ウサギが返り討ちにして、付き纏わせて、下した」
「……ん? 下した?」
「付き纏わせたと言いました?」
「言ったぜ? いやあ、お陰でこっちは人員確保が出来たぜ。さすがに、そっち系の人員募集を公然と出せねえからなあ。それに、これ以上、隠密ウサギを増やすわけにもいかんからさあ」
あははと笑いながら、部屋を出ようと動くフィルズ。先ほどまでの不安も忘れて、リュブランとマグナも自然にその後に続く。唖然としてもいた。
因みに、クマのガンナが先導していく。
「……そんな、人を紹介してもらったみたいな感想……」
「送り込んだ人はそんな事、予想もしてませんよね……」
相手は敵ではあるが、気の毒に思ってしまうのは、隠密ウサギが最強過ぎるからだろう。
「一度やり込められて、隠密ウサギの有能さも知ってるから裏切らねえし、好きで裏の仕事してる訳じゃねえ奴らが多いから、ちょっと嬉しそうでさ。表情には出難いけど、まともな仕事場っての? 憧れがあったんだろうなあ」
「え? あ、う、うん……まともな仕事場では……ある?」
「諜報とか、裏の仕事をするのは変わらない気がしますけど……そ、そうですね……まとも……?」
実は、彼らも食堂を使っていたりする。夜勤の扱いなので、時間的に合わない時もあるが、昼間も普通に紛れていたりしていた。
廊下を歩きながら、フィルズは弁明する。
「別に、諜報だけやらせてねえんだぜ? 他に、測量とか任せてるし、昼間も普通に働いてくれてる」
「「っ、測量部隊!」」
新たに新設した、測量し地図の作成をする測量部隊。そのメンバーが元裏社会で生きて来た者達だ。隠密ウサギに返り討ちに遭った、かつての敵だった。
そんな彼らには、見張りを付けるというのもあり、一体ずつパートナーを付けている。
肩に、胸元に、愛おしそうに頬擦りをするもふもふで、まん丸な小鳥がいる。ひな鳥にしか見えないそれが、そんな裏の仕事をしていた者達を癒していた。
「あの小鳥さんを連れた人たちだよね?」
「小鳥を可愛がってる人たちですか? あの人たちが元殺し屋だったりすると!?」
「そうだけど?」
「「……全く想像できない……」」
命なんてクソ喰らえと吐き捨てて生きていた人達にはとても思えなかった。彼らは指先で小鳥を撫で、事あるごとに話しかけて微笑んでいるのだから。
「もちろん、殺しが趣味になってたワルイ奴らは国に引き渡したけど、どいつも、こいつも、結構な腕前だぜ? 隊長やらせてるやつらは、この国でもかなり有名な暗殺者だったな。」
「小鳥とお話ししてたよ……?」
「とっても嬉しそうに優しく撫でて微笑んでましたけど?」
「ははっ。元凶悪犯だけどな! 罪を償う上でも働いてもらってんだよ。それに、本当に罪があるのは、依頼人の方だしな」
「けど、凶悪犯でしょ……?」
それこそ、罪の来歴はすごいことになっていそうだ。そこで、リュブランはハッとする。
「っ、こ、ここ、神様も来られるんだよ!? 犯罪者なんてっ」
リュブランやマグナは、盗賊討伐の折に、神からも断罪される所を見ている。決して甘くはないのだと。そんな神々が気軽に降臨するこの屋敷内に、罪人となっているはずの者を入れるというフィルズが信じられなかった。
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