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連載
610 天使を守る獣として
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2017. 8. 11
**********
神使獣の本当の役目は、天使の死を見守り、その魂を最期に天界へと持ち帰る事。
罪を償い、役目を終えた天使は地上に降ろされ、最後の旅を終えて消える。そうして、輪廻の輪に戻る事を赦されるのだ。
そんな天使がちゃんと天使としての命を終えられるように守り、看取る事が役目。お互いに相棒として寄り添い合い、離れずに常に共にあるのが神使獣だ。
けれど、ゼブロは少々特殊だった。
「……思い出したの?」
《はい。私はジェルバ様の守護獣。あの方が天使であり続ける事を見守るのが役目でした》
階段を下りながら、ゼブロはゆっくりと思い出した己とジェルバの事を話す。己を思い出し、言葉も話せるようになったようだ。
ジェルバは命を終えるために地上に降りた訳ではない。神の天使であるジェルバには償うべき罪もなく、原初の頃から神に使える特別な天使だ。
天使として生まれた天使であるジェルバには、一般的な神使獣は付かない。
「見守るだけ?」
《ジェルバ様は特別な天使です。本来、地上に降りるべきではないお方。故に神々のための目が必要になりました。ジェルバ様を見守るための目が……それが私です》
ゼブロは神が地上でジェルバを見守るためだけの存在。
「ジェルバを監視していたって事?」
《そう取られても仕方がありません。ジェルバ様が穢れなき天使であるよう守るものだったのです。ですが、誤算がありました……》
ゼブロは、ジェルバだけを外敵から守っていた。しかし、それだけではいけなかったのだ。
《ジェルバ様は、一人の女性を愛されました。人を愛する事は、天使として悪い事ではありません。けれど、本来あり得ないその者との間に子を宿すほど、その者を愛された。私には、その愛の違いが分かりませんでした》
地上の者を愛する事は天使として間違った事ではない。神でさえ、気に入った一人の者に加護を与えたりする。だから、それがゼブロには特別なものに思えなかったのだ。
「まさか……」
ティアは何が起きたのか分かってしまった。それを察しながらも、ゼブロは続けた。
《……私はジェルバ様を守護するもの。ジェルバ様の身を守るものです。その女性の事まで守る必要はないと思っていました。けれど、女性の死は、ジェルバ様の心を壊した》
愛する女性が死ぬ事。それがジェルバの存在を蝕んだ。
《ジェルバ様はその衝動のままに人を害してしまった。私は守護するものとしての役目を全うできなかった……これにより、私は自我を失いました》
ジェルバが人を害した事で、天使としての魂は穢れ、狂ってしまった。そして、その守護獣であったゼブロもまた自我を失くすほどの衝撃を受けたのだ。
「……ずっと彷徨っていたの?」
カランタがそうゼブロに尋ねた。先頭を歩くゼブロは重々しく頷いた。
《はい。恐らく千年ほどでしょう。ただの獣となった私も、これまで立ち向かって来た人々と戦い、殺したはずです。どのみちもう、天界へあの方を連れ戻す事は許されない……それはあの方も理解しておられるでしょう》
神が愛する子ら。それが人だ。それを害することは許されない。
《ジェルバ様は、愛する方を失った衝撃のあまり、魂が欠けてしまっていたようです。それが先ほど戻ったように感じました。昔の……必死で神のためにと地上を駆けていらした頃のジェルバ様に戻った……》
ゼブロは嬉しいのだ。見守っていた頃のジェルバは、真っ直ぐに神の事だけを思って足掻いていた。その姿はとても好ましく映った。
《……あの方は天使の中で最も穢れを知らない存在。私は、そんな方の守護獣として生まれた事が誇らしかった。美しい金の瞳に映る事はなくとも、私はあの方の力になりたかった……》
神使獣であっても、そこまで思えるものはいないだろう。ましてや、言葉を交わした事も、その瞳に映った事もない。そんな関係で、ゼブロは願った。力になりたいのだと。
長い階段が終わる。そこは比較的広い空間だった。奥には、三つほど続く通路が見える。だが、そこにジェルバは静かに佇んでいた。
「お前は……」
ジェルバは銀の毛並みを持つ大きなフットウルフに良く似た獣を真っ直ぐに見つめる。
《私はあなたの守護獣……本来、神使獣ではない私に名はありません。ですが先日、女神に名をいただきました》
ゼブロはゆっくりとジェルバに近付き、中央辺りで立ち止まり続けた。
《……私の名はゼブロ……守護獣ではなく、あなたの神使獣として、最期を見届けに参りました》
もはや、ジェルバは天使として天界に帰る事は許されない。他の天使達と同じく、地上で命を終えるしか選択肢はなかった。
けれど、ジェルバは元人ではなく、最初から天使として神が生み出した存在。戻るべき輪廻の輪はない。消えるだけだ。
それがジェルバにも分かったらしい。静かに今まで見た事もないほど穏やかな表情で頷いた。
「そうか……ありがとう……」
「……ジェルバ……」
ティアには、ジェルバが儚く笑ったように見えた。
そうして、ジェルバはティアを改めて視界に入れたのだ。
**********
まともになったらしいジェルバと再会しました。
今回も引き続き、舞台裏のお話はお休みさせていただきます。
読んでくださりありがとうございます◎
次回、また一回本編をお休みさせていただき、変わりに
『第5回、ティアの人物紹介リポート』
を月曜14日0時に投稿いたします。
本編は金曜18日0時です。
よろしくお願いします◎
