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第五章 王家と守護者と誓約

180 組合があるんです

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ドラム組や屋台部隊と聞いて、ジルファスが喜びや興奮を抑えているのがわかった。

「え……も、もちろん、あの屋台が来るなら来て欲しいけど……え? もしかして、本当にドラム組を連れてくるのかい!?」
「はい」

わざわざ他の領から大工を連れてきて、家を建てるなんてことはあり得ない。移動するのも苦労するのだ。

何より、この世界では大工は嫌われやすい。時間がかかる上に、騒音や事故が多いためだ。他領に来てまで嫌われるのは嫌だろう。そして、ただでさえかさばり、重い工具を持って移動するなど、大工達も苦痛でしかない。

「移動は特別なものがあるので、問題はないはずです。屋台部隊も全部連れてこれますよ。ただ、周りに迷惑はかけない努力はしますけど、どうしてもお祭りみたいになってしまいます。それでも大丈夫でしょうか」

屋台部隊は、ユースールではドラム組の仕事時と、建国祭や収穫祭などでも出動する。お祭りでの商売のプロだ。どうしても賑やかしくなる。

「そうだね……父上、どう思いますか?」
「……と言われてもな……何がどうなるのか分からないのだが?」

アビリス王は、話を聞いていても屋台部隊というのが何かも分からなかったらしい。当然だ。王都だけでなく、他の領でも、屋台が集まるなんてことは今までなかった。

公園や広場などでも、屋台を出す者達は他の屋台とはしっかりと距離を取る。沿道は店や家の出入りの邪魔になるため、屋台を出せる場所は少ない上に、通行の邪魔だと通報されることもあるので場所決めは苦労するらしい。

そのため、屋台自体があまり良い印象がない。大工と同じだ。それらの事情を知っていたコウヤが、解決法などを提案し、屋台部隊が作られた。

ジルファスがその光景を思い出すようにして説明する。

「屋台が沢山並んで、人がたくさん集まるのです」
「屋台が? アレらは隣合うのを嫌うだろう。商売敵だと、場所取りに言い合いになるというのも聞いている」

お祭りであっても屋台部隊ほど屋台が集まることはまずなかったりする。屋台は資金不足で土地を買えず、店舗をたない者がやるものだ。資金を集めるための準備活動とも言える。そのため、同じように屋台を出している者達は全てライバル。良い場所は取り合いになる。そうして、騒動を起こすのは王でも知っていた。

「私も最初は驚きました。屋台は沿道に沿ってきっちり並びます。隣との間は数人が通り抜けられるくらいしか空いていませんでしたよ。固まっているから、自然と人が集まりますし、お互いの店は競争相手というより、手を取り合って上手く宣伝し合ったりしていました」
「そんなことが……」

店舗を構える店であっても、近くにある同種の店と張り合うのは当然であるらしい。皆、生活がかかっているために必死なのだ。

もちろん、コウヤがユースールに行き始めた頃は、そういった光景も見られていた。だが、今は違う。

「ユースールでは、同種の経営者同士で交流を持つ組合があるんです」
「組合ということは……協力し合うと?」
「はい」

アビリス王だけでなく、ジルファスやミラルファ達も不思議そうにこちらを見ていた。それだけ、この世界では変わったことだ。

「食事の出来る店や酒場をまとめた飲食店組合に、雑貨など、生活するのに必要な物を置く生活用品組合、衣服を扱う店の衣料品組合といったように、それぞれの扱う業種ごとに組合があって、ひと月に一度は商業ギルドで定例会があるんです」
「聞いたことがないな……上手くやれているのか?」

集まれば、問題もあるだろうと想像するのは容易い。王都で突然それをやれば、集まったとしても、ギスギスした空気になるだろう。

「最初は居心地悪そうでしたね。でも、今の流行や多く必要となる物がないかを話し合えば、お互いに何が不足しているのかが分かります。その店特有のものでない限り、融通し合って市場を安定させるんです。そうすれば、潰し合いなんてせずに済みます。そういう雰囲気って、店にも出ますからね。それが客足を遠ざける結果になったりします」
「確かに、噂というものは、知らぬ間に出てくるものだからな」

どこどこの店があの店を悪く思っているとか、口にしなくとも、周りは勘繰るものだ。それによって、共倒れということもある。客が巻き込まれたくないと思うのは当然だ。

「協力しようと思い合えば、問題なんて起きないんです。派閥とかが面倒で嫌なものになるのは、皆分かっていますからね。意見を出し合うのは良いことなので、競争するなとは言いませんけれど、最低限のマナーとして貶め合うのはやめようというのが、組合のルールの一つです。気に入らないなら皆の前で言うようにと徹底しています」
「はるほど……陰口は叩くなということか。これが貴族でもできたら楽なのだがな……羨ましい」

アビリス王の本音だ。ジルファス達も頷いていた。

「ふふ。そこは全員の気持ちが一つにならないと難しいですからね。時間もかかりますよ」
「ユースールでは、どれだけかかったのだ?」
「まだそれほど大きな店とかありませんでしたからね。ほとんど横並びで、数も少なかったのでそれほど時間はかかってませんね。ゼットさんに提案して一年ほどです」

組合が出来てから新規参入が増えた形で、それぞれの組合が新参の者に指導し、作り上げていったところもある。

「先ほどから聞くが、ゼットというのは?」
「あ、失礼しました。ゼットさんはユースールの商業ギルドマスターです」
「なるほど……マスターが後ろにつけばやり易いか……」
「いえ、その時はまだゼットさんがマスターではなかったです」
「ん?」

意味が分からないという表情だったが、ここで詳しく説明するものでもないだろう。

「責任ある立場ではなかったので、色々と働きかけてくれたというのもあるんです」
「ほお。それはありそうだ」

納得してもらえたようだ。

「そのゼットとやら、呼べるだろうか? 話を聞いてみたい。ミラルファ達の方も話がしたいだろう」

アルビス王がミラルファへ顔を向ける。それにミラルファが頷いた。

「そうね。頼めそうかしら。今すぐとは言わないわ。明日はどう?」
「頼んでおきます」
「お願いするわ」

なんだか生き生きとした笑みだ。カトレアも受け入れたことで、本来の性格が出てきたのかもしれない。

「あなた、ついでに辺境伯もお呼びになったらどうです?」
「それもそうだが、帰る準備で忙しかろう……」

辺境は遠いのだ。何を置いても王の呼び出しは優先される。国の運営に関することではなく、ただ話を聞いてみたいというのは辺境伯の邪魔をしてでもやるべきことではない。そういう考えも出来る王だというのが察せられ、コウヤは嬉しくなる。

「帰るのは明後日ですから、それほどバタついてもいませんよ」
「そうか? ならば……明日の昼過ぎに来てもらおう。伝令を……」
「夜にお伝えしておきます」
「すまんな……頼む」
「はい。ゼットさんはいつ頃にしますか?」
「ご一緒で良いわよ」

どうかとミラルファがアビリス王へ確認すると頷いていた。

「では、明日の昼一つ目の鐘の鳴る頃にこちらへ伺うようにお伝えしておきます」
「ああ。それで構わない」

話に区切りも付いたので、そろそろお暇をと思ったのだが、今日も上手くいかないようだ。ここで部屋に宰相がやってきた。

「っ、失礼、もしや、君がコウヤ殿かな?」
「あ、はい。はじめまして。ユースール冒険者ギルドのコウヤと申します」

一緒に居たのはニールだった。

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読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
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