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2章 怨みの象

41話 同盟!?

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 海底に差し込む陽が、朝を知らせる。

 その差し込んだ日差しに、重たい目蓋をアミリは強引に醒まさせた。

 「ふわぁーぁ。え~と。も、もうこんな時間じゃない」

 上体を起こし、伸びをして起き上がると、ホテル備え付けの壁掛け時計に目をやる。

時刻は八時を廻っていた。

 「アミリちゃん、おはよう。ぐっすり眠れたみたいだね!」

 「アミリ、おはようですの。朝ご飯もう済ませちゃったですの」

「アミリ、おはようございます」

「アミリ、おはよー」

 ーーー私が目覚めたのに気付いて、挨拶してくれた。

ーーーだから。

 「み、皆おはよう! ヒョウガ先輩も寝坊してるんじゃないでしょうね?」

 「お寝坊さんはアミリだけですの」

「朝早くに出掛けたみたい。私も見てない」

 「ですが、あのメイドさんがそう教えてくれたみたいです。どこ行ったかは知らないみたいですが…」

 顔を未だに見せないヒョウガに、呆れた様子のアミリ。

 それをアーティナが、アミリへしっぺ返しを喰らわす。

 ーーーどうやらヒョウガは、何処かへ出掛けたらしい。

 (こ、こんな朝っぱらからどこ行ってるのよ)

