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ミッション12 舞台と遠征
477 見捨てたくはなかったの
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フィルズはレヴィリアとカルバートの横顔を交互に見て口を開く。
「……レヴィ? カルバートのこと……」
「ふふっ。放っておけない息子のように思っていますのよ。私もあれくらいの子が居てもおかしくない年ですもの」
「ああ……けど、あいつユゼリアよりも年上だぞ?」
「……え?」
レヴィリアはフィルズの言葉の意味が理解出来なかったらしい。
「あいつ、俺より童顔なんだよ。学園も卒業してる」
「……え?」
「家から出るつもりだった所に、リュブランが騎士団を作るって聞いて、自分から売り込んで入ったらしい。そのまま姿くらますつもりが、リュブラン達が心配で離れられなかったってさ」
「……」
レヴィリアが驚いた表情を、未だ作業中のカルバートに向け、しばらくしてふっと破顔した。
「お人好しね……」
「なんでもない顔して、世話焼いてくるしな」
「ええ……そういう損な性格……似ているわ……」
「レヴィが匿ってる奴のことか?」
「っ!?」
息を呑んでこちらを向いたレヴィリアに、フィルズは苦笑を向ける。
「そんな顔すんな。別に構わねえよ」
「っ……ごめんなさいっ。報告しなくてはとは思っていたのよ……っ」
レヴィリアは慌てて弁明する。しかし、フィルズの表情は変わらない。
「別に良いって。大体、マズイ奴だったら、とっくに隠密部隊が動いてる。レヴィが連れて来たとしても、この村に入れてねえよ。クロットとシロットが許可しない」
「そう……っ……そうなのね……っ」
一歩間違えれば、排除されたかもしれないと思ったのか、レヴィリアは顔を青ざめさせていた。
「まあ、俺としては、そいつをどうこうってわけなく、レヴィがどうしたいのかを知りたいけど?」
「っ……そ、そうですわね……その……ガーネルでできた同志ですのよ……あの人が居たから、あれは成功したのですわ」
レヴィリアが勝手に暴れただけだと思われているが、実際、レヴィリアは我儘なだけの愚か者ではない。最初は友好のための花嫁交換を理由にしたもの。友人がこちらの国に憂いなく、好いた者に嫁いで来られるようにとの考えから。
昔からレヴィリアは、王族としての立場を理解しており、結婚は政略的なものしか望めないと思っていた。
「結婚願望もありませんでしたし、ガーネルに嫁ぐことを嫌だとは思いませんでしたけれど……予想以上にクズが多かったのは参りましたわね」
「ガーネルが宣戦布告するってのを知って、暴れたんだったか」
「ええ。国民は飢えで弱っていましたから、私が相手にすれば良いのは騎士だけ。それも頭を取ってしまえば勝てますもの。その頭も近くに居るのですから、楽でしたわ」
一番上を押さえ込んでしまえばいい。けれど、鍛えていたとはいえ、敵地にレヴィリア一人というのは流石に無謀だ。
「王を筆頭にした貴族の大半は、国が苦しい状況ならば、他国から奪えば良いという考え。けれど、そんな考えの者達だけではなかった。あの人を筆頭にした一部の貴族達は、国の暮らしを根本から見直そうと考えていたわ」
「だから、レヴィは、ここでの研究……」
「ええ。とても嬉しかったわ。やり甲斐もある。一度は嫁いだ国よ。そこで生きようと腹も決めていた。だから……見捨てたくはなかったの。どうすれば良いのかずっと……考えていたわ。一度は見切りを付けてしまったけれど。いつかはと……」
レヴィリアはいつも強気。そうやって生きて来たから弱味は見せられない。
王妹としての覚悟も、王族としての誇りも、レヴィリアは一見、高慢な王女としてあっても、芯のしっかりした女性だった。
王族として注目されることは当たり前。そんな生活をしてきたからこそ、内面は絶対に見せないように、弱い所を見せないように、常に攻めの姿勢でやってきたというだけのこと。
内面は繊細で、悩みも人並みにあって、何よりも責任感が強い女性だった。そして負けず嫌い。
