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555 帰しませんよ
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2017. 1. 16
**********
舞踏会は、今回の対抗戦のような大きな行事の後に行われる事が多い。
王都で、騎士対冒険者の試合があるとなれば、多くの貴族達が集まってくる。そして、そのまま舞踏会になだれ込むのだ。
ティアとラキア、ヒュースリー伯爵家を代表して、ベリアローズとユフィア、そして、護衛のルクスとゲイルの六人は、王宮に到着した。
「お兄っ、ベルさんとユフィアさんはそのまま会場の方へ向かって」
「あ、あぁ。基本は別行動だったな」
バトラールの姿であるティアは、ベリアローズに『お兄様』と呼ぶ度に身構えられるので、呼び方を変えていた。
それでも微妙な顔をするのはどう対処すればいいのか。
「しっかりしてよ。お父っ……ヒュースリー伯爵家の代表なんだからさ」
「っ、分かっているっ」
フィスタークとシアンではない理由は、間も無く正式に結婚するという事で、今回の舞踏会で、次期当主夫婦のお披露目をする目的があった。
ティアはバトラールとして参加するので、一緒にはいられない。心配ではあるが、ベリアローズと同世代の、子息や令嬢も多く参加しているはずなので、そう緊張する事もないだろう。
ルクスとゲイルも別行動になるのだ。ここで心配なのは、二人ではなくティアだったようだ。ゲイルが一応注意をしておく。
「俺らはまた外の警備だな。暴れんなよ、嬢ちゃん」
「自重はしないよ?」
「しねぇのかよ……城を吹っ飛ばすのだけは勘弁な」
「了解。ちょっと壊すのは許してね?」
ティアは心のままに動くというダメダメな宣言をした。
「ティア。何かあったら呼べよ」
「そこは察知して」
ルクスも気が気ではないようだ。
それぞれの行動も決まったところで、城に向かって歩き出す。しかし、城に入る手前で、ティアはラキアへとある手紙を手渡した。
「これ、今から読んで」
「はぁ……」
ティアは手紙を読みながら歩くラキアを気遣いながら、会場へと着実に進んでいく。ベリアローズとユフィアはとうに離れて前を歩いており、ルクスとゲイルは警備の配置につく為に別れていた。
舞踏会はもう始まったようで、ティア達の周りにはほとんど人がいない。
「なっ!?」
ラキアが突然立ち止まり、声をあげた。その手は手紙の端を握りしめている。
「なっ、何なんですかっ、これはっ!」
彼女にしては珍しい。いつもハイパーメイドとして静かに声を荒立てる事はないのだ。これだけ取り乱すのは数年前以来だった。
「大きな声出さない。何って、エル兄様からのラブレターだよ? ちゃんと伝わった?」
「へっ!? え、だ、だってっ」
顔を赤らめ、落ち着かない様子のラキア。出会った頃のラキアを思い出す。会場に着くまでに、平常心に戻す為、ティアは小さな声で伝えた。
「やっぱり気付いてなかったんだね。エル兄様はずっとラキアちゃんを好きだったよ?」
「そんなっ!? そんなはずはっ」
「あるの。ちゃんと書いてあったでしょ?」
「っ……はい……っ」
まだ信じられないというように、ラキアは手紙に目を落としている。
「今まで感じなかった? そんな素振り」
「そ、素振りっ、ですかっ……? 素振り……あ……っ」
何かを思い出したというように、ラキアは顔を上げる。
「ありました……」
「ラキアちゃんって、自分の事をあんまり考えないから、気付かない振りしてたよね」
「……そう……かもしれません……エル様は王子ですし……考えるべきではないと……」
ラキアは、優秀なメイドになるにつれて、エルヴァストと少し距離を置くようになった。勘違いしてはいけないと思うようになったのだ。それはメイドとしては正しい事で、仕方のない事だった。
「そうだろうと思った。ねぇ、少し考えてみて。返事はすぐじゃなくても良いって、エル兄様の事だから、書いてあるんじゃない?」
「はい。そう書いてありました……」
エルヴァストなら、そう書くだろう。傲慢な王子ではないのだ。ラキアの気持ちは大切にする。
「今日はメイドじゃなくて、一人の女の子として、エル兄様の相手をして欲しいの」
「……それでしたら……少し遅れて行ってもよろしいでしょうか……このような顔でエル様の所には行けません」
「いいよ」
ラキアも心の準備はしたいだろう。一方的に想いを伝えられて、戸惑っているのだ。
きっとラキアならば、真剣に考え、一人で答えを出す事ができるだろう。
