200 / 251
ミッション12 舞台と遠征
478 何が欲しいのだ?
しおりを挟む
その家は、大体中心辺りにあった。中央には、大きな集会所があり、フィルズが来るとそこで報告会もするのだが、その集会所からほど近い場所にある家に向かう。それはレヴィリアの使っている家で、落ち着いた色合いのシンプルな一般的な家だった。
中にある家具類も、見習い達が作ったもので、格安で手に入れている。王族が使うには質素過ぎるものではあるが、品よく部屋に配置してあるため、それほど気になるものではない。
「エイン。私よ……エイン?」
奥の客室。ドアをノックしても返事がないのを不審に思い、レヴィリアが開けると椅子ごと床に倒れていた。書類を書いている途中だったようだ。
「っ、エイン!」
レヴィリアが悲鳴をあげて駆け寄る。かなり痩せたその人を抱き起こすと、その顔は蒼白だった。けれど、熱があるように汗が噴き出している。息も荒い。
「すげえ、ギリじゃね?」
「ですねえ。私も危ないぞと聞いただけですので、どれほどというのは流石に……」
「エイン! エインっ! しっかりしてっ」
かなり必死な様子のレヴィリアを見ても、フィルズと神殿長はさほど慌てていない。それを知って、レヴィリアが振り向く。
「フィルさんっ。お願いっ。助けて!」
「おう。ちょっと診るぞ……」
久し振りに使う神聖力だ。マグナを助けた時のことを思い出す。感覚は覚えていた。
「……混じってるが……分かるやつだ。すぐに解毒薬を作ってやるよ。今はこのまま寝かせておけ。大丈夫だ」
「っ……ありがとう……っ」
「おう。待ってろ。できれば、着替えさせてやれ。クロットかシロットを呼んで……」
「私がやるから大丈夫よ」
レヴィリアは強い。それなりに鍛えてもいる。とはいえ、意識のない者を着替えさせるというのは大変なことだ。自信がある受け答えから、恐らく今までもやった事はあるようだが、無理をするものでもない。レヴィリアはまだ自分の力を過信する所があるとフィルズは知っていた。
「……そうか? なら、神殿長」
無理だろうと言えばレヴィリアを傷付ける。神殿長ならば、教会で孤児の世話や運ばれてくる怪我人、病人の世話もしたことがあるはずと、声を掛けておく。神殿長ならば上手く調整してくれるだろう。
「ええ。手伝いますね。痩せているとはいえ、女性一人の力では大変でしょう?」
「っ、ありがとうございます!」
この様子ならば大丈夫だと判断し、フィルズは薬草を探しに出た。
それに気付いたのは、畑で遊んでいた三匹のドラゴン達だ。
《どこ行くの?》
「薬草採取。辺境の方に続く森で手に入るはずだ」
《それはどの辺? 薬草が沢山ありそうな森となると、少し距離がありそうよ?》
《今日はビズ嬢ちゃんもいないだろ》
今日は定時便のバスで来た。よって、ビズはいない。まあ、歩くかと思っていたフィルズに、キラがキョロキョロと辺りを見回してから指を差した。
《ほれ、そこ。そこの土地は使ってもいいか?》
「ん? ああ。薬草畑でも作ろうかと思ってる所だが?」
そこは、土を整えている最中の畑だった。
《丁度良いではないか。どれ、何が欲しいのだ?》
「薬草か? ホドルカとシダリズ……それと、ハグサがあれば完璧だ」
《うむ。任せるがいい!》
「あっ、おい!?」
そう言って、キラがその畑の土に、勢いよくダイブした。
しばらくしてぷはっと土から出て来たキラは、体に付いた土を払い落としながら、畑の上をクルクルと飛ぶ。すると、淡い光が畑から立ち昇るように見えたと思った時には、ニョキっと緑が生えてきた。
「はあ!?」
驚いていれば、ふさぁっと葉が茂った。
「なに!?」
あり得ないという光景に、フィルズは珍しく動転した。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
中にある家具類も、見習い達が作ったもので、格安で手に入れている。王族が使うには質素過ぎるものではあるが、品よく部屋に配置してあるため、それほど気になるものではない。
「エイン。私よ……エイン?」
奥の客室。ドアをノックしても返事がないのを不審に思い、レヴィリアが開けると椅子ごと床に倒れていた。書類を書いている途中だったようだ。
「っ、エイン!」
レヴィリアが悲鳴をあげて駆け寄る。かなり痩せたその人を抱き起こすと、その顔は蒼白だった。けれど、熱があるように汗が噴き出している。息も荒い。
「すげえ、ギリじゃね?」
「ですねえ。私も危ないぞと聞いただけですので、どれほどというのは流石に……」
「エイン! エインっ! しっかりしてっ」
かなり必死な様子のレヴィリアを見ても、フィルズと神殿長はさほど慌てていない。それを知って、レヴィリアが振り向く。
「フィルさんっ。お願いっ。助けて!」
「おう。ちょっと診るぞ……」
久し振りに使う神聖力だ。マグナを助けた時のことを思い出す。感覚は覚えていた。
「……混じってるが……分かるやつだ。すぐに解毒薬を作ってやるよ。今はこのまま寝かせておけ。大丈夫だ」
「っ……ありがとう……っ」
「おう。待ってろ。できれば、着替えさせてやれ。クロットかシロットを呼んで……」
「私がやるから大丈夫よ」
