趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南

文字の大きさ
98 / 217
7巻

7-2

しおりを挟む
「マズいのは、商家そのものへの印象さね。上手くいっていた商家も、当然あの組織の者と繋がりがあり、後ろ暗いことをしていたと思い込まれてしまった」
「あ~、そのせいでキラーリのおっちゃんの所もダメなのか?」
「……うむ……あからさまに避けられているようだ……」
「小さな所は大丈夫なんだけどねえ……」

 小さな商家は、被害に遭った所もあるため、弱者として見られているようだ。被害者側と加害者側の区別が、勝手に為されてしまうのが問題だった。
 フィルズと付き合いのある大商人、キラーリが率いるギラーリ商会も加害者と誤解されているようだ。

「う~ん。もうさ、こうなったら全部公開しちまったらどうよ」
「ん? 関わっていた者達を全部ってことかい?」
「中途半端に知られたのがいけねえんだろ? それにさ、多分住民達の不満? っての? それはさ、きちんと何があって、どうなったのかが分からない不安のせいだ」

 職員の大半が神の加護を取り上げられた一件などで、住民達も商業ギルド周辺で騒動が起こっていることは知っている。
 そして、その後で闇ギルドが潰されたという噂が流れ、更に商業ギルドがバタついているのを見れば、何か関連があると憶測されるのは当たり前だ。闇ギルドと全く縁のない住民達であっても、それくらいは分かる。
 正確な情報が流れず、商家と組織の繋がりが噂されるようになった結果、貴族家の方では、自分達のこともバレやしないかと戦々恐々としているらしい。
 貴族達は、組織がセイスフィア商会に手を出して返り討ちに遭ったことは知っている。だが、あくまで商会、同じ商業ギルドに関係する事柄だけが調査されているのだろうと、上手い具合に思い込んでいるようだ。
 まさか、王自らが乗り出して罪の精査をしているなんて思わないだろう。一商会に調査能力があるなんてことも予想できないはずだ。だから噂が流れたのも悪いことばかりではなく、貴族からの妨害などを気にせずに済むというメリットはあった。
 しかし問題なのは、住民達から信用をなくした商家だ。

「それに、被害者は相当恨んでるだろ。うちの清掃部隊が周辺の清掃をしているから、それほど酷くないが、生ごみとか投げ込んでるのいるらしいじゃん」
「う、うむ……」
「キラーリのおっちゃんのとこもやられてんの?」
「少々臭う肥料を……こちらの清掃部隊には、掃除を手伝ってもらった……」
「私の所もだ……感謝を」
「私の店もです。ありがとう」

 どうやら清掃部隊はそうした所の対応もしているようだ。フィルズからは、困っている家があったら手伝い、報告を、と伝えてある。確かに報告はあったなと思い出してもいた。

「いや。気にすんな。けど、そうなると……やっぱ区切りを付けさせるためにも、きちんとした方がいい」
「どうするんだい?」
「謝罪させよう。殺人、傷害の罪は確定して、収監された者もいるみたいだが、反省がきちんとできるかどうかが重要だ。やられた方の恨みの深さってのは、当人にしか分からないからな」

 捕まるだけで溜飲りゅういんが下がるなんてことは、ほとんどない。中には保釈金を払って平然となかったことにする者もいるだろう。反省していることが被害者に伝わらなければ意味はない。

「一発殴らせてやれよ。そんで大勢の前で罪を明らかにして、頭を下げさせる。冤罪でそれをやったら困るが、今回のことに関しては、本人の自白までしっかりしてるだろ」
「ああ。冤罪はない。ベッドで横になってる病人も、じじいも、依頼した奴は全員、牢の中さ」
「なら、そいつらが寿命で死ぬ前にやろうぜ。関係ない奴らまで白い目で見られるのは、それこそ冤罪だからな」
「ふむ……では、広場を借りよう」
「ああ。良かったら、今からそこで頼んでおくか?」
「今日もいらしてるのかい?」
「宰相もな。騎士団長も居るから、当日の人の流れについての相談もできるぜ」
「それはええね」
「「「?……」」」