「ここに居るあの国の元民達と向き合ってみて決めたの。ガーネルをあのままにはしない。あの時、助けてくれたあの人を、今度は私が助けるのっ。助けたいの!」
その瞳には強い信念が感じられた。それにどう答えようかとフィルズが迷っていれば、神殿長が割り込む。
「ガーネル……ですか。そろそろあちらの神殿長も動きますよ。おかしな組織も入り込んでいるようですし。近々、応援要請も来ると思っています」
「教会が……動くのですか? それは……っ、そこまで……っ」
教会が動くということは、国が揺らいでいる証拠だ。教会が撤退することもあり得る。それは、神が見捨てると言うことに他ならない。加護が届かなくなることを意味するのだから。
呆気なく崩壊したドラスリールがいい例だ。
「まだ撤退はしないでしょうが、警告はしているでしょうね。ですから、その匿われている方、丁度良い所に来ましたね」
「え……?」
「フィル君もそう思ったのでしょう?」
「まあな」
「え……?」
驚くレヴィリア。だから、神殿長は確認したいことをフィルズに尋ねていた。
「フィル君。その方、発言力はありますか?」
「潰される寸前の侯爵家の次期当主だけど?」
「おやおや。まあ、潰れる前にあちらの神殿長と接触できれば何とかなるでしょう。その前に……その方、死にかけていません?」
「は?」
「っ……そ、その……」
フィルズはそれを知らず、レヴィリアは動揺した。
「レヴィ? 死にかけてるとか聞いてねえけど? 弱ってるとは聞いてるんだが……」
「強いものではありませんが、毒を……飲まされたみたいで……ゼセラ様が戻られたらご相談しようと……」
内緒で匿っていたと言うこともあり、隠密ウサギに連絡をお願いすることもできず、何とかこれまではゼセラの所で働いていた知識を使って、繋いでいたらしい。
「……先に診るぞ」
「っ、い、いいの?」
「今更だろ。ほれ、死ぬ前に行くぞ。そいつに死なれると面倒だ」
「わ、わかったわ!」
慌てるレヴィリアに少し呆れながら、フィルズはその人と対面した。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「……レヴィ? カルバートのこと……」
「ふふっ。放っておけない息子のように思っていますのよ。私もあれくらいの子が居てもおかしくない年ですもの」
「ああ……けど、あいつユゼリアよりも年上だぞ?」
「……え?」
レヴィリアはフィルズの言葉の意味が理解出来なかったらしい。
「あいつ、俺より童顔なんだよ。学園も卒業してる」
「……え?」
「家から出るつもりだった所に、リュブランが騎士団を作るって聞いて、自分から売り込んで入ったらしい。そのまま姿くらますつもりが、リュブラン達が心配で離れられなかったってさ」
「……」
レヴィリアが驚いた表情を、未だ作業中のカルバートに向け、しばらくしてふっと破顔した。
「お人好しね……」
「なんでもない顔して、世話焼いてくるしな」
「ええ……そういう損な性格……似ているわ……」
「レヴィが匿ってる奴のことか?」
「っ!?」
息を呑んでこちらを向いたレヴィリアに、フィルズは苦笑を向ける。
「そんな顔すんな。別に構わねえよ」
「っ……ごめんなさいっ。報告しなくてはとは思っていたのよ……っ」
レヴィリアは慌てて弁明する。しかし、フィルズの表情は変わらない。
「別に良いって。大体、マズイ奴だったら、とっくに隠密部隊が動いてる。レヴィが連れて来たとしても、この村に入れてねえよ。クロットとシロットが許可しない」
「そう……っ……そうなのね……っ」
一歩間違えれば、排除されたかもしれないと思ったのか、レヴィリアは顔を青ざめさせていた。
「まあ、俺としては、そいつをどうこうってわけなく、レヴィがどうしたいのかを知りたいけど?」
「っ……そ、そうですわね……その……ガーネルでできた同志ですのよ……あの人が居たから、あれは成功したのですわ」
レヴィリアが勝手に暴れただけだと思われているが、実際、レヴィリアは我儘なだけの愚か者ではない。最初は友好のための花嫁交換を理由にしたもの。友人がこちらの国に憂いなく、好いた者に嫁いで来られるようにとの考えから。