ティアは控え室に向かっていくラキアを見送る。しかし、少し進んだ所でラキアが振り向いた。
「なぜ、ここでこれをお渡しになったのですか?」
ティアならば、ラキアがこうして悩むのは分かっていただろうと思ったようだ。
「何日も悩むより、直前の方がラキアちゃんは集中して考えられるかなと思ってね。それに、ドレスを着てれば、メイドとして考えられなくなるでしょ?」
メイド服を着ていれば、自分はメイドだからとブレーキがかかるだろう。ドレスを着た今のラキアは、ただの女の子だ。そうして考えて欲しかったのだ。
「立場なんて気にしないでね。私が後ろにいるって覚えておいて。ラキアちゃんが決めたら、私はなんだってするよ」
「ティア様……はい。一人の女として、答えを出したいと思います」
「うん。待ってる」
遠ざかっていくラキアの背中を見つめた後、自分の向かう場所を思い出す。そして、会場に向かって歩き出した。
ティアはクスリと笑いながら、ラキアには言わなかった狙いを呟く。
「ここまで来たら、ラキアちゃんは、敵前逃亡なんてしないもんね~」
ドレスまで着て、本来の役目を果たさず帰るなど、ラキアには出来ないだろうとティアは手紙をこの直前に渡したのだ。
「あぁいう所、やっぱアリアに似てるわ」
楽しいなと極上の笑みを浮かべながら、ティアは会場へと足を踏み入れたのだった。
**********
舞台裏のお話。
シアン「今頃、楽しんでいるかしら……」
フィスターク「行きたかったかい?」
シアン「そうね。舞踏会は楽しいもの」
フィスターク「シアンはダンスが上手だからね」
シアン「あら。ダンスより、曲者を見つけて退治するのが楽しいのよ?」
フィスターク「え……」
シアン「ドレスで動き難いだろうって油断させるのはいい手だって、ティアちゃんが言っていたわ」
フィスターク「そ、そんな……危ないよ?」
シアン「大丈夫よ。フィスタークは私が守るわ!」
フィスターク「つ、強い君もステキだよ……」
シアン「ありがとう!」
フィスターク「う、うん……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
苦笑いですね。
ついにラキアちゃんに気持ちが伝えられました。
きっと今頃、ヒヤヒヤしながら待っているんでしょうね。
では次回、金曜20日の0時です。
よろしくお願いします◎
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舞踏会は、今回の対抗戦のような大きな行事の後に行われる事が多い。
王都で、騎士対冒険者の試合があるとなれば、多くの貴族達が集まってくる。そして、そのまま舞踏会になだれ込むのだ。
ティアとラキア、ヒュースリー伯爵家を代表して、ベリアローズとユフィア、そして、護衛のルクスとゲイルの六人は、王宮に到着した。
「お兄っ、ベルさんとユフィアさんはそのまま会場の方へ向かって」
「あ、あぁ。基本は別行動だったな」
バトラールの姿であるティアは、ベリアローズに『お兄様』と呼ぶ度に身構えられるので、呼び方を変えていた。
それでも微妙な顔をするのはどう対処すればいいのか。
「しっかりしてよ。お父っ……ヒュースリー伯爵家の代表なんだからさ」
「っ、分かっているっ」
フィスタークとシアンではない理由は、間も無く正式に結婚するという事で、今回の舞踏会で、次期当主夫婦のお披露目をする目的があった。
ティアはバトラールとして参加するので、一緒にはいられない。心配ではあるが、ベリアローズと同世代の、子息や令嬢も多く参加しているはずなので、そう緊張する事もないだろう。
ルクスとゲイルも別行動になるのだ。ここで心配なのは、二人ではなくティアだったようだ。ゲイルが一応注意をしておく。
「俺らはまた外の警備だな。暴れんなよ、嬢ちゃん」
「自重はしないよ?」
「しねぇのかよ……城を吹っ飛ばすのだけは勘弁な」
「了解。ちょっと壊すのは許してね?」
ティアは心のままに動くというダメダメな宣言をした。
「ティア。何かあったら呼べよ」
「そこは察知して」
ルクスも気が気ではないようだ。
それぞれの行動も決まったところで、城に向かって歩き出す。しかし、城に入る手前で、ティアはラキアへとある手紙を手渡した。
「これ、今から読んで」
「はぁ……」
ティアは手紙を読みながら歩くラキアを気遣いながら、会場へと着実に進んでいく。ベリアローズとユフィアはとうに離れて前を歩いており、ルクスとゲイルは警備の配置につく為に別れていた。
舞踏会はもう始まったようで、ティア達の周りにはほとんど人がいない。
「なっ!?」
