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第二章 奴隷とかムカつきます

093 原因になった人は消えるね

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セルカの顔には、口にしなくても気に入らないと書いてあった。彼女の気持ちも分からないわけではない。キュリもクスカも、今や立派な冒険者だ。

何より、奴隷であった時は薄汚れ、浮浪児と変わりなかった。それがどうだろう。今や栄養も行き渡ったスラリとした肉体。瞳は自信に満ちており、髪や肌は艶々と女性らしい輝きを持っている。

そして、カトラを守ろうと素早く前に出た彼女達は、誰もが頼もしく思える隙のない構えを見せていた。

「何の御用でしょうか。そちらの女性には見覚えがあるように思いますが」
「このような往来で殺気を向けるなど、常識の分からない方々のようですね」

二人はまさに貴婦人を守る護衛だった。それはセルカが求めていたものだ。それを認識した時、彼女はカトラを睨みつけた。だが、キュリとクスカはそれに気付いてすぐにそれを遮るように動いた。

「何してるんですか? カーラ様にそんな目を向けるなんて……死にたいんですか?」
「自殺志願は他でどうぞ。一人で町を出れば、すぐに死ねますよ。遺体の処理も魔獣に任せられますしね」
「……」

なんだか二人は過激になった。

「っ、ちょっと、あいつらさっさとやっちゃってよ! 女なんだから、あなた達には旨味がいっぱいでしょう?」

セルカは前にいる男達をけしかけようとする。

だが、男達は一歩を踏み出すどころか半歩足を下げた。そして、セルカを振り返る。

「おい。あんなのが相手とか聞いてねえぞ。弱い冒険者だって聞いてたから受けたんだ」
「そうだぞ。ちょっと脅せば良いって言ったよな?」
「やるにしたって、あと四倍は報酬をもらわんと割に合わん」

彼らは自分たちよりカトラ達が強いことを感じ取った。彼らのような者は、強者と弱者の見極めが早いのだ。

「……なに言ってんのよ……ああ。あれね。あなた達の好みじゃないってことね? 男なんて女ならなんでも良いんでしょ? 贅沢言わないでよ」
「「「……」」」

振り返っている男達。その姿を見ているだけで分かった。呆れている。

「おじさん達。その女。ここの王族が探してる人だよ。王城に連れて行ったらお礼がもらえるかも」
「王様が相当怒ってるから、その人と関わると危ないよ? きちんと連れていくのがベスト」
「それはマジか?」

男の一人が確認してきた。ただのならず者ではないらしい。元冒険者かなんかだろう。

「マジよ。その人、奴隷に落とされたんだけど、護送の騎士さんから逃げてるの」
「奴隷に落としたくらいじゃ罰が足りないってことで王様が連れてくるように命じたんだって」

二人はこれらの情報を軽い様子で告げる。これにより、誰もが知っていてもおかしくない当たり前の情報だと思わせることができた。

「なるほどな……おい」
「ちょっ、な、なにするのよ!」
「何って、お前さんを城に連れていくんだよ」
「くっ、や、やめなさいよっ。ふんっ、いいわ。連れて行きなさいよ。城であなた達が人さらいだって言ってやるわっ」

カトラ達は揃って顔をしかめた。セルカはここまで来ても自分が悪いとは思っていないのだ。城に行けば、自分の味方がいると思っている。

「なあ、この嬢ちゃんの言ってることは……」

少し男たちは不安になったらしい。だが、それでもセルカを捕らえる手は緩めなかった。

「その人の味方なんて城に居ませんよ。内情は言えませんが……この国の王女に不敬を働き、王の怒りを買ったのです」
「その人に味方したらあなた方も罪に問われますよ」
「本当か……よしっ、俺は信じるぞ」
「だが、誰か俺らがこいつの味方じゃないって証言できる奴が欲しいな……」

そこに黒子の一人がやって来た。

「私が付いて行きましょう」
「っ、あ、あんたは……」

気配を読むのには自信があったのだろう。男たちは突然現れた黒ずくめの男に警戒する。

ここでようやくカトラが間に入った。

「彼は私達の仲間です。情報も持っているので、問題ないと思います」
「……そんなことまでして、あんたに利はあるのか?」

怪しむのは当たり前だ。

「むしろ、その人を確実に連れて行ってもらった方が、私も有難いのです。彼女には何度も仲間達が迷惑を被っているので」
「なるほどな……いいだろう。けど、報酬があったら……」
「もちろん、彼女を王城へ連れていくことによる報酬はあなた方のものですよ」

そうして、カトラはギルドカードを見せた。Aランク冒険者は貴族の依頼も受けられる信頼ある者達だ。口約束であっても、利益が生じる話で嘘はつかない。Aランクの者が任せると言っているのだ。誰であっても、礼を持って受けるのが正しい対応だった。

「っ、Aランク……っ、し、失礼しました」
「いえ。では……彼らをお願いね」

カトラは黒子に声をかける。

「はい。王城の状況も見て参ります」
「無理はしないで。でも……頼むわ」
「もちろんです!」

こうして城へ向けて彼らは去っていった。

「よろしかったのですか?」
「ご一緒に行って旦那様の様子を見ても良かったのでは?」
「ターザは私に心配されるのは嫌がるから……」

ターザの方が強いし、王や貴族の扱いも上手い。そんな人を心配する必要はないだろう。だが、心配なものは心配だ。

「既に心配されてるじゃないですか……」
「旦那様ったら……カーラ様にこんな顔をさせるなんて……」

二人はカトラの後ろに控えて頷き合う。

「これ、知られたらきっと怒るね」
「原因になった人は消えるね」

もう一度頷き合い、視線を少々上に向ける。それは家の屋根の上辺り。そこには黒子がいた。

その黒子が頷くのを確認して、二人はカトラと買い物を再開する。

そんな二人が何やら考えていることはカトラも気付いている。近くにいた黒子の一人が城へ向かっていったのも察していた。

それらに気付かない振りをして小さく溜息をつく。

「面倒だな……」

間違いなく国のゴタゴタに巻き込まれている。そんな予感を感じながら、城のある方角を見つめるのだった。

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