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第三章 制裁させていただきます
114 放置される方が迷惑だし
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光を纏うイメージのある天使。けれど、その天使は少しばかり違った。
もちろん、登場の仕方は天使らしい光の中からだったし、大きな白い翼に金色の髪と瞳を持っている。この場に居る誰もが天使と認識した。
そして、その天使は唐突にターザとカトラを指差して怒鳴ったのだ。
「お前! お前達のせいで!!」
誰もが天使の指差す方を見て緊張した。天使が怒るのだ。悪だと断じられるようなもの。
だが、そこでターザが爆笑した。
「あははははっ! 酷い姿だなあ。あの女の魂が、きちんと届いたようで良かったよ」
「ぐっ……キサマ!」
天使とは思えない醜い顔だった。
「なに、その顔。ほら、お前に弄ばれた女が引っ付いているよ?」
「なんだと? っ、うわっ!!」
天使ビフォラは言われて気付いたらしい。肩に憑いた小さな何かに。
「離れろ! 消えろ!」
《あぐぅぅぅ》
「気持ち悪い!」
ビフォラは焦りまくっていた。
地上に降りたことで、それが具現化したのだろう。腐り切った魂は、天使の力を削ぎ、姿を黒に染めていく。肌の白さえも。
「いやだ、いやだ、いやだ!」
「あははっ。あ~、すごいなあ。これはもう無理だね。染まりきって、共に腐り落ちるしかない」
「このっ、このっ!! 離れろよ!!」
必死に取り憑いたその醜い黒い塊をふるい落とそうとする。
触れるだけで、そこから黒く浸食されるように染まるのだから払い退けることができない。
フェジ達黒子がカトラを守ろうと壁を作っていた。彼らには敵以外の何者にも見えなかったのだ。
その時だった。
バチッ!
音が響いた。
カトラが驚いて上を見上げて呟く。
「……聖結界が消えた?」
これに、ターザも反応する。呆れが半分ほど入っていた。
「あ~あ、ほら、そんな状態で来るから。これは……この辺り全滅かな」
「「「っ!」」」
代表の中にも気付いた者がいた。最初は天使だと思ったが、ターザが笑った辺りから、それが天使には思えなくなっていたのだ。ただただ、嫌悪感を感じる物体にしか見えなくなっていた。
だからだろう。冷静にカトラやターザの言葉から状況を理解した。
そして、教皇が立ち上がり断言したことで、それが本当のことだと確信する。
「そんなっ……大聖結界が消えるなんて……強い穢れでもない限りは……っ」
「その通りだよ。コレは、今や特大の穢れだもの」
ターザがコレと言って、ビフォラを指差す。
「……天使なのでは……」
「正確には天使だったモノだよ。人の魂を弄び、腐った魂を助けるどころか更に腐らせた。天使としての役目も忘れて……神にでもなろうとしたんだろうねえ」
「っ……」
ビフォラはもう、立っていることさえできなくなっている。ターザを憎々しげに睨み上げながら震えていた。
ビフォラ自身、なぜ自分が震えているのか理解できていない。それは、遥か高位の神の前にいることによる畏れ。だが、そんなことが分かるはずもなく、ただ震えながら見上げるのみ。
そんなビフォラを、ターザは興味なさそうに見下ろしていた。
その間、カトラは外の気配を探っていた。そして、静かに告げた。
「……フェジ、外壁の外に居る者達を、可能な限り中に避難させて」
「っ……?」
フェジや黒子達は、カトラを守りながらも、ターザの方の雰囲気に呑まれており、咄嗟に理解できなかったようだ。
「スタンピードが起きる。それも、特大の」
「っ、すぐに!」
「冒険者ギルドにも通達を。私とターザの連名で。周辺国にも警告をするようにと、警鐘を鳴らせと伝えて」
「承知いたしました!」
数人の黒子達を連れて、フェジは姿を消した。
父カルフがカトラへ確認する。
「本当に、スタンピードが?」
「この国のだけじゃない……周りの国の聖結界も消えてる……この国に向かってくるよ」
「っ……」
息を呑むカルフに、カトラは振り向いて答える。
「大丈夫。何とかなるよ」
「……カトラ……」
その時、外から祖母が双子を連れてやって来た。
「先程……スタンピードがと聞こえたのだけれど」
「っ、まさか、レフィア様……?」
レフィアを見て驚きの声を上げたのは教皇だった。今やレフィアは、しっかりと自分の足で歩いていた。顔色も良い。
「……リイ? 歳を取ったわね……その服……教皇なの?」
「あ……はい……」
「そう……苦労したみたいね」
「……はい……」
正直だ。
カトラはそんな祖母レフィアに頼むことにした。
「レフィアお祖母様。ここで……怪我人の治療をお願いできますか?」
「スタンピード……本当なのね?」
「はい……」
「分かったわ。この子達も居るし、任せてちょうだい」
「お願いします。お父様。レフィアお祖母様です。ここは死守します。外には出ないように」
カトラが出るのだ。ここには絶対に来させない。それが伝わったのだろう。カルフはカトラを見つめ、確認した。
「……大丈夫なんだね?」
「心配いりません」
「分かった」
カトラの言葉を信用しようとカルフは決めた。
「ターザ……それをどうにかしてからでいいから。放置される方が迷惑だし」
「……今すぐ処分するよ。再生不可能なくらいね」
「っ……そ、そんなっ、そんなことできるわけが!」
「黙れ」
「っ!!」
口を閉ざすビフォラ。そこでようやく、ターザが怖いと感じたらしかった。
「先に行くね」
「うん。すぐに行くよ」
