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第二章 奴隷とかムカつきます
096 あなたの勝ちです
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店主が奥から持ってきたのは、真っ白で美しい一本のレイピアだった。
「これは、おれの最高傑作だ。持ってみてくれ。そうだな……俺の直感を信じれば、嬢ちゃんになら使える気がする」
受け取ってみてその価値に気付く。
「これ……全属性に……?」
あり得ないと思った。記録にもない、間違いなく最高の【魔効武器】だ。どれだけ腕の良い鍛治師でも、効力を持つ属性は一つのはず。それが二つでもあり得ないのに、全属性というのは冗談だろうと思ってしまう。
店主はそれを感じられたことに自分の勘が正しかったと満足気に笑む。
「やっぱりな。もらってくれ」
「っ、でも、これは国に報告すれば、国宝として登録されてもおかしくないものです。とんでもない価値が付きますよ!」
歴史上、あり得ないものなのだ。その価値は計り知れない。
【魔効武器】は、その特性を発揮できれば、何倍にも使い手の能力を引き出す。もちろん、物によって発現できる威力は違うが、それでも一人で何十人分もの力を出すことができるのだ。
「そうは言っても、全属性を使える奴なんてこの世界に何人もいねぇよ。現実的じゃねえ武器は、本来なら、なまくらより価値が下がるってもんだ」
ただし、実は使い方が難しい。その属性の魔力のみを注ぎ込まなくては威力が発揮されないのだ。使い手は選ぶことになるが、精進が必要だ。とはいえ、使えればこれほど頼もしい武器もないだろう。
「嬢ちゃんは全属性を使えるかもしれんが、その剣を扱えるかと言えば、どうか分からねえ。使えるように精進してくれや。そんで、是非ともそれがなまくら以下にならんようにして欲しい」
最高傑作ではあるが、それは作品としての価値。武器としては、使い手がいることが重要だ。店主はこれを十全に使いこなせる者を探していたわけではない。通常、一属性の【魔効武器】の場合は『いずれ使いこなせる者』を選ぶが、この武器ではハードルが高すぎる。だから、店主は最低限『十全に使えなくても、全属性が使える者』を探していたのだ。
「【魔効武器】は鍛治師の命がこもった特別な武器だ……これが打てたら引退する。それだけ特別なもんだ」
自分に厳しく、どこまでも上を目指す頑固な鍛治師達でも、一生の最後に打てるもの。妥協を許さない鍛治師達でさえも、打ててしまえば満足できてしまうものだ。
最期はその武器に見合う使い手を探すことに生涯を捧げる。
「そんな、俺らの命が【聖武器】だったら絶望するしかない。自分の最高の作品に、自分が認めた最高の使い手を選べないってのはな……恨んでも恨み切れねえ……」
「……」
悲痛な表情は、そうした鍛治師達を知っているからだろう。
「俺ら鍛治師にとっちゃあ、聖王国は宿敵だ。どうか、一矢報いてほしい!」
店主は頭を下げる。心からの願いなのだ。多くの鍛治師達の無念を晴らしたい。その思いが痛いほど伝わってきた。
カトラは、おもむろに鞘から剣を抜き放つ。そして、全属性の魔力を込めた。すると、様々な色に輝き始める。
「っ、これは!? まさかっ、嬢ちゃん……っ」
驚きに目を見張る店主へ、カトラは安心させるように笑みを見せる。無表情が通常装備のカトラには、笑みを見せようと意識しなくてはそうは見えない。だが、笑みを見せることがここでは重要だと気合いを入れる。
「問題なく使えます。これであの国に思い知らせてやります。あなた方の無念を」
「っ……ああ……ありがとうっ」
涙を流す店主。剣を納めると、すぐに店主は乱暴に涙を袖で拭き、不敵に笑ってみせた。
「嬢ちゃんに全部賭けるぞ!」
「賭ける?」
どういう意味かと考えていると、店主は床に屈み込む。足下の床が収納になっていたらしい。そこから、重そうに大きな箱を引っ張り上げた。
ドン!
