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連載
282 やっぱり気に入らないですから
2015. 11. 16
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ティアの傍らに現れたのは、風王だ。風王は、その場で静かに目を伏せて、ティアが声を掛けるのを待っている。
「キルシュが知ってるのはそれだけ?毒かもって思ったのは何で? 」
そう、風王からキルシュへと視線を戻したティアが訊ねた。
「あ、あぁ。薬学士と父上の会話を聞いたんだ。手の甲に緑色の斑点が出来ていて、爪の色も変色していると。これに幻覚が見えるという症状……父上は、病気だと言った。だが、もしかしたら毒のせいかもしれないと思って調べてみたんだ……」
今の状況に少々動揺しながらも、キルシュは答えた。そこでようやく、ティアは風王へと口を開く。
「調べられそう?」
「恐らくは」
ティアがあえて確認したのは、相手が貴族だからだ。晶腐石が使われている可能性がある。そうなれば、精霊である風王達は情報を得られない。
「出来る限りでいい。お願いできる?」
「勿論です。では、失礼いたします」
優雅な礼をして姿を消した風王に、キルシュは緊張した面持ちでティアへと訊ねた。
「風の王に何を……」
キルシュが風王をこれ程近くで見たのは、ユフィアの為に出かけた最初の頃の一度だけだ。それも、紹介されたほんのひと時のみ。今回のように、ティアが頼み事をして、それを受けて動く所は見たことがなかった。
当然、風王が何ができ、ティアが何を頼んだのかをキルシュには知る由もない。
「何って。キルシュのお母様が、どうしてそうなったのかを調べてもらうんだよ」
「そんな事ができるのか?」
「精霊だもん。それも、精霊王だよ?やろうと思えば、どこまでも遡って、追跡できるよ。精霊はそのまま、世界の記憶を持ってるようなものだもの」
「世界の……記憶……」
精霊達の寿命は様々だ。何百とそこに漂うものもいれば、数年で消えてしまうものもいる。だから、今までの全てが分かる訳ではないかもしれない。だが、今回のように数年前の過去の事ならば、問題なく知ることができる筈だ。
「まぁ、気楽に待ってれば良いよ。それと、治療についてだけど」
「あ、あぁ」
キルシュは、この言葉を待っていたというように少々身を乗り出し、ティアの続く言葉を待った。それに、ティアはニヤリと笑う。
「私が診ても良いんだけど、良い機会だし、侯爵に動いてもらおうかな」
「父上に?一体何をさせる気だ?」
ティアが浮かべた笑みが気になり、キルシュは不安に身を縮める。
「ちゃんと認めても良いと思うんだよね。あんな襲撃もあったことだし、いっその事、完全に敵認定されてみたらどうかと思うんだ」
「いや、だから……意味が分からん」
キルシュには、何かを企んでいるという事以外、ティアの言っている事が理解できなかった。
「うん?だから、人族至上主義っていうの?あいつらの仲間じゃないよ~ってね」
ティアは、ずっと気に入らなかったのだ。元々、ティアは過去、様々な種族が共存して繁栄していた国で生きていたのだ。人だけで成り立っている今の国は少々気味が悪い。
人族至上主義などという言葉がある事自体が不快なのだ。
幸い、ティアの父であるフィスタークは、最初からこの思想を否定している。ヒュースリー伯爵領にはエルフであるシェリスがいるのだ。態度だけではなく、真っ向から彼らとは相容れないとしている。
「やっぱり、上の人間から変えていかないとね。それに、シェリスにも悪い話じゃない」
シェリスには、もう少しこの国の人と関わりが持てるようになって欲しい。いつまでも、他人嫌いを通していてはいけないとティアは思っている。
そして、貴族達も変えていかなくてはならない。貴族の中でも、上の立場にある侯爵が彼らを否定すれば、ただそちらへと流されていた者達も迷うだろう。
「今の貴族達は、人族至上主義へ偏ってる。国自体がそっちへ傾くのも時間の問題だと思うんだ。それじゃぁ、まずい事になる」
人とは愚かな生き物で、過去を最も早く忘れてしまう。当然だ。百年もすれば世代は完全に入れ替わってしまうのだから。
「傾いたら、どうなるんだ?」
キルシュには、その危険性が分からない。これが人の性であり、問題だ。
「戦いが起きる」
「……戦争……」
愚かな人ならば、過去の手痛い失敗を忘れ、無謀にも挑む事になるだろう。人こそが至上の生物だと主張する彼らならば、間違いなく辿り着く結果となる。
「神の王国なんて奴らが顔を出したのも、今の貴族達の流れのせいだよ。だから、侯爵には示してもらわなきゃ。貸しもあるし、分割払いで早急に一回目を払ってもらおうかな」
