57 / 91
2章
2−28
しおりを挟む
教会孤児院に通い出して二日間が過ぎた。事件の進展もなくいつものようにレイ様を見送った後にハンナとリクと教会孤児院に向かう。
あれから孤児院に魔力の訓練のために通うことをレイ様に話したら笑顔で「お嬢様が聞き込みするにも限界があると思うし気にしないで行っといで~」と快く承諾してくれた。
手伝うつもりだったのが結局レイ様頼りになって申し訳ないと謝るとレイ様は「元からそんなに期待してないって~」と爽やかに言われてしまった……。
リクにも教会孤児院でしばらく通うことを告げると、初日の授業風景を隠れてみていたのもあってかこちらも承諾してくれた。屋敷でリクに教わっていたこともあって少し気まずい気持ちもあったが「私も人に教えるのはあまり上手ではないのでマリウス神父の教え方は参考になります」とあまり気にしていない様子だったのに少しホッとした。
歩きながらいつものように教会へのお土産を屋台で購入する。今日は果物屋台が目に入ったので店主のおすすめのオレンジを購入した。試食でもらったカットされたオレンジをかじりながら歩く。最初こそ食べ歩きに物言いたげだったハンナも、とうとう諦めたようで何も言わずに今ではオレンジを必死にかじっている。
ハンカチで手と口を拭きながらふと思い立ったことを口に出す。
「そういえば、レイ様が言っていたけど結局今のところ一人目と二人目の情報はないままみたいね」
「一体どこからそんな噂が立ったのでしょうかね」
ハンナが不思議そうに首を傾げた。自警団の団長のローランドさんも聞き込みを見回りと並行して行っているそうだが、キヨラの町の住民の誰もが一人目と二人目の噂の出どころはわからないらしい。
「ここまでくると一人目と二人目がいなかったかのように思えてくるわね」
思わずそうこぼすとリクは立ち止まってハッとした表情をして私を見上げた。
「一人目と二人目なんてもともと存在しなかったのではないでしょうか?」
「それってどういうこと?」
リクに聞き返すとリクは「確証は持てませんが……」と小さな声でつぶやいた。
「一人目と二人目の行方不明の話が作られた噂の可能性はないでしょうか」
「確かレイ様が一人目と二人目の噂が立ち始めたのは……一人目が一ヶ月前でその数日後に二人目の行方不明の噂が立ったって言っていたわね」
「ええ。正確な日付は分かりませんが三人目と四人目の行方不明だけ身元がわかっていてしかも二人ともピッタリと一週間を開けて行方がわからなくなったのも何か不自然な気がします」
「でも、誰かが故意に噂を流したと? でも、作られた噂を故意に流すなんてできるのかしら?」
首を傾げていると、リクが神妙な面持ちで私とハンナの顔をみた。
「精霊なら可能かもしれません」
思わず目を見開いて、ハンナと視線を交わした。ハンナも戸惑いを隠せないようだった。周りに人がいないことを確認してリクに小声でたずねた。
「人に噂を流すことのできる能力を持った精霊なんているの?」
「わかりません、精霊の能力は千差万別です。風魔法系統で噂話だけを人の耳に行き渡らせるかもしくは幻影系統の魔法でそういった出来事があったと人間に思い込ませるかなら……ただ、そうなると一ヶ月も前から噂を流す魔法なんて使ったとするとあまりに広域です。まず、そのような噂を流す魔法を継続して行うのは不可能ですし、人間と契約している精霊でなければ魔力は枯渇してしまいます」
精霊と契約している人間の仕業? なんのために?
「精霊が子供をさらうなんてことを流すことで何の得があるのかしら? この町にとってはマイナスになりえるかもしれないのに」
噂を流すことで逆に目を向けさせたかったとか? この町の人じゃない外部の人間からの接触を望んでる?
そこまで考えるも頭の中が霞みがかったようにわからなくなる。このモヤモヤした感じがひっかかる。
脳裏に一人の少年が浮かんだ。何の気無しに口に出してみる。
「もしかしてカイ?」
不自然に行方不明になった彼がもしかして自作自演でいなくなったとしたら。もしかして精霊の力を借りていたとしたら。友達であるヨシュアも共謀していたとしたら。
するとハンナが静かに「ですが」と口に出した。
「カイという少年は精霊召喚の儀をまだ行っていません」
精霊召喚の儀をカイは王都の教会に入ってから教会で行う予定だったという。
「じゃあ、他の誰かが?」
「アリアお嬢様……このあいだの少年を覚えていますか?」
リクに言われてクズ石となった魔石を持ち去った少年の姿が浮かぶ。
「あ! リクが前に精霊の色を纏わせていたって……」
そういうとリクはコクリと頷いた。
「可能性はないと言い切れない以上、頭の隅に留めておいた方がよろしいかと」
「でも、あの少年はどうみても平民のようだったけど……そういえばこの町で平民の魔力の多い子供は精霊召喚の儀はどうしているの?」
「この教会では精霊召喚の儀は行うことはできないそうなので隣町の教会までいくしかないようです」
ハンナがマリウス神父から聞いた話によると、ここには精霊召喚の儀を行えるほどの人手が足りないこと、儀式に使用する魔導書がないため行っていないという。そこまで聞くと三人とも黙り込む。
「もしくははぐれ精霊と契約する……」
頭に浮かんだ言葉を口に出したとき、誰かが息を呑んだのがわかった。
あれから孤児院に魔力の訓練のために通うことをレイ様に話したら笑顔で「お嬢様が聞き込みするにも限界があると思うし気にしないで行っといで~」と快く承諾してくれた。
手伝うつもりだったのが結局レイ様頼りになって申し訳ないと謝るとレイ様は「元からそんなに期待してないって~」と爽やかに言われてしまった……。
