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275 その可能性を
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2015. 11. 6
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エルヴァストはその事実の予感を頭から消し去ろうとしていた。それは、あまりにも嫌な予感だ。だが、ティアはその受け入れ難い事実を、はっきりとさせておくべきだと思った。
「そうだよ。今のこの国の多くの貴族達は、奴らと繋がってるんだ」
「っ、そんなっ」
エルヴァストは、正しく彼らの危険性を理解していた。だからこそ、この国の中に、既に手が回されていることに恐怖したのだ。
「まさか……父上も……っ」
そして、キルシュもこの問題に気付いたようだ。
前々から侯爵は、ヒュースリー伯爵について、良く思っていない発言をしていた。それは、異種族であるシェリスに、上手く取り入っているというものだ。ティアは、キルシュからそれを聞いた覚えもある。
「確かに、お父様を気に入らないって節はあるみたいだけど、だからって、イコール『人族至上主義』って訳じゃないよ」
彼らならば、自分の治める領に、異種族であるシェリスを住まわせる事はしない。それを許したとしたなら、シェリスの知識や能力を利用する為だろう。
「まぁ、あなたが勘違いしてしまうのも仕方がありません。ヒュースリーの家の者は昔から変わっているのです。実際、この国……いえ、世界中で見ても、本当の意味で私に取り入ろうとしなかった人族の権力者は、あの家の者だけでしょうね」
「うん。シェリーは素振りだけでも気付くからね。直接手を出そうもんなら、家ごと消えててもおかしくないもん。ここに何事もなく留まってるのは奇跡だよ」
昔から、シェリスは下心を持って近付いてくる者に敏感だ。ただでさえ他人嫌い。何かを得ようと近付いてくる貴族達など論外だった。
「奥方の体を治す薬さえ、求めては来ませんでしたからね。単純に私を頼るという頭がなかったとも言えますが」
シェリスとしては、フィスタークの何代も前から、何かの折に頼られる事があれば、無条件で手を貸してやろうと決めていたのだ。シアンの体の問題も、実は相談されたなら何とかしてやろうと思っていた。
「伯爵らしい……」
エルヴァストは、フィスタークの姿を思い浮かべる。貴族らしさの感じられないその印象に、強張っていた表情から思わず笑みが零れた。
「ふふっ、そんな危なっかしいお父様だもん。私がしっかり気を付けてるの。だから、侯爵の事も全部調査済みだよ」
そう言ってウィンクを送るティアに、キルシュは呆然としてしまった。
「父上の事を……?なら……」
「うん。侯爵に繋がりはなし。立場上、どっちつかずな話し方で、周りの貴族達と上手く付き合ってるんだね。認めるべきは認めるって事が、ちゃんと出来る人なんだよ」
唯一の例外が、冒険者に対する感情だった。それにも理由がちゃんとあった事も、ティアは調査出来ていたので、かろうじてプラスの評価を出していた。
「侯爵の父親。キルシュのお祖父様は、結構な分からずやだったみたいで、異種族にも否定的だったんだけどね。それに染まってたら、危なかったかもしれないよ?セーフだったね」
「ああ……良かった……」
「うん。危うく潰しちゃう所だった」
「……それは、ティアがか……?」
これは一応、確認しておくべきだろう。これにティアは、とんでもない一言も添えて笑顔で答えた。
「うんっ。そんな侯爵を許してる国王も危なかったかも」
これには、エルヴァストが身を震わせて聞き返した。
「……ティア……今、何やらヒヤリとする言葉を聞いたように思ったのだが……」
「うん?別に変な事言ってないから、気の所為じゃない?」
「そ、そうか。そうだなっ」
こんな時は、これ以上聞き返してはいけないとエルヴァストはちゃんと分かっている。これは、ティアと付き合っていく上で、心の平穏を保つ為に必要な対処法なのだ。
これらの話を、静かに口を閉ざして聞いていたルクスが、ここでようやく口を開いた。
「ティアは、また奴らが手を出してくると思うのか?」
ルクスが最も心配しているのは、もちろん、首を突っ込むだろうティアの事だ。だから確認しなくてはならない。
「うん。それも、かなり警戒しなくちゃならない事がある」
ティアはそう言って、シェリスへ合図を送った。すると、シェリスは一つ頷くと、立ち上がって机の引き出しにしまいこまれていた小さな箱を持ってきた。
「これは、神具の適応者を見つける為に開発された魔導具です」
「なっ……」
箱の中には、真っ二つに割れた水晶玉のような物があった。
「壊れちゃってるけど、付与されてた術式とかを、カル姐に分析してもらったの」