レヴィリアは強い。それなりに鍛えてもいる。とはいえ、意識のない者を着替えさせるというのは大変なことだ。自信がある受け答えから、恐らく今までもやった事はあるようだが、無理をするものでもない。レヴィリアはまだ自分の力を過信する所があるとフィルズは知っていた。
「……そうか? なら、神殿長」
無理だろうと言えばレヴィリアを傷付ける。神殿長ならば、教会で孤児の世話や運ばれてくる怪我人、病人の世話もしたことがあるはずと、声を掛けておく。神殿長ならば上手く調整してくれるだろう。
「ええ。手伝いますね。痩せているとはいえ、女性一人の力では大変でしょう?」
「っ、ありがとうございます!」
この様子ならば大丈夫だと判断し、フィルズは薬草を探しに出た。
それに気付いたのは、畑で遊んでいた三匹のドラゴン達だ。
《どこ行くの?》
「薬草採取。辺境の方に続く森で手に入るはずだ」
《それはどの辺? 薬草が沢山ありそうな森となると、少し距離がありそうよ?》
《今日はビズ嬢ちゃんもいないだろ》
今日は定時便のバスで来た。よって、ビズはいない。まあ、歩くかと思っていたフィルズに、キラがキョロキョロと辺りを見回してから指を差した。
《ほれ、そこ。そこの土地は使ってもいいか?》
「ん? ああ。薬草畑でも作ろうかと思ってる所だが?」
そこは、土を整えている最中の畑だった。
《丁度良いではないか。どれ、何が欲しいのだ?》
「薬草か? ホドルカとシダリズ……それと、ハグサがあれば完璧だ」
《うむ。任せるがいい!》
「あっ、おい!?」
そう言って、キラがその畑の土に、勢いよくダイブした。
しばらくしてぷはっと土から出て来たキラは、体に付いた土を払い落としながら、畑の上をクルクルと飛ぶ。すると、淡い光が畑から立ち昇るように見えたと思った時には、ニョキっと緑が生えてきた。
「はあ!?」
驚いていれば、ふさぁっと葉が茂った。
「なに!?」
あり得ないという光景に、フィルズは珍しく動転した。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
3,074
あなたにおすすめの小説
足手まといだと言われて冒険者パーティから追放されたのに、なぜか元メンバーが追いかけてきました
ちくわ食べます
ファンタジー
「ユウト。正直にいうけど、最近のあなたは足手まといになっている。もう、ここらへんが限界だと思う」
優秀なアタッカー、メイジ、タンクの3人に囲まれていたヒーラーのユウトは、実力不足を理由に冒険者パーティを追放されてしまう。
――僕には才能がなかった。
打ちひしがれ、故郷の実家へと帰省を決意したユウトを待ち受けていたのは、彼の知らない真実だった。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
3歳児にも劣る淑女(笑)
章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。
男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。
その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。
カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^)
ほんの思い付きの1場面的な小噺。
王女以外の固有名詞を無くしました。
元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。
創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。
婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです
かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。
これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。
下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。
ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。
小説家になろう様でも投稿しています。
うちに待望の子供が産まれた…けど
satomi
恋愛
セント・ルミヌア王国のウェーリキン侯爵家に双子で生まれたアリサとカリナ。アリサは黒髪。黒髪が『不幸の象徴』とされているセント・ルミヌア王国では疎まれることとなる。対してカリナは金髪。家でも愛されて育つ。二人が4才になったときカリナはアリサを自分の侍女とすることに決めた(一方的に)それから、両親も家での事をすべてアリサ任せにした。
デビュタントで、カリナが皇太子に見られなかったことに腹を立てて、アリサを勘当。隣国へと国外追放した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。