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ミッション12 舞台と遠征
476 ワクワクするわい!
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中に入ると、音が聞こえる。鉄を打つ音。火を燃やす音。火が舞う音。水に浸す音。作業の音もそこここでする。
「結界がありましたか?」
「いや……多分、建物の特性だな。使っている土が違う気がする……」
壁を触ってそれを確認する。
「熱も籠らない……鉱山から出たクズ石を粉末にしてセメントにできないか研究させていたんだが……それだな」
「フィル君知らなかったんですか?」
「いや。この農園で、建築に使えそうなら使ってみてくれとは言ってあった。ここまでのものに使ってるのは知らないが……」
ある程度好きにはさせていた。だから、聞いてないと怒るつもりはない。
「うわ~、あれだけの火があるのに、この辺りは全く熱を感じませんね」
炉の辺りに人が集まっているのが見えた。一部屋に炉は二つ。けれど、煙突はまだまだ数があった。いくつもの部屋で分かれているようだ。
「あら? フィルさん?」
「おおっ。フィル坊っ」
声で気付いたのか、レヴィリアが振り向き、次に辺境で見たことのある職人の親父さん達が順に振り向いて笑う。因みに、レヴィリアはシンプルなズボンとシャツを着ている。この村ではほぼこのスタイルだ。畑仕事をするのにワンピースやドレスは着ない。
「おやっさん達。こんなとこまで来てどうしたんだ?」
「いやあ。カル坊が工房作るって言うもんでなあ」
「そしたら、こんなおっきなもん作っちまって。俺らはほれ、次の代に店任せたんでなあ。隠居ついでにここで色々作るのも面白そうだと思ってよお」
「フィル坊。俺ら、その辺の家もらってもいいか?」
「え? ああ。いいけど?」
「「「「「よっしゃ!!」」」」」
本気で喜ぶ親父さん達に、フィルズは顔を顰める。
「いいのか? 家出て来ちまって」
「いいって。かあちゃんも連れてくるからなっ。ここの畑見たら喜ぶわい」
「ひっひっひっ。鉱床も近いしなあっ。新しい石とかワクワクするわい!」
「フィルや。ここは研究? か? 新しいことを試す場所なんじゃろ? 好きに遊べるゆうことじゃろ?」
「ん? ああ。まあ、そうだな」
「ほほっ。注文されたもんを作るのに精一杯で、やってみたいこと、作ってみたいものなどできんかったでなあ……っ、ここでなら好きにできる!」
「なんか……おやっさん達、若返ってない?」
やる気に満ち満ちているように見えた。新しい道を見つけ、希望を、夢を抱いて一歩を踏み出した若者のようだ。
「ふふふっ。この工房も研究機関の一つの施設という扱いでフィルさんに申請しようと思っていましたのよ。書類もこの通り、出来ていましてよ! 提出する前にフィルさんに見つかってしまいましたけど」
「内緒だったのか?」
「たまには、フィルさんをびっくりさせたかったのよ。いつもこちらが驚かされるばかりですもの」
「そりゃあ、悪かったな」
書類にさらっと目を通す。問題はない。フィルズの考えるこの土地の使い道としても合っている。ここは、様々なものを試す場所だ。
「ここ。実は、カルバートからの提案だったのです。あの子、自分では言いませんから私からお伝えしますけれど、フィルさんにとても恩義を感じているのですって」
「恩義?」
「ええ。あの子、喋らないでしょう? 生家でも愚鈍だ間抜けだと散々言われて、リュブランと一緒に出なければ、殺されていただろうと」
「あいつの家……スーニア伯爵家だったな……」
「ええ。フィルさんがきっちり報復してくれたと喜んでいましたわ」
公開審判の折に、監査を入れて潰した家だ。リュブランの連れて来た者達の家も後に監査が入り、不正などで爵位を落としたり、賠償金を払ったりと大変なことになったらしい。そんな中で唯一、カルバートの家は第一王子派だった。
侯爵家ともしっかりと付き合いがあり、処分を免れなかった。新たなスーニア領の領主は、カルバートの遠い親戚の血筋の者が継いだ。
「そうか……母親と兄弟は修道院に入ったが、父親はまだ王宮の獄舎に居るぜ?」
「会う気はないでしょうね」
「だよな……あいつ、家族に会ったらどうするかって聞いた時。死ねばいいのにって一言……」
「ふふふっ。それも無表情で?」
「ああ……」
「困った子ですわね」