と、アミリが思っていると。

 コンコンと、ドアをノックする音がし…
 入ってきたのは小柄なメイドのロコだ。

 「お目覚めになられた様ですね。お嬢様! 朝食をお持ちします」

 と言い残し、一旦ロコは部屋を出て、少しして朝食を手にし戻ってきた。

 気が付くと、アミリのお腹がリズミカルに鳴り出す。

 なのでアミリは、テーブルの方へと移動する。席に着くや否や食べ始める。

 ーーー朝食の内容は、デニッシュに、サラダと茹で卵だ。


 「こ、このデニッシュ、卵とバターの量が私好みね。それに、しっとりふんわりしていて美味しいわね」

 と絶賛らしく、あっという間に間食し、

 「サラダと茹で卵も美味しいわね」

 残すことなく食べ尽くすと、少し休む。

それから歯磨きと洗顔を済ます。

それから皆のところへ向かう。

 「今日はヒョウガ居ないし、どうする?」

 「ワタシは行きたいところがあります」

「ウチもあるからそこ行くよー」

 「うん、分かった。アミリちゃんとアーティナさんはどうする?」

 揃ったところでそう切り出すカナミに、ミューフィとサラは決まってるらしい。後の二人にも問うと。

 「アタシはゆっくりしてるですの」

「べ、別に用事なんてないわよ」

二人とも無いらしい。

 ミューフィとサラは親と会うようで…
 既にカナミとアーティナは、試合後に其々近くまで来ていた両親と話していた。

 コロシアムを先に出ていたアミリも、タイミング良く出てきた両親と言葉を交わしていて。

 この場にいないヒョウガも、試合後直ぐに伝えに行ったのだが。

 後の二人は、親の都合上出来ていない。

 二人以外の家族は、前日に現地入り出来たが、二人の家族が着いたのは二日ほど遅かったから。

「では、ワタシは行ってきます」

「ウチも行ってくるねー」

 ミューフィとサラは其々支度を済まし、ホテルを後にする。

 残された三人は、部屋の中でゆっくりと過ごすことに。

それから少しの間を経て、

 「そう言えばさ、アミリ。ヒョウガとは何の進展もしてないんですの?」

 「わ、悪い? どうせ私の気持ちなんて伝わらないわよ」

 「それは無いんじゃないかな? 想い続けてれば、きっと伝わるからね! それに…」

 途中迄言い掛けたカナミだったがーーー

 「ううん。何でもない。進展無いならさ、ほら! 今度遊園地にでも誘ったら」

と言って誤魔化す。

 「良いアイディアですの。二人の仲が急接近すること間違い無しですの」

 「ホ、ホント!? それなら誘って上げても良いわよ」

 「ホントなのじゃ。妾もその時は行くのじゃ」

 「うんうん、そうして···って、え!?」

 加えてアーティナに、上手いこと言われ、デートの誘いをすることに。

 然り気無くそこへ、リーフが混ざり混む。

 違和感を覚えたカナミが、暫くしてリーフの存在を確認した。

 「何時から其処に居たんですの?」

 「アミリとヒョウガが進展してないって所からなのじゃ」

 「ーーーそ、それって全部じゃない!? 悔しいわね…気付けなかったなんて」

 思いがけぬ返答に、悔しい表情を滲ますアミリ。

 「ほらほら、あの時じゃ。サラとミューフィが出掛けたのと擦れ違いなのじゃ」

「ああ、あの時ね」

「な、成る程ね」

 リーフの説明により、謎が解けて。

 「そんなことより、ヒョウガは未だ帰ってきてないのじゃ?」

 「未だですの。何処迄行ったのやら」

と言う疑問だけを残して。






━━━━━━━━━━━━━━━


 ミューフィは一人街を歩いてると、待ち合わせ場所へ到着する。

 その場所は、ルポ·スィエルエトワレと言う喫茶店。

 そこへ遅れてやってきたのは、兄のフィーデルと妹のルーゼだ。

 「待たせてすまない。もう少し早く着くはずが、迷ってしまって」

「お姉、ゴメンね」

 「大丈夫です。お兄さん、ルーゼ。ワタシも来たばかりですから」

 フィーデルとルーゼの陳謝に、必要ないと言い返す。

 「それじゃあ、少しお茶でもしないか?」

「では、そうしましょう」

 と言うとこで、喫茶店へと入店する。

 ウエイトレスに案内されたのは、両方がソファー掛けの席で、早速腰を下ろす。

 「好きなものを頼んでもらって構わない」

「ありがとう」

「ありがとうございます」

 優しい兄の言葉に、妹たちは甘えることに。

 「ワタシはローネルティーにします」

「私はリューシュカにしよっと」

「じゃあ、決まりのようだね」

 注文も決まり、近くを通りかかったウエイトレスを呼ぶ。

 「アポンティー、ローネルティーと、リューシュカを一つずつ下さい」

 「え~と、アポンティーがお一つと、ローネルティーがお一つ、リューシュカがお一つですね。承りました」

 三人が頼んだのは、ミューフィのローネルティーが赤い甘酸っぱい果実をブレンドした紅茶。

 ルーゼの頼んだリューシュカは、香り豊かなフルーツのフレーバーティー。

 フィーデルの頼んだアポンティーは、程よい甘さの紅茶にドライフルーツの入った紅茶だ。

 店内はそこまで混んでなく、あっという間に紅茶が、運ばれてきた。

早速紅茶を啜り…

「試合はどうだったんだい?」

  「梃子摺てこずることなく勝ちました」

「お姉達凄い」

 「良い仲間を持ったみたいで本当に良かった」

 試合結果を伝えたミューフィへ、二人がおめでとうを伝えると。

「あれは使ってないんだね?」

「はい、大丈夫です」

「なら、良かった」

何やら意味深いな事を言う。

「この紅茶美味しい」

 「ワタシのローネルティーも甘酸っぱいですが、とても美味しいです」

 「僕のアポンティーも中々旨い。仄かな甘みにドライフルーツの甘みが合ってて、好い」

三人は其々感想を言い。

 あまりの美味しさに、ティーカップの中の紅茶があっという間になくなって行く。

完全になくなると。

 「そろそろ出ようか。支払い済ましとくから」

 「それじゃあ、私とお姉は先に出とくね」

 先にソファーから立ち上がったフィーデルが、レジに向かおうとする。なのでルーゼが姉と荷物を纏めて店を出ていく。

 遅れて兄も支払いを済ませ出てきて。

 ここでミューフィは二人と別れた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ミューフィが兄と妹と別れて、
四時間くらいした頃。
 サラも親とテラス付きのレストランで待ち合わせてから。

