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2章 怨みの象

42話 古代遺跡の争奪戦

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 静り返った遺跡の中では、少女二人の声が響き渡っていた。

 少しのし沈黙を開け、茶髪の少年───ヒョウガが口を開くと。

 「その気持ちは嬉しいんだけど、どちらのチームにも行くつもりはないぞ」

 「何!? どうしてなんなんだナ?」

「何故我の誘いを断る?」

 拒否された二人は、理解が出来てない様子。

 「今の仲間で勝ち上がりたいし、離れたくないからだ」

 「そうなんだナ。けど諦めたりしないからナ」

 「強いチームではあるが、我たちとして、何時躓顚ちてんするか分からない。だからその前に力を貸して欲しい」

 二人の意思は頑なで、一歩も引こうとしない。

 「それに貴方の天使とても可愛いのナ。是非触れ···仲良くなりたいんだナ」

うっかりと本性を表す。

 「アリマ·ヒョウガ。貴様が竜召喚に加われば無敵だ。更に優勝に近付ける。悪い話では無いのでは無いか?」

 拒否されたにも拘わらず、無駄な抵抗を見せる。

「そう言われてもな···」

困り顔のヒョウガへ。

 「──そうか。よく分かった。力尽くで手にする迄だ」

「アタシが先に目を付けたんだから、邪魔は許さないんだナ」

 「だから···人の話をちゃんと聞けって···」

 言い合いを始める二人に、ヒョウガは止めに入るも聞く耳を傾けない。

 「済まんな。吾の主の見苦しい姿を見せてしまって。とても大変だ」

 「己の主も大変で困る。其方の方と変わらない」

 「貴方達は大変だね。シナモンの所はそんなこと無いもんね」

 三人の会話を他所に、天使達が愚痴を溢す。

 ただ一体──シナモンだけは無いとは言うが。

 「時々忘れられて放置されるだけだもん」

 ヒョウガへ向け、強い視線を送る。

 その視線に気づいたヒョウガは、ゴメンとジェスチャーで伝えた。

 言い合いが今だに続き、一向に終わりか見えない。

痺れを切らした少年は。

 「別にどっちよチームにも入るつもりはない。どうしてもって言うなら、俺に勝ってから言え」

 挑発とも取れる発言に対し、二人の少女はお互いにかおを見合わせると。

「ふっ、良かろう。それで気が変わるならお安いご用だ」

「アタシもそれで良いんだナ」

ヒョウガの誘いに乗っかった。

 こうして、古代遺跡を舞台にした天使使い同士の戦いが始まろうかとしていた。


━━━━━━━━━━━━━━

丘の上に佇む小屋の中。

 傷口が完全な迄に塞がった茶髪の少年──レクト。

「目覚めたようじゃのう」

 ベッドで目覚めたレクトへ、声を掛けてきた老夫──リュード。

 「さ、これからのことを話そう♪ 早く早く」

 そう急かすのは、ベッド脇からピョコンと飛び出てきた少女──ネスィチアだ。

 「姉さんの言う通り、そうしよう」

「そうさね」

 お茶を沸かし、此方へとやってきた双子の少年──マルとオム。

全員が揃うと、席に着く。

──席順は、小屋の入り口から見て右。奥からオム、リュード、ネスィチア。反対側にマルとレクト。

 席に着くや否や、熱々のお茶を少し冷ます。

 そして少しずつ口に運んで飲んで行く。

 「頼まれた件は済ませてからの方が良いのう。それが済んでから、HG作戦とTM作戦に入ろうかのう」

「HG作戦は任せてね♪」

 「お祖父ちゃんに良いところ見せないと」

「成功させる」

 今後の動きを話すリュードへ、孫達は意気込む。

 そんな孫達へ、「一つだけ」と何やら伝えたいことがあるらしく。一旦区切ると。

