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第一幕 第一章 家にいる気はありません
029 褒めすぎじゃね!?
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2018. 10. 31
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カトラは、家を抜け出すようになってから、自分がカルサート家の者だということを知られないように常に気を付けていた。
だから、こちらを窺うような視線や、探りを入れようとする者には過敏に反応できるようになっていった。
お陰で、彼らのような、聖王国の影に情報を流していた者達の存在も、早いうちから気付けるようになった。
「ターザ、よくわかったね……」
影と接触しているところを現行犯で捕まえたのではなく、野次馬として集まってきていた民衆の中から見つけ出したことにびっくりだ。
「動きがおかしかったし、ちょっと思い出してみたらわかったよ」
「思い出す?」
「うん。今までに何度か、カーラを変な目で見てたことあったなって」
「……覚えて……いや、ううん。そっか……」
そんなこと、一々覚えていられるなんておかしいとか、普段から常に周りを気にしてたんだねとか言いたいことは色々あるが、あえて全て飲み込んでおく。きっと、ターザにしたら、カトラに視線を寄越す者をチェックするのは、当たり前のことなのだから。
ダルは、この会話とターザの態度でだいたいのことを察したらしく、放り投げられてきた三人の者達へ、感心したような目を向ける。
「よく今までターザに排除されなかったなぁ。こっち系の仕事、向いてんじゃねぇ?」
「ダル師匠、何感心してるの。カーラの情報を渡してたってことは、カーラを売ろうとしたってことだよ? 殺してもいいよね?」
物凄く物騒な目で三人を見下ろすターザに、ダルが慌てた。
「おいおいおいっ。なんでそうお前は話がそうも大きな感じに飛躍すんだよっ。それと何でも消そうとすんなっ。カーラ、お前もなんでこういう時にちょっと他人事みたく距離取るの!?」
「師匠って、大変だね……」
「ソレ! それだよっ。 完全に他人事って態度やめてっ? ガッツリ当事者だから!!」
カトラは彼らから距離を取り、屈み込んで足に頬杖をつき、それらを見つめていた。
「カーラはいいんだよ。危ないから近寄っちゃダメだからね?」
「うん」
ターザならそう言うと思った。
「なんでお前はこういう時は素直なの!?」
「いつも素直でいるつもりだったんだけど?」
心外だ。いつだってちゃんと言うことを聞く良い子だったはずだ。
「そうだね。カーラは素直で可愛い良い子だよ」
「褒めすぎじゃね!?」
頷くと同時にダルがツッコんでいたが気にしない。
「さてと……まずはこいつら。寝てるし丁度良いね」
いつの間にか、集まっていた野次馬は居なくなっており、ターザが空間を切って、そこにヒョイヒョイと捕まえた影を放り入れていても声を上げる者はいなかった。
この町の者で、ターザやカトラの敵に回ろうと思う者はいない。二人の異常性は周知の事実で、理解しようとも思わない。
よって、二人が捕まえたという者達がどうなるかなんて、知りたいとも思わないのがこの町の住民なのだ。心の平穏のためには目を背けることも時には重要だと理解しているのだから。
「これでよし。で、こいつらね」
影達は聖王国へそのまま連れていくつもりなので、ターザの持っている時空牢に入れてしまえば、自害することもできないし、当然逃げ出すことも叶わない。
ターザが入り口を開かない限り、そこに囚われたままになるのだから。
先日、カトラに弱体化の腕輪をはめた受付嬢も、捕らえてこれに入れてターザは王都にやって来たのだ。ターザが連れて来ると言った場合、だいたいの手段はこれだった。
カトラの空間収納には、生き物は入らない。ナワちゃんは入るが、カテゴリーとしては生き物ではなく元となった古代の遺物としての物
なるためだ。
生きた人が入るターザの空間収納は、どうやってやればできるだろうかといつも気になっている。
今回もそうして気になっていたために、目の前でターザの容赦ない尋問が始まっていても平然としていた。
「自分達がどれほど罪深いことをしていたか分かるでしょ?」
「は、はひっ」
「も、申し訳ありませんっ」
「許しっ……っ」
ふっと見た時には涙や鼻水でぐちゃぐちゃになった顔をしていた。
「……?」