壊れてしまった魔導具に、どんな術式が付与されていたのかを調べるにはとても時間が掛かる。更に、魔工師でなくては出来ない。この魔導具の解析も、魔族の国で、実に二年という時間が掛かっていた。
「こんな物……一体、どこで手に入れた?」
ルクスは、まさかティアがまた、自分の知らないうちに危ない接触をしていたのではないかと思い、鋭く問い詰めた。
「うっ、ルクスもその場にいたよ」
「なに?」
そんな記憶はとんとないルクスだ。ルクスの記憶では『神の王国』と接触したのは、今回が初めてだ。だから、盛大に顔をしかめ、答えを求めるべく、ティアを見つめた。
それは、エルヴァストとキルシュも同じで、静かにティアの次の言葉を待ったのだった。
************************************************
舞台裏のお話。
サクヤ「久しぶり~☆」
ルッコ「サクヤ?お前、生きてたのか」
サクヤ「やだ、ヒドイっ。大親友に向かってソレ?」
ルッコ「友なら、十年に一度ぐらい、手紙の一つでも送るもんだろ」
サクヤ「うっ……」
ルッコ「お前はマメに見えて、そうゆう気遣いは出来ん奴だと分かっているが、さすがに何百年と音沙汰がないと、どこぞで死んだかと思ったぞ」
サクヤ「ルッコちゃん、心配してくれてたのっ?」
ルッコ「とっくに、死んだと思って、送りの祈りまでして終わった話になっていた」
サクヤ「ひ、ヒドイ~★」
ビアン「だ、男性……いや、女性にしか見えませんよね?」
ウル「ええ……それも、とても気の強そうな姐さん……っ」
街人A「姐さんっ、西地区で乱闘ですっ」
ルッコ「知るか。まだ明るいんだ。お前らで何とかしな」
街人B「いやいや、兵も混じって、もうどうにもらんですよっ」
謎の強面の男「俺が」
ルッコ「あぁ、あんた。仕方ないね……そうだ、サクヤ。お前、手伝いな」
サクヤ「へ?」
ルッコ「あんた。サクヤを連れてっておくれ。頼んだよ」
謎の強面の男「わかった」
サクヤ「えぇっ⁉︎」
ビアン・ウル「「……」」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
なにやら巻き込まれたサクヤ姐さんです。
ちょっと会議が長引いています。
もう少しお付き合いしてください。
エル兄ちゃんとキルシュは、一応は跡取りではありませんが、しっかりと考えているようです。
ルクスは、ティアちゃんの行動が心配なようですね。
さて、どこで手に入れた魔導具だったのか。
では次回、一日空けて8日です。
よろしくお願いします◎
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エルヴァストはその事実の予感を頭から消し去ろうとしていた。それは、あまりにも嫌な予感だ。だが、ティアはその受け入れ難い事実を、はっきりとさせておくべきだと思った。
「そうだよ。今のこの国の多くの貴族達は、奴らと繋がってるんだ」
「っ、そんなっ」
エルヴァストは、正しく彼らの危険性を理解していた。だからこそ、この国の中に、既に手が回されていることに恐怖したのだ。
「まさか……父上も……っ」
そして、キルシュもこの問題に気付いたようだ。
前々から侯爵は、ヒュースリー伯爵について、良く思っていない発言をしていた。それは、異種族であるシェリスに、上手く取り入っているというものだ。ティアは、キルシュからそれを聞いた覚えもある。
「確かに、お父様を気に入らないって節はあるみたいだけど、だからって、イコール『人族至上主義』って訳じゃないよ」
彼らならば、自分の治める領に、異種族であるシェリスを住まわせる事はしない。それを許したとしたなら、シェリスの知識や能力を利用する為だろう。
「まぁ、あなたが勘違いしてしまうのも仕方がありません。ヒュースリーの家の者は昔から変わっているのです。実際、この国……いえ、世界中で見ても、本当の意味で私に取り入ろうとしなかった人族の権力者は、あの家の者だけでしょうね」
「うん。シェリーは素振りだけでも気付くからね。直接手を出そうもんなら、家ごと消えててもおかしくないもん。ここに何事もなく留まってるのは奇跡だよ」
昔から、シェリスは下心を持って近付いてくる者に敏感だ。ただでさえ他人嫌い。何かを得ようと近付いてくる貴族達など論外だった。
「奥方の体を治す薬さえ、求めては来ませんでしたからね。単純に私を頼るという頭がなかったとも言えますが」
シェリスとしては、フィスタークの何代も前から、何かの折に頼られる事があれば、無条件で手を貸してやろうと決めていたのだ。シアンの体の問題も、実は相談されたなら何とかしてやろうと思っていた。
「伯爵らしい……」
エルヴァストは、フィスタークの姿を思い浮かべる。貴族らしさの感じられないその印象に、強張っていた表情から思わず笑みが零れた。
「ふふっ、そんな危なっかしいお父様だもん。私がしっかり気を付けてるの。だから、侯爵の事も全部調査済みだよ」