そこのお店でランチすることに。

 「サラ、一戦目はどうだったんかね?」

 「あんな碌に異能すら扱えないあのサラがね。こんな大きな大会に出られたなんて、母さんとても嬉しい」

 「無事に勝ったよー。むむ。確かに前迄はそうだったけど…大事な仲間のお陰で強くなったんだよー」
 「それに今は異能は使ってないよー」

驚く両親へそう返すと。

 「異能を使ってないって!? じゃあ、どうやって今迄の試合を···」

 「それはねー。妖精を使ってるんだよー」

 「妖精ってまさか!? 成功率が低くて、最悪死者すら出るエアノークを成功させただと!?」
 
 「凄いわね、アンタ。娘が現在一人だけの妖精術師になるなんて、感激しちゃったわ」

 「確かに凄いことなんだけど、改めて言われると照れるよー」

 自分の目の届かない所で、偉大なる成長を遂げた愛娘を尊敬すらしてしまう。

 両親があまりに褒めるから、照れてしまうではないか。

 「さ、勝利記念に好きな料理を注文しちゃいな」

 「わーい。ありがとー。お父さん」

メニュー表に目を泳がすサラ。

暫くして注文が決まり…

 「ウチは、この最上級のシェバ牛ステーキのスープセットにするよー」

「良し良し、じゃあ、頼もう」

 「貴方と似て高いもの頼むんだから。まあ、別に良いけど」

 サラが選んだのは、お高めなやつで、更にプラスでスープまでも付けた。

 暢気な口調の父へ、口を尖らせる母なのだが、止めるつもりはないらしい。

 父が選んだのは、ルーヨンステーキのライスとスープのセット。母は特製のハンバーグステーキのライスセットだ。

 ーーー店員を呼び、注文を済ませると。

 十数分が経て、運び込まれてきた。

 頼んだ料理を其々の前に奥や否や、食べ始める。

ジュワジュワ。がぶっ、

 「んーん、凄く柔らかくて、旨みが凄くて美味しいよー」

ジュージュー、ジュワジュワ。

 「んーん…おお、柔らかくて、歯応えが良くて凄く旨い」

ジュワジュワ。

 「んーん、この特製ダレのハンバーグ凄く美味しい」

と其々が絶賛なようで。

ごくごく。

 「んーん、このポタージュ甘くて美味しいよー」

 ポタージュがどんどんと無くなっていく。

 あれ程あったお肉が、物の数分で少しにまで減っていた。

 その残った少しも平らげてしまう。

 「ふう~お腹一杯。もう何も入らないよー」

「お父さんもお腹一杯だ」

 「お母さんももう何も入らないわ」

あまりの苦しさに、少し休む。

それから父が支払いに行く。

 そのうちに出る準備を済ませ、サラと母は先に店を後にして。

 支払いを済ませた父が、遅れて出て来てから。

 「それじゃあ、次の試合も楽しみにしてる。頑張れ」

「お母さんも応援してるわ」

 「お父さん、お母さんありがとー」

 両親の応援に、力強く拳を握った。そして両親とは別れて、ホテルへと戻ろうと歩いてると。

その途中ーーー

 何処からともなく、攻撃が放たれ…

 咄嗟的に左へ飛ぶことで、何とか攻撃を躱す。

 「一体誰だよー。行きなり攻撃してくるなんて~」

 周りを見渡すが、そこには誰もいない。

ーーー否、違う。

見えないだけだ。

軈てサラの背後に現れたのは。

 狼の面をし、暗い紫のマントをした男。

その男がゆっくりと口を開くと。

「これはあの人の指示だから」

少し時間を遡る。

━━━━━━━━━━━━━━━








サラが両親と会っていた頃。

 丘の上に佇む小さな小屋の中では。

 「急にだが、また動いて貰わなくてはならなくなったのう」

 そう、食事の準備を終えた仲間へ切り出す。

  「お祖父ちゃん、どうしたの? そんな焦らせて」

 「それはのう。また頼まれてのう。今度は彼らにとって大事な仲間を狙えと」

「大事な仲間?」

 祖父の返答に、クエッションマークを浮かべる。

 「そうそう、妖精使いの娘だのう。放っておくと、厄介なこたになるからとのこと」

 「それでリュードさん。また僕に行けと」

「無理にとは言わんがのう」

「否、別に良いんだけどさ」

 説明を終えたリュードがそれを渡す。

 受け取ったレクトが、大事そうに懐に仕舞う。

