精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

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2章

2−37

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 「君の名前は?」
 
 突如思い出したようにカイがたずねる。それに少し苦笑しながらも「私はアリア」と名前を言う。先程からリリュに対して何かを話しているリクの方を見て「あっちはリク」と教えるとカイは「僕はカイ。あっちは精霊のリリュ」と微笑みながら教えてくれる。

 「それでアリアはなぜここに?」

 話すべきか迷ったものの、ここで嘘は言うべきじゃないと判断してかいつまんで話すことにした。馬車の遅延で訳あってキヨラに滞在していること、そのあいだ行方不明事件のために護衛の冒険者を自警団に貸し出し、協力していること、今日はたまたま同行したことを説明した。

 「じゃあ、アリアは僕のことも知っているんだね」
 「名前は聞いていたし、そうなんじゃないかとは思っていたわ。ねえ、もう一人の子……ヨシュアも一緒にいるんでしょう?」
 
 そうたずねるとカイは困ったような表情をした。

 「僕達が一緒にいるとよくわかったね、でも今はヨシュアはここにはいないんだ」
 
 ヨシュアは食料を調達に行ったり、町へ様子を見に行ったりしているそうだ。私はずっと気になっていたことをたずねてみる。

 「あなた達はどうしてこんなことをしているの?」

 ここへ来て確信したのはやはりこの行方不明事件はカイとヨシュアによって引き起こされたことだということである。このとおり食べるものに困っている状況にもかかわらずここを出ないことからただの家出ではなく、二人に何か考えがあってこの事件を起こしたことがわかる。ただ、動機だけがどうしてもわからなかったのだ。

 「どうして、か……それについては言えないかな」

 無表情で言うカイを見て脳裏に悲しそうな表情のフローラが浮かぶ。

 「フローラはあなたのことを心配しているのよ!」

 思わず責めるような口調で告げるとカイは目を丸くした。

 「君はフローラを知っているの?」

 そう聞かれて、私は訳あってフローラと知り合ったこと、教会孤児院に通っていることを話した。そのときにフローラがどんなにカイを心配しているのかも話すとカイはみるみる表情を歪めた。

 「そうか、君はフローラを心配してくれているんだね。でも、今は帰れない」

 はっきりと私の顔を見て言うカイに愕然とする。そこまで頑なに帰ることができない理由がなんなのかも知ることができないなんて。しばらく沈黙したのち、諦めた私は口を開いた。

 「どうしても帰れない理由を言うことができないのなら、何か力になれることはない?」

 そう言うとカイは少し驚いた表情をしたのち微笑んだ。

 「君は優しいね。巻き込まれるかもしれないのに」
 「もう十分巻き込まれているわ」
 「ははっ、そうかもね……部外者である君なら──教会の祭壇に仕掛けがしてあって中にがあるんだ。それをこの町の領主様に届けて欲しい。暗号は後で知らせるから」

 真剣な表情でカイが告げる。どういうことかたずねようとするとリリュが突然叫んだ。

 「カイ! もうこれ以上はコイツらをここには置けない! 他の奴らが探し回っている!」

 するとリクがすぐさま私の手を掴んだ。あたりに霧のようながかかる。だんだん霧が濃くなる前に私は咄嗟に腰にかけてあるポーチから包み紙を出してカイに急いで手渡した。きょとんとした顔で見つめるカイに微笑む。

 「足りないかもしれないけど、ヨシュアと食べて」

 包み紙の中身は先程とは違う具の入ったサンドイッチだ。カイは包み紙を持ったまま笑顔で「ありがとう」と言うと私の名前を読んだ。

 「アリア! マリウス神父には気をつけて」

 カイが言い終えた途端濃い霧が立ち込めてカイとリリュの姿が見えなくなる。あたり一面真っ白に霧で覆い尽くされたかと思うとどんどん霧が晴れていく。霧が晴れるとそこは先程の森の中だった。木々がさわさわと風で揺れている。鳥の鳴き声に私は少し安堵した。
 隣で私の手を握っていたリクがパッと私の手を離してふうと息をついた。

 「どうやら戻ってきたみたいですね」
 「さっきの場所はいったいなんだったの?」
 「あれは、精霊界と人間界の狭間のようなものです。精霊が身を隠す際ああやって狭間に空間を作ることができるのです。魔力を消費するのであのリリュとかいう精霊はギリギリのようでしたが。だから私達まで隠しておける魔力が足りなくなりそうだったので慌てて追い出したのでしょう」
 「大丈夫なの?」
 「さあ? なんとかするでしょう」

 つれない様子で言うリクに少し驚く。思わずリクの顔を覗き込むとリクはやや不機嫌そうだ。

 「あんな無礼な精霊のことなど知りません」
 
 もしかして私のために怒ってくれている……?
 
 少し嬉しくなった私はしゃがんでリクの背をゆっくり撫でた。撫でられたことに驚いたのか少しビクッとしたリクは私の方を向いた。

 「ありがとう、リク」

 リクは髭をピクピクと動かして下を向いた。その様子に和んでいると「いたー!」と近くで声がした。
 声のした方をみるとレイ様が茂みをかき分けてこちらにやってきた。

 「心配したよ~ゴブリン達片付けたらいなくなってんだもん」

 レイ様がホッとした様子で手に持っていた剣を鞘に収めた。近くを自警団の三人も探し回ってくれているらしい。申し訳なく思い、レイ様に心配をかけたことを謝るとレイ様はいつもの軽い調子で「リクがいるから大丈夫と思ってたし、気にしないで~」と手を振った。

 「で? 何があったの~?」

 レイ様が口の端を上げて琥珀色の目を細めた。

 
 

 

 
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