 「どうしても避けたいことがあるのう。二人の天使使いとは組んではほしくないのう。邪魔をしてくるからのう」

 「確かに邪魔されるのは嫌だね♪」

着実にフラグを立てていく。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

そのヒョウガ達の方は。

──薄暗い遺跡の中。

 ヒョウガにとって意味をなさないであろう戦いが開始された。

「奥義〈蟻地獄〉」

 愛用の杖を石段に突いたルーミラン。

すると蟻地獄が発生した。

 ──二人は勢いよく飛び上がる。

 高く高く飛び上がったトラニアが。

「〈龍召喚〉」

と叫ぶと。

 全身を黒で統一された巨大なドラゴンが、虚空から姿を現す。

 その龍がヒョウガとルーミランに炎の息吹を吐く。

 迫る炎の息吹を前に、ヒョウガが動く。

「海底王槍術〈大波結界〉」

──海底王の槍を大きく回す。

 すると大きな波が起きる。それが結界となって、炎の息吹を打ち消す。

 「ふっ、流石は我が見込んだだけのことはある」

 「手始めで此だから期待出来るんだナ」

 「ん…そうか? 貴方たちも中々のもんだと思うぞ」

 「そんなこと言われたって、嬉しくなんか無いんだナ」

「当然のことだ」

 二人の言動が明らかに可笑しい。

言っていることと逆だ。

 「そんなことはどうでも良い。今度は此方から行く」

 頭をぶんぶんと振り回し、無理矢理戦いに戻す。

「〈業火〉」

 そう叫ぶと、黒龍が業火の炎を吐く。

「奥義〈蟻地獄〉」

 杖を石段に突くと、上空に蟻地獄が発生し、吐かれた業火を呑み込んでいく。

 少し距離を取っていたヒョウガの足元にも発生するが。

蝶の舞の如く躱して行く。

そして──

「海底王槍技〈海鳴槍波撃〉」

 突如地面から荒れ狂う波が出現。
 虚空に氷と雷が生じ、槍へと降り注ぐ。

 それを帯びた槍は、波諸とも相手へ突き飛ばす。

「黒龍、受け止めろ」

 指示を受けた龍が、巨腕で受け止めようとするが。

「──何!?」

 受け止めきれず、巨腕に風穴が空く。そして退け反り返る。

 「古代武器なだけあって、威力が違いすぎる」

そう口にしていると。

 龍の負傷した両腕がどんどんと傷口が塞がって行く。

「回復が早いのだナ!?」

とルーミランが驚く。

 少し経てから、ルーミランが仕掛ける。

「奥義〈全面蟻地獄〉」

 ──突如地面全域が蟻地獄へと一変した。

 透かさず空中へ飛び上がったヒョウガと黒龍へ飛び乗ったトラニア。

 二人は回避したつもりでいるも、その真下に出現し、まんまと蟻地獄に嵌まってしまう。

━━━━━━━━━━━━━━

蟻地獄の中。
落ちた二人。

二人は抜け道を探す。
 しかし、そんな都合良く見つかるはずもなく。

「こんな罠に嵌まるとはな」

 「ん…!? あれは不可抗力だと思うぞ。どうすることも出来ない」

 普段の凛々しい少女から一転、表情を曇らせてしまう。

 そんなトラニアを、直ぐ隣を歩くヒョウガが適切なことを言う。

 直後──此方へと、大量の蟻地獄が勢いよく押し寄せてきた。

 咄嗟的に二人は、お互いに背合わせし技を発動。

「海底王槍術〈海底の波紋〉」

「黒龍、奴等を焼き払え!」

 海底王の槍から、凄まじい勢いで波が前方へ押し寄せてきた。同時に蟻地獄達を突く。

 指示を受けた黒龍が、間近に迫る蟻地獄を一匹残らず焼き払う。

 殲滅したにも拘わらず、またも数多の蟻地獄が姿を現す。

──再び溺れさせ炙るも、直ぐ新しい蟻地獄が出現する。

 「このままじゃ、キリがないぞ」

 「蟻地獄全面を焼き払えば良いのだろう」

「ん…まあ、それが妥当か」

動きが決まると。

 トラニアは黒龍の右肩に飛び乗ると、龍は首を垂らしその上にヒョウガも飛び乗る。

 「それじゃあ」とトラニアが言うと。