カンカンと鉄を打ち、こちらに目も向けないカルバートの横顔を見て、レヴィリアは嬉しそうに目を細めていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「結界がありましたか?」
「いや……多分、建物の特性だな。使っている土が違う気がする……」
壁を触ってそれを確認する。
「熱も籠らない……鉱山から出たクズ石を粉末にしてセメントにできないか研究させていたんだが……それだな」
「フィル君知らなかったんですか?」
「いや。この農園で、建築に使えそうなら使ってみてくれとは言ってあった。ここまでのものに使ってるのは知らないが……」
ある程度好きにはさせていた。だから、聞いてないと怒るつもりはない。
「うわ~、あれだけの火があるのに、この辺りは全く熱を感じませんね」
炉の辺りに人が集まっているのが見えた。一部屋に炉は二つ。けれど、煙突はまだまだ数があった。いくつもの部屋で分かれているようだ。
「あら? フィルさん?」
「おおっ。フィル坊っ」
声で気付いたのか、レヴィリアが振り向き、次に辺境で見たことのある職人の親父さん達が順に振り向いて笑う。因みに、レヴィリアはシンプルなズボンとシャツを着ている。この村ではほぼこのスタイルだ。畑仕事をするのにワンピースやドレスは着ない。
「おやっさん達。こんなとこまで来てどうしたんだ?」
「いやあ。カル坊が工房作るって言うもんでなあ」
「そしたら、こんなおっきなもん作っちまって。俺らはほれ、次の代に店任せたんでなあ。隠居ついでにここで色々作るのも面白そうだと思ってよお」
「フィル坊。俺ら、その辺の家もらってもいいか?」
「え? ああ。いいけど?」
「「「「「よっしゃ!!」」」」」
本気で喜ぶ親父さん達に、フィルズは顔を顰める。
「いいのか? 家出て来ちまって」
「いいって。かあちゃんも連れてくるからなっ。ここの畑見たら喜ぶわい」
「ひっひっひっ。鉱床も近いしなあっ。新しい石とかワクワクするわい!」
「フィルや。ここは研究? か? 新しいことを試す場所なんじゃろ? 好きに遊べるゆうことじゃろ?」
「ん? ああ。まあ、そうだな」
「ほほっ。注文されたもんを作るのに精一杯で、やってみたいこと、作ってみたいものなどできんかったでなあ……っ、ここでなら好きにできる!」
「なんか……おやっさん達、若返ってない?」
やる気に満ち満ちているように見えた。新しい道を見つけ、希望を、夢を抱いて一歩を踏み出した若者のようだ。
「ふふふっ。この工房も研究機関の一つの施設という扱いでフィルさんに申請しようと思っていましたのよ。書類もこの通り、出来ていましてよ! 提出する前にフィルさんに見つかってしまいましたけど」
「内緒だったのか?」
「たまには、フィルさんをびっくりさせたかったのよ。いつもこちらが驚かされるばかりですもの」
「そりゃあ、悪かったな」
書類にさらっと目を通す。問題はない。フィルズの考えるこの土地の使い道としても合っている。ここは、様々なものを試す場所だ。
「ここ。実は、カルバートからの提案だったのです。あの子、自分では言いませんから私からお伝えしますけれど、フィルさんにとても恩義を感じているのですって」
「恩義?」
「ええ。あの子、喋らないでしょう? 生家でも愚鈍だ間抜けだと散々言われて、リュブランと一緒に出なければ、殺されていただろうと」
「あいつの家……スーニア伯爵家だったな……」
「ええ。フィルさんがきっちり報復してくれたと喜んでいましたわ」
公開審判の折に、監査を入れて潰した家だ。リュブランの連れて来た者達の家も後に監査が入り、不正などで爵位を落としたり、賠償金を払ったりと大変なことになったらしい。そんな中で唯一、カルバートの家は第一王子派だった。
侯爵家ともしっかりと付き合いがあり、処分を免れなかった。新たなスーニア領の領主は、カルバートの遠い親戚の血筋の者が継いだ。
「そうか……母親と兄弟は修道院に入ったが、父親はまだ王宮の獄舎に居るぜ?」
「会う気はないでしょうね」
「だよな……あいつ、家族に会ったらどうするかって聞いた時。死ねばいいのにって一言……」
「ふふふっ。それも無表情で?」
「ああ……」
「困った子ですわね」
カンカンと鉄を打ち、こちらに目も向けないカルバートの横顔を見て、レヴィリアは嬉しそうに目を細めていた。
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