 フィルズとミラナだけが話を進め、キラーリ達は何がなんだか分かっていない様子。彼らは知らなかった。普通にここの食堂で国王や宰相とすれ違っていることを。

「今からでもいいかい?」
「そろそろ休憩が終わる頃だからな。ダイナ、ファシーと親父、あとラスタを呼んでくれ」
《承知しました》

 控えていたクマのダイナが、部屋を出ていく。

「相変わらず、気安いねえ」

 そう言われながら立ち上がったフィルズは、執務机につく。

「最近はここで仕事しやがるんだぜ?」
「ははっ。持ち込んで来るのかい」
「そう。そんで、こうした道具を作って欲しいとか、俺が使ってる道具とか見て、欲しがるんだ」
「いやあ、確かにフィル坊が使っている道具は有用だからねえ。あのファイルは商業ギルドでも大量に注文しているよ」
「おう。まいど」
「まとめて書類を束ねられるのに、抜き出す時は一枚だけ簡単に抜けるというのはねえ。あれは画期的だよっ」

 一番人気のファイル。書類を束にしてまとめられるバインダーなのだが、挟み込む時はそれまで挟んでいた書類にはきちんと圧がかかって動かず、好きな所に一枚だけ差し込むことができる。逆に真ん中の一枚だけを引っ張って書類を傷付けることなく抜き取ることも可能。
 普段は本のようにしっかりと安定して固定され、気になったらそのページだけ、一枚だけスッと抜き取れるのだ。ここまでストレスなく抜き差しできるバインダーなど前世にもない。魔法があるこの世界ならではだ。

「圧着の魔法陣は昔から、絵画を固定するのとかに使われてたんだけどな」

 商品名を『ファイル』としたそれは、絵画を圧着させるために使われていた魔法陣を流用した。絵を傷付けずに剥がすこともできるため、それ専用の魔法陣だと思われていたようだ。

「ははっ。まさかそんなものを使うなんて考えもつかないさね」
「結構色々使えるんだぜ? 当たり前になったものほど新しい発見や使い方があるもんなんだよ。意外にもな」

 ここで、キラーリ達もそのファイルに目を付け、興奮気味に手に取って使ってみる。

「っ、まさか、ミラナ殿がいつも手にしておられたのは……っ」
「ああ。これだよ。既にエントラール領のギルドにはたっぷり送ったさね」
「っ‼ 気付かなかったなんて……っ」
「そんな余裕ありませんでしたからな……」
「こんな商品を目の前にしながら……気付かなかったっ……」
「はっはっはっ。早い者勝ちさね」
「「「っ‼」」」

 相当参っていたのだろう。普段ならば、絶対に目に付いていた。それほど有用な商品なのだ。

「あんた達、ゆっくりとここの店を見てもいないんだろう。あたしは食後の散歩がてら、見て回っていたけどねえ」
「くっ……」
「そんな余裕がどこに……っ」
「まさかそんな抜け駆けをっ」
「まだまだ、あんた達も経験が足りないねえ」
「「「くっ!」」」
「はっはっはっ」
「……ミラナばあちゃんさすが……」

 ここに集まるキラーリ達は、大店おおだなのタヌキオヤジと呼ばれるような者達だが、ミラナからすればお子様の集まりなのだろう。
 しばらくして、ファスター王、リゼンフィア、ラスタリュートが執務室にやって来た。

「商業ギルドの方の案件か?」

 ファスター王がミラナの姿を見て、そう尋ねた。これにフィルズが執務机についたまま答える。ソファを明け渡した形だ。

「おう。まあ、少し話を聞いてやってくれ」
「うむ。フィルが必要だと思ったのだろう? 構わんよ」

 ミラナやキラーリ達の向かいのソファにファスター王とリゼンフィアが並んで座り、ラスタリュートは当たり前のようにその斜め後ろに控えた。

「キラーリのおっちゃん達は知らないんだったよな。ここにはお忍びで来ているから、今まで通りで頼むぜ?」
「お忍び……」

 キラーリ達、大店の主達は、嫌な予感がしていた。察しが良いのは良いことだ。フィルズは満足げに笑いながら紹介する。

「ミラナばあちゃんの前にいるのが、この国の王だ。その隣が公爵である宰相。後ろに居るのが王国騎士団長だ」
「ファスターだ。食堂で何度か会ったな」
「っ、こ、国王陛下っ!」
「「っ‼」」


