女神なんてお断りですっ。

紫南

文字の大きさ
393 / 457
連載

555 帰しませんよ

しおりを挟む
2017. 1. 16

**********

舞踏会は、今回の対抗戦のような大きな行事の後に行われる事が多い。

王都で、騎士対冒険者の試合があるとなれば、多くの貴族達が集まってくる。そして、そのまま舞踏会になだれ込むのだ。

ティアとラキア、ヒュースリー伯爵家を代表して、ベリアローズとユフィア、そして、護衛のルクスとゲイルの六人は、王宮に到着した。

「お兄っ、ベルさんとユフィアさんはそのまま会場の方へ向かって」
「あ、あぁ。基本は別行動だったな」

バトラールの姿であるティアは、ベリアローズに『お兄様』と呼ぶ度に身構えられるので、呼び方を変えていた。

それでも微妙な顔をするのはどう対処すればいいのか。

「しっかりしてよ。お父っ……ヒュースリー伯爵家の代表なんだからさ」
「っ、分かっているっ」

フィスタークとシアンではない理由は、間も無く正式に結婚するという事で、今回の舞踏会で、次期当主夫婦のお披露目をする目的があった。

ティアはバトラールとして参加するので、一緒にはいられない。心配ではあるが、ベリアローズと同世代の、子息や令嬢も多く参加しているはずなので、そう緊張する事もないだろう。

ルクスとゲイルも別行動になるのだ。ここで心配なのは、二人ではなくティアだったようだ。ゲイルが一応注意をしておく。

「俺らはまた外の警備だな。暴れんなよ、嬢ちゃん」
「自重はしないよ?」
「しねぇのかよ……城を吹っ飛ばすのだけは勘弁な」
「了解。ちょっと壊すのは許してね?」

ティアは心のままに動くというダメダメな宣言をした。

「ティア。何かあったら呼べよ」
「そこは察知して」

ルクスも気が気ではないようだ。

それぞれの行動も決まったところで、城に向かって歩き出す。しかし、城に入る手前で、ティアはラキアへとある手紙を手渡した。

「これ、今から読んで」
「はぁ……」

ティアは手紙を読みながら歩くラキアを気遣いながら、会場へと着実に進んでいく。ベリアローズとユフィアはとうに離れて前を歩いており、ルクスとゲイルは警備の配置につく為に別れていた。

舞踏会はもう始まったようで、ティア達の周りにはほとんど人がいない。

「なっ!?」

ラキアが突然立ち止まり、声をあげた。その手は手紙の端を握りしめている。

「なっ、何なんですかっ、これはっ!」

彼女にしては珍しい。いつもハイパーメイドとして静かに声を荒立てる事はないのだ。これだけ取り乱すのは数年前以来だった。

「大きな声出さない。何って、エル兄様からのラブレターだよ? ちゃんと伝わった?」
「へっ!? え、だ、だってっ」

顔を赤らめ、落ち着かない様子のラキア。出会った頃のラキアを思い出す。会場に着くまでに、平常心に戻す為、ティアは小さな声で伝えた。

「やっぱり気付いてなかったんだね。エル兄様はずっとラキアちゃんを好きだったよ?」
「そんなっ!? そんなはずはっ」
「あるの。ちゃんと書いてあったでしょ?」
「っ……はい……っ」

まだ信じられないというように、ラキアは手紙に目を落としている。

「今まで感じなかった? そんな素振り」
「そ、素振りっ、ですかっ……? 素振り……あ……っ」

何かを思い出したというように、ラキアは顔を上げる。

「ありました……」
「ラキアちゃんって、自分の事をあんまり考えないから、気付かない振りしてたよね」
「……そう……かもしれません……エル様は王子ですし……考えるべきではないと……」

ラキアは、優秀なメイドになるにつれて、エルヴァストと少し距離を置くようになった。勘違いしてはいけないと思うようになったのだ。それはメイドとしては正しい事で、仕方のない事だった。

「そうだろうと思った。ねぇ、少し考えてみて。返事はすぐじゃなくても良いって、エル兄様の事だから、書いてあるんじゃない?」
「はい。そう書いてありました……」

エルヴァストなら、そう書くだろう。傲慢な王子ではないのだ。ラキアの気持ちは大切にする。

「今日はメイドじゃなくて、一人の女の子として、エル兄様の相手をして欲しいの」
「……それでしたら……少し遅れて行ってもよろしいでしょうか……このような顔でエル様の所には行けません」
「いいよ」

ラキアも心の準備はしたいだろう。一方的に想いを伝えられて、戸惑っているのだ。

きっとラキアならば、真剣に考え、一人で答えを出す事ができるだろう。

ティアは控え室に向かっていくラキアを見送る。しかし、少し進んだ所でラキアが振り向いた。

「なぜ、ここでこれをお渡しになったのですか?」

ティアならば、ラキアがこうして悩むのは分かっていただろうと思ったようだ。

「何日も悩むより、直前の方がラキアちゃんは集中して考えられるかなと思ってね。それに、ドレスを着てれば、メイドとして考えられなくなるでしょ?」

メイド服を着ていれば、自分はメイドだからとブレーキがかかるだろう。ドレスを着た今のラキアは、ただの女の子だ。そうして考えて欲しかったのだ。

「立場なんて気にしないでね。私が後ろにいるって覚えておいて。ラキアちゃんが決めたら、私はなんだってするよ」
「ティア様……はい。一人の女として、答えを出したいと思います」
「うん。待ってる」

遠ざかっていくラキアの背中を見つめた後、自分の向かう場所を思い出す。そして、会場に向かって歩き出した。

ティアはクスリと笑いながら、ラキアには言わなかった狙いを呟く。

「ここまで来たら、ラキアちゃんは、敵前逃亡なんてしないもんね~」

ドレスまで着て、本来の役目を果たさず帰るなど、ラキアには出来ないだろうとティアは手紙をこの直前に渡したのだ。

「あぁいう所、やっぱアリアに似てるわ」

楽しいなと極上の笑みを浮かべながら、ティアは会場へと足を踏み入れたのだった。

**********

舞台裏のお話。

シアン「今頃、楽しんでいるかしら……」

フィスターク「行きたかったかい?」

シアン「そうね。舞踏会は楽しいもの」

フィスターク「シアンはダンスが上手だからね」

シアン「あら。ダンスより、曲者を見つけて退治するのが楽しいのよ?」

フィスターク「え……」

シアン「ドレスで動き難いだろうって油断させるのはいい手だって、ティアちゃんが言っていたわ」

フィスターク「そ、そんな……危ないよ?」

シアン「大丈夫よ。フィスタークは私が守るわ!」

フィスターク「つ、強い君もステキだよ……」

シアン「ありがとう!」

フィスターク「う、うん……」

つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


苦笑いですね。


ついにラキアちゃんに気持ちが伝えられました。
きっと今頃、ヒヤヒヤしながら待っているんでしょうね。


では次回、金曜20日の0時です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。