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第一幕 第一章 家にいる気はありません

027 俺もまだ怒ってるから

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2018. 10. 25

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予定通り、マイルーモとレッドピッグを一体ずつ狩り、空間魔術で収納する頃には、監視の目も消えていた。

「いつ消えた?」
「レッドピッグにカトラが踵落としを決めた所くらいかな」
「それ、一撃目だよ?」
「マイルーモで既にお腹いっぱいだったんじゃないかな」
「意外と根性ないね」

せっかくだから最後まで見ていけば良いのにと呟く。見ていられないくらい危なっかしい所はないはずだが、刺激が強かっただろうか。ただでさえ、遠視の術は集中力が必要となる。少しの動揺が命取りだ。

「そうだね。教会に引きこもってる人には、生きたレッドピッグはビックリするんじゃない?」
「そっか。なら、仕方ないね」
《ーーー》

多分ビックリしたのはそっちじゃないと伝えたくても黙って(?)いるナワちゃんは、この状況をしっかりとダルの方に伝えていた。

『そりゃお前、レッドピッグにビックリしたんじゃなくて、アレに先ず踵落としを食らわすカーラにビックリしたんだろ』

密かにダルにこのお言葉をもらって満足していた。何者であっても、ストレスは溜めるものではない。

「でも、目的は達成ってことでしょ? これで手を出してくるようなら、判断力も警戒心も死んでるね」

ここで恐らく彼らの中でカトラがAランクであることは確認ができただろう。いくら今まで協力者達から情報を得ていたとはいえ、実際に見て確認してはいなかったはずだ。

そうでなければ今頃、影達が周りをチョロチョロしていただろう。その場合は、ターザに見つかって吊るし上げられているので、彼らは運が良かった。

カトラを付け狙っているなど、彼が許せるはずがないのだから。未だに渋い顔をしているのはそのせいだ。

カトラは、そんなターザの心情を正確に読めはしないが、相手がこれで引かないと良いのにと思っているのは察せられた。だから、ちょっと希望を持たせておくことにする。

「けど、あの実動部隊は、結構な実力者揃ってるって聞くし、それを向こうが自負してるなら、構わず突っ込んでくる可能性はあると思うんだけど」
「あり得るね。う~ん……目が消えた今なら……まだ間に合うかな」
「ん? わっ」

ターザが何かを考えた後、ひょいっとカトラを掬い上げるように横抱きにして山を駆け下り始めた。

「ど、どうしたの?」
「うん。だって、ダル師匠を先に行かせたのは、待ち伏せしてる奴らを見つけさせるためでしょ? 数人でも影を捕まえられれば良いって」
「そうだけど」

一人でも良い。待ち伏せしている影を捕まえれば、こちらから抗議できる。先日捕まえたのは、双子の方へのものだが、今回エルケートにいるのはカトラを狙ってのものと確信できる。

ならば、それを盾に聖王国へ直接乗り込めるだろう。いい加減、彼らの行動は目に余るものがある。

「全員捕まえられればそれだけ影の人数を減らせるよね。カーラは本当はそうしたくて今回、分かり易く囮になったんでしょ?」
「……うん……」

聖王国にとって、カトラは脅威だ。現役の神子並みの力と、それに対抗できる製薬の技術がある。何が何でも国へ連れて行かなくてはならないと思えるほど人物。それが無理ならば、確実に闇に葬らなくてはならない。

恐らく、この国に散らばる影を総動員してでもどうにかしようと考える。

エルケートに戻ると知って、彼らはそこで全力で罠を張って待っているはずなのだ。

「一人でも捕まれば、こっちが確実に事を構えるつもりだってあっちも理解すると思うんだ……そうしたら多分、体制を整えるのに一旦引く。そこで反撃できないかなって」

これまで誰も捕まえることのできなかった聖王国の実動部隊。それが捕まったのだ。聖王国も慎重になるだろう。

「キツネ狩りは巣穴に戻った所を一網打尽にってことだよね。カーラは本当、理不尽な事してる奴ら嫌いだよね」
「……そうかも」

これほど今回、聖王国が気になるのは、今まで聞いたその行いが身近に迫ったからだ。

あんなに幼い双子達が、彼らに殺されようとしていたのは明らかで、その双子を探そうとしていた者達にまで手を出した。

双子達が家族に愛されていたことは間違いない。そんな彼らを身勝手な理由で引き離したのだ。こんな理不尽を許してはいけない。

「やるからには、徹底的にやる」
「そうだね。俺もまだ怒ってるから、丁度良いよ」

何が丁度良いのかは分からないが、味方ならば心強いのだから問題はない。

「なら、先ずは撤退指示が完了する前にエルケートにつかないとね。カーラ、転移できるでしょ?」
「っ……なんで知って……」

誰にも見せていない。転移魔術なんて、過去に誰も成し得たことのないものなのだから。

「俺がカーラのことで知らないはずがないでしょ? 秘密にしたいならそうしようと思ってたけど、今回はね。良いでしょ?」
「……わかった……ナワちゃん、師匠の方はどう?」

ダルの足ならば、既にエルケートに着いているだろう。エルケートはダルにとって庭だ。潜める所も、入り口を監視できるポイントも押さえている。

今は特に、お預けを食らった後だ。本気で動くだろう。そうなれば、敵はひとたまりもない。

《ー三人捕獲ー》
《ー封鎖完了済みー》
《ー西側に追い込みできますー》

ダルもターザやカトラのことをよく分かっているようだ。

「なら、西門の手前に【転移】」

一瞬の後には、エルケートの西門が見える場所にいたのだ。

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次回、日曜28日です。
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