 フィルズや、変装と演技の達人であるフィルズの祖父のリーリル、母のクラルスからもアドバイスを受けて、ファスター王のお忍びスタイルや纏う雰囲気まで、もはや王とは分からなくなっている。
 いくら肖像画などで王を知っていても、まず結びつかない出来だ。これまで普通に食堂ですれ違っていても、キラーリ達が気付くことはなかった。むしろ気付かれなかったことに、ファスター王は満足げだ。

「ああ、やめよ。お忍びだと言っただろう。かしこまられては、食事も気楽にできなくなる」
「わ、分かりました……」
「それで? フィル、何かするのか?」
「ああ。広場で公開処刑を」
「は?」

 公開処刑など、この国ではまず行わない。

「冗談だよ。血腥ちなまぐさいやつじゃなくて、公開審判みたいなもんだよ。民達に向けて、正しい情報を開示するんだ。加害者には一発殴られるくらいはしてもらうが」
「なるほど……」

 ファスター王はお忍びでここへ来ることで、町の雰囲気や気になる様子を直接目にしていた。商家が信用できないとの噂も知っている。

「広場を開放すれば良いのか?」
「ミラナばあちゃん」

 きちんとした商業ギルドからの申請にしようと、ミラナに話を振る。

「うむ……城前広場の使用許可と、当日には、ほぼ王都の全ての民が集まる可能性が高い。騎士団の協力をお願いしたい」
「そうだな……ラスタ、警備体制について商業ギルドと話し合ってくれ」
「はっ」

 ラスタリュートが胸に手を当てて了承する。

「広場については、リゼン」
「はい。許可証の発行をします。希望日時はありますか?」

 リゼンフィアがミラナに尋ねる。

「できれば、七日後以降、ひと月以内に。丸一日はお願いしたい」
「分かりました。調整して明日には確定してお知らせしましょう」
「ありがとうございます」

 そこまでスムーズに決まった。だが、ファスター王が懸念を一つ口にする。

「だが、どのように、どこまでの情報を出すのだ?」
「誤った認識のために、全く関係のない商家までが民達に懐疑の目を向けられておりますのでね。こちらは何一つ隠すつもりはありません」

 ミラナがそう口にすれば、同意するようにキラーリ達が頷く。ミラナは続けた。

「できるだけ正確に……難しいところではありますが……」

 そこでミラナはフィルズへと顔を向ける。案はあるかと聞きたいのだろう。それを察してフィルズは口を開く。

「捕まえた人数もそれなりに居たからな。上手くまとめないと、丸一日でも時間が足りなくなる。ダラダラやっても意味がないし……」

 せっかく罪を明らかにしても、真剣に聞いて教訓にできなくては、意味がないただの発表会になる。それは避けたい。

「確か、どこかの国では、公開審判が日常的に開かれる所があったはず……じいちゃん達に相談してみるか」

 すぐに連絡を取ると、クラルスとリーリルが部屋に飛び込んで来た。

「フィルが頼ってくれるなんてっ。何でも聞いて!」
「何が知りたいの? 公開審判のやり方? 任せて! 空気が重くなり過ぎないように調整して、でもきちんと加害者には罪を自覚させ、被害者が納得できる終わり方を演出するよ!」
「お、おう……じいちゃんがすげえやる気とか、珍しいのな」
「そう? ん~、ちょっと何件か被害に遭った子達と知り合いなんだよ」

 そこで、リーリルの瞳に黒いものが見えた。どうやら、怒っていたようだ。だが、その黒いものに気付いたのは、フィルズだけだろう。すぐにリーリルもその色を隠していた。

「あと、公開審判をね。私ならこうするって理想があるの。ミラナちゃん、任せてくれる?」
「っ、よろしくお願いします……っ」

 ミラナが珍しく頬を染めて萎縮気味に返事をすると、リーリルは嬉しそうに、それはもう幸せそうに笑った。

「うんっ。じゃあ、打ち合わせしようかっ」
「はいっ」

 年嵩としかさの男性であるキラーリ達まで残らずリーリルに魅了されているようだが、ここでは日常茶飯事で、周りも慣れている。あとはクラルスとリーリルに任せれば大丈夫そうだと判断したフィルズは、ミラナに告げる。

