女神なんてお断りですっ。

紫南

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460 将来が心配です

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2016. 7. 22
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ティアが向かったのは、メリスラング男爵領。

メリスラング家は代々騎士として国に仕えていた。当主が国境の砦の指揮を取っており、先々代の折にその実績が認められ、男爵の地位と領地を与えられた家だ。

ティアは首領都に降り立つと、真っ直ぐに領主の屋敷へ向かった。

「お待ちしておりました。ティア様」

出迎えた執事に案内され、ティアはルクスとシル、そして、マティとフラムを引き連れて屋敷へと入る。

「旦那様。ティア様をお連れ致しました」
「入ってくれ」

メリスラングの現当主は五十代半ばといったところだろうか。鎧が似合いそうな良いガタイをしている。

厳つい顔をしている為、頭の固い印象を受けるが、見た目を裏切る落ち着いた温和な人物だった。

「何度も呼び立てて申し訳ない」
「構いませんよ。こっちこそ、もっと早く大元について気付けば良かった」

少女に向かって誠実な態度でもって頭を下げる男爵に、ティアも申し訳ない気持ちになる。

先月にでも、盗賊について大元があるのではないかと調査すれば良かったのだ。

「いいえ。あの時は確かに盗賊を一掃してくださった。依頼は完遂されております。まぁ、お掛けください」

椅子を勧められ、ティアは男爵と向かい合うように座る。

その足下にはマティが伏せ、フラムが肘掛けにとまる。そして、ティアの後ろにルクスとシルが並んだ。

男爵は先ず、フラムに驚きの目を向けた。ここへは、マティとだけ来ていたので、フラムは初めてだったのだ。

マティはディストレアとしての体毛をそのままに、子犬の姿を取っている。その姿も流石に三度目だ。いいかげん慣れたのだろう。それよりもドラゴンであるフラムの方が気になって仕方がないようだった。

「そ、その子はドラゴン……なのですか?」
「ええ。フラムといいます。正真正銘、ドラゴンですよ。まだまだ子どもで甘えたい盛りですが、戦闘の役にも立ちます。それと、今回は調査もということで、二人、仲間を連れてきました」

フラムが少々強面の男爵の視線に怯えてティアに擦り寄る。それを撫でながら、後ろの二人を紹介した。

「ルクス・カランとシルです。ルクスはAランクの冒険者ですし、シルは情報収集能力に長けています。実力も確かです。早期解決をお約束しますよ」

まるで胡散臭いセールスのようだが、ティアの実力を知っている男爵は嬉しそうに頭を下げた。

「カラン……ゲイルさんのご子息ですか。そちらの方もよろしく頼みます」

そんな男爵を見て、ティアは面白そうにルクスとシルの反応を上目遣いで確認する。二人揃って一瞬困り顔を浮かべたが、すぐに頭を切り替えると力強く頷いた。

二人とも、貴族らしくない男爵の態度に驚いていたようだ。

「それではさっそく」

そう言って、ティアは男爵の屋敷を後にしたのだった。

◆◆◆◆◆

屋敷を出たティアは、国境の方へ向けて町を歩いていた。

「男爵の事、意外だった?」

口を引き結んだ様子のままティアの後を着いてくるルクスとシルに振り向いて問いかける。

これに、ルクスが困惑しながら答えた。

「良く考えたら、ティアが貴族の依頼を何度も受けるなんておかしいんだよな。あぁいう人なら納得だ」
「出来た方のようですね。それに、今でも剣を握っているようです。趣味程度ではなく、しっかりと訓練を欠かさない武人に見えました。貴族の当主でありながら剣を持つというのは珍しい。領地を自分の手で守ろうと考えている方なのでしょう」

シルの目は、男爵の手や立ち居振る舞い。頭の下げ方まで全てをつぶさに見ていたようだ。

そこから滲み出る気迫と、人柄から、そう思ったのだろう。

「うん。男爵は、自ら領兵達に剣の指導をしているし、砦の指揮もこなしてる。まだまだ現役の騎士だよ。それも、この国の騎士の中で最も強い」

ティアは嬉しそうにそう言うのを見て、感心する二人。しかし、すぐにふとあることに思い当たった。

「この国で一番強いのは近衛隊長じゃなかったか?」

国で認められた騎士の頂点。それが、ビアンの父であり、公に知られてはいないが、側妃であるエルヴァストの母の父親。名をリュークという。

彼が最も強いと言われているのだが、そうではないという事かとティアへ確認する。

「近衛隊長さんも強いけど、実戦ではちょっと頼りないんだよね。その点、男爵は常に実戦に出向いてるから、フットワークも軽いんだよ。ここは国境だし、危険と隣り合わせな環境と、日がな一日、王様にくっ付いて歩いてるだけの人じゃ、差もつくでしょ?」
「確かに……」
「なるほど。現場の者とデスクワークばかりの者とでは違いますからね」
「そっ。冒険者でいえば、Aランクに届くかどうかって所だと思うけどね。それでも今の騎士としてなら、相当頼りになるよ」