 「それにしたも、何様のつもりなんだろうね」

「ホントそうだな」

 「んだ。一々お祖父ちゃんに強請ねだってくるなんて」

三人の孫は、其々不満をぼやく。

 そして食事を済ませ、実行に移す。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


そして現在。


「これはあの人の指示だから」

 「あの人って、もしかして元学園長でしょー」

 「···まあ、そう言うことにしといてしといて良いさ。だってここで終わるんだからさ」

 思い当たる節を口にするサラへ、気掛かりな言い方でし…

 「どうして、どうしてウチを狙うのー」

「ーーーそれは言えない」

 疑問を問いかけたサラに、何かを隠す素振りを見せてから。

再びレクトは、高速で動き出す。

 「こんな街中でやるなんて、怪我したらヤバいよー」

 そんなサラの喚きに、見向きもくれず。

 ーーー迫る殺意を前に、サラが動く。

「エアノーク!!」

 そう叫ぶと、目の前に真っ白な妖精が出現。

 目にも止まらぬ速さで移動する相手が。

音もそして気配もなく近付くと。

レクトがサラの懐へ飛び込む。

「剣技〈雷霆斬り〉」

 激しい雷を発生させ、上空へと斬りかかりーーー

 ギリギリの所で、後ろへ大きく飛ぶ。

 当然ながら躱されたが為に、雷の斬撃は空振ってしまう。

 「まさかあんな至近距離なのに、避けられるとは思わなかった」

そう呟くと、再び姿を消す。

 ーーー身構えたサラは、ただ攻撃を待つ。

すると空気が一変し…

 何時の間にか、サラの目と鼻先に現れると。

ーーー次の瞬間。

「剣技〈空覇翔乱舞〉」

サラの懐へ斬り掛かる。

 怒涛の斬りつけによって、乱舞をお見舞いするのだが。

「妖精、何とかしてー」

「はい、マスター。
           〈ロテーア·アーラ·コアカルセ〉」

妖精は呪文を唱えた。

 すると、突如虚空から妖精たちが出現。

 妖精たちの大きな翼が、斬撃を打ちのめす。

「チッ、また防がれた」

 狼の面の向こうで、無表情に舌打ちをしてしまう。

 ーーー中々強いよー。けど負け=死だから嫌だよー

 だからサラは、内心で闘志を燃やす。

 「攻めてこないなら、またこちらから行かせて貰うけどさ」

 と言って、またも姿を消してしまい。

 先程と同じく、音も匂いもしない。

 風の音すらもしない。ーーー否、しないようにしているだけだ。

 恐らくは魔法か何かによるものだろう。

軈ては切れ目が見えると。

 現れたサーベルの斬撃を、ギリギリの所で躱す。

「妖精、行けー」

「はい、マスター。
          〈メラーム·ムール·ミワンフェ〉」

 突如、レクトの周囲に妖精の国が出現。
 幾多もの妖精が、レクト目掛けて容赦なく飛んでいく。

 サーベルで斬っても斬っても斬り斬れず、気付いた頃には全てを食らった後だった。

 ーーー身体からどんどんと喀血する。 

そう勝利を核心目いていると。

 流れ出た血が、レクトの体内へと戻っていく。

「中々やる」

 「あんなに死にそうだったのにー」

「ーーー能力さ」

驚くサラへ、隠すことなく話す。

続いてレクトが動く。

先程より更に高速で動き出す。

 感覚を研ぎ澄ますも、一向に反応を見せない。

 気付くと、サラの数メートル先に姿を現す。

漆黒のサーベルで技を発動。

「剣技〈黒氷魔刃〉」

 漆黒のサーベルが突如、暗黒の冷気を帯びた。

そしてサラへ、連続攻撃を放つ。

「妖精、何とかしてー」

「はい、マスター。

          〈クラム·テーイ·バーリア〉」

妖精が呪文を唱えた。

 すると、連続攻撃がレクトへと戻った行こうとするが。

 途中で引き返し、今度こそサラの方へ。

 斬られたサラは、冷気によって凍り付く。

 ーーーこれは不味いよー。このままじゃ、砕け散っちゃうよー

 今にも砕けようかとしていたサラ。このまま消えて死ぬのか、そう覚悟を決めると。

 「砕けても私が何とかします。だから、安心してください。
             〈エブノ·ビーニャ·リアンセ〉」

