191 / 251
ミッション12 舞台と遠征
469 ウサギさんはダメ
しおりを挟む
扉の横には、インターホンがある。それを押すと、少し間があってから扉が自動で開いた。
中は、いくつもの画面が壁面にあり、それは獄舎の中の廊下や部屋の中の映像が映し出されている。
「うわあっ。もしかして、これで監視しているの?」
レナが目を輝かせて画面の方に歩み寄って行く。
「いや。一応の記録室みたいなものだ。ここでずっと監視ってのは、人には辛いものがあるからな」
「そうなの? これで見張りは良いと思うのだけど?」
「何かあった時に取り押さえるのは人だからさ」
「見張りは要るってことね」
これにより、現場に立つ見張りを無くすというわけにはいかない。
「各領地でも使えるか、ここで試験中ということでしたが……実際、どうなのですか? セイルブロードの管理と同じで?」
神殿長もモニターを興味深げに見てフィルズに確認する。管理の仕方としては、既にフィルズの屋敷で見て知っているため、どこが違うかと確認したいようだ。
「いや。ウチは隠密ウサギやクマ達にこの映像データも繋げてあるし、ウサギ達の見ている映像も管理室で確認してる。だから、何かあれば現場に迅速に駆けつけられるようになっているんだ」
「待って? もしかして、フィルの所の警備体制を一般に適応させようってこと?」
レナには話していなかったかもしれない。神殿長としては、今回は罪人の引き渡しの立ち合いがついでで、ここの視察がメインだ。
「そうだけど? だから試験中。さすがに隠密ウサギを貸し出す気はないからなあ」
「うっ、惜しい気はするけど、アレは普及させちゃダメなやつよ……ウサギさんはダメ……」
「クマは良いんだ?」
現在、レナに三体のクマを派遣している。既に、レナの店の主要拠点に二体。一体は補佐としてレナについて回っている。お陰で、護衛要らずだ。
「もちろんよ! あの子達のお陰で仕事の効率が五倍ぐらい上がっているわっ。今更返せないわよっ」
「おっ、しばらく契約は継続だな。まいど」
「くっ……まんまとやられたわ。試験運用の期間が終わっても、年間の継続契約を解除する気が起きないっ」
レナは完敗だと涙を呑んだ。そんな様子をチラリと見ただけで神殿長はモニターに視線を戻す。
「ふむ……これだと、基本見ているだけですか……こんな大掛かりなものは必要ないのでは?」
「このカメラ自体に、学習機能をつけてるんだ。クマやウサギみたいには意思表示をしないけど、ほれ、あそこ。今、カメラが人の動きを自動で感知してるのが分かるか?」
フィルズが指差した一つの映像では、男性が一人倒れる所だった。ズームされて男の顔色なんかを確認。その後、映像が引いてきてそこに見張りの兵士が駆けつけていた。
「映像が近づきましたね……もしかして、こちらで操作しているわけではないのですか?」
モニター前にいる人は、マイクを持って話している。
「カメラの方が自動で異常を感知するんだ。おかしな行動をしていたり、体調が悪いのも検知する」
「体調も?」
「そう。これはまだ試作だけど、まあ、これでほぼ完成するかも。スキャンして心音から体温、筋肉量、水分量、病巣の位置まで分かるカメラ。やっぱ、健康診断って大事だからさあ」
「……健康……診断……それは、アレに写した人の病気とかが分かる……とか?」
「その通り! バリウムも胃カメラも、血液検査もしなくても分かるとか、マジ反則だよなっ」
「これも……賢者の?」
「ああ。昇級試験の時に、ほぼ国内全部回ることになって、ついでに国内の遺跡は全部確認出来たんだよ」
意図せずに回り終えることができたのは幸運だった。このカメラと本来は治療台がセットになっており、名を【人間ドックん】と言うらしい。その魔導具の見た目は、ダックスフントの様だったので分からなくもない。賢者のネーミングセンスはある意味極まっている。
「因みに、今倒れたのは空腹らしい」
「「「は?」」」
神殿長とレナ、ラスタリュートは、思ってもみなかった原因にポカンと口を開けた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
中は、いくつもの画面が壁面にあり、それは獄舎の中の廊下や部屋の中の映像が映し出されている。
「うわあっ。もしかして、これで監視しているの?」
レナが目を輝かせて画面の方に歩み寄って行く。
「いや。一応の記録室みたいなものだ。ここでずっと監視ってのは、人には辛いものがあるからな」
「そうなの? これで見張りは良いと思うのだけど?」
「何かあった時に取り押さえるのは人だからさ」
「見張りは要るってことね」
これにより、現場に立つ見張りを無くすというわけにはいかない。
「各領地でも使えるか、ここで試験中ということでしたが……実際、どうなのですか? セイルブロードの管理と同じで?」
神殿長もモニターを興味深げに見てフィルズに確認する。管理の仕方としては、既にフィルズの屋敷で見て知っているため、どこが違うかと確認したいようだ。
「いや。ウチは隠密ウサギやクマ達にこの映像データも繋げてあるし、ウサギ達の見ている映像も管理室で確認してる。だから、何かあれば現場に迅速に駆けつけられるようになっているんだ」
「待って? もしかして、フィルの所の警備体制を一般に適応させようってこと?」
レナには話していなかったかもしれない。神殿長としては、今回は罪人の引き渡しの立ち合いがついでで、ここの視察がメインだ。