リクにも教会孤児院でしばらく通うことを告げると、初日の授業風景を隠れてみていたのもあってかこちらも承諾してくれた。屋敷でリクに教わっていたこともあって少し気まずい気持ちもあったが「私も人に教えるのはあまり上手ではないのでマリウス神父の教え方は参考になります」とあまり気にしていない様子だったのに少しホッとした。
歩きながらいつものように教会へのお土産を屋台で購入する。今日は果物屋台が目に入ったので店主のおすすめのオレンジを購入した。試食でもらったカットされたオレンジをかじりながら歩く。最初こそ食べ歩きに物言いたげだったハンナも、とうとう諦めたようで何も言わずに今ではオレンジを必死にかじっている。
ハンカチで手と口を拭きながらふと思い立ったことを口に出す。
「そういえば、レイ様が言っていたけど結局今のところ一人目と二人目の情報はないままみたいね」
「一体どこからそんな噂が立ったのでしょうかね」
ハンナが不思議そうに首を傾げた。自警団の団長のローランドさんも聞き込みを見回りと並行して行っているそうだが、キヨラの町の住民の誰もが一人目と二人目の噂の出どころはわからないらしい。
「ここまでくると一人目と二人目がいなかったかのように思えてくるわね」
思わずそうこぼすとリクは立ち止まってハッとした表情をして私を見上げた。
「一人目と二人目なんてもともと存在しなかったのではないでしょうか?」
「それってどういうこと?」
リクに聞き返すとリクは「確証は持てませんが……」と小さな声でつぶやいた。
「一人目と二人目の行方不明の話が作られた噂の可能性はないでしょうか」
「確かレイ様が一人目と二人目の噂が立ち始めたのは……一人目が一ヶ月前でその数日後に二人目の行方不明の噂が立ったって言っていたわね」
「ええ。正確な日付は分かりませんが三人目と四人目の行方不明だけ身元がわかっていてしかも二人ともピッタリと一週間を開けて行方がわからなくなったのも何か不自然な気がします」
「でも、誰かが故意に噂を流したと? でも、作られた噂を故意に流すなんてできるのかしら?」
首を傾げていると、リクが神妙な面持ちで私とハンナの顔をみた。
「精霊なら可能かもしれません」
思わず目を見開いて、ハンナと視線を交わした。ハンナも戸惑いを隠せないようだった。周りに人がいないことを確認してリクに小声でたずねた。
「人に噂を流すことのできる能力を持った精霊なんているの?」
「わかりません、精霊の能力は千差万別です。風魔法系統で噂話だけを人の耳に行き渡らせるかもしくは幻影系統の魔法でそういった出来事があったと人間に思い込ませるかなら……ただ、そうなると一ヶ月も前から噂を流す魔法なんて使ったとするとあまりに広域です。まず、そのような噂を流す魔法を継続して行うのは不可能ですし、人間と契約している精霊でなければ魔力は枯渇してしまいます」
精霊と契約している人間の仕業? なんのために?
「精霊が子供をさらうなんてことを流すことで何の得があるのかしら? この町にとってはマイナスになりえるかもしれないのに」
噂を流すことで逆に目を向けさせたかったとか? この町の人じゃない外部の人間からの接触を望んでる?
そこまで考えるも頭の中が霞みがかったようにわからなくなる。このモヤモヤした感じがひっかかる。
脳裏に一人の少年が浮かんだ。何の気無しに口に出してみる。
「もしかしてカイ?」
不自然に行方不明になった彼がもしかして自作自演でいなくなったとしたら。もしかして精霊の力を借りていたとしたら。友達であるヨシュアも共謀していたとしたら。
するとハンナが静かに「ですが」と口に出した。
「カイという少年は精霊召喚の儀をまだ行っていません」
精霊召喚の儀をカイは王都の教会に入ってから教会で行う予定だったという。
「じゃあ、他の誰かが?」
「アリアお嬢様……このあいだの少年を覚えていますか?」
リクに言われてクズ石となった魔石を持ち去った少年の姿が浮かぶ。
「あ! リクが前に精霊の色を纏わせていたって……」
そういうとリクはコクリと頷いた。
「可能性はないと言い切れない以上、頭の隅に留めておいた方がよろしいかと」
「でも、あの少年はどうみても平民のようだったけど……そういえばこの町で平民の魔力の多い子供は精霊召喚の儀はどうしているの?」
「この教会では精霊召喚の儀は行うことはできないそうなので隣町の教会までいくしかないようです」
ハンナがマリウス神父から聞いた話によると、ここには精霊召喚の儀を行えるほどの人手が足りないこと、儀式に使用する魔導書がないため行っていないという。そこまで聞くと三人とも黙り込む。
「もしくははぐれ精霊と契約する……」
頭に浮かんだ言葉を口に出したとき、誰かが息を呑んだのがわかった。
10
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
過労死して転生したので絶対に働かないと決めたのに、何をしても才能がバレる件
やんやんつけバー
ファンタジー
過労死して異世界転生。今度こそ絶対に働かないと決めたのに、何をやっても才能がバレてしまう——。農村で静かに暮らすはずが、魔力、農業、医療……気づけば誰も放っておかない。チートで穏やか系の異世界スローライフ。
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜
ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。
死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる