元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第五章 王家と守護者と誓約

181 休むって意味知ってる?

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宰相は王と同年だろう。ただ、こちらは文官らしい細っそりした体つきで、一見すると少々顔が怖かった。声の感じから受ける印象は知性的で優しげなのだが、どうにも顔がキツめなのだ。これは若い頃苦労しただろう。

「私は宰相のベルナディオ・フリーツという。コウヤ殿のお話は昨晩陛下からお聞きしておりまして、お会いしてみたかったのです」

表情もあまり変わらないのだが、見た目を気にしなければ、誰にでも感じの良い方なのだと思う。

「はじめまして。宰相様に気にしていただけるとは光栄です」
「いやいや、君の書いた報告書が素晴らしくてね。報告内容よりも見やすい形式の方に目が行ってしまって困ったよ。もちろん、報告のまとめ方も素晴らしかった」
「ありがとうございます」

とても良い人のようだ。話していると、キツイ顔立ちも気にならなくなる。

「そういえば先日、お怪我をされたと聞きましたが、お加減はよろしいのですか?」
「ああ、心配してくれたのか。すまないね。疲れもあったのだろう。避けられなかった自分が情けない限りだ」

武術をやっているようには見えないが、それなりに護身術は身についているのだろう。役職のこともあり、そういう対策はできていそうだ。

「大変なお立場ですし、ご無理はされませんように」
「ありがとう。ああ、私の言った通りだったろう? とても気持ちの良い人だ。これほど若いとは思っていなかったがな」

話を振った相手はニールだった。ニールは頷き、穏やかな笑みを浮かべる。

「はい。あのような報告書。どれだけ経験豊富な方が書いたのかと思っておりましたので、驚きました」
「本当にな」

どうやら、報告書から受ける印象の話しをしているらしい。どんな人物が書いたのかと推測していたのだろう。コウヤもそういう推理などすることがあるので、とても身近に感じられた。

「ああ、すまない。悪い意味ではないのだよ。とても関心させられたのだ」
「お褒めいただいたということでよろしいのでしょうか」
「勿論だ。今後、是非とも参考にさせてもらいたい」
「光栄です」

ニールが言っていた、形式の採用の話は本当のようだと確認できた。

宰相が来たのだ。色々と報告もあるだろう。コウヤはセイを見る。

「ばあさま。そろそろお暇しましょう」
「そうだね。この子も眠そうだ」

セイが本当の母親のように、慈愛に満ちた表情でうとうとしだしたレナルカを見つめていた。

「もう帰るのかい?」
「もっとゆっくりしてけばいいだろう」
「君に聞かれて困る報告はないしなあ」

ジルファスは寂しそうに、アルキスは拗ねたように、アビリス王は困ったように告げる。

「いえ、やはり国のことですから。ただのギルド職員が聞いて良い話ではないです。甘え過ぎました」
「そんなっ」
「別に今更反対するような奴いねえよ。寧ろ……騎士の訓練してくれねえ?」
「アルキス……さすがにそれは……」

アビリス王がアルキスに注意するが、ぶつかった瞳は真剣で、冗談で言っているのではないと分かり注意しきれなかったようだ。

なので、それを引き継いだのはルディエだった。今まで少し外に出ていたらしい。

「ちょっと、兄さんを使おうとか思わないでよね」
「む……なら、予定通りユースールに少しずつ研修で送るか」

アルキスは諦めなかった。そして、これに乗ったのは、まさかの宰相のベルナディオだった。

「それです! 提案されていたのですよ。ユースールから提出される書類が、少し前から気になっておりまして。一度あちらでお話しをしてみたいと」

ちょっと興奮気味なのは、それだけ本気だからだろう。

「なるほど……私も視察ならばいいな」
「父上!?」
「なんだ。ジルファス。お前だけ行くとかずるいではないか。それに、動けるようになったことを、あちらの薬師殿にも報告ができるだろう。礼も考えねばならん」
「そ、それは……ですが……」

コウヤとしても困ってしまう。そんなに大勢で来られては問題だ。

「ねえ。それ、辺境伯に相談したら? 兄さんが返事できる訳ないじゃん」
「そうだな。確かに。明日も来てくれるか? 辺境伯と商業ギルドのマスター殿も、君が居れば安心しよう」
「いえ、お話し合いですし……」

どうやって断ろう。期待されているのは分かる。とても断り辛かった。

そこで、ニールがベルナディオ宰相達に断って発言する。

「コウヤ様もご予定があるのではありませんか? 聞けば、教会を建てられるとか。そのご準備もありましょう」

素晴らしい助け舟だ。

そうなのかと全員の目が集まる。だが、答えたのはルディエだ。

「よく気付いたね。兄さんが設計するし、本当なら時間ないんだよ。まったく、全然休暇じゃないし、昨日もほとんど寝てないよね? ちゃんとチェックしてるから」

ルディエはコウヤを肩口からそう告げた。振り返ると眉間に皺が寄っている。

「ルー君……もしかしてあれって、警護じゃなくて俺の監視?」
「当然だよ。休暇の取り方を知らない兄さんの、今後の対策のためにも、把握するようにしてる」
「え? だってちゃんとお休みしてるよ?」
「……兄さん、休むって意味知ってる? 休息って取ったことある? ねえ、セイ司教、もういっそのこと教会に閉じ込める? 多分、人に会うと休めないんだ」
「ほお。よう見とるわ」

セイがカラカラと笑った。

「えっと……好きなことしてるなら休暇じゃない?」
「コウヤ、仕事好きやろ」
「うん。好きだよ?」
「なら、仕事してても休暇だ言いそうやね」
「あ……」

なるほどと思った。

「難しいね……」
「そんな深刻に考えるもんでもないんだけどねえ。夜はきちんと寝な」
「分かった」

そこだけは守ろうと決める。そこで、聞いていた一同は何とも言えない表情をしていた。

「コウヤ……その……無理しないようにね」
「はい。気を付けます」

笑顔で答えたのだが、表情は晴れなかった。とりあえずはと明日も顔を見せる約束をし、ようやく解放されたのだった。

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読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
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