「……父上……」
とんでもない相手に貸しを作ってしまった父にキルシュは同情する。そして、一括ではなく、勝手に分割にされてしまった事に、更に父を不憫に思うのだった。
************************************************
舞台裏のお話。
アリシア「シアン様っ。危険ですから先ず私がっ」
シアン「大丈夫よ。変な臭いもしないもの」
ベティ「シアン様……そういう知識はあるのですね……」
シアン「ティアちゃんが教えてくれた『探険する時の心得その3』よ」
フィスターク「ティアは本当にすごいよね」
アリシア「それには同意しますが……お屋敷の地下探険はどうかと思います」
ベティ「今回は大丈夫そうですが、地下はお屋敷を支える岩盤とかの関係もありますし、気を付けないといけませんよ?」
フィスターク「っ、そうなんだね。君も良くそんな事を知っているね」
ベティ「あ、その……ティア様から伺いました」
フィスターク「ティアに?そうか。やっばりすごい」
アリシア「フィスターク様。ティア様が凄いのはもう分かっていますから。それより、シアン様が行ってしまわれました」
フィスターク「あぁっ!シアンっ、シアンっ、大丈夫かいっ」
シアン「大丈夫よ~」
アリシア「行きます」
ベティ「フィスターク様はここでお待ちください」
フィスターク「え?でも、シアンが……」
ア・べ「「お待ちください」」
フィスターク「……はい……」
アリシア「シアン様……ねぇ、なんで地下なのに明るいの?」
ベティ「本当だ。それに、なんだか……」
シアン「……きれい……」
ア・べ「「うわぁ……」」
シアン「色んな光……これって……」
リジット「精霊ですよ」
シ・ア・べ「「「リジットっ」」」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
このメンバーにとっては、ティアちゃんが全てです。
シアンママんの初探険は一体どんな場所なのでしょう。
ティアちゃんはちゃんと世界の事も考えています。
初志貫徹……かつてのバトラールのような国を目指すでいきましょう。
それは、世界も変えていく事かもしれません。
侯爵もティアちゃんの駒になりました。
今後、沢山使っていきましょうって事です。
分割ですから。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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ティアの傍らに現れたのは、風王だ。風王は、その場で静かに目を伏せて、ティアが声を掛けるのを待っている。
「キルシュが知ってるのはそれだけ?毒かもって思ったのは何で? 」
そう、風王からキルシュへと視線を戻したティアが訊ねた。
「あ、あぁ。薬学士と父上の会話を聞いたんだ。手の甲に緑色の斑点が出来ていて、爪の色も変色していると。これに幻覚が見えるという症状……父上は、病気だと言った。だが、もしかしたら毒のせいかもしれないと思って調べてみたんだ……」
今の状況に少々動揺しながらも、キルシュは答えた。そこでようやく、ティアは風王へと口を開く。
「調べられそう?」
「恐らくは」
ティアがあえて確認したのは、相手が貴族だからだ。晶腐石が使われている可能性がある。そうなれば、精霊である風王達は情報を得られない。
「出来る限りでいい。お願いできる?」
「勿論です。では、失礼いたします」
優雅な礼をして姿を消した風王に、キルシュは緊張した面持ちでティアへと訊ねた。
「風の王に何を……」
キルシュが風王をこれ程近くで見たのは、ユフィアの為に出かけた最初の頃の一度だけだ。それも、紹介されたほんのひと時のみ。今回のように、ティアが頼み事をして、それを受けて動く所は見たことがなかった。
当然、風王が何ができ、ティアが何を頼んだのかをキルシュには知る由もない。
「何って。キルシュのお母様が、どうしてそうなったのかを調べてもらうんだよ」
「そんな事ができるのか?」
「精霊だもん。それも、精霊王だよ?やろうと思えば、どこまでも遡って、追跡できるよ。精霊はそのまま、世界の記憶を持ってるようなものだもの」
「世界の……記憶……」
精霊達の寿命は様々だ。何百とそこに漂うものもいれば、数年で消えてしまうものもいる。だから、今までの全てが分かる訳ではないかもしれない。だが、今回のように数年前の過去の事ならば、問題なく知ることができる筈だ。
「まぁ、気楽に待ってれば良いよ。それと、治療についてだけど」
「あ、あぁ」
キルシュは、この言葉を待っていたというように少々身を乗り出し、ティアの続く言葉を待った。それに、ティアはニヤリと笑う。
「私が診ても良いんだけど、良い機会だし、侯爵に動いてもらおうかな」