たった数分で何が起きたのかと不思議に思って首を傾げるのを、ダルが引きつった表情で見る。
「お前は……マジで何で引かねぇの?」
「引いてるけど?」
「見えねぇよ……」
ちょっとやりすぎだよねと、ちゃんと思っている。
「でも、だってターザだし」
「しょうがねぇって? お前、心広過ぎ……」
「良いことでは?」
理不尽なことは受け入れないが、こういう現実は受け入れられる。神だってターザには敵わないんだろうなと思っているカトラは、誰よりも真実を理解していた。
そこでターザと目が合う。
「カーラ、こいつら、一応は反省してるみたいなんだけど、どうしたい?」
「別に。そんなに大した情報渡せてなかっただろうし、そこまで気になったことないし」
「そう……まぁ、カーラがいいならいいけど……いい? カーラの優しさを噛み締めて、今後一切カーラに関わらないって誓えるなら解放してあげるよ」
「「「関わりません!! 永久に!」」」
打てば響くと言えるくらいの反応速度と本心からの言葉だった。
「絶対だからね。行っていいよ」
ガクガクと震える足で、必死にこの場から離れていく三人が振り返ることはなかった。
「……どんだけ怖がられてんだよ……」
その言葉には激しく同意する。
ギルド前にはカトラ達だけになった。冒険者達はギルドの中でこちらの様子を窺っているようだが、出てくることはない。そこでターザがダルへ目を向ける。
「ダル師匠、俺達が来るまでに仕事片付けるとか言ってなかった?」
「この状況で無理に決まってんだろっ」
ダルはエルケートについてすぐに影達を捕らえるために動きだしたのだ。溜まっている書類仕事に手を出せるはずがない。
「ふ~ん……でも、できてなかった場合はご飯なしじゃなかった?」
ここで同意を求められたので頷いておく。
「うん。そういう約束っだった」
「待て待てっ、ちょぉ待ってっ、夜、夜までには終わらせっから、夕食にして!」
「でも約束だしね。カーラとの約束は守らないと」
「マジでお願いしますっ。ちゃんとするからっ。手伝いなしでも頑張るからっ、あ、でもナワくらいは手伝ってくれない?」
仕方ないのでナワちゃんは貸し出しになった。
待っている間、どうするかと考えたカトラは、カルサート家の様子を確認してくることに決めた。
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読んでくださりありがとうございます◎
次回、土曜3日です。
よろしくお願いします◎
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カトラは、家を抜け出すようになってから、自分がカルサート家の者だということを知られないように常に気を付けていた。
だから、こちらを窺うような視線や、探りを入れようとする者には過敏に反応できるようになっていった。
お陰で、彼らのような、聖王国の影に情報を流していた者達の存在も、早いうちから気付けるようになった。
「ターザ、よくわかったね……」
影と接触しているところを現行犯で捕まえたのではなく、野次馬として集まってきていた民衆の中から見つけ出したことにびっくりだ。
「動きがおかしかったし、ちょっと思い出してみたらわかったよ」
「思い出す?」
「うん。今までに何度か、カーラを変な目で見てたことあったなって」
「……覚えて……いや、ううん。そっか……」
そんなこと、一々覚えていられるなんておかしいとか、普段から常に周りを気にしてたんだねとか言いたいことは色々あるが、あえて全て飲み込んでおく。きっと、ターザにしたら、カトラに視線を寄越す者をチェックするのは、当たり前のことなのだから。
ダルは、この会話とターザの態度でだいたいのことを察したらしく、放り投げられてきた三人の者達へ、感心したような目を向ける。
「よく今までターザに排除されなかったなぁ。こっち系の仕事、向いてんじゃねぇ?」
「ダル師匠、何感心してるの。カーラの情報を渡してたってことは、カーラを売ろうとしたってことだよ? 殺してもいいよね?」
物凄く物騒な目で三人を見下ろすターザに、ダルが慌てた。
「おいおいおいっ。なんでそうお前は話がそうも大きな感じに飛躍すんだよっ。それと何でも消そうとすんなっ。カーラ、お前もなんでこういう時にちょっと他人事みたく距離取るの!?」
「師匠って、大変だね……」
「ソレ! それだよっ。 完全に他人事って態度やめてっ? ガッツリ当事者だから!!」
カトラは彼らから距離を取り、屈み込んで足に頬杖をつき、それらを見つめていた。
