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第二章 奴隷とかムカつきます
068 すっごいお土産だよっ
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ターザが戻ってきた。
カトラは少女たちが眠ってから、昼食の準備をと、魔術を使わずに煮込み料理をしていた。その鍋の番をしながら厨房で本を読んでいたのだ。
この家に入って来られるのは、ターザとカトラが許可した者のみ。
完全にリラックスした状態で、カトラはそのまま厨房にターザがやって来るのを待っていた。
ひょっこりと顔を出したターザの手には何もない。
「お帰りターザ」
「ただいま。ついでに近くの町を見てきたよ」
ターザは空間収納に入れてあった物を引っ張りだす。カトラが頼んだ薬草類や町で仕入れた食材だ。それらを広い厨房の調理台に次々と出して置いた。
「薬草、これで合ってる?」
「うん……合ってる……っ!?」
不意に目を留めたカトラは、それが何なのかを理解して目を大きくしていく。そして、叫ぶようにしてそれに飛びついた。
「っ、こ、これってっ!? マセイン茸!?」
滋養強壮、魔力増強など、多くの効果がある万能茸だ。カトラの住んでいた国では絶対に手に入らなかった。
あまりにも扱いが難しいため、市場に流れたとしても売れない。その上劣化が早い。まず採れた国でしか使えなかった。
キラキラとした目で見つめるカトラはとても興奮していた。珍しい上に、いつか扱ってみたいと常々思っていたものだったのだ。
この茸。とある魔獣の背中に生える。その魔獣の生息地は大陸の中でも数が少なく、運良く出会ったとしても、いつでも生えているというわけでもない。
まさに幻の茸だった。
「生えてたら良いなと思って巣を覗いてきたらあったんだよ。カーラに良いお土産になったかな」
「すっごいお土産だよっ。ありがとうっ」
傷む前に急いで下処理をしなくてはとカトラは夢中で動き出す。そして、あまりの嬉しさに思わずターザの頬へ口付けた。
「っ!?」
「ターザ大好きっ」
「っ……」
いつもは絶対に言わない。寧ろ生まれて初めて言っただろう言葉。それほど嬉しかったのだ。
衝撃のあまりその場に立ち尽くすターザなど、もう目に入っておらず、カトラは製薬用の部屋へと駆け出していった。
残されたターザの傍にやって来たナワちゃんはウンウンと頷く仕草をする。
《ー相当喜んでますねー》
《ー大丈夫ですか?ー》
目の前に作られた文字を何とか目で追って、ターザが返事をする。
「大丈夫。今すぐにでも大陸中のマイセン茸を採って来ることにするよ」
《ーお待ちをー》
ナワちゃんが動こうとするターザの体に咄嗟に巻き付く。片方の端は抜かりなく家の柱に巻き付いていた。
「止めるの?」
《ーこういうものは時々だから良いのではないかとー》
「……希少性が重要ってこと?」
《ーYesー》
これに考えるような仕草をしたターザは、一度頷く。
「なるほど。残念だけど、一年に一回くらいのプレゼントにするよ」
《ーそれが良いかとー》
ナワちゃんはゆっくりとターザの拘束を解いた。
その時、カトラが再び厨房に顔を出す。
「ターザ、先にご飯にしよう」
「処理はいいの?」
「うん。今は抽出中だから放っておいて大丈夫」
カトラは機嫌が良いので、いつもよりも表情が柔らかかった。それがターザにはとても嬉しい。
子どもの頃の環境が良くなかったため、カトラは表情があまり出ない。それなのに、今は確かに微笑んでいるというのが分かるのだ。
それでも、ターザやダルと一緒にいる時は笑みを見せてくれるので、心を許してくれているようで嬉しかった。
そんな喜びがターザの表情に出ているのを見て、カトラは首を傾げる。
「なんか機嫌良い?」
「カーラの機嫌が良いからね」
そんなカトラへ歩み寄り、瞬間朱に染まった片頬に手を触れる。
「っ、そんなに出てた?」
「うん。可愛い」
「っ……」
いつもならば、ただの挨拶程度と流すカトラだが、機嫌よく舞い上がっていた自覚はあるので更に顔を赤くした。
あまりこうしていると、慣れていないカトラも戸惑ってしまう。ターザは引き際を正確に察知していた。
「ふふ。さあ、彼女達も起きたみたいだよ? 一緒に食べる?」
「……うん。お鍋運んでくれる?」
「っ、任せてよ」
下から上目遣いで見上げてお願いするカトラに、ちょっとクラっとしながらターザは笑顔で返した。
《ー撃ち返されましたねー》
「……あれは予想外だよ」
カトラから離れ、コソコソとナワちゃんと会話するターザの耳は少しだけ赤く染まっていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
