孤独な義弟を癒した私に幸せが待っていました。

深山心春

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揺れる心

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「テレパシーに念動力に治癒力、おまけに千里眼。順調だな、ソラリス。文句のつけようもない」
 天主に手放しで褒められて、ソラリスは恐縮しつつも頭を下げた。
 天主の執務室に呼ばれたソラリスとフィンは、早朝から天主と会っていた。朝のやわらかな陽射しが執務室に燦々と入り込んでいる。
 天主は執務机の上で手を組んで、満足そうにしている。ソラリスとフィンはその前で直立不動の体勢で立っていた。
 フィンが短くため息をつく。
「天主様……私も教えるの頑張ったのですが」
「フィンは仕事だからな。でも、まあ、よくやった」
 秋に入る頃、ソラリスは驚異的な早さで特殊能力を取得していった。半分はフィンにつきっきりで能力の使い方を教わり、もう半分は文官院で歴史や政治、異国の言語を学んだ。ソラリスの勉学に対する吸収率は凄まじく、天主さえも満足気に手放しで褒めた。
 ソラリスが渇望していた瞬間移動は終に習得できなかったが、武官向きの能力であることを考えると致し方のないことだった。
「ソラリス、俺の思っていることを当ててみろ」
「……能力をむやみに使うのはいけないと教わりました」
「わかっている。特別にやってみろ、と言っているんだ」
 天主が機嫌よく言い募り、ソラリスは仕方がなく深く集中する。集中すると胸に白銀の灯火が見える。そのまま更に奥に入るように集中した。
「……ソラリス、このまま白銀の官吏として俺に仕えよ……です」
「その通りだ。凄いじゃないか」
「天主様、そのやり方はちょっと……」
 フィンの言葉に天主は、ふん、と睨めつけた。
「これだけ短期間に能力を身に着けた官吏がどのくらいいると言うのだ。欲しいものは欲しい。そう言って何が悪い」
「同感ではあるのですが、ソラリスの考えも聞いてやりませんと……。それにまだ官吏教育が終わったわけではありません。ソラリスに変なプレッシャーをかけないでくださいね」
 フィンが養い親らしく、ソラリスの気持ちを慮った。
「文官院が終わるのはいつ頃だ?」
「冬の終わりには、と伝えられました」
「春から、仕事をはじめられるな」
「ですから、ソラリスの気持ちも聞いてやってください」
 天主はフィンをうるさそうに見やると、ソラリスに向き直った。
「ソラリスは文官院が終わったらどうしたい?」
「僕は……」
 ソラリスは言い淀む。フィンにも天主にも良くしてもらった。帰りたいとは中々言いづらかったし、正直なところレアルは居心地が良かった。そんな風に思えるとは思っても見なかったので、余計に言い出しづらくなる。
 それでも聞かれて浮かぶのは、ロゼの優しくふわりと微笑んだ顔だった。
「僕はアルーアに、帰りたい、です」
 罪悪感にかられながらもそう言うと、天主とフィンが同時にため息をつく。ソラリスは申しわけなくて身を小さくした。
「例の……大切にしている女か」
「はい。僕はロゼに会いたいです」
「聞くが、両思いなのか?」
「……僕がレアルに行っている間に考えてくれとたのみました」
 なんだ、と天主は破顔する。
「1年もあればとっくに誰かほかの奴と……」
「天主様……!」
 フィンが珍しく語気を強めて制止する。ソラリスはゆっくり首を振った。
「ロゼはそんな人ではありません。きっと答えを出すのを待っていてくれています」
「……振られたらどうするんだ?」
 ぐ、とソラリスが言葉に詰まる。ロゼの気持ちはわからない。確かにその可能性がないとは言い切れない。何しろ6年もの間、弟だと思われていたのだ。ラファティの存在も頭を掠める。
「振られて綿々と恋着するのは男らしくないな。そうだろう、ソラリス」
「……はい」
「レアルにいればおまえの能力は人々の役に立てる。俺とフィンを除く誰もがおまえに頭を下げるだろう。アルーアでおまえは十年間、どういう扱いを受けていた?」
「……でも、父上とロゼが6年間寄り添ってくれました」
 ちっ、と天主は舌打ちを打つ。本当に忌み子にするくらいなら、生まれてすぐにレアルに送ってくれていれば良かったのにと思う。まあ、良いと天主は思う。まだ時間はある。ソラリスもレアルに馴染んでいる。芽がない訳ではあるまい、と思う。聞けば両思いでもないらしい。それならば尚更だ。
「まあ、話はこれくらいにして、お茶でも飲んで行くと良い。ソラリスの好きなパンケーキも出そう」
「……え」
 ソラリスの顔がほんの少し、明るくなる。ソラリスの喜怒哀楽は分かりづらい。それでも、フィンと天主はソラリスの僅かな変化に、気づけるようになっていた。
 1度私室で出したパンケーキがソラリスは気に入ったということは、天主もフィンも見ていればわかった。
「私がお茶を淹れましょう」
 フィンがソラリスを見て微笑む。
「ありがとうございます」
 ソラリスは頭を下げた。優しい人々の存在は、確かにソラリスの心を癒やしていたのだった。
 
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