「黒龍、全てを焼き払え」

 指示を受けた黒龍が、蟻地獄全面を焼き払う。

 すると蟻地獄がどんどんと霽れて行く。

 しかし、そこにはまたしても蟻地獄が待ち受けているではないか。

「黒龍、再び焼き払え」

 指示を受けた黒龍が、もう一度蟻地獄全面を焼き払う。

 そしてまた現れ、焼き払ってを繰り返す。

 繰り返すことによって、躰への負荷が一層増す。

──すると。

 蟻地獄ではなく、見覚えのある、そう遺跡の中へと戻ることに成功した。

 「流石だナ。こんな直ぐに出て来られるなんて、思ってなかったんだナ」

 「ふっ、あんな小さなものに収まりきるはずがない」

「小さくはなかったけどな」

息を荒くするルーミラン。
 疲れが出始めたルーミランは、素直に驚く。

 トラニアの発言につい突っ込みをいれてしまう。


「んじゃあ、俺から行くぞ」

と宣言すると。

「海底王槍術〈浸食の波舞〉」

槍を掲げて技を発動。

 槍先から深海水が出現し、見る見る内に全域へ広がる。

 軈てそれらが舞う波を起こして、二人を浸食していく。

 疲れが出始めた二人は、判断が鈍ってしまう。
反応した頃には既に遅く。

「ぐぁぁぁ…」

「ぐはっ…」

 二人は呻き声を上げ、踠き苦しむ。

「決まりみたいだな」

 ──しかし、そんなヒョウガの言葉とは裏腹に、二人は回復魔法によって完治していた。

 「まだ大丈夫。大したことないんだナ」

「我も全然平気だ」

 二人は続ける意思があると感じ、已む無く継続されることに。

━━━━━━━━━━━━━━

 ヒョウガの帰りを待つカナミ達。

「陽が沈んできたね」

 「ホ、ホントそうね! にしても全然返ってくる気配ないわね。何処で路草食ってるのよ、もう」

 チラリと窓を見た濃い茶髪の少女──カナミの一言に、黄緑色の髪の少女──アミリの心がざわつく。

 「確かに遅いにも程があるですの」

「探しに行きますか?」

 「ミューフィの意見に賛成だよー」

 金髪の少女──アーティナの意図を汲んだのか、銀髪の少女──ミューフィが提案した。

 それに乗っかる黒髪撫子──サラ。

他の子達は。

 「しょ、仕様がないわね。私も行ってあげるわよ」

 「勿論、私も良いよ。探しに行こっか」

「では、決まりですの」

 カナミ達は身支度を整え、動き出す。

 ホテルを出る前に、予めホテルの人に遅くなるかもと伝え、探しに向かう。

 同じくリーダー不在の蟻地獄の面々は。

「遅いね、ミラミラ」

 とルーミランの親友の少女が呟くと。

 「またどっかで強い男でも引っ掻けてるんじゃない?」

 「フフフ。あ、つい笑っちゃった。ゴメンね。こんな陽が暮れる迄してないでしょ。してるとしたら···」

 「何処かのチームとの交渉に梃子摺ってるんじゃないか?」

「だろうな」

 女性陣の口振りから、普段の彼女が受け彫りにされていく。

 そんな女性陣とは違い、男性陣は正解を口にし、

 「そんな梃子摺るような相手なら、加戦した方が良くね?」

「それは良いね」

「異議はない」

「ああ、俺もだ」

「決定と言うことで」

 急いで身支度を済ませるや否や、ホテルを出てリーダーを探す。

 同様にリーダー不在の龍召喚の面々は。

 「トラニア様のお戻りが遅いですね」

「何処迄行かれたのやら」

 「心配は要らないと思いますが、流石に遅すぎますね」

 「そうだね。もしかしたら厄介ごとにても巻き込まれてたりして」

 「連絡の一つも寄越さないとなると、何かあっても不思議でなかろう」

 戻らぬリーダーへ訝しむ少女達。

 その中の一人が、ソファーから腰を上げ…

 「待っててもダチがあかない。探しい行く」

「それは良い提案ですね」

「御意」

「断る理由はありません」

「では、決まりと言うことで」

