精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

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2章

2−16

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 エプロンを貸してもらってハンナとフローラの三人で身につける。リクは近くで見学。手をしっかり洗って準備万端だ。 
 まずはカチカチになってしまったパンを手に取ってまな板に置き、包丁を当てる。それを見たフローラが慌てた様子で私に声をかけた。

 「アリア! 包丁は危ないから私が変わるわ」
 
 そのフローラの心配そうな様子を見て、初めて包丁を持った時のことを思い出す。
 確かフルーツを切ろうとしたときに同じように止められたんだっけ……そのときは料理長とハンナが二人して真っ青な顔してたなあ……。
 何回か包丁を扱ううちに何も言われなくなったが、今でもハンナは私が包丁を持つたびに心配そうに見つめてくる。

 「大丈夫よ、フローラ。慣れてるから」
 「そうなの? でも本当に固いから包丁が滑ったら指を切るかもしれないし、危ないから私が変わるわ」

 そう言ってそっと優しく包丁を持つ手を押さえられて離された。フローラはお姉さんぽいが歳は多分そんなに変わらないと思う。
 エヴァンお兄様と同じくらいだろうか。前世の女子高校生だった記憶があるせいかフローラがお姉さんぽくしているのが可愛らしいなあと思ってしまった。
 思わず一人でふふふと笑っていると後ろにいたハンナがスッと前に出た。

 「お二人とも、ここは私が」

 そう言ってハンナが包丁を握ってパンに当てるもそのまま動かない。フローラと二人で黙って見つめているとハンナは静かに包丁を置いて申し訳なさそうな表情でこちらを向いた。

 「パンが思っていた以上に固くて包丁が通らないです」

 ハンナでさえ無理なのか……と思っているとフローラが「変わってくださいと」ハンナと交代している。
 包丁を手に取ったフローラは目の前のパンをじっと見つめた。

 「フローラ?」

 フローラは真剣な表情をしたかと思うと「ふん!」と声を出した。するとザクっと音がしたかと思うと目の前のパンはきれいに真っ二つに切れていた。
 驚いている私達を横目にフローラはふうっと息を吐いた。

 「まな板まで切らないように力を抑えるの大変なのよね」

 聞き捨てならないような言葉が聞こえた気がする。まな板まで切らないように? このまな板は普通に硬い木のまな板だ。包丁では切れるはずもない。
 
 「今のは生活魔法?」

 そうたずねるとフローラはふふふと笑った。そして恥ずかしそうに言った。

 「まさか! 私、人より少し力があるだけよ」

 まな板まで切れないようにしないといけないのは果たして「少し」というのだろうか……。それ以上触れないようにして残りのパンをフローラに切ってもらう。
 そのあいだに割った卵をといて牛乳、砂糖と混ぜる。そして切ったパンを染み込ませるパンが硬いので十分染み込むのに時間おく。

 「これだけでいいの?」
 「うん! あとは時間を置いてから焼けば出来上がり」

 フローラは出来上がりが今から楽しみなのか目を輝かせている。そこでマリウス神父の元へ行くことになっていたのをふと思い出す。
 事後承諾になってしまうが厨房を使ったことを言わなければならない。
 フローラにそう伝えれば時計を見ながら「確かこの時間だと、もう教会の方へ行っているかもしれないわ」と教えてくれた。

 「では入れ違いになってはいけないので私が執務室にいきましょう。お嬢様は教会の方へリクと向かってください。マリウス神父がいらっしゃったらそのまま私が厨房の件を伝えますので」

 そう言ってハンナはエプロンを外すと厨房から出ていった。教会へはフローラが案内してくれることになった。
 リクが座っていた椅子から降りたのに気づいたフローラはリクに近づいて目の前でしゃがんだ。

 「あなたも行くのよね?」

 そうフローラがたずねるとリクは声を出さずにコクリとうなずいた。
 それに少し驚いた表情を見せつつも「精霊を見たことないからわからなかったけどこんなにワクワクするのね」と笑顔を見せた。

 「精霊を見える子がいるって聞いたけど」
 「そうね。ここには四人……三人かしら」

 人数を言い直したのはカイを思い出したのか。フローラの表情が少し曇る。

 「私の弟も見えるのよ」

 そう言ってフローラは微笑んだ。先程リクの姿を見て精霊だと言い当てた赤毛の可愛らしい顔立ちの男の子の姿が脳裏に浮かんだ。

 「そうなんだ……。昨日『カイが喜びそう』って言っていたけど……」

 フローラがピタリと動きを止めた。緊張感が一瞬走るもフローラは静かに話し出した。

 「カイは私と同じ歳の男の子で魔力量が多いの。少しおっとりしているけど優しくて生き物が大好きな男の子……魔法学園に通うことが決まっていて、ここ出ることが決まっていたんだけど……いなくなってしまったの」

 悲痛そうな表情で語るフローラに胸が苦しくなる。そうわかっていても手がかりがあるなら聞いておきたい。
 予定通りならば明日にはここを立つ自分には少しでも情報を集めておいてレイ様に相談したいし、事件が解決するのが難しいならばお父様にハインツ子爵と連絡をお願いしたいとも考えていた。
 辛そうなフローラに罪悪感を感じるが続けてたずねた。

 「いなくなったって……町で噂になっていること?」
 「そう。昨日いなくなった御者のとこの息子のヨシュアとも私達は仲がよかったのよ。ヨシュアはぶっきらぼうでガキ大将みたいなやつだけど優しくて面倒見がいいの」
 「ヨシュアも魔力量が多いの?」
 「そうね、カイほどはっきりとは見えないみたいだけど声もちゃんと聞こえるって言ってたわ」

 二人とも時期はずれているが行方がわからない。そして魔力量が二人とも多い。少し鼓動が早くなった気がしながらも考えているとフローラは続けて言った。

 「神父様は知らないけどカイはここを出たくないって言っていたの」
 「王都に行って魔法学園に通えるのに?」
 
 確かマリウス神父はカイは魔法学園に通えることを喜んでいたと言っていた。
 

 「私もそう思ったんだけど『ここを出たら本当に王都へ行くかはわからないんだよ』って……それきりその話はしなくなってしまったんだけど」

 本当に王都へ行くかわからない……。その言葉が気になりながらも続けてフローラにたずねた。

 「フローラはカイがいなくなったのは自分からいなくなったって思っているの?」
 「うん、なんとなくだけど。でもヨシュアもいなくなるなんて思っていなかったからわからなくて……町の人達ははぐれ精霊にさらわれたなんて言っているし……」

 そう言って俯いてしまったフローラはギュッとスカートの裾を握りしめていた。
 それを見た私は、思わずフローラの背中をそっと撫でた。

 
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