ーーー妖精が救いのてを。

 砕け散ったサラの粒子を、再び構成していく。

 相手は既に死んだと思い込んでるようだ。

 死んだとは思えない程に、完全な形へと戻っていく。

「あれ? 戻ったよー」

 自分の存在を確認したサラは、泣きながら喜ぶ。

「ありがとー。本当凄いよー」

 「マスターの為なら、当然のことです」

ーーー感謝を伝え終わると。

 勝利に酔うレクトへ、一撃を放つ。

「〈エアラ·ノケー·ディブル〉」

 巨大かした妖精が、その手でレクトを叩き潰す。

そこで漸く気付くが、既に遅い。

 「ぐはっ……まさか、消滅したはずなのに……復活してたとさ」

 口端から血を垂らし、体内から勢い良く喀血してしまう。

 先程の能力を発動することも出来ず。

これ以上はヤバいと悟り、

 「一度帰ると…しよう……次で決める」

 などと言い残し、姿を完全に消す。

「はあはあ。勝ったよー」

「勝てて良かったです」

と言うと妖精と拳を交わした。
そして妖精は姿を消す。

今度こそ戻ろうとしていると。

 柔らかい声音が、後ろから聞こえてから。

 「貴方ももしかして狙われていたのですか?」

 「え~と、貴方は···どっかで見覚えあるんだけど」

 見覚えのある顔だからか、相手の問いかけを無視して考え込む。

 「あ、初対面に失礼でしたね。カルナ·ルナです。それで先のが…」

 「個人的に見かけただけかー。ウチはアキラ·サラだよー。突然襲われたんだー」

 一言謝罪をし、ルナは名を名乗り、同じくサラも名を名乗ると。

 「この前殺された"彼〝と同じ理由ではないようですね」

「心当たりないよー」

 「そうなんですか。何にせよ、ヒョウガの予想通りと言うことですね」

 ルナの言葉に、ふと気になる点が。

それはーーー

 「ヒョウガ先輩の予想通りって···どっかで会ったのー?」

 「偶々図書館であっただけですけどね。そこでお喋りしてるうちに」

「そうだったんだねー」

 「『俺や仲間が狙われないとも限らない。天使使いやその事を知る仲間が居るんだから、恐らく仕掛けてくる』と言ってましたから」

 吃驚仰天するサラへ、説明をする。

そして奥歯を噛み締めたルナは。

 「奴らだけは···奴らだけは許せないです。生かしておけば今度こそ彼みたいに…」

「ーーールナさん」

 怨嗟の声を発するルナに、言い返せない。

 ーーー無理もない。次も防ぎ切れるかすら分からないのだから。

 「次も上手く行くかは分からない。けど、殺すのは、最終手段で留めておきたい。先ずは捕獲だよー」

 「聞き出せるものがあるって言うなら、そう言うのも手ですね。駄目だったら直ぐにでも」

 「うんうん、次来たら絶対捕まえるよー」

 必死のサラの訴えかけで、根性負けしたルナが、肩を竦めて言う。

 「背後にはやっぱり元学園長セロラン·リュードが····」

「···うん、多分そうだよー」

 ーーー何か引っ掛かるんだよなー。あの狼の面の男が言ってたいたこと。

 と、内心で疑問を抱くが答えが出ず。
相手の真偽すら疑わしい。


 「では、ここらで失礼させて貰いますね」

「うん、またねー」

 別れを済ますと、ルナは露店商の方へと去っていく。

 遅れてサラも、ホテルへと今度こそ戻っていく。


丘の上に佇む小屋のなかでは。

 椅子に腰掛け、レクトは治療を施されていた。

 「良し、お仕舞い。それにしても負けて戻ってくるなんて情けない」

 「一度は完全に殺ったんだけどさ。蘇ったんだ、それで油断してただけさ」

 「死んだ人間を蘇らせれるなんて、妖精に出来るとか聞いたこと無い」

 レクトの治療が終わると、負けた起因を言い訳し始めて。

 孫たちは信じていない様子だが、リュードだけは信じてくれるらしく。

 「あの男の仲間じゃからのう。出来ても可笑しくない」

 「それもそうだね♪ お祖父さん害うんだから間違えない♪ 次は勝ってきて。けど、まあ身体は休めといて」

「そうさせて貰うさ」

 優しくネチスィアが声を掛けると、レクトはベッドの方へ移動し、そのまま眠り込む。

残された後の四人は。