ティアとしては、こんな騎士がいると知れたのは喜ばしい。もうほんの少し手を貸してやれば、きっと昔の騎士のレベルに届くだろう。

ただ、年齢が少々不安だった。

「もう少し若ければね~」

そんな呟きがルクスの耳に入る。

「っ、若ければ何だよ……」
「ん? だって、体力とかの限界って、若いうちに伸ばさないといけないんだ。伸び代っていうの? それが定まるまでに基礎的な底上げをしておかないとね。あの年じゃぁ、ちょっとしか伸ばせない」
「そ、そうか……」
「うん?」

なんだがほっとしたような様子のルクスに、首を傾げながらも、ティアは惜しい人材を見逃していたなと後悔していた。

騎士は王都にいる者達しか眼中になかったのだ。このような王都から遠く離れた場所に有望な騎士がいるとは考えが及ばなかった。

「では、ここにいる兵たちの中にティア様のお眼鏡にかなう者がいるかもしれませんね」

シルは、そうティアを励ますように言った。

「それなんだよね。多分これから見てると分かると思うんだけど、若者が少ないんだよ。国境を守らなきゃならないから、実力重視ってのも分かるんだけど、四十近い人達ばっかりなの」
「それは……困りましたね」
「ね。これじゃぁ、あと数年で守りが薄くなる。そこん所、分かってると良いんだけど……」
「後進が育つどころか、いないのか……不安だな」

国境の守りという事で、派遣される兵も実力がそれなりにある年長者が多くなってしまうのだ。

即戦力になる者をとなると今の軟弱な若者達は向かない。こんな現状の為にも騎士学校の件を含め期待している。

「だから、王都でテコ入れするんだよ」

この機会に国防の為の力を底上げするつもりだ。

「ただでさえ、隣がきな臭いからね。それに……奴らがそろそろ動きそうなんだ」
「……神の王国か。ティア。あまり派手に動いて奴らの目に付くのは避けるべきだぞ」

ルクスは相変わらず心配性な所がある。一瞬苦笑を浮かべたティアだが、振り向きざま口角を上げ、立ち止まる。

ルクスとシルが見たその表情は、遊びを思い付いた無邪気な子どものそれだった。


************************************************
舞台裏のお話。

ベル「はっ!はっ!」

ゼノ「ベルっ、そろそろフィスタークとシアンが帰ってくるぞ」

ベル「あっ、もうそんな時間でしたか」

ゼノ「そんなに張り切って剣の稽古とは……何か悩みでもあるのか?」

ベル「え? いいえ?」

ユフィア「ふふっ、ゼノお祖父様。ご心配は要りませんわ」

ゼノ「ん? だが、男が無心で剣を振るうのだ。何か理由があるだろう」

ユフィア「あら。ベル様。もしかして、ティアさんとのお約束をお話ししていないのではありませんか?」

ベル「あぁ……確かに。ゲイルさんにしたから、失念していた」

ゼノ「何をだ?」

ユフィア「ティアさんに言われたのですわ」

ゼノ「ティア?」

ベル「ええ。エルが落ち着いたら、私とエルは、Aランクの認定試験を受けるのです」

ゼノ「っ、認定試験をっ⁉︎」

ユフィア「そうですわ。ティアさんにお墨付きをいただきましたの」

ベル「ですから、腕を鈍らせるわけにはいかないのです」

ゼノ「……ベルがAランクに……っ、こうしてはおれん!」

ベル「お祖父様?」

ゼノ「ティアには仕方がないとして、ベルにまで抜かれてはっ……フィスタークが帰って来たら、出掛けてくる」

ユフィア「まぁっ。ふふっ、ファル様でしたら、今月いっぱいディムースにいらっしゃいますわ」

ゼノ「おっ、そうかっ。では、私は出掛ける準備をする。フィスターク達の出迎えは頼むぞ」

ベル「え?」

ユフィア「はい。ギルドのグリフォンは丁度帰って来て待機中だそうですよ」

ゼノ「素晴らしい! 良いタイミングだ。早速、マスターに交渉しなくてはな。リジット、リジット」

ベル「……」

ユフィア「お祖父様。とっても生き生きしていらっしゃるわね」

ベル「あ、あぁ……ところでユフィ……なぜファル殿やグリフォンの状況まで知っているんだ?」

ユフィア「何かおかしいでしょうか?」

ベル「いや……良くわかったなと……」

ユフィア「ベル様の妻になるのですもの。これくらいは当然ですわ」

ベル「っ……そ、そうか。そうだなっ」



つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


当然?
誤魔化されていますね。


真面目に国の事を考えて動いています。
ですが、本心がそこにあるかは分かるはずもありません。
ティアちゃんの胸の内。
何かを企むのがティアちゃんですからね。
保護者達の苦労は続いています。


では次回、一日空けて24日です。
よろしくお願いします◎
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