カチャカチャと中の音が聞こえた。箱を開けると、そこには三十近い、様々な武器が入っていた。
「これは……っ」
見つめただけで分かる。先ほどの武器と同じだ。
「全部【魔効武器】それも【聖武器】?」
驚いていれば、更にもう一つ箱を引き上げてきた。
「へへっ、こっちにはそれ以外も入ってっけどな」
そちらの中身は半分ほどが【聖武器】だが、他の属性の物もあった。
「すごい……」
これほどの数の【魔効武器】が一つに集まるものではない。
「これは、使い手がいなくなった奴と、あの国に持っていかれるくらいならと託されたもんだ。まさか、こんな隣の国の、それもこんな店にあるとは思わんだろっ。これだけでも、結構な奴らが溜飲を下げられた」
「……やりますね……」
知り合いの鍛治師達が店主に託したのだ。自身で使い手を選べなくても聖王国に取られるよりは良い。そう判断したらしい。
「嬢ちゃんの知り合いにあの国の奴以外に、これを使える奴はいないか?」
店主は真剣な表情でそう尋ねてきた。これは確かに賭けだ。ならば、言うことは一つ。
「あなたの勝ちです」
「っ、それはつまり……」
カトラはドアの方へ視線を送ると、数人の黒子達が入ってくる。
「なっ、なんだこいつら!」
黒装束に、顔も隠しているのだ。それは怪しいだろう。いつの間にか周りに見張りも集まっている。ならば、全て明かしてしまおう。
「彼らは元、聖王国の影です。全員が【聖武器】を使えます」
「っ、も、元ってことは……」
「もう聖王国からは切れています。彼らと一緒に殴り込みをかけます。どうですか? 使い手として認めていただけますか?」
「っ……もちろんだ!」
大喜びする店主。黒子達は、一人一人顔から布を上げ、顔を見せて店主の前に進みでる。
「選んでいただけますか?」
その言葉を待っていたというように、店主が質問を始める。そして、武器を一つずつ渡した。
「ありがとな、嬢ちゃん!」
「いえ、これから残りの者達もここに寄越します。それぞれに選んでください。恐らく、全部いただくことになるかもしれません」
「……は? こいつらだけじゃねえの?」
さすがに五十を超える数の武器を全て渡せるとは思っていなかっただろう。だが、カトラには可能だ。
「はい。現在進行形で捕縛し、寝返らせていますので、まだ増えますし、今は総勢で四十近くなっていますから」
「……本気でやってくれようってんだな?」
「当然です」
聖王国に喧嘩を売る。それが本当のことだと理解し、店主は嬉しそうに笑った。
「はははっ、こりゃあ、マジで賭けに勝ったな! そっちの坊主や嬢ちゃん達も仲間だろ。それぞれ見繕ってやる。他に仲間がいるならそいつらの分もな! 最初で最後の大放出だ!」
涙も滲んでいた。本当に全てを賭けるつもりだと知り、カトラは少し寂しくなった。
ここで、終わりにして欲しくない。
「最後だなんて言わないでください。また作っていただけませんか?」
その言葉を聞いて、店主は呆然としていた。
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読んでくださりありがとうございます◎
「これは、おれの最高傑作だ。持ってみてくれ。そうだな……俺の直感を信じれば、嬢ちゃんになら使える気がする」
受け取ってみてその価値に気付く。
「これ……全属性に……?」
あり得ないと思った。記録にもない、間違いなく最高の【魔効武器】だ。どれだけ腕の良い鍛治師でも、効力を持つ属性は一つのはず。それが二つでもあり得ないのに、全属性というのは冗談だろうと思ってしまう。
店主はそれを感じられたことに自分の勘が正しかったと満足気に笑む。
「やっぱりな。もらってくれ」
「っ、でも、これは国に報告すれば、国宝として登録されてもおかしくないものです。とんでもない価値が付きますよ!」
歴史上、あり得ないものなのだ。その価値は計り知れない。
【魔効武器】は、その特性を発揮できれば、何倍にも使い手の能力を引き出す。もちろん、物によって発現できる威力は違うが、それでも一人で何十人分もの力を出すことができるのだ。
「そうは言っても、全属性を使える奴なんてこの世界に何人もいねぇよ。現実的じゃねえ武器は、本来なら、なまくらより価値が下がるってもんだ」
ただし、実は使い方が難しい。その属性の魔力のみを注ぎ込まなくては威力が発揮されないのだ。使い手は選ぶことになるが、精進が必要だ。とはいえ、使えればこれほど頼もしい武器もないだろう。
「嬢ちゃんは全属性を使えるかもしれんが、その剣を扱えるかと言えば、どうか分からねえ。使えるように精進してくれや。そんで、是非ともそれがなまくら以下にならんようにして欲しい」
最高傑作ではあるが、それは作品としての価値。武器としては、使い手がいることが重要だ。店主はこれを十全に使いこなせる者を探していたわけではない。通常、一属性の【魔効武器】の場合は『いずれ使いこなせる者』を選ぶが、この武器ではハードルが高すぎる。だから、店主は最低限『十全に使えなくても、全属性が使える者』を探していたのだ。