そうして、カトラは教会を飛び出した。
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読んでくださりありがとうございます◎
もちろん、登場の仕方は天使らしい光の中からだったし、大きな白い翼に金色の髪と瞳を持っている。この場に居る誰もが天使と認識した。
そして、その天使は唐突にターザとカトラを指差して怒鳴ったのだ。
「お前! お前達のせいで!!」
誰もが天使の指差す方を見て緊張した。天使が怒るのだ。悪だと断じられるようなもの。
だが、そこでターザが爆笑した。
「あははははっ! 酷い姿だなあ。あの女の魂が、きちんと届いたようで良かったよ」
「ぐっ……キサマ!」
天使とは思えない醜い顔だった。
「なに、その顔。ほら、お前に弄ばれた女が引っ付いているよ?」
「なんだと? っ、うわっ!!」
天使ビフォラは言われて気付いたらしい。肩に憑いた小さな何かに。
「離れろ! 消えろ!」
《あぐぅぅぅ》
「気持ち悪い!」
ビフォラは焦りまくっていた。
地上に降りたことで、それが具現化したのだろう。腐り切った魂は、天使の力を削ぎ、姿を黒に染めていく。肌の白さえも。
「いやだ、いやだ、いやだ!」
「あははっ。あ~、すごいなあ。これはもう無理だね。染まりきって、共に腐り落ちるしかない」
「このっ、このっ!! 離れろよ!!」
必死に取り憑いたその醜い黒い塊をふるい落とそうとする。
触れるだけで、そこから黒く浸食されるように染まるのだから払い退けることができない。
フェジ達黒子がカトラを守ろうと壁を作っていた。彼らには敵以外の何者にも見えなかったのだ。
その時だった。
バチッ!
音が響いた。
カトラが驚いて上を見上げて呟く。
「……聖結界が消えた?」
これに、ターザも反応する。呆れが半分ほど入っていた。
「あ~あ、ほら、そんな状態で来るから。これは……この辺り全滅かな」
「「「っ!」」」
代表の中にも気付いた者がいた。最初は天使だと思ったが、ターザが笑った辺りから、それが天使には思えなくなっていたのだ。ただただ、嫌悪感を感じる物体にしか見えなくなっていた。
だからだろう。冷静にカトラやターザの言葉から状況を理解した。
そして、教皇が立ち上がり断言したことで、それが本当のことだと確信する。
「そんなっ……大聖結界が消えるなんて……強い穢れでもない限りは……っ」
「その通りだよ。コレは、今や特大の穢れだもの」
ターザがコレと言って、ビフォラを指差す。
「……天使なのでは……」
「正確には天使だったモノだよ。人の魂を弄び、腐った魂を助けるどころか更に腐らせた。天使としての役目も忘れて……神にでもなろうとしたんだろうねえ」
「っ……」
ビフォラはもう、立っていることさえできなくなっている。ターザを憎々しげに睨み上げながら震えていた。
ビフォラ自身、なぜ自分が震えているのか理解できていない。それは、遥か高位の神の前にいることによる畏れ。だが、そんなことが分かるはずもなく、ただ震えながら見上げるのみ。
そんなビフォラを、ターザは興味なさそうに見下ろしていた。
その間、カトラは外の気配を探っていた。そして、静かに告げた。
「……フェジ、外壁の外に居る者達を、可能な限り中に避難させて」
「っ……?」
フェジや黒子達は、カトラを守りながらも、ターザの方の雰囲気に呑まれており、咄嗟に理解できなかったようだ。
「スタンピードが起きる。それも、特大の」
「っ、すぐに!」
「冒険者ギルドにも通達を。私とターザの連名で。周辺国にも警告をするようにと、警鐘を鳴らせと伝えて」
「承知いたしました!」
数人の黒子達を連れて、フェジは姿を消した。
父カルフがカトラへ確認する。
「本当に、スタンピードが?」
「この国のだけじゃない……周りの国の聖結界も消えてる……この国に向かってくるよ」
「っ……」
息を呑むカルフに、カトラは振り向いて答える。
「大丈夫。何とかなるよ」
「……カトラ……」
その時、外から祖母が双子を連れてやって来た。
「先程……スタンピードがと聞こえたのだけれど」
「っ、まさか、レフィア様……?」
レフィアを見て驚きの声を上げたのは教皇だった。今やレフィアは、しっかりと自分の足で歩いていた。顔色も良い。
「……リイ? 歳を取ったわね……その服……教皇なの?」
「あ……はい……」
「そう……苦労したみたいね」
「……はい……」
正直だ。
カトラはそんな祖母レフィアに頼むことにした。
「レフィアお祖母様。ここで……怪我人の治療をお願いできますか?」
「スタンピード……本当なのね?」
「はい……」
「分かったわ。この子達も居るし、任せてちょうだい」
「お願いします。お父様。レフィアお祖母様です。ここは死守します。外には出ないように」
カトラが出るのだ。ここには絶対に来させない。それが伝わったのだろう。カルフはカトラを見つめ、確認した。
「……大丈夫なんだね?」
「心配いりません」
「分かった」
カトラの言葉を信用しようとカルフは決めた。
「ターザ……それをどうにかしてからでいいから。放置される方が迷惑だし」
「……今すぐ処分するよ。再生不可能なくらいね」
「っ……そ、そんなっ、そんなことできるわけが!」
「黙れ」
「っ!!」
口を閉ざすビフォラ。そこでようやく、ターザが怖いと感じたらしかった。
「先に行くね」
「うん。すぐに行くよ」
そうして、カトラは教会を飛び出した。
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