「小会議室を使ってくれ」
「助かるよ。陛下、我々はこれで失礼させていただきます」
「うむ。こちらも公開審判というのに興味がある。どうやるのか、決まったら教えてもらえるか?」
「もちろんです! 報告させていただきます」

 ミラナは了承し、リーリルも頷いていた。そんな二人にフィルズも声を掛ける。

「こっちにもな。会場とか必要だろ?」
「うん。そうだね。舞台は作らないといけないから、フィルにも後で相談させて?」

 そう言ってお願いするリーリルは、とても可愛らしく可憐に見える。

「あっ、あと、イベント広場と営業車についてるみたいな【特大モニター】と【拡声マイク】も貸して欲しいな」

 イベント広場とは、セイルブロードの中央にある舞台が設置された場所だ。舞台の奥には巨大なモニターがあり、そこでオススメ料理の屋台での調理の様子や新商品発表の映像などを流す。遠くからでもはっきり見えると好評だ。

「いいぜ? 会場の設営はうちでやるよ。他にも欲しいもの、用意して欲しいものがあれば言ってくれ」
「ありがとう! さあ、ミラナちゃん、クラルスも行くよっ」
「はい」
「は~い」
「「「っ……」」」

 キラーリ達も連れて、リーリルは部屋を飛び出して行った。そんなリーリルの背中を見送り、フィルズは苦笑する。
 残ったのはファスター王とリゼンフィア、ラスタリュートだ。

「じいちゃんがあんなにはしゃぐの、初めて見た」
「大丈夫なのか……?」

 リゼンフィアが不安そうに振り向く。これにフィルズは首を傾げてみせた。

「多分?」
「……クラルスも……」
「多分」
「……」
「心配すんなって」
「だが、表に立てば、恨まれることもあるだろう。罪を認めない者達など、逆恨みしてくるのが常だ」

 自分のせいではないと思っている者は、関係のない第三者を恨むことがある。リゼンフィアが心配しているのは、その逆恨みにクラルスやリーリルが巻き込まれることだ。

「まあな。自分の罪をバラした奴が悪いとか、正論を言う奴らはただの偽善者だとか言ってな。けど、そこを上手くやるのがじいちゃん達、流民の得意技なんだよ」
「そんなこと……」
「知らないうちに思考誘導すんの。流民の中にはさ、人と人の縁を切るのが得意な人がいるんだよ。離婚させる天才とか」
「……は?」
「そんなこと、私も初めて聞くが……?」

 ファスター王も初耳だと目を丸くした。

「場を演出したり、決定的な証拠となる場面を作ったりするんだってよ。それなりに戦えるから、弱い立場の方を守ったりな。それで、多くの人の前で誰もがそいつが悪者だと分かるように立たせるんだ」

 誰も否定できない、庇えない状況を作り上げるのだ。

「逆恨みするのも恥ずかしいって思わせるから、悪者にされた奴は落ちるだけ。反省しないのは悪だって植え付けて、周りの目もあるから下手なこともできない。そうやって大人しくさせる技があるんだってさ」
「「……怖いな……」」
「……すごいのね……」

 ラスタリュートも引き気味だ。ちょっと雰囲気が怯えたものになったので、フィルズは空気を変えるように話を切り替える。

「良かったよな~。じいちゃん達がこの国に来る前に母さんを屋敷から出しておいて」
「え……」

 リゼンフィアが顔を上げる。フィルズへと何の話だと不思議そうな目を向けた。

「だって。部屋に閉じこもったままの母さんを見たら、間違いなく離婚させられてたぜ?」
「っ‼ そっ! そんなっ! く、クラルスっ。義父ちちうえっ!」

 リゼンフィアは慌てて立ち上がると、部屋を飛び出して行った。

「あ~あ、行っちまった……」

 予想はしていたが、その慌てぶりを見てフィルズは噴き出した。
 ファスター王は、リゼンフィアを見送った後、呆れた様子でフィルズへと目を向ける。

「フィル……ワザとじゃないのか?」
「ん? まあな。最近の二人の距離感が危うくてさあ」
「距離感?」
「そう。今のままで満足してそうだったから」
「ダメなのか?」
「私も落ち着いていて良いと思ったけど?」