 「とは言え、向こうは警戒を強めてくるのう」

「そうだね♪ お祖父さん」

「そうだな」

「うんうん」

 警戒をある程度されることで、剣呑な状況になるから。

 「一先ず今の作戦が終わるまで、行動を少し控えようかのう」

 「そうだね♪ 何かあったら困るし」

「そうだね」

「そうださね」

こうして話し合いは終わった。

━━━━━━━━━━━━━━━


ホテルへ戻ったサラは。

 部屋へ戻るや否や、カナミ達に先のことを話す。

 「大変だったね。それにしても、サラちゃんが襲われるなんて」

 「ホ、ホントそうね。どういうつもりなのよ」

 「サラを襲った男って、この前の事件と同一人物ですのね」

 「死ななくて、本当に良かったです」

  サラの話を聞いて、それぞれが多様な反応を見せ…

「一度本当に死んだよー」

 「と言うことは、今ここにいるのは、幽霊ですの?」

 ぶるぶると震え始めたアーティナへ、サラが。
 
 「違うよー。何か妖精が凄い力で蘇らせてくれたんだよー」

 「そ、そんな凄いことが出来るよね! にしても、本格的に動き始めたわね。絶対に許さないわよ」

 「本当そうだよね。折角の大会なのに、邪魔してくるなんて」

 ホッと安堵したアーティナを他所に、二人は怒りの炎を燃やす。

 「ですが、暗殺に失敗したことで、少しでも動きが弱まると思います」

「暗殺···それは助かるよー」

 「つ、次来た時は私が守ってあげるわよ」

 相手の心理を見透かすミューフィに、サラは胸を撫で下ろす。

 次の襲撃時に心強い仲間が付いた。

そしてヒョウガのことも話す。

「へぇ~図書館に行ってたんだ」

「まだ向こうにいるんですの?」

「そこまでは分からないよー」

 居場所が分かり一安心するアミリ。
 それと同士に、今だ戻らないと迫とに不安視する。

 ーーー無理もない。サラの一件があった後なのだから。

 「敵地に一人乗り込むタイプじゃないから、そこは安心ですの」

「そんな馬鹿じゃないしね」

「気儘に待ちましょう」

 三人に励まされ、平静さを取り戻す。

 それからゆっくりと時間を過ごす。

 カナミ達がゆっくりと寛いでる内に、彼方此方で共闘同盟が組まれることに。

 チーム〈氷炎の虎〉が白狐のリーダーと手を組む。

 他にも、〈睡眠亭〉と〈アンゲルス〉。〈鳩族〉と〈雷神〉がそれぞれ組んだ。

その中で特に目だったのはーーー

 「あの、宜しければ貴女方のチームと同盟を結びたいんですけど」

 ショコラブラウンのヘアの少女、マカロンが、声を掛けたのは。

「はい? 私たちとですか??」

 「ゼレリアお姉様、この人見たことあるです。美味しそうなチームの」

 突然の呼び掛けに驚く少女ーーーゼレリア。

そんなゼレリアへ、説明を挟む。

 「ああ、あのお強いチームの。大丈夫ですよ。喜んで」

 今この時ーーー強い同盟が結ばれた。

 そしてメンバー登録を済ませ、正式加入を済ます。

 何と一日にして四つの共闘同盟が結ばれた。

 そうとも知れずに、部屋で寛ぐカナミ達の元へ。

  トントンと、ノックする音が聞こえ…

開け放つとそこにいたのは。

 「ここにアリマ·ヒョウガと言う奴が居るはずなんだが、居らんか」

 海底楽園都市代表で、混種多族のリーダーーーーグレナであった。

 「ヒョ、ヒョウガ先輩に何のようよ」

 「アタイらのチームにスカウトに来たのだ。あの槍は始めてみたが素晴らしいものであった」

 「ヒョウガなら居ないよ! それにスカウトなんて断ると思うけどね。分かったら、帰ってね」

 スカウトしに来たグレナに対し、悪し様に遇う。

 「仕方ない。どうしてもことはルと言うなら、諦めよう」

「良かったです。諦めて貰えて」

「その代わり···」

と一拍子開けると。

「ーーー貴方の方を頂く」

そうカナミに向けて、言い放つ。

 予想だにしていなかったが為に、少しの間が空く。

 「あの強さなら、アタイらのチームに相応しい」

「お誘いは嬉しいんだけどね…」

「よし、決まりだな」

 「ゴメンね。私は行くつもりはないの」

とキッパリと断ると。