「そうだけど? だから試験中。さすがに隠密ウサギを貸し出す気はないからなあ」
「うっ、惜しい気はするけど、アレは普及させちゃダメなやつよ……ウサギさんはダメ……」
「クマは良いんだ?」
現在、レナに三体のクマを派遣している。既に、レナの店の主要拠点に二体。一体は補佐としてレナについて回っている。お陰で、護衛要らずだ。
「もちろんよ! あの子達のお陰で仕事の効率が五倍ぐらい上がっているわっ。今更返せないわよっ」
「おっ、しばらく契約は継続だな。まいど」
「くっ……まんまとやられたわ。試験運用の期間が終わっても、年間の継続契約を解除する気が起きないっ」
レナは完敗だと涙を呑んだ。そんな様子をチラリと見ただけで神殿長はモニターに視線を戻す。
「ふむ……これだと、基本見ているだけですか……こんな大掛かりなものは必要ないのでは?」
「このカメラ自体に、学習機能をつけてるんだ。クマやウサギみたいには意思表示をしないけど、ほれ、あそこ。今、カメラが人の動きを自動で感知してるのが分かるか?」
フィルズが指差した一つの映像では、男性が一人倒れる所だった。ズームされて男の顔色なんかを確認。その後、映像が引いてきてそこに見張りの兵士が駆けつけていた。
「映像が近づきましたね……もしかして、こちらで操作しているわけではないのですか?」
モニター前にいる人は、マイクを持って話している。
「カメラの方が自動で異常を感知するんだ。おかしな行動をしていたり、体調が悪いのも検知する」
「体調も?」
「そう。これはまだ試作だけど、まあ、これでほぼ完成するかも。スキャンして心音から体温、筋肉量、水分量、病巣の位置まで分かるカメラ。やっぱ、健康診断って大事だからさあ」
「……健康……診断……それは、アレに写した人の病気とかが分かる……とか?」
「その通り! バリウムも胃カメラも、血液検査もしなくても分かるとか、マジ反則だよなっ」
「これも……賢者の?」
「ああ。昇級試験の時に、ほぼ国内全部回ることになって、ついでに国内の遺跡は全部確認出来たんだよ」
意図せずに回り終えることができたのは幸運だった。このカメラと本来は治療台がセットになっており、名を【人間ドックん】と言うらしい。その魔導具の見た目は、ダックスフントの様だったので分からなくもない。賢者のネーミングセンスはある意味極まっている。
「因みに、今倒れたのは空腹らしい」
「「「は?」」」
神殿長とレナ、ラスタリュートは、思ってもみなかった原因にポカンと口を開けた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
3,144
あなたにおすすめの小説
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
夫が私にそっくりな下の娘ばかりをかわいがるのですけど!
山科ひさき
恋愛
「子供達をお願い」 そう言い残して、私はこの世を去った。愛する夫が子供達に私の分も愛情を注いでくれると信じていたから、不安はなかった。けれど死後の世界から見ている夫は下の娘ばかりをかわいがり、上の娘をないがしろにしている。許せない。そんな時、私に不思議な声が呼びかけてきて……。
「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!
野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。
私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。
そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
うちに待望の子供が産まれた…けど
satomi
恋愛
セント・ルミヌア王国のウェーリキン侯爵家に双子で生まれたアリサとカリナ。アリサは黒髪。黒髪が『不幸の象徴』とされているセント・ルミヌア王国では疎まれることとなる。対してカリナは金髪。家でも愛されて育つ。二人が4才になったときカリナはアリサを自分の侍女とすることに決めた(一方的に)それから、両親も家での事をすべてアリサ任せにした。
デビュタントで、カリナが皇太子に見られなかったことに腹を立てて、アリサを勘当。隣国へと国外追放した。
見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです
珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。
その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。
それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。
双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ
海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。
あぁ、大丈夫よ。
だって彼私の部屋にいるもん。
部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。