 ラスタリュートもそう言いながら、ファスター王の前のソファに座る。ファスター王とラスタリュートには、とても円満な家庭に生まれ変わったと見えるようだ。
 フィルズが商会を作る前、リゼンフィアは家に寄り付かず、クラルスは離れに籠ったまま心を病んでいた。フィルズが間を取り持ち、リゼンフィアにクラルスと向き合うよう促したことで、二人は再び交流を持つようになった。
 その頃に比べると、傍目には関係が改善したように見える。

「まとまってるように見えてるだけだろ。母さんが、親父に妻として何か頼るところ、見たことあるか?」
「……そういえば……」
「リゼンよりもフィル君の方を頼ってるものねえ……」
「リアさんにしてもそうなんだよ」

 フィルズが頭に浮かべるのは、第一夫人でセルジュの母のミリアリアのこと。

「ベタベタしたりびたりするのもおかしかったが、今は遠慮気味っての? まるで、父親に意見が言えない内気な令嬢みたいな」
「……彼女も変わったな……」
「そういえば、店を手伝ったりしていたわね。すごく自然に……」

 傲慢で、常に上から目線だった元侯爵令嬢はもういない。年齢からすれば、第一夫人であるミリアリアの方が年上だが、彼女は今や、かつて対立していたクラルスを姉のように慕って頼りにしている。
 臨時の特別従業員として、今はセイスフィア商会本店があるセイルブロードで働いており、最近は惣菜店の手伝いをしながら、料理の勉強中らしい。
 侯爵令嬢として上位に立って生きてきた彼女には、心を許せる友人と呼べる存在はいなかった。だからこそ、クラルスとの今の関係が嬉しくて仕方がないようだ。リゼンフィアへの執着をきっぱり切り捨てて、新たな家族であり、友人のような存在になったクラルスへ、隠すことなく親愛の情を見せている。

「リアさんと母さんは和解したけど、親父とはあれから特に時間を作って話し合ったりもしてねえんだよ」
「夫婦としての話し合いということか?」
「そう。なんとな~く、ここまで来ちまったから、改めて頭下げたりもしてない。リアさんの方からもな」
「それは……」
「う~ん……」

 ファスター王もラスタリュートも何とも言えない顔をしていた。フィルズは苦笑して立ち上がると、部屋の隅にあるティーセットでお茶を淹れる。湯沸かしポットには常時使えるように水が入っているので、クマを呼ぶ必要もない。

「今回の件もそうだが、やられた方……傷を負った方はさあ、忘れないんだよ。母さん達からしたら、放っておかれたって気持ち?」

 お茶と新作のお菓子をファスター王の前に置く。ラスタリュートの前にも置いて、その横にフィルズは腰を下ろした。もちろん、自分の分も用意してある。
 お菓子は、フルーツ大福もどきだ。酸っぱいが種のない葡萄ぶどうがあったので、その葡萄を生クリームと求肥ぎゅうひで包んだ。一口サイズと小さめだから手間もかかるが、苺大福を切実に食べたいと最近思っているフィルズとしては、この葡萄を知った時、作らずにはいられなかった。大福に使うフルーツは、やはり酸味があるものの方が良い。
 三つずつ小皿に載せた、コロコロと白い葡萄の大福。その一つをフィルズはフォークに刺して食べてみる。果汁が飛び出さないように所々皮を剥いてあるのだが、汁気が外に出てこないように薄いゼリー状のもので覆ってから、生クリームと求肥で包んであるのがポイントだ。因みに、葡萄は『ブドー』と呼ばれていた。

「んっ。やっぱ大福にして正解っ」

 思わず味の感想が出る。それを見て、ファスター王もラスタリュートも一つ食べてみた。

「っ、ん、んむっ。なんとっ。ブドーか? 酸味が丁度良いなっ」
「おいしいっ。果汁が甘いクリームと合わさって、くどさがないわっ」
「これは、このクリームということはっ、ケーキ屋で買えるのか⁉」

 パン屋の次に現在大人気のケーキ屋。そこは庶民でも手頃な値段でデザートが買えると評判だ。
 冷蔵の箱が出来上がったことで、生クリームを使ったケーキの販売も可能になった。そこで、パン屋に置いていた焼き菓子なども集めて、ケーキ屋としてオープンしたのだ。ファスター王も当然その店を知っている。

しおりを挟む
感想 2,770

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。