 それぞれの賛同が得られ、早速身支度を済ます。

そしてホテルを後にする。

 「こんな時間にあんな大人数で何処へ? 先は蟻地獄で、今のは龍召喚。ただの偶然なら良いけどさ。そう偶然ならさ」

 二つのチームを帰り道で見付け、その理由を考えるも嫌な方にしか思えない。

 しかし偶然だと言い聞かせることでそう思うことにした。

 ──その危惧が現実味を見せ始めようとしてるとも知らずに。


━━━━━━━━━━━━━━

古代遺跡の中。

完全復活した二人が動き出す。

 ルーミランが杖を石段に突くと。

「奥義〈蟻地獄〉」

蟻地獄が発生した。

 勢いよく石段を翔て蟻地獄を回避。

トラニアの方は。

「黒龍焼き払え」

 指示を受けた黒龍が、それを焼き払う。

 ──灼け焦げた蟻地獄は消えていく。

次にヒョウガが技を発動し、

「海底王槍術〈氷海氷柱〉」

 槍を掲げると、突如地面が氷海へ一変した。
 更に虚空から巨大な氷柱が出現。

「奥義〈蟻地獄〉」

 氷海の上に蟻地獄を発生させるが──

 意図も容易く凍り付いてしまい。
消えてしまう。

 「黒龍、氷と上空の氷柱を溶かせ」

 指示を受けた黒龍が、始めに氷海を溶かそうと炎を吐く。

 がしかし、吐かれた炎が一瞬で氷結してしまう。

「何!? そんな馬鹿な!?」

 信じられないと言わんばかりな反応だが、受け入れざるを得ない。

 そして巨大な氷柱が、足場が凍って動けない二人へと落ちていく。

「──!!」

「──ッ!」

 抵抗できぬまま、二人は氷柱を食らい。

躰全体を抉られてしまう。

これで攻撃が終わりではない。

再びヒョウガは技を発動。

「海底王槍術〈炎海炎柱〉」

 槍を氷海の上に突くと、氷海が燃え上がった。

──それも一瞬のことだ。

 一瞬にして氷海が燃え上がる炎海へと姿を変え…

 対応に遅れた黒龍が火炙りにされてしまう。

 ルーミランとトラニアは、跳躍力を生かし、その場をやり過ごす。

 火炙りにされた黒龍は、呻き声を上げて倒れ込む。

 やり過ごしたつもりの二人へ、炎柱が襲う。

 「ごわぁ……熱い熱い熱い熱い。身体が灼けそうだ」

「アタシも同じなんだナ」

 炎柱を食らい、二人は抗力を失って墜落していく。

「···りゅ···う···しょう···か···ん」

 途切れ途切れながらも、そう振り絞るように唱えると。

リヴァイアサンが姿を現す。

 現れたリヴァイアサンは、墜落していってる二人を救う。

 それから燃え上がる海へ向け、水を放つ。
 炎の威力が見る見る内に弱まって行き、軈て海諸とも消えていく。

 そのうちに、二人はそれそれ回復魔法を使う。

「中々やるな」

「ふっ、そうであろう」

 ヒョウガの呟きに、豊満な胸を張って答える。

 リヴァイアサンから降りたルーミランが、二人と距離を離す。

「そろそろあれの出番かだナ」

 聞こえるか聞こえないか判断がしずらい程の声音で、

 「あれ出さないと勝機すら危ういんだナ」

 そう言うや否や、武装解除を行う。

 解除すると、再び武装展開を行い。

 ルーミランの右手に握られていたのは。

「──黒豹」

「黒豹?」

 「古に伝わる古代武器の一つだナ」

 剣全面を黒で統一され、剣柄に豹柄の模様を倣った古代武器──黒豹。

 それを目の当たりにし、トラニアの開いた口が塞がらない。

 ヒョウガはヒョウガで、驚いているご様子。

──無理もない。
 自分と同じように古代武器を見たことが全くないのだから。

 ルーミランとて、他の古代武器を目にしたのは、ヒョウガのが初めてなのだ。
 それどころかあれを見る迄は存在すら知らなかった。

──そう、あれを見る迄は…
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