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2章 怨みの象

40話 甘くない甘味《スイーツ》

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 昼食を終え、午後の試合を見にヒョウガ達は、コロシアムへと向かう。

 一番前の席が偶々空いていた為、そこへ座る。

 間もなくして、午後の試合が開始された。

 チーム〈喫茶 虎居雷門〉VSチーム〈ルロア〉の試合だ。

「宜しくお願いします」 

「此方こそ宜しく」 

と挨拶して始まったのだが。

「え?」

 と、拍子抜けしたような声が漏れるのも当然だろう。

 開始して僅か五分足らずにして、もう残り二人だけなのだから。

 ーーー残りの二人もまた、目にも止まらぬ速さて仕留めていく。

「な、何て強さなのよ! あの娘達」

 「ん…!? ああ、確かに強いな。全然目に止まらなかったぞ


「あそこ迄強かったんだね」

「鳥肌立つ試合立ったですの」

「確かに凄かったです」

「戦うメイド格好良かったよー」

 あまりの衝撃に我に返るのを忘れていたヒョウガ達。
 呼吸することさえ忘れていて、慌てて肺に酸素を送る。

「ありがとうございます」

 「その笑顔と戦いのギャップが凄い。完敗だ」

 喫茶 虎居雷門のリーダーーーーゼレリアが笑顔で喋るのを見て、相手チームのリーダーの男が苦笑いした。

 男がゼレリアへ右手を差し出すと、ゼレリアはその手を握り握手を交わす。

 それに合わせて他のメンバー達も、相手と握手を交わす。

 こうして午後のAブロックの試合は終わりを向かえた。

 続いてBブロックの試合がモニターに映し出された。

 Bブロックの試合は、チーム〈パティスリー〉VSチーム〈植物使い〉だ。

 「では、これよりチーム〈パティスリー〉VSチーム〈植物使い〉の試合を始めます」

 海底王の従者の女性が、開始の合図を出す。

 「美味しく···あ、違います。間違えです。宜しくです」

「へ? ええ、此方こそ宜しく」

 パティスリーのリーダーの少女ーーーマカロンが奇妙な言い間違いをしてしまう。

 それに一瞬戸惑った植物使いのリーダーの少女が遅れて挨拶をする。

 そして彼女が右手を差し出すと、マカロンもその手を握り握手を交わす。

 それに合わせて他のメンバーも相手と握手を交わす。

そして作戦通りに動く。

 「仕掛けてくるのを待つです。来ないなら此方から食べさせに行きます」

 『はい、タルトも大人しく待ちます』

『では、ロワも守りを固めよ』

 『攻めるとき迄食べるのはお預けか』

 『まあまあ、下拵えは大事じゃん。楽しく待とうよ』

『さて、準備準備』

 自然なストレートヘアのショコラブラウンカラーの少女ーーーマカロンが指示を出す。

ーーーそして相手の攻撃を待つ。

 暫くして、二人の男が攻めてきた。

「植物術〈人食い植物〉」

 片方の男が、地面から人食い植物を生やす。
 生えた人食い植物は、銀髪のミディアムヘアの少女ーーータルトを襲う。

 がしかし、少女へ襲いかかる寸前で赤茶色の少女ーーーロワが技を発動。

「〈ショコラエタン〉」

 襲いかかる植物の足元に、突如チョコレートで作られた池が出現。

 ーーーショコラエタンは、そのまま植物を呑み込んでいく。

もう一人の男も仕掛けた。

「植物術〈薔薇吹雪〉」

 刺々しく、そして凄まじい破壊力を持つ薔薇を、リボンで髪を纏め上げた少女ーーーフランへ吹かす。

ーーーそれを。

「〈ジェラート〉」

 その薔薇吹雪を、突如にして刹那に出現した巨大なジェラートで、全てを打ちのめす。