ラキアが突然立ち止まり、声をあげた。その手は手紙の端を握りしめている。
「なっ、何なんですかっ、これはっ!」
彼女にしては珍しい。いつもハイパーメイドとして静かに声を荒立てる事はないのだ。これだけ取り乱すのは数年前以来だった。
「大きな声出さない。何って、エル兄様からのラブレターだよ? ちゃんと伝わった?」
「へっ!? え、だ、だってっ」
顔を赤らめ、落ち着かない様子のラキア。出会った頃のラキアを思い出す。会場に着くまでに、平常心に戻す為、ティアは小さな声で伝えた。
「やっぱり気付いてなかったんだね。エル兄様はずっとラキアちゃんを好きだったよ?」
「そんなっ!? そんなはずはっ」
「あるの。ちゃんと書いてあったでしょ?」
「っ……はい……っ」
まだ信じられないというように、ラキアは手紙に目を落としている。
「今まで感じなかった? そんな素振り」
「そ、素振りっ、ですかっ……? 素振り……あ……っ」
何かを思い出したというように、ラキアは顔を上げる。
「ありました……」
「ラキアちゃんって、自分の事をあんまり考えないから、気付かない振りしてたよね」
「……そう……かもしれません……エル様は王子ですし……考えるべきではないと……」
ラキアは、優秀なメイドになるにつれて、エルヴァストと少し距離を置くようになった。勘違いしてはいけないと思うようになったのだ。それはメイドとしては正しい事で、仕方のない事だった。
「そうだろうと思った。ねぇ、少し考えてみて。返事はすぐじゃなくても良いって、エル兄様の事だから、書いてあるんじゃない?」
「はい。そう書いてありました……」
エルヴァストなら、そう書くだろう。傲慢な王子ではないのだ。ラキアの気持ちは大切にする。
「今日はメイドじゃなくて、一人の女の子として、エル兄様の相手をして欲しいの」
「……それでしたら……少し遅れて行ってもよろしいでしょうか……このような顔でエル様の所には行けません」
「いいよ」
ラキアも心の準備はしたいだろう。一方的に想いを伝えられて、戸惑っているのだ。
きっとラキアならば、真剣に考え、一人で答えを出す事ができるだろう。
ティアは控え室に向かっていくラキアを見送る。しかし、少し進んだ所でラキアが振り向いた。
「なぜ、ここでこれをお渡しになったのですか?」
ティアならば、ラキアがこうして悩むのは分かっていただろうと思ったようだ。
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メイド服を着ていれば、自分はメイドだからとブレーキがかかるだろう。ドレスを着た今のラキアは、ただの女の子だ。そうして考えて欲しかったのだ。
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「ティア様……はい。一人の女として、答えを出したいと思います」
「うん。待ってる」
遠ざかっていくラキアの背中を見つめた後、自分の向かう場所を思い出す。そして、会場に向かって歩き出した。
ティアはクスリと笑いながら、ラキアには言わなかった狙いを呟く。
「ここまで来たら、ラキアちゃんは、敵前逃亡なんてしないもんね~」
ドレスまで着て、本来の役目を果たさず帰るなど、ラキアには出来ないだろうとティアは手紙をこの直前に渡したのだ。
「あぁいう所、やっぱアリアに似てるわ」
楽しいなと極上の笑みを浮かべながら、ティアは会場へと足を踏み入れたのだった。
**********
舞台裏のお話。
シアン「今頃、楽しんでいるかしら……」
フィスターク「行きたかったかい?」
シアン「そうね。舞踏会は楽しいもの」
フィスターク「シアンはダンスが上手だからね」
シアン「あら。ダンスより、曲者を見つけて退治するのが楽しいのよ?」
フィスターク「え……」
シアン「ドレスで動き難いだろうって油断させるのはいい手だって、ティアちゃんが言っていたわ」
フィスターク「そ、そんな……危ないよ?」
シアン「大丈夫よ。フィスタークは私が守るわ!」
フィスターク「つ、強い君もステキだよ……」
シアン「ありがとう!」
フィスターク「う、うん……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
苦笑いですね。
ついにラキアちゃんに気持ちが伝えられました。
きっと今頃、ヒヤヒヤしながら待っているんでしょうね。
では次回、金曜20日の0時です。
よろしくお願いします◎
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