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1章
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「好きなの」
その言葉に頭が真っ白になった。自分の指先が冷えていく。背中につけているコンクリートの壁が冷たくてなんだか寒い。
もう一度意を決して、改めて声の主を確認するために振り返って壁の向こうをそっと覗いた。
やはり声の主は親友の舞花だった。舞花は頬を赤らめて目を潤ませている。
ああ、やっぱり可愛いなあ……
舞花のサラサラのストレートヘアが風に靡いている。小さい肩を震わせ、大きな黒目がちの瞳からは今にも涙が零れ落ちそうだ。
その立ち姿はまるで映画のワンシーンのようだった。
私にないものを全部持っていて、私が一番なりたい女の子。
「アズちゃんにも言えなくて、苦しくて、でも拓巳くんに伝えくて……」
思わぬところで自分の名前が出てきて心臓が跳ね上がる。思いを告げられている相手はこちらを背にしているので表情は窺い知れない。
十年間ずっと見てきた背中に胸が苦しくなる。
私がずっと大好きな男の子。ちょっと優柔不断だけど、優しくて、笑うとえくぼができる幼馴染。鼻の奥がツンとしてきてその光景からたまらず目を逸らす。
ふと自分の足元を見ると日焼けした筋肉質の足がスカートから覗いている。テニス部の部員である自分はしょうがないと分かっていても、舞花の透き通るような肌が恨めしい。髪だってちょっとは女の子らしくポニーテールにしてても毛先は陽に焼けて赤茶っぽく染まっている。
きっと二人は付き合うだろう。お似合いの二人だし、笑顔で「良かったね、おめでとう」って言わなきゃ。
舞花には言いづらかったことを謝って、拓巳には茶化してみたりして。
三人で帰ろうと思っていたけど、二人で帰った方がいいだろうし今日は一人で帰ろう。明日には二人は報告してくれるかな。
そこまで思った途端涙が溢れてくる。
「ありがとう、俺……」
拓巳の言葉に集中して耳を傾けている時だった。突然私の足元から眩い光が溢れ出した。
地面のはずなのに光の沼に入ったようにズブズブと足が沈んでいく。言いようのない恐怖に私は思わず叫んだ。
「きゃああああ」
「アズ!!」
名前を呼ぶ声に振り向くと、拓巳が駆け寄り、私の腕を掴んだ。
「拓巳!」
身体はもうお腹の辺りまで沈んでいた。拓巳は私を引き上げようとするも、身体は底なし沼のようにどんどん沈んでいく。
必死な様子の拓巳の額には汗が滲んでいる。
「しっかり掴まれ! 絶対離すなよ」
「何よこれ! 助けて!」
後ろでは舞花が驚いた表情で立ち尽くしている。ふと、舞花と視線が合う。舞花にも救いを求めるように名前を呼ぼうとした時だった。
舞花は私に向かって笑顔を見せた。花が綻ぶように、綺麗な顔で。だけどそれは私が初めて見る舞花の笑顔だった。
舞花の笑顔は何度も見ているはずなのに、背筋の凍るような笑みだった。
親友の初めて見る表情に唖然としていると、舞花は口元だけで私にはっきりとわかるようにゆっくりと動かした。
─バイバイ
口の動きが読み取れてあっと思った瞬間ずるんと吸い込まれてしまい、拓巳の手が離れてしまった。
まるで洗濯機の中に放り込まれたようなぐるぐるとした衝撃が襲う。
目が開けられない。恐怖で頭がいっぱいになると同時になぜか先程の舞花の笑顔と拓巳の必死な表情が浮かぶ。
私、死ぬのかな……。
そう思った瞬間、そこで私の意識はそこでなくなった。
どれくらい経ったかはわからない。目が開けられなくて、夢の中にいるような感覚がする。自分の体が動かない。
─かわいそうに、厄介なのに付き纏われているようだ。ああ、だが珍しい守護を受けているな。
頭の中に声が響いてくる。男の人のような優しい声。
誰?私はどうなったの?
─お前は生まれ変わるのだ。
私は死んでしまったの?
─そうとも言えるし、あるべきところへ帰ったとも言う。
あるべきところ?もう元には帰れないの?
─ああ、その代わりと言ってはなんだがお前に力を授けよう。あらゆる困難に立ちむかえるように。お前は傍観者でいることもできるし、関わることもできる。
どういうこと?
─これからお前が生まれ変わる世界は今までいた世界とは全く異なる。苦労もあるだろうがお前にはすでに守護するものがあるから守られるだろう。
世界?私は生まれ変わるの?
─そうだ、二度目の生を謳歌せよ。時間がきたようだ。
待って!私、まだあなたに聞きたいことが!