「父上に?一体何をさせる気だ?」
ティアが浮かべた笑みが気になり、キルシュは不安に身を縮める。
「ちゃんと認めても良いと思うんだよね。あんな襲撃もあったことだし、いっその事、完全に敵認定されてみたらどうかと思うんだ」
「いや、だから……意味が分からん」
キルシュには、何かを企んでいるという事以外、ティアの言っている事が理解できなかった。
「うん?だから、人族至上主義っていうの?あいつらの仲間じゃないよ~ってね」
ティアは、ずっと気に入らなかったのだ。元々、ティアは過去、様々な種族が共存して繁栄していた国で生きていたのだ。人だけで成り立っている今の国は少々気味が悪い。
人族至上主義などという言葉がある事自体が不快なのだ。
幸い、ティアの父であるフィスタークは、最初からこの思想を否定している。ヒュースリー伯爵領にはエルフであるシェリスがいるのだ。態度だけではなく、真っ向から彼らとは相容れないとしている。
「やっぱり、上の人間から変えていかないとね。それに、シェリスにも悪い話じゃない」
シェリスには、もう少しこの国の人と関わりが持てるようになって欲しい。いつまでも、他人嫌いを通していてはいけないとティアは思っている。
そして、貴族達も変えていかなくてはならない。貴族の中でも、上の立場にある侯爵が彼らを否定すれば、ただそちらへと流されていた者達も迷うだろう。
「今の貴族達は、人族至上主義へ偏ってる。国自体がそっちへ傾くのも時間の問題だと思うんだ。それじゃぁ、まずい事になる」
人とは愚かな生き物で、過去を最も早く忘れてしまう。当然だ。百年もすれば世代は完全に入れ替わってしまうのだから。
「傾いたら、どうなるんだ?」
キルシュには、その危険性が分からない。これが人の性であり、問題だ。
「戦いが起きる」
「……戦争……」
愚かな人ならば、過去の手痛い失敗を忘れ、無謀にも挑む事になるだろう。人こそが至上の生物だと主張する彼らならば、間違いなく辿り着く結果となる。
「神の王国なんて奴らが顔を出したのも、今の貴族達の流れのせいだよ。だから、侯爵には示してもらわなきゃ。貸しもあるし、分割払いで早急に一回目を払ってもらおうかな」
「……父上……」
とんでもない相手に貸しを作ってしまった父にキルシュは同情する。そして、一括ではなく、勝手に分割にされてしまった事に、更に父を不憫に思うのだった。
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舞台裏のお話。
アリシア「シアン様っ。危険ですから先ず私がっ」
シアン「大丈夫よ。変な臭いもしないもの」
ベティ「シアン様……そういう知識はあるのですね……」
シアン「ティアちゃんが教えてくれた『探険する時の心得その3』よ」
フィスターク「ティアは本当にすごいよね」
アリシア「それには同意しますが……お屋敷の地下探険はどうかと思います」
ベティ「今回は大丈夫そうですが、地下はお屋敷を支える岩盤とかの関係もありますし、気を付けないといけませんよ?」
フィスターク「っ、そうなんだね。君も良くそんな事を知っているね」
ベティ「あ、その……ティア様から伺いました」
フィスターク「ティアに?そうか。やっばりすごい」
アリシア「フィスターク様。ティア様が凄いのはもう分かっていますから。それより、シアン様が行ってしまわれました」
フィスターク「あぁっ!シアンっ、シアンっ、大丈夫かいっ」
シアン「大丈夫よ~」
アリシア「行きます」
ベティ「フィスターク様はここでお待ちください」
フィスターク「え?でも、シアンが……」
ア・べ「「お待ちください」」
フィスターク「……はい……」
アリシア「シアン様……ねぇ、なんで地下なのに明るいの?」
ベティ「本当だ。それに、なんだか……」
シアン「……きれい……」
ア・べ「「うわぁ……」」
シアン「色んな光……これって……」
リジット「精霊ですよ」
シ・ア・べ「「「リジットっ」」」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
このメンバーにとっては、ティアちゃんが全てです。
シアンママんの初探険は一体どんな場所なのでしょう。
ティアちゃんはちゃんと世界の事も考えています。
初志貫徹……かつてのバトラールのような国を目指すでいきましょう。
それは、世界も変えていく事かもしれません。
侯爵もティアちゃんの駒になりました。
今後、沢山使っていきましょうって事です。
分割ですから。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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