また来週です。
2019. 4. 22
カトラは少女たちが眠ってから、昼食の準備をと、魔術を使わずに煮込み料理をしていた。その鍋の番をしながら厨房で本を読んでいたのだ。
この家に入って来られるのは、ターザとカトラが許可した者のみ。
完全にリラックスした状態で、カトラはそのまま厨房にターザがやって来るのを待っていた。
ひょっこりと顔を出したターザの手には何もない。
「お帰りターザ」
「ただいま。ついでに近くの町を見てきたよ」
ターザは空間収納に入れてあった物を引っ張りだす。カトラが頼んだ薬草類や町で仕入れた食材だ。それらを広い厨房の調理台に次々と出して置いた。
「薬草、これで合ってる?」
「うん……合ってる……っ!?」
不意に目を留めたカトラは、それが何なのかを理解して目を大きくしていく。そして、叫ぶようにしてそれに飛びついた。
「っ、こ、これってっ!? マセイン茸!?」
滋養強壮、魔力増強など、多くの効果がある万能茸だ。カトラの住んでいた国では絶対に手に入らなかった。
あまりにも扱いが難しいため、市場に流れたとしても売れない。その上劣化が早い。まず採れた国でしか使えなかった。
キラキラとした目で見つめるカトラはとても興奮していた。珍しい上に、いつか扱ってみたいと常々思っていたものだったのだ。
この茸。とある魔獣の背中に生える。その魔獣の生息地は大陸の中でも数が少なく、運良く出会ったとしても、いつでも生えているというわけでもない。
まさに幻の茸だった。
「生えてたら良いなと思って巣を覗いてきたらあったんだよ。カーラに良いお土産になったかな」
「すっごいお土産だよっ。ありがとうっ」
傷む前に急いで下処理をしなくてはとカトラは夢中で動き出す。そして、あまりの嬉しさに思わずターザの頬へ口付けた。
「っ!?」
「ターザ大好きっ」
「っ……」
いつもは絶対に言わない。寧ろ生まれて初めて言っただろう言葉。それほど嬉しかったのだ。
衝撃のあまりその場に立ち尽くすターザなど、もう目に入っておらず、カトラは製薬用の部屋へと駆け出していった。
残されたターザの傍にやって来たナワちゃんはウンウンと頷く仕草をする。
《ー相当喜んでますねー》
《ー大丈夫ですか?ー》
目の前に作られた文字を何とか目で追って、ターザが返事をする。
「大丈夫。今すぐにでも大陸中のマイセン茸を採って来ることにするよ」
《ーお待ちをー》
ナワちゃんが動こうとするターザの体に咄嗟に巻き付く。片方の端は抜かりなく家の柱に巻き付いていた。
「止めるの?」
《ーこういうものは時々だから良いのではないかとー》
「……希少性が重要ってこと?」
《ーYesー》
これに考えるような仕草をしたターザは、一度頷く。
「なるほど。残念だけど、一年に一回くらいのプレゼントにするよ」
《ーそれが良いかとー》
ナワちゃんはゆっくりとターザの拘束を解いた。
その時、カトラが再び厨房に顔を出す。
「ターザ、先にご飯にしよう」
「処理はいいの?」
「うん。今は抽出中だから放っておいて大丈夫」
カトラは機嫌が良いので、いつもよりも表情が柔らかかった。それがターザにはとても嬉しい。
子どもの頃の環境が良くなかったため、カトラは表情があまり出ない。それなのに、今は確かに微笑んでいるというのが分かるのだ。
それでも、ターザやダルと一緒にいる時は笑みを見せてくれるので、心を許してくれているようで嬉しかった。
そんな喜びがターザの表情に出ているのを見て、カトラは首を傾げる。
「なんか機嫌良い?」
「カーラの機嫌が良いからね」
そんなカトラへ歩み寄り、瞬間朱に染まった片頬に手を触れる。
「っ、そんなに出てた?」
「うん。可愛い」
「っ……」
いつもならば、ただの挨拶程度と流すカトラだが、機嫌よく舞い上がっていた自覚はあるので更に顔を赤くした。
あまりこうしていると、慣れていないカトラも戸惑ってしまう。ターザは引き際を正確に察知していた。
「ふふ。さあ、彼女達も起きたみたいだよ? 一緒に食べる?」
「……うん。お鍋運んでくれる?」
「っ、任せてよ」
下から上目遣いで見上げてお願いするカトラに、ちょっとクラっとしながらターザは笑顔で返した。
《ー撃ち返されましたねー》
「……あれは予想外だよ」
カトラから離れ、コソコソとナワちゃんと会話するターザの耳は少しだけ赤く染まっていた。
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2019. 4. 22
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