「何なんだ···この強さは…」

「たかがスイーツに」

そう二人が喚くのも無理はない。

理論上不可能なことなのだから。

「〈ジェラートスノー〉」

 その巨体なジェラートが、雪の如く降り注ぐ。

 カチンコチンに凍っていることもあり、食らえば多少はダメージを食らう。

降り注がれた二人は。

「ぐぁッ……冷たい冷たい」

「ぐぁぁぁ……冷たい冷たい」

身体が凍てつき始めて…

 タルトが次に仕掛けた。

「タルトも行きます
          〈ホットクレープ〉」

 熱々のホットケーキを二人の男へ落とす。

 「ごあっ……熱い熱い。何て熱さだ…」

 「あがっ……熱い熱い。一旦退くか」

 熱さに身体を蝕まれてる二人は、退くことに。

 次はパティスリーから攻めに行く。

 前衛を行く口から涎を垂らす、空腹な少女ーーーシャルロットと、黄金色の髪を持つ少女ーーーフィナが仕掛ける。

 「それじゃあ、遠慮無く食おう。
    〈ルーロガトー〉」

「〈ショコラエタン〉」

 涎を垂らすシャルロットが、植物使いの少女二人を囲繞いにょうする。

 同じく発動した技は、ロールケーキを擦り付け、二人の足元へ。

 チョコレートは二人を呑み込んで行く。

 彼女達は倒されたわけではないから。

 「この抜け出せないチョコレートの中で大人しくしててね」

「さて、次いこう」

「次はどれにしよう」

 去り際に振り返ったフィナが、呑み込まれていく二人へそう囁くと。
どんどん前へと進み始めた。

そう、どんどんと。

「来たし、皆構えて」

 リーダーの指示に従い、盾役の二人の男が仕掛けた。

「植物術〈爆破植物〉」

「植物術〈毒噴射〉」

 目付きの悪い方の男は、攻めてきた彼女達の足元に植物を生やす。

 その植物には、軽く爆破させる威力を持つ。

 同じく発動した高身長の男が、爆破した地面へ植物を生やす。
その植物から猛毒を放つ。

 ーーーこれだけしたんだ。全滅とは行かずとも多少はダメージ受けているだろ

 そう高身長の男が思った刹那的一瞬ーーー

男の右足が深々と切断された。

 「ん…なっ……ぐぉっ……痛い痛い痛い」

 ーーー何故こうなったのか理解できない。

その答えは次の瞬間に訪れる。

 岩場に似つかわしくない、チョコレートの池が背後に出現し…

 そこから表れたのは言わずともわかる。先程爆ぜたはずのパティスリーの面々。

 ーーーそう、先の男の足を切ったのも彼女だ。

そして仕掛けてきた。

「〈フルーツタルト〉」

「〈アップルゼリー〉」


 虚空から幾多ものフルーツが出現。

 そして二人の男へ、生地を文字通りに流し込む。

 その生地はどんどんと固まっていき、身動きを取れにくくし。

相手が攻撃出来ないくらいに。

 そして、幾多ものフルーツが凶器となって落下していく。

 突如上空に巨大な林檎のゼリーが出現。

 見構えてる目付きの悪い方の男の頭上へ、凄まじい勢いで降下していく。

 ーーー落下の勢いで、足場の小石や砂利が勢い良く飛び散った。

 今だ右足に負傷した男へ、フルーツを食らい倒れ込む。

ーーーそこへ。

「〈ショコラフラッペ〉」

 両腕をチョコレートに変えたタルトが、強烈な殴りを繰り出す。

「植物術〈植物の祝福〉」 

 ギリギリのところで駆けつけた少女が技を発動。


 チョコレートの殴りを植物の癒しだ抑えようとするが。

 抵抗空しく、少女の方が食らってしまう羽目に。

ーーー殴られた少女は。

「うぅっ……」

 呻き声を上げ、その場に倒れ込む。

ーーー残りの五人。

 庇って貰ったお陰で、男は何とか右足が回復し、相手との距離を取った。

「植物術〈冥界アスフォルス〉」

