先輩、擦るだけならいいですか?

おりの まるる

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ライオット・ルセックは恋に落ちた 1

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「挿れるのはダメだけど、こするだけならいいよ」



俺の隣でベッドに腰をかけ、両手を俺の方に広げて先輩が恥じらいながら言う。

どう言う状況だ、これ、おい。と自問する。正常な判断が働かない。せっかく落ち着いてきた魔力が暴走しそう。動悸が激しくなる。


「ご迷惑をおかけして、すいません!」

いただきますと心で言って、俺は先輩の腕の中に飛び込みながら、小柄な体躯を押し倒した。


◇◇◇


春の日差しが優しいはずだが、寝不足の俺にはいささか眩しすぎる。

王立魔法研究所の入所式が翌日にあるせいで、緊張していたのか昨夜はどうにも魔力が落ち着かず、適当な女の子たちを呼んで朝方まで致してしまった。

眠い、眠過ぎる。初日からこんなんで大丈夫なのか。

魔力の強さはその個人の人生を大きく左右する。強ければ強いほど、将来職業の選択肢が多く安泰とされている。しかし良いことばかりではない。魔力の強さに比例して性欲も強くなる。定期的に性欲を発散させないと魔力が暴走してしまう。

子供の頃から魔力が強かった俺にとって、心が育つ前に身体を女性に繋げてしまったからか、その行為はただの魔力安定のための行為でしかない。よく「私の身体が目当てだったのね」と叱責されることがあるが、まあ真実だから言い訳もできず。

魔力が普通の人は性交自体に意味をつけ、愛してるから致す、愛しているのに致してくれないなどと男女関係はこじれることはよくある話ようだ。しかし俺は全く理解ができなかった。俺にとってそれは、ただの生理現象のようなものだ。排泄と同じとか言うと泣かれたり恨まれたりするので絶対口にはしない。魔力が高過ぎる俺とそれ以外には、性交に対する認識には圧倒的な隔たりがあるのだ。

入所式で目を開けたまま睡眠時間を獲得し、何とか少し復活できた。配属される部署へ向かう。廊下を歩いているとチラチラとこちらを伺い、こそこそ話する女性研究員たちがいる。昔からこう言う視線には慣れている。男を品定めする視線、媚びる視線だ。この中からあとくされのないものを探す。それが俺の日常でもあり、いざという時の命綱でもある。

自分の配属された部署の部屋の前に到着する。さて第一印象が最も大事。1000%の笑顔でご挨拶だ。

「本日付けで、配属されましたライオット・ルセックです。宜しくお願いします」
「ようこそ、遺伝研究部へ。新人でここに来るなんて、研究所始まって以来の快挙だよ。魔力量も素晴らしいし、学園での成績も優秀。卒業論文も読んだが、素晴らしかった!」

人の好さそうな遺伝研究部部長が歓迎してくれた。

「有難うございます。ずっと、魔力と遺伝について研究したいと思っていましたので、ここに配属されて夢がかないました。まだまだ未熟な部分もありますが、頑張ります」

そうかそうかと部長はにこにこすると「君の机はここだ。隣のシェリスタに色々教えてもらって」と席まで案内してくれた。

隣の机は本やら書類が積み上がっていて、人がいるのかよく分からない。


「初めまして、シェリスタ・ハーディーです。宜しくね」

ひょこっと本の陰から顔出す、にこにこ笑うちっちゃい先輩がいた。身長は150cm位だろうか。俺の腹あたりで、顔を上げているハーディー先輩は、リスみたいなくりっとしたエメラルドグリーンの瞳、ふわふわとしたハーフアップしたハニーブランドの髪、含みがない視線と笑顔を向けられて柄にもなくドキッとした。

何かいいあなこの人と思っていたら「あっ、シャツの襟が折れちゃってるよ」といい俺を椅子に座らせ、さっと直してくれた。甘いような花のような匂いが鼻孔をかすめる。触られた首元が熱い気がする。

「ん、綺麗になったね。いい子いい子」

いきなり頭を撫でられてしまった!顔がかーっと熱くなる。女性との触れ合いなんて慣れたものはずなのに。何なら昨夜も濃厚接触したのに。無言でじっと先輩を見つめていると、何か気づいたような顔をして先輩が言った。

「ごめん、うち十人兄弟で私が長女で。下に弟妹がいるもので、年下の子がいるとつい世話焼いちゃうんだよね」

「いえ、大丈夫です。有難うございます」

変に思われたくなくて、かろうじて無難に返答する。心臓が何時になくドキドキする。初めての気持ちに戸惑いが隠せなかった。
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