そう言ってウィンクを送るティアに、キルシュは呆然としてしまった。
「父上の事を……?なら……」
「うん。侯爵に繋がりはなし。立場上、どっちつかずな話し方で、周りの貴族達と上手く付き合ってるんだね。認めるべきは認めるって事が、ちゃんと出来る人なんだよ」
唯一の例外が、冒険者に対する感情だった。それにも理由がちゃんとあった事も、ティアは調査出来ていたので、かろうじてプラスの評価を出していた。
「侯爵の父親。キルシュのお祖父様は、結構な分からずやだったみたいで、異種族にも否定的だったんだけどね。それに染まってたら、危なかったかもしれないよ?セーフだったね」
「ああ……良かった……」
「うん。危うく潰しちゃう所だった」
「……それは、ティアがか……?」
これは一応、確認しておくべきだろう。これにティアは、とんでもない一言も添えて笑顔で答えた。
「うんっ。そんな侯爵を許してる国王も危なかったかも」
これには、エルヴァストが身を震わせて聞き返した。
「……ティア……今、何やらヒヤリとする言葉を聞いたように思ったのだが……」
「うん?別に変な事言ってないから、気の所為じゃない?」
「そ、そうか。そうだなっ」
こんな時は、これ以上聞き返してはいけないとエルヴァストはちゃんと分かっている。これは、ティアと付き合っていく上で、心の平穏を保つ為に必要な対処法なのだ。
これらの話を、静かに口を閉ざして聞いていたルクスが、ここでようやく口を開いた。
「ティアは、また奴らが手を出してくると思うのか?」
ルクスが最も心配しているのは、もちろん、首を突っ込むだろうティアの事だ。だから確認しなくてはならない。
「うん。それも、かなり警戒しなくちゃならない事がある」
ティアはそう言って、シェリスへ合図を送った。すると、シェリスは一つ頷くと、立ち上がって机の引き出しにしまいこまれていた小さな箱を持ってきた。
「これは、神具の適応者を見つける為に開発された魔導具です」
「なっ……」
箱の中には、真っ二つに割れた水晶玉のような物があった。
「壊れちゃってるけど、付与されてた術式とかを、カル姐に分析してもらったの」
壊れてしまった魔導具に、どんな術式が付与されていたのかを調べるにはとても時間が掛かる。更に、魔工師でなくては出来ない。この魔導具の解析も、魔族の国で、実に二年という時間が掛かっていた。
「こんな物……一体、どこで手に入れた?」
ルクスは、まさかティアがまた、自分の知らないうちに危ない接触をしていたのではないかと思い、鋭く問い詰めた。
「うっ、ルクスもその場にいたよ」
「なに?」
そんな記憶はとんとないルクスだ。ルクスの記憶では『神の王国』と接触したのは、今回が初めてだ。だから、盛大に顔をしかめ、答えを求めるべく、ティアを見つめた。
それは、エルヴァストとキルシュも同じで、静かにティアの次の言葉を待ったのだった。
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舞台裏のお話。
サクヤ「久しぶり~☆」
ルッコ「サクヤ?お前、生きてたのか」
サクヤ「やだ、ヒドイっ。大親友に向かってソレ?」
ルッコ「友なら、十年に一度ぐらい、手紙の一つでも送るもんだろ」
サクヤ「うっ……」
ルッコ「お前はマメに見えて、そうゆう気遣いは出来ん奴だと分かっているが、さすがに何百年と音沙汰がないと、どこぞで死んだかと思ったぞ」
サクヤ「ルッコちゃん、心配してくれてたのっ?」
ルッコ「とっくに、死んだと思って、送りの祈りまでして終わった話になっていた」
サクヤ「ひ、ヒドイ~★」
ビアン「だ、男性……いや、女性にしか見えませんよね?」
ウル「ええ……それも、とても気の強そうな姐さん……っ」
街人A「姐さんっ、西地区で乱闘ですっ」
ルッコ「知るか。まだ明るいんだ。お前らで何とかしな」
街人B「いやいや、兵も混じって、もうどうにもらんですよっ」
謎の強面の男「俺が」
ルッコ「あぁ、あんた。仕方ないね……そうだ、サクヤ。お前、手伝いな」
サクヤ「へ?」
ルッコ「あんた。サクヤを連れてっておくれ。頼んだよ」
謎の強面の男「わかった」
サクヤ「えぇっ⁉︎」
ビアン・ウル「「……」」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
なにやら巻き込まれたサクヤ姐さんです。
ちょっと会議が長引いています。
もう少しお付き合いしてください。
エル兄ちゃんとキルシュは、一応は跡取りではありませんが、しっかりと考えているようです。
ルクスは、ティアちゃんの行動が心配なようですね。
さて、どこで手に入れた魔導具だったのか。
では次回、一日空けて8日です。
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