「カーラはいいんだよ。危ないから近寄っちゃダメだからね?」
「うん」
ターザならそう言うと思った。
「なんでお前はこういう時は素直なの!?」
「いつも素直でいるつもりだったんだけど?」
心外だ。いつだってちゃんと言うことを聞く良い子だったはずだ。
「そうだね。カーラは素直で可愛い良い子だよ」
「褒めすぎじゃね!?」
頷くと同時にダルがツッコんでいたが気にしない。
「さてと……まずはこいつら。寝てるし丁度良いね」
いつの間にか、集まっていた野次馬は居なくなっており、ターザが空間を切って、そこにヒョイヒョイと捕まえた影を放り入れていても声を上げる者はいなかった。
この町の者で、ターザやカトラの敵に回ろうと思う者はいない。二人の異常性は周知の事実で、理解しようとも思わない。
よって、二人が捕まえたという者達がどうなるかなんて、知りたいとも思わないのがこの町の住民なのだ。心の平穏のためには目を背けることも時には重要だと理解しているのだから。
「これでよし。で、こいつらね」
影達は聖王国へそのまま連れていくつもりなので、ターザの持っている時空牢に入れてしまえば、自害することもできないし、当然逃げ出すことも叶わない。
ターザが入り口を開かない限り、そこに囚われたままになるのだから。
先日、カトラに弱体化の腕輪をはめた受付嬢も、捕らえてこれに入れてターザは王都にやって来たのだ。ターザが連れて来ると言った場合、だいたいの手段はこれだった。
カトラの空間収納には、生き物は入らない。ナワちゃんは入るが、カテゴリーとしては生き物ではなく元となった古代の遺物としての物
なるためだ。
生きた人が入るターザの空間収納は、どうやってやればできるだろうかといつも気になっている。
今回もそうして気になっていたために、目の前でターザの容赦ない尋問が始まっていても平然としていた。
「自分達がどれほど罪深いことをしていたか分かるでしょ?」
「は、はひっ」
「も、申し訳ありませんっ」
「許しっ……っ」
ふっと見た時には涙や鼻水でぐちゃぐちゃになった顔をしていた。
「……?」
たった数分で何が起きたのかと不思議に思って首を傾げるのを、ダルが引きつった表情で見る。
「お前は……マジで何で引かねぇの?」
「引いてるけど?」
「見えねぇよ……」
ちょっとやりすぎだよねと、ちゃんと思っている。
「でも、だってターザだし」
「しょうがねぇって? お前、心広過ぎ……」
「良いことでは?」
理不尽なことは受け入れないが、こういう現実は受け入れられる。神だってターザには敵わないんだろうなと思っているカトラは、誰よりも真実を理解していた。
そこでターザと目が合う。
「カーラ、こいつら、一応は反省してるみたいなんだけど、どうしたい?」
「別に。そんなに大した情報渡せてなかっただろうし、そこまで気になったことないし」
「そう……まぁ、カーラがいいならいいけど……いい? カーラの優しさを噛み締めて、今後一切カーラに関わらないって誓えるなら解放してあげるよ」
「「「関わりません!! 永久に!」」」
打てば響くと言えるくらいの反応速度と本心からの言葉だった。
「絶対だからね。行っていいよ」
ガクガクと震える足で、必死にこの場から離れていく三人が振り返ることはなかった。
「……どんだけ怖がられてんだよ……」
その言葉には激しく同意する。
ギルド前にはカトラ達だけになった。冒険者達はギルドの中でこちらの様子を窺っているようだが、出てくることはない。そこでターザがダルへ目を向ける。
「ダル師匠、俺達が来るまでに仕事片付けるとか言ってなかった?」
「この状況で無理に決まってんだろっ」
ダルはエルケートについてすぐに影達を捕らえるために動きだしたのだ。溜まっている書類仕事に手を出せるはずがない。
「ふ~ん……でも、できてなかった場合はご飯なしじゃなかった?」
ここで同意を求められたので頷いておく。
「うん。そういう約束っだった」
「待て待てっ、ちょぉ待ってっ、夜、夜までには終わらせっから、夕食にして!」
「でも約束だしね。カーラとの約束は守らないと」
「マジでお願いしますっ。ちゃんとするからっ。手伝いなしでも頑張るからっ、あ、でもナワくらいは手伝ってくれない?」
仕方ないのでナワちゃんは貸し出しになった。
待っている間、どうするかと考えたカトラは、カルサート家の様子を確認してくることに決めた。
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