趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南

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ミッション12 舞台と遠征

471 大半はスッキリしてた

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ここの地下もそれほど暗くはない。

階段を下った所に、二つほど許可ある者しか開けられない格子の扉があり、奥へと向かえば、円形の広い部屋に出た。

「これは……」

神殿長は目を丸くして中を見回す。

その部屋の周りはガラス張りの博物館か水族館のような造りで、そこにそれぞれの罪人の入っている小部屋が並んでいた。

中央では事務仕事をしながら見張りをする者が現在は五人。その一人が顔を上げて立ち上がる。

「どうも。フィルさん。そちらは神殿長殿ですね。本日のここの代表のネルです。尋問されますか?」

歩み寄ってくるネルに、フィルズが答えた。

「自白はしているのか?」
「今日までの報告書はこちらに」
「先に確認させてもらう。それから尋問をさせてもらいたい」
「分かりました。そちらのテーブルをお使いください」
「ああ」

広い空間だ。そこに、幾つもテーブルと椅子がある。

神殿長は席につきながら、罪人達を眺め、開放的なこの部屋を不思議そうに見回す。

「アレが壁なら、フィル君の所の談話室みたいですね。事務仕事が捗りそうです」
「ん? まあ、実際あいつら気にならないからって、ここで事務仕事してる類いの奴らだから」
「……どういうことです?」

フィルズは椅子に座り、報告書をめくりながら説明する。

「最初ここには、メルナ妃の父親の侯爵とか、キツメの尋問が必要な高官が入ってたんだよ」
「そういえば、地下は尋問する者を入れる場所でしたか」
「そう。上はもうほぼ聞き取りは終わってて、後は神官に引き取られ待ちの奴らが入ってる」
「ここのはまだ……罪の判定が下りていない者達ということですね?」
「そう。あくまでも人の中でのな。で、高官達は、結構恨まれてた奴らが多かったんだ」
「はあ……」

下の者にキツく当たったり、無茶な要求をしたり、説明もなく自分がやれることでもないのに仕事を無理に押し付けてきたりする高官がほぼ捕まっていた。

「あれだ。クズ上司。尊敬も出来ない人としても出来損ないな最低な上司な。まあ、そんな奴らだからこそ、罪人になったんだろうが」
「普段から態度に出ますよね。そういうところ。特に、下に見てる人の前では」

クズな行いをするやつは、下が訴えられないと思って素の顔を見せるものだ。

「それな。で、捕まったのは良いが、普段そのクズから色々言われてやられてた奴らからしたら、『俺らへの態度や行いについては裁かれないのか?』って」
「あ、不満が出て来てしまったんですね?」
「うん。セクハラ、パワハラって訴えたところでこの世界では『そういうこともあったんですねえ』で終わりじゃん?」
「賠償もないとかそういうことですか?」
「精神的にも肉体的にも追い詰めてきてんだから、慰謝料くらいあってもいいだろ」
「家庭という閉じた世界で、不倫による離婚での慰謝料が請求できるなら、職場という世界での理不尽で不平等な場所で起きた問題も、慰謝料を請求できていいのではないかということですね?」
「そういうこと」

婚家での理不尽な立場での心的被害とそう変わらないはずだということだ。

「でも、問題なのは対象者が複数人居るってこと」
「ああ……離婚の話と違うのはそこですね」
「一人一人聞き取りして、程度を決めるってのも大変なことだろ? 傷付いたって、その日一言言われたことでも言えるんだから。その人との会話を傍で聞いていた人が居たとしても、覚えているとは限らないし」
「……大変な調査が必要になりますね……」
「だろ? だから、確たる証拠、証人がないのであれば、慰謝料は出せないってことにして、その代わり、恨み言ぶつけていいよってしたんだよ」
「……ん?」

慰謝料は出せませんと言うだけでは、反発は必至だ。訴えているのに、悪いのはあちらなのにと、誰もが感情面や推測では納得出来たとしても、確かな証拠もなくそれを罪として裁くことはできない。

そこでの代替案が一つ。

「ここ、こっちからの声はあのガラスからあの線の所からだけ中に届くんだよ」
「あの白い線ですか?」
「うん。小さい声でも、こっちからの声はあの範囲のものは聞こえるようになってる」

ガラスから一メートルくらいの位置に、白い線があり、そこが範囲だ。

「中の声は、専用の機材でだけ聞こえるようになってて、あの中央の机に取り付けてある機材でしか聞こえない」

五人居る者達の六人がけのテーブルの中央に、まるでコップを逆にして置いたようなものが幾つもの置かれている。そこに書かれているのは、ガラスにも書かれている番号。それぞれの部屋の音が聞こえるものになっている。

「もちろん、部屋の中にあの場から伝えることができるようにもなってる」

そのコップのような見た目のものには、細いマイクも付いていて、ボタン操作でそこから伝えることも可能だ。その場合は、部屋の中のスピーカーから聞こえるものになる。

「あのガラスで、こっち側は奴らには見えてない」
「え? あ、フィル君の所の窓と同じなんですね? 我々が来たことも彼らは分からないと」

どちらかの面からは見えない仕様の特殊ガラスを使っている。そのため、フィルズ達の姿も見えていない。

「そう。だからあそこから野次を好きなだけ飛ばせって言ってやったんだよ」
「その納得出来ない人たちにですね。あ~、こちらからしか姿が見えないから誰が言ったかも分からず安全だと」
「そう言うこと。まあ、特定できる事を口にしたらわかるだろうが、あそこから出ることは出来ないし、思いっきりどうぞ? って」
「それは……結構すごかったんじゃありませんか?」
「言いたいこと溜まってたからな」

それはもうギャンギャンと叫んで行った。

「言えなかったことがかなり精神を追い詰めるからさ。それでなんか、大半はスッキリしてた」

言い返されないのだから、気持ちよく言ったもん勝ちの勝ち確。スッキリするだろう。

「あと、反省文の朗読会もさせたしな」
「反省文? 朗読会……ですか?」
「反省文って言っても、こっちが用意するやつ。まだここの奴らは反省する前だしな。『こうこう、こう言うことをして、私は捕まりました』ってのを分かりやすく文章にして、それを朝と昼と夕方に立ってガラスの方向いて読み上げるんだよ。そのノルマをやらないと腕輪とか足輪がビリビリする。ずっと。それも段々強くしてく仕様な」
「……それは……嫌がりそうですね」
「その朗読会は外にも聞こえるようにして、罵倒しに来た奴らも、行儀良く前に椅子を並べて聞くんだよ。めちゃくちゃ笑いながらだけど」
「罪人相手でなければ、かなり趣味が悪いです」
「俺もそう思う! いやあ、やべえこと思い付いちゃったなっ!」
「……そうですね」

思い出してみても、あまりにもその様が滑稽で、フィルズも笑うしかなかった。





**********
読んでくださりありがとうございます◎


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