─また会うこともあるだろう。ではな。
そして私はまた意識が遠のくのを感じた。会話した相手の名前を聞くのを忘れたと気づいた時にはもう遅かった。
どれくらい時間が経ったのだろう。ふわふわと身体は軽い。心地よい水に浮いているかのようだ。
暖かくて気持ちが良くて、ずっとこうしていたいようなまるでまどろみの中にいるような感覚だった。
その時だった。突然身体が押し出される。頭がぎゅうぎゅうと締め付けられて痛みと苦しさでいっぱいになる。
苦しさから解放されたと思ったら今度は視界が眩しさでいっぱいになった。瞼を開けるも視界がぼやけてうまく見えない。
「奥様! 可愛らしい女の子ですよ!」
声がしたと思ったら柔らかくて暖かいものに包まれた。
「ああ、なんて可愛らしいの!」
ぼやける視界に泣いている女の人の顔が視界いっぱいに映る。
ああ、私生まれ変わったのね。
こうして私は謎の声の言う通りアリア・サーナイトとして第二の人生を歩むことになったのだ。
その言葉に頭が真っ白になった。自分の指先が冷えていく。背中につけているコンクリートの壁が冷たくてなんだか寒い。
もう一度意を決して、改めて声の主を確認するために振り返って壁の向こうをそっと覗いた。
やはり声の主は親友の舞花だった。舞花は頬を赤らめて目を潤ませている。
ああ、やっぱり可愛いなあ……
舞花のサラサラのストレートヘアが風に靡いている。小さい肩を震わせ、大きな黒目がちの瞳からは今にも涙が零れ落ちそうだ。
その立ち姿はまるで映画のワンシーンのようだった。
私にないものを全部持っていて、私が一番なりたい女の子。
「アズちゃんにも言えなくて、苦しくて、でも拓巳くんに伝えくて……」
思わぬところで自分の名前が出てきて心臓が跳ね上がる。思いを告げられている相手はこちらを背にしているので表情は窺い知れない。
十年間ずっと見てきた背中に胸が苦しくなる。
私がずっと大好きな男の子。ちょっと優柔不断だけど、優しくて、笑うとえくぼができる幼馴染。鼻の奥がツンとしてきてその光景からたまらず目を逸らす。
ふと自分の足元を見ると日焼けした筋肉質の足がスカートから覗いている。テニス部の部員である自分はしょうがないと分かっていても、舞花の透き通るような肌が恨めしい。髪だってちょっとは女の子らしくポニーテールにしてても毛先は陽に焼けて赤茶っぽく染まっている。
きっと二人は付き合うだろう。お似合いの二人だし、笑顔で「良かったね、おめでとう」って言わなきゃ。
舞花には言いづらかったことを謝って、拓巳には茶化してみたりして。
三人で帰ろうと思っていたけど、二人で帰った方がいいだろうし今日は一人で帰ろう。明日には二人は報告してくれるかな。
そこまで思った途端涙が溢れてくる。
「ありがとう、俺……」
拓巳の言葉に集中して耳を傾けている時だった。突然私の足元から眩い光が溢れ出した。
地面のはずなのに光の沼に入ったようにズブズブと足が沈んでいく。言いようのない恐怖に私は思わず叫んだ。
「きゃああああ」
「アズ!!」
名前を呼ぶ声に振り向くと、拓巳が駆け寄り、私の腕を掴んだ。
「拓巳!」
身体はもうお腹の辺りまで沈んでいた。拓巳は私を引き上げようとするも、身体は底なし沼のようにどんどん沈んでいく。
必死な様子の拓巳の額には汗が滲んでいる。
「しっかり掴まれ! 絶対離すなよ」
「何よこれ! 助けて!」
後ろでは舞花が驚いた表情で立ち尽くしている。ふと、舞花と視線が合う。舞花にも救いを求めるように名前を呼ぼうとした時だった。
舞花は私に向かって笑顔を見せた。花が綻ぶように、綺麗な顔で。だけどそれは私が初めて見る舞花の笑顔だった。
舞花の笑顔は何度も見ているはずなのに、背筋の凍るような笑みだった。
親友の初めて見る表情に唖然としていると、舞花は口元だけで私にはっきりとわかるようにゆっくりと動かした。
─バイバイ
口の動きが読み取れてあっと思った瞬間ずるんと吸い込まれてしまい、拓巳の手が離れてしまった。
まるで洗濯機の中に放り込まれたようなぐるぐるとした衝撃が襲う。
目が開けられない。恐怖で頭がいっぱいになると同時になぜか先程の舞花の笑顔と拓巳の必死な表情が浮かぶ。
私、死ぬのかな……。
そう思った瞬間、そこで私の意識はそこでなくなった。
どれくらい経ったかはわからない。目が開けられなくて、夢の中にいるような感覚がする。自分の体が動かない。
─かわいそうに、厄介なのに付き纏われているようだ。ああ、だが珍しい守護を受けているな。
頭の中に声が響いてくる。男の人のような優しい声。
誰?私はどうなったの?
─お前は生まれ変わるのだ。
私は死んでしまったの?
─そうとも言えるし、あるべきところへ帰ったとも言う。
あるべきところ?もう元には帰れないの?
─ああ、その代わりと言ってはなんだがお前に力を授けよう。あらゆる困難に立ちむかえるように。お前は傍観者でいることもできるし、関わることもできる。
どういうこと?
─これからお前が生まれ変わる世界は今までいた世界とは全く異なる。苦労もあるだろうがお前にはすでに守護するものがあるから守られるだろう。
世界?私は生まれ変わるの?
─そうだ、二度目の生を謳歌せよ。時間がきたようだ。
待って!私、まだあなたに聞きたいことが!
─また会うこともあるだろう。ではな。
そして私はまた意識が遠のくのを感じた。会話した相手の名前を聞くのを忘れたと気づいた時にはもう遅かった。
どれくらい時間が経ったのだろう。ふわふわと身体は軽い。心地よい水に浮いているかのようだ。
暖かくて気持ちが良くて、ずっとこうしていたいようなまるでまどろみの中にいるような感覚だった。
その時だった。突然身体が押し出される。頭がぎゅうぎゅうと締め付けられて痛みと苦しさでいっぱいになる。
苦しさから解放されたと思ったら今度は視界が眩しさでいっぱいになった。瞼を開けるも視界がぼやけてうまく見えない。
「奥様! 可愛らしい女の子ですよ!」
声がしたと思ったら柔らかくて暖かいものに包まれた。
「ああ、なんて可愛らしいの!」
ぼやける視界に泣いている女の人の顔が視界いっぱいに映る。
ああ、私生まれ変わったのね。
こうして私は謎の声の言う通りアリア・サーナイトとして第二の人生を歩むことになったのだ。
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