「【魔効武器】は鍛治師の命がこもった特別な武器だ……これが打てたら引退する。それだけ特別なもんだ」
自分に厳しく、どこまでも上を目指す頑固な鍛治師達でも、一生の最後に打てるもの。妥協を許さない鍛治師達でさえも、打ててしまえば満足できてしまうものだ。
最期はその武器に見合う使い手を探すことに生涯を捧げる。
「そんな、俺らの命が【聖武器】だったら絶望するしかない。自分の最高の作品に、自分が認めた最高の使い手を選べないってのはな……恨んでも恨み切れねえ……」
「……」
悲痛な表情は、そうした鍛治師達を知っているからだろう。
「俺ら鍛治師にとっちゃあ、聖王国は宿敵だ。どうか、一矢報いてほしい!」
店主は頭を下げる。心からの願いなのだ。多くの鍛治師達の無念を晴らしたい。その思いが痛いほど伝わってきた。
カトラは、おもむろに鞘から剣を抜き放つ。そして、全属性の魔力を込めた。すると、様々な色に輝き始める。
「っ、これは!? まさかっ、嬢ちゃん……っ」
驚きに目を見張る店主へ、カトラは安心させるように笑みを見せる。無表情が通常装備のカトラには、笑みを見せようと意識しなくてはそうは見えない。だが、笑みを見せることがここでは重要だと気合いを入れる。
「問題なく使えます。これであの国に思い知らせてやります。あなた方の無念を」
「っ……ああ……ありがとうっ」
涙を流す店主。剣を納めると、すぐに店主は乱暴に涙を袖で拭き、不敵に笑ってみせた。
「嬢ちゃんに全部賭けるぞ!」
「賭ける?」
どういう意味かと考えていると、店主は床に屈み込む。足下の床が収納になっていたらしい。そこから、重そうに大きな箱を引っ張り上げた。
ドン!
カチャカチャと中の音が聞こえた。箱を開けると、そこには三十近い、様々な武器が入っていた。
「これは……っ」
見つめただけで分かる。先ほどの武器と同じだ。
「全部【魔効武器】それも【聖武器】?」
驚いていれば、更にもう一つ箱を引き上げてきた。
「へへっ、こっちにはそれ以外も入ってっけどな」
そちらの中身は半分ほどが【聖武器】だが、他の属性の物もあった。
「すごい……」
これほどの数の【魔効武器】が一つに集まるものではない。
「これは、使い手がいなくなった奴と、あの国に持っていかれるくらいならと託されたもんだ。まさか、こんな隣の国の、それもこんな店にあるとは思わんだろっ。これだけでも、結構な奴らが溜飲を下げられた」
「……やりますね……」
知り合いの鍛治師達が店主に託したのだ。自身で使い手を選べなくても聖王国に取られるよりは良い。そう判断したらしい。
「嬢ちゃんの知り合いにあの国の奴以外に、これを使える奴はいないか?」
店主は真剣な表情でそう尋ねてきた。これは確かに賭けだ。ならば、言うことは一つ。
「あなたの勝ちです」
「っ、それはつまり……」
カトラはドアの方へ視線を送ると、数人の黒子達が入ってくる。
「なっ、なんだこいつら!」
黒装束に、顔も隠しているのだ。それは怪しいだろう。いつの間にか周りに見張りも集まっている。ならば、全て明かしてしまおう。
「彼らは元、聖王国の影です。全員が【聖武器】を使えます」
「っ、も、元ってことは……」
「もう聖王国からは切れています。彼らと一緒に殴り込みをかけます。どうですか? 使い手として認めていただけますか?」
「っ……もちろんだ!」
大喜びする店主。黒子達は、一人一人顔から布を上げ、顔を見せて店主の前に進みでる。
「選んでいただけますか?」
その言葉を待っていたというように、店主が質問を始める。そして、武器を一つずつ渡した。
「ありがとな、嬢ちゃん!」
「いえ、これから残りの者達もここに寄越します。それぞれに選んでください。恐らく、全部いただくことになるかもしれません」
「……は? こいつらだけじゃねえの?」
さすがに五十を超える数の武器を全て渡せるとは思っていなかっただろう。だが、カトラには可能だ。
「はい。現在進行形で捕縛し、寝返らせていますので、まだ増えますし、今は総勢で四十近くなっていますから」
「……本気でやってくれようってんだな?」
「当然です」
聖王国に喧嘩を売る。それが本当のことだと理解し、店主は嬉しそうに笑った。
「はははっ、こりゃあ、マジで賭けに勝ったな! そっちの坊主や嬢ちゃん達も仲間だろ。それぞれ見繕ってやる。他に仲間がいるならそいつらの分もな! 最初で最後の大放出だ!」
涙も滲んでいた。本当に全てを賭けるつもりだと知り、カトラは少し寂しくなった。
ここで、終わりにして欲しくない。
「最後だなんて言わないでください。また作っていただけませんか?」
その言葉を聞いて、店主は呆然としていた。
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