 「折角機械を与えてやったと言うのに、無駄にしやがって···良い返事が来ると思っていたのに···」

落胆したグレナは踵を返すと。

 「なら、試合で当たった時に、叩きのめす。それ迄は負けるな」

 顔を見合わせぬまま、宣戦布告をし、その場を立ち去った。

「面倒事が増えたね」

 「引き抜きたくなるのは分からなくもないですの。勝てば良いだけですの」

 「そ、そうよね! 勝てば良いのよ、勝てば···」

 少し嫌そうなカナミに、納得な様子の面子。

 宣戦布告されたことで、ヤル気を漲らせる。

 「二戦目も勝たないといけません。必ずどんな相手だろうと、勝ちましょう」

「勝つよー」

と意気込む。

再び部屋の中で寛ぐ。

 「そ、それにしても、全然帰って来ないわね。ヒョウガ先輩···」

呟いたアミリは、訝しんだ。

ーーーその訝し気持ちを。

 「大丈夫ですの。きっと未だ図書館ですの」

「それか一人で遊んでるとかね」

 「それは有り得ますね最近忙しくて、一人になれてなかったでしょうから」

「そうだよー。きっと」

 正解かどうかは分からぬが、勝手にそう結論付けていく。

 とは言え、アミリの不安な気持ちが霽れた事には違いない。

 カナミ達はただただヒョウガの帰りを静謐に待った。

 街中を歩いていた少女は、偶然にもヒョウガの姿を見かける。
 更に別の少女も、偶々歩いてるとヒョウガの姿を見掛けた。

 アミリの単なる危惧でしかなかったらしい。

 その彼が、また何処かへと向かう。

 向かっている最中にある人物とで会い。
 その人物に言われるがままに付いて行く。

 その様子を窺っていた不審な人物もこっそりと後を追い掛けて行った。


━━━━━━━━━━━━━━━━

古代都市内にある遺跡の中。
そこへ連れてこられたヒョウガ。

 前に海底王の槍を手にした場所と同じだ。

 「こんなところへ連れてきて、一体どういうつもりだ?」

 警戒心を抱くヒョウガ似たいし、そいつはくるりと振り返ると。

 「自己紹介がまだだったナ。ゴメン。別に怪しい者ではないから安心するのナ」

とそこで一旦区切ると。
 
 「アタシの名前は、クロス·ルーミラン。チーム〈蟻地獄〉のリーダーだナ」

 「そんで、そのクロスさんが何の用だ?」

「それはナ···あっ!」

「···?」

 何かを言い掛けて、しかし途中で別のものに気を取られてしまい。

その別のものとは。

「貴方の天使、凄く可愛いナ」

「見えるのか? でも…」

シナモンで。

 しかし何故見えるのか分からない。

 そんなヒョウガの疑問が、次の瞬間に一気に晴れる。

 「同じ天使使いなんだから、見えて当然」

 何処からか声が聞こえてきてきた。

 ーーー声の持ち主が、軈て姿を表す。

そこに現れたのは、一匹の狼。
 ただの狼ではない。その証拠に背中には羽を生やしているのだから。

 「ん…!? そう言うことか。納得したぞ」

「それでなんだけど···」

 理解したヒョウガへと、何かを言おうとするのだが。

 「ふっ、間に合ったか。危うく我の邪魔をされるところだった」

「「誰?」」

 第三者の介入に、ヒョウガとルーミランの声がハモった。

 「何だ、下界の人間は我のことを知らぬか? 我は、トラニア。トラニア·リル·イネルスだ。チーム〈竜召喚〉のリーダー」

 トラニアが二人へ名乗りをあげると。

「そして貴方らと同じだ」

「同じってことは、貴方も···」

 ルーミランが言い終えるよりも先に、それが姿を表す。

 右半分が闇色に染まり、もう半分が光色の人型天使だ。

 「彼もこの見た目だが天使だ。それより何故貴様がここにいる?」

 とヒョウガの隣のルーミランに目を向け、そう呟く。

「貴方の方こそ、何の用?」

 「貴様こそ、どういうつもりだ?」

 「アタシの用だけど···」 「我の用を言い忘れておったな」

と、そこで一呼吸置くと。

 「アリマ·ヒョウガ。貴方をスカウトする事なのナ」

 「アリマ·ヒョウガ。貴様を引き抜くことだが」


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