昔からレヴィリアは、王族としての立場を理解しており、結婚は政略的なものしか望めないと思っていた。
「結婚願望もありませんでしたし、ガーネルに嫁ぐことを嫌だとは思いませんでしたけれど……予想以上にクズが多かったのは参りましたわね」
「ガーネルが宣戦布告するってのを知って、暴れたんだったか」
「ええ。国民は飢えで弱っていましたから、私が相手にすれば良いのは騎士だけ。それも頭を取ってしまえば勝てますもの。その頭も近くに居るのですから、楽でしたわ」
一番上を押さえ込んでしまえばいい。けれど、鍛えていたとはいえ、敵地にレヴィリア一人というのは流石に無謀だ。
「王を筆頭にした貴族の大半は、国が苦しい状況ならば、他国から奪えば良いという考え。けれど、そんな考えの者達だけではなかった。あの人を筆頭にした一部の貴族達は、国の暮らしを根本から見直そうと考えていたわ」
「だから、レヴィは、ここでの研究……」
「ええ。とても嬉しかったわ。やり甲斐もある。一度は嫁いだ国よ。そこで生きようと腹も決めていた。だから……見捨てたくはなかったの。どうすれば良いのかずっと……考えていたわ。一度は見切りを付けてしまったけれど。いつかはと……」
レヴィリアはいつも強気。そうやって生きて来たから弱味は見せられない。
王妹としての覚悟も、王族としての誇りも、レヴィリアは一見、高慢な王女としてあっても、芯のしっかりした女性だった。
王族として注目されることは当たり前。そんな生活をしてきたからこそ、内面は絶対に見せないように、弱い所を見せないように、常に攻めの姿勢でやってきたというだけのこと。
内面は繊細で、悩みも人並みにあって、何よりも責任感が強い女性だった。そして負けず嫌い。
「ここに居るあの国の元民達と向き合ってみて決めたの。ガーネルをあのままにはしない。あの時、助けてくれたあの人を、今度は私が助けるのっ。助けたいの!」
その瞳には強い信念が感じられた。それにどう答えようかとフィルズが迷っていれば、神殿長が割り込む。
「ガーネル……ですか。そろそろあちらの神殿長も動きますよ。おかしな組織も入り込んでいるようですし。近々、応援要請も来ると思っています」
「教会が……動くのですか? それは……っ、そこまで……っ」
教会が動くということは、国が揺らいでいる証拠だ。教会が撤退することもあり得る。それは、神が見捨てると言うことに他ならない。加護が届かなくなることを意味するのだから。
呆気なく崩壊したドラスリールがいい例だ。
「まだ撤退はしないでしょうが、警告はしているでしょうね。ですから、その匿われている方、丁度良い所に来ましたね」
「え……?」
「フィル君もそう思ったのでしょう?」
「まあな」
「え……?」
驚くレヴィリア。だから、神殿長は確認したいことをフィルズに尋ねていた。
「フィル君。その方、発言力はありますか?」
「潰される寸前の侯爵家の次期当主だけど?」
「おやおや。まあ、潰れる前にあちらの神殿長と接触できれば何とかなるでしょう。その前に……その方、死にかけていません?」
「は?」
「っ……そ、その……」
フィルズはそれを知らず、レヴィリアは動揺した。
「レヴィ? 死にかけてるとか聞いてねえけど? 弱ってるとは聞いてるんだが……」
「強いものではありませんが、毒を……飲まされたみたいで……ゼセラ様が戻られたらご相談しようと……」
内緒で匿っていたと言うこともあり、隠密ウサギに連絡をお願いすることもできず、何とかこれまではゼセラの所で働いていた知識を使って、繋いでいたらしい。
「……先に診るぞ」
「っ、い、いいの?」
「今更だろ。ほれ、死ぬ前に行くぞ。そいつに死なれると面倒だ」
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慌てるレヴィリアに少し呆れながら、フィルズはその人と対面した。
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