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神使獣の本当の役目は、天使の死を見守り、その魂を最期に天界へと持ち帰る事。
罪を償い、役目を終えた天使は地上に降ろされ、最後の旅を終えて消える。そうして、輪廻の輪に戻る事を赦されるのだ。
そんな天使がちゃんと天使としての命を終えられるように守り、看取る事が役目。お互いに相棒として寄り添い合い、離れずに常に共にあるのが神使獣だ。
けれど、ゼブロは少々特殊だった。
「……思い出したの?」
《はい。私はジェルバ様の守護獣。あの方が天使であり続ける事を見守るのが役目でした》
階段を下りながら、ゼブロはゆっくりと思い出した己とジェルバの事を話す。己を思い出し、言葉も話せるようになったようだ。
ジェルバは命を終えるために地上に降りた訳ではない。神の天使であるジェルバには償うべき罪もなく、原初の頃から神に使える特別な天使だ。
天使として生まれた天使であるジェルバには、一般的な神使獣は付かない。
「見守るだけ?」
《ジェルバ様は特別な天使です。本来、地上に降りるべきではないお方。故に神々のための目が必要になりました。ジェルバ様を見守るための目が……それが私です》
ゼブロは神が地上でジェルバを見守るためだけの存在。
「ジェルバを監視していたって事?」
《そう取られても仕方がありません。ジェルバ様が穢れなき天使であるよう守るものだったのです。ですが、誤算がありました……》
ゼブロは、ジェルバだけを外敵から守っていた。しかし、それだけではいけなかったのだ。
《ジェルバ様は、一人の女性を愛されました。人を愛する事は、天使として悪い事ではありません。けれど、本来あり得ないその者との間に子を宿すほど、その者を愛された。私には、その愛の違いが分かりませんでした》
地上の者を愛する事は天使として間違った事ではない。神でさえ、気に入った一人の者に加護を与えたりする。だから、それがゼブロには特別なものに思えなかったのだ。
「まさか……」
ティアは何が起きたのか分かってしまった。それを察しながらも、ゼブロは続けた。
《……私はジェルバ様を守護するもの。ジェルバ様の身を守るものです。その女性の事まで守る必要はないと思っていました。けれど、女性の死は、ジェルバ様の心を壊した》
愛する女性が死ぬ事。それがジェルバの存在を蝕んだ。
《ジェルバ様はその衝動のままに人を害してしまった。私は守護するものとしての役目を全うできなかった……これにより、私は自我を失いました》
ジェルバが人を害した事で、天使としての魂は穢れ、狂ってしまった。そして、その守護獣であったゼブロもまた自我を失くすほどの衝撃を受けたのだ。
「……ずっと彷徨っていたの?」
カランタがそうゼブロに尋ねた。先頭を歩くゼブロは重々しく頷いた。
《はい。恐らく千年ほどでしょう。ただの獣となった私も、これまで立ち向かって来た人々と戦い、殺したはずです。どのみちもう、天界へあの方を連れ戻す事は許されない……それはあの方も理解しておられるでしょう》
神が愛する子ら。それが人だ。それを害することは許されない。
《ジェルバ様は、愛する方を失った衝撃のあまり、魂が欠けてしまっていたようです。それが先ほど戻ったように感じました。昔の……必死で神のためにと地上を駆けていらした頃のジェルバ様に戻った……》
ゼブロは嬉しいのだ。見守っていた頃のジェルバは、真っ直ぐに神の事だけを思って足掻いていた。その姿はとても好ましく映った。
《……あの方は天使の中で最も穢れを知らない存在。私は、そんな方の守護獣として生まれた事が誇らしかった。美しい金の瞳に映る事はなくとも、私はあの方の力になりたかった……》
神使獣であっても、そこまで思えるものはいないだろう。ましてや、言葉を交わした事も、その瞳に映った事もない。そんな関係で、ゼブロは願った。力になりたいのだと。
長い階段が終わる。そこは比較的広い空間だった。奥には、三つほど続く通路が見える。だが、そこにジェルバは静かに佇んでいた。
「お前は……」
ジェルバは銀の毛並みを持つ大きなフットウルフに良く似た獣を真っ直ぐに見つめる。
《私はあなたの守護獣……本来、神使獣ではない私に名はありません。ですが先日、女神に名をいただきました》
ゼブロはゆっくりとジェルバに近付き、中央辺りで立ち止まり続けた。
《……私の名はゼブロ……守護獣ではなく、あなたの神使獣として、最期を見届けに参りました》
もはや、ジェルバは天使として天界に帰る事は許されない。他の天使達と同じく、地上で命を終えるしか選択肢はなかった。
けれど、ジェルバは元人ではなく、最初から天使として神が生み出した存在。戻るべき輪廻の輪はない。消えるだけだ。
それがジェルバにも分かったらしい。静かに今まで見た事もないほど穏やかな表情で頷いた。
「そうか……ありがとう……」
「……ジェルバ……」
ティアには、ジェルバが儚く笑ったように見えた。
そうして、ジェルバはティアを改めて視界に入れたのだ。
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まともになったらしいジェルバと再会しました。
今回も引き続き、舞台裏のお話はお休みさせていただきます。
読んでくださりありがとうございます◎
次回、また一回本編をお休みさせていただき、変わりに
『第5回、ティアの人物紹介リポート』
を月曜14日0時に投稿いたします。
本編は金曜18日0時です。
よろしくお願いします◎
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