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第二章 奴隷とかムカつきます

078 値段を提示してみろ

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カトラとターザがやって来た奴隷商は、王都にあるとはいえ、それほど見た目の良いものではなかった。

「誰か買って、術を見せてもらえれば早いんだろうけど、そんなに居ても困るしね」

ターザの言っていることは正しい。だが、契約魔術を見せてもらわないことには裏が取れないだろう。だが、そこでカトラはふと思い出した。

「表に出てるのを見てもいい?」
「それでわかりそう?」
「多分。私はケイト達と契約を交わしたから、あれが正しいなら違いは分かると思う」
「なるほど……わかった。ちょっといやだけど仕方ないね」

カトラは、表に出されている奴隷の檻の中を覗き込んだ。

「っ……」

怯えた顔。そこに居たのは二十代頃の青年だった。

「看板商品だろうに、足が壊死し始めてるね」
「……ターザ、彼を買っても良い?」
「理由は?」

すかさず切り替えすターザに目を向ける。

「元神官っぽい」
「神官……聖王国の?」
「それも影」
「へえ……」

ニヤリと含みのある笑みを見せるターザに、牢の中の青年は過呼吸を起こしていた。

「ターザ、これ以上怯えさせてどうするの……」
「死にかけてた方が安くなりそうじゃない? ただ、俺達が欲しい情報をこいつが持ってるかどうかは分からないけど……まあ、後で捨てればいいか」
「……その時は考えるよ……」

ついには気絶してしまった男を見て、ターザは店に入って行った。

カトラには、男が神聖魔術を使えると感じられていた。特殊な魔力波動を読み取る能力。これにより、何の属性魔術に適正があるのかが分かるのだ。

そして、彼の耳たぶには、青黒い丸が描かれている。それが影の付ける特殊な耳飾りの痕だと分かったのは、彼の目に異常が見られたからだ。

「白内障っぽくなるってことか……」

影の付ける耳飾りには薬が仕込まれている。少しずつ浸透し、目にある効果をもたらす。

《ー病気ですか?ー》

ナワちゃんがカトラの呟きを拾って尋ねる。

「ううん。どっちかっていうと薬の副作用かな。多分、神聖魔術を使える人の魔力を可視化できる薬だと思う。お母様の研究ノートにあった気がする」
《ー治せるんですか?ー》
「無理じゃないと思うけど……材料が難しいかもね。目を治す薬は、どれも結構面倒なのが多いから」

採れる場所も時期も特殊な物が多い。人体の欠損を治す薬もそうだが、特に目はデリケートなのだ。

そこで、ターザが店主らしき男を連れてきた。

「っ、し、失礼しますね、お嬢様っ」

どうやら、店主はカトラがお忍びで若い男の奴隷を買いに来た令嬢だと思ったらしい。その勘違いにターザの目が厳しくなったが、殺気が漏れ出す前に、カトラがターザの腕を取った。

「別に良いから。他人がどう思おうと私には関係ないし」
「……そうだね。俺さえカーラのこと分かってれば問題はないか」

落ち着いてくれたので良しとする。

その間に店主は、店員を連れて来て気絶していた彼を乱暴に起こすと、引き摺るようにして中に連れて行った。

それに続いて中に入ると、まず酷い臭いだった。

「……」

店主達はもう鼻がおかしくなっているのだろう。腐った臭いもする。当然だ。表に看板商品として置いていた青年でさえあの状態だった。中はもっと酷い。

「死ぬ前に売れれば儲け物って感じだね」

そう口にしながら、ターザはカトラと自分の周りを風の膜で覆った。お陰で臭いが消えるが、鼻についた最初の刺激臭は消えなかった。とはいえ、口の中に汚れた空気が入らないのは理解出来るので、遠慮なく話せる。

落ち着いて周りを見られるようになったことで、カトラは気付いた。

「……死にかけてるのは、ほとんど術が消えかかってる。最初の実験として使ったのかも」
「失敗しても良い。棄てる気で手に入れたってことか」

もう意識のない者が多かった。本当に死を待つだけなのだろう。中には、小さな子どももいた。

「色んな年代で試したんだ?」
「かも」

そうして、辿り着いた部屋は、それなりに綺麗にしてあった。

「すぐにアレを綺麗にして参りますので、ただ……足が悪いようでして……その……」

上目遣いで揉み手など、明らかに媚びる態度にカトラは眉を寄せる。とはいえ、表情があまり出ないカトラだ。それが相手に悟られることはない。

ターザはお付きの者として演じる気になったのだろう。カトラの隣で店主の相手を始めた。

「別に構わない。それを治す薬もこちらで用意できる。だが、それ以外にも体力が落ちていたりと、色々と問題がありそうだ。その分は……分かっているだろう」
「も、もちろんでございます! 精一杯、勉強させていただきますとも!」

そうして、契約書を確認する。

中に一文、カトラがケイト達を引き取った時とは違うものがあり、それを目で追ってターザに示す。すぐに察したターザは、店主に確認した。

「この『奴隷の衰弱具合によっては契約術が正確に発動しない場合もある』というのはなんだ? 今まで見たことがないのだが」
「っ、この辺りの奴隷商はほとんどがこの文句で契約書を出しております。奴隷商にもランクがあるのですよ」
「なるほど……ならば、ここはランクが低いのだな……では」
「お、お待ちをっ! 確かに当奴隷商は低い方ではございますが、その分、奴隷の値段も安い設定なのです! とてもお買い得です! 高い者を一人買われるよりも、粗悪品でも三人買えればと考えられるお客様がご利用されます。今回の者も、本来の価格よりも半額近くお引きいたしますので」

どうにかして引き取ってもらおうと必死だ。それだけ、この辺りに奴隷商が多いのだろう。

だからこそ、タダで商品を入荷したいのだ。

「なら、その値段でもう一人もらえる?」
「え……あ、その。どの商品かによります……」

突然、カトラに話しかけられ、店主は驚いて何とかそう返した。

カトラはターザに耳打ちする。先程から気になっている気配が奥にあるのだ。

「ターザ、奥にターザと同じ呪印を持ってる子がいるみたいなんだけど」
「っ……なるほど……わかった」

ターザも気付かなかったらしいその気配は、かなり面倒な術で隠されていた。

ため息混じりで了解した所を見ると、ターザの身内で間違いない。

「店主、奥に私と同郷の者がいるだろう」
「っ!? そんなことは……っ」

驚いた顔をしただろうに、誤魔化そうとしたのは、こちらの確信した方法を知りたいからだろうか。特に知られても構わないと判断したターザが簡潔に説明する。

「この呪印の気配は独特だ。分からないはずがない」
「そ、そうでしたか……分かりました。ただ、アレは次の看板商品……お値段を付けずというのは無理です」

それはそうだろう。

「いいだろう。値段を提示してみろ」
「っ……!」

蛇に睨まれた蛙のようになってしまった店主など、カトラにはもう眼中になかった。ただ、この妙にちぐはぐとした店には、何か他にも情報が隠されているように感じられていた。

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読んでくださりありがとうございます◎
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