 冥界に咲く花がタルト、シャルロット、フランを襲う。

「〈ジェラート〉」

 突如にして刹那、巨大なジェラートが出現。

 ジェラートで植物の攻撃を打ちのめすつもりが、全く歯が立たず。

今度こそ三人を襲う。

 「ぐはっ……痛い痛い痛い。凄い威力です。タルト吃驚しました」

 「ぐぉっ……痛い痛い痛い痛い。そう簡単に勝てないか」

 「かはっ……! 痛い痛い痛い。やるね」

 三人はそれぞれ攻撃をくらい、血を吐きながら。
 お腹に大きな穴が空きながらも、余裕らしく。

 ーーー何処からともなく現れたスイーツを口にして。

 するとみるみる内にお腹に空いた穴が塞がっていく。

彼女らの能力によるものだ。

「このタルト美味しいです」

「このシャルロット甘い」

「この旨さ好き。これでやれる」

 その光景を見ていた植物使いは呆然としていた。

はっと我に返った植物使いは。

  「冥界に咲く花であれ程の傷を与えたはずなのに…」

 「今、スイーツを食べて···何と奇妙な能力を使う奴らだ」

驚きを隠せない様子。

「私も行かせていただきます」

 そうーーーマカロンが宣言すると。

「〈ホイップハリケーン〉」

 突如虚空から滑らかなホイップクリームが出現して。

 ホイップクリームがどんどんと大きくなり、軈ては竜巻となってしまう。
 ホイップの竜巻を、植物使いの中心に襲わす。

 迫るハリケーンを前に、男が技を発動。

「植物術〈無効の薔薇〉」

 岩場に突如薔薇の防壁が出現した。

ーーーただの防壁ではない。

 どんな攻撃も無効にしてしまう防壁だ。

 しかし無効の薔薇をもってしても食い止めきれず。

 ホイップの竜巻に包まれた相手チームは、くるりくるりと回される。そして力無く岩場へ落下していく。

 岩場へ激突し、五人は頭や口端から血を流す。

ーーー透かさずその中の一人が。

 「しょ……しょく……ぶつ術〈癒しの植物園〉」

 突如岩場から植物が生え始めた。

 周りの岩場からも同じように植物が生えていく。

 五人を囲うようにし、一種の植物園を作り出した。

 その植物園の力によって、全員の傷を癒す。

 完全復活を見計らい、シャルロットが仕掛けた。

「〈バニラビスケット〉」

  突如にして刹那ーーー虚空からバニラビスケットが出現。

 幾多ものビスケットが相手の足元、頭上へと飛んでいく。

「何かしらね?」

「分からないが避ければ···」

 とアルとリガーが避けようとした瞬間ーーー

爆炎と共に爆ぜた。

「ーーー」

 二人は声になら無い声を上げ苦しむ。

 爆ぜた衝撃で脳は溶け、足、身体、頭迄もが破砕していく。

ーーー残り三人。

 先の攻撃を防いでいた三人は、それぞれ仕掛ける。

「植物術〈人面樹〉」

「植物術〈世界樹〉」

「植物術〈植物ラクサ〉」

 植物使いの男の片方が、全長三十八メートル程の人面植物を出現させた。

そして相手を襲う。

 もう一人の植物使いの男は、巨大な木を生やす。
 生えた木ーーー世界樹が、上空へ質量を無視して飛ぶ。

 リーダーの少女は、近付くだけで死を招くイラクサを出現させたる。

 巨大で強力な毒で少女達を襲う。

三つの強大な技が六人を襲う。

「「「〈ショコラエタン〉」」」

「〈ジェラート〉」

 ロワ、フィナ、タルトの三人が、岩場全域にチョコレートの池を作り出す。

 同じくフランが、上空に巨大なジェラートを出現させた。

 そのジェラートで打ちのめそうとしーーー

 が、どれも効果が発揮できず、負かれてしまう。

今度こそ六人を襲う。

 これはヤバいと思い。そう思った瞬間ーーー

「〈デクペビスキュイ〉」

突如虚空から生地が現れた。
 そしてシャルロット、マカロン、フランの上へ。

生地の上から型抜きをする。

 型抜かれた三人は、攻撃を食らわずに済む。

 その代わり残りの三人は、攻撃を食らう。

「ーーー!」

死の植物に噛み砕かれたロワ。
 植物の口元からは、少女の血だけが覗かす。

 背を向けて逃げるも、フィナは既に逃げきれず。
 巨大な樹の腕が、容赦なく叩きのめす。

「げほっ……ごぼぉっ……」

勢い良く正面へーーー

 身体を叩きつけて、口端から血を流した。

 身体はぐしゃぐしゃになり、肉片が彼方此方に飛び散った。

タルトは空を見上げた。

そこには間近に迫る死の凶器が。

軈て轟音が広範囲に広がる。

ーーー少女は押し潰されて

 原型が定まらない程に、無惨な姿になってしまう。

 「何だと!? あの攻撃で残滅したはず」

 「おいおい、何かの悪い冗談だろ···」

「その方が嬉しいのだけど…」

 型抜かれた三人は、当然傷一つ無い。

 あまりの衝撃に、開いた口が塞がらずに。

 「そう簡単には食われてあげない」

 「ーーースイーツこそ最強です。勝つのは無理です」
 
 「三人減ったからって、勝機無いから」

 喋っている内に、三人は元通りの姿に戻った。

 「ハアハア。次で決めたいのだけど」

「長引かせたくはない」

 「こんな甘くないスイーツは嫌い。だから···ハアハア。早く終わらせよう」

ーーーリーダーの息遣いが荒い。
 他の二人も同じく、息遣いは荒く苦しそうだ。

 焦りと不安が、彼らの判断をも誤らせてしまった。

「愚かです。
      〈ラメゾン・ガトー〉」

ーーー彼らは踏み込む。

 と次の瞬間ーーー踏み込んだ岩に突如として刹那にお菓子の家が建つ。

 「焦り過ぎた。こんな罠に嵌まるなんて…」

 「私もそうよ。リーダーとして失格」

「こっから早く出んとヤバい」

 閉じ込められた三人が、愚かさを痛感していると。

ーーーお菓子の家が三人を襲う。

 否ーーー違う。家の中のお菓子達が、彼らに食らいつく。

「仕上げにしよう
         〈モンドドゥー〉」

 お菓子の家が霽れ、次に現れたのは。

 嶽麓島ハリム全域が、お菓子へと変化していた。

 口端、肩、脇腹、胸、背中、足、と至る所から溢血する。

 そんな彼らを、お菓子が一斉に食らいつくす。

「ーーーっ!」

「ぐぅっ……」

「ゲホッ……」

 止めを刺された三人は、大量に吐血し、傷口から血がどんどんと流れ出す。

 力は抜け、その場にぐったりと倒れ込む。

「終わったです」

「まあまあな味だったね」

「予想してたより梃子摺った」

勝利に酔う三人へ。

 『パティスリーの皆さんも出てきてください』

 流れましたアナウンスに従い外へ出る

 既に他の人たちは並んで待ってる為、三人も急いで並ぶ。

 「改めまして! 勝者はチーム〈パティスリー〉の皆さんです。お見事でした」

 「ありがとうです。勝てて嬉しいです」

 勝利を讃えられ、マカロンはニカっと笑う。
 
 「続きまして、終始不調なチーム〈植物使い〉の皆さんはここ迄です」

 「まさかスイーツに負けるとは思わなかった。スイーツは好きだけど、もうみたくない」

 敗者へ向けられた言葉に、唇を噛む。

 「久々にお腹が満たされたです。ありがとうです。仲良くしてです」

 「あんなんで満たされるなんてね。勿論、良いわよ」

ーーーお互いに言葉を交わす。

 友情が芽生えたところで、握手を交わす。

 それに合わせて他のメンバーも握手を交わす。

 こうしてBブロック四日目の午後の試合は終わりを向かえた。
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