精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

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2章

2−36

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 目の前の精霊はこちらをものすごい形相で睨みつけながら魔力を練り上げて今にも攻撃を繰り出そうとしている。
 
 「リリュ! やめるんだ!」

 カイは私を背後に庇いながら慌てた様子でリリュと呼ばれた精霊を止めようとしている。

 「カイ! コイツだから危険!」

 ああ、やっぱり精霊に嫌われているんだ……。

 リクや、グレース様と普通に会話できていることから、もしかすると精霊に嫌われてたりするのは屋敷の中だけかもなんてどこかで甘い考えでいたのだ。  

 自分が甘い考えでいたことを思い知らされ、そしてその考えが打ち砕かれてショックを受けた。目の前の精霊に今にも攻撃されそうな危機的状況だというのに脚に重しが乗っかったように動かなくなる。
 そのとき背後から風切り音がしたかと思うと、目の前の精霊が驚いた表情で私の背後を見て固まる。衝撃音がしてハッと我に帰ってみると精霊の背後の木の幹に大きな傷ができていた。

 「お前! そいつと契約している訳でもないくせになんでかばうんだ!」

 狼狽えた様子で目の前の精霊は私の背後にいるであろうリクに向かって叫ぶ。

 「だからといって見境なく攻撃するなんて……やっていることは魔物と同じだな」
 「なっ……! なんだと!」

 リクが私の前に出てきて精霊と睨み合う。他の精霊に対してこんなに強気なリクを初めて見てオロオロとしていると静かな声でカイが「リリュ」と呼びかけた。
 
 「いきなり攻撃するなんてひどいじゃないか……しかもこんな小さな女の子に」

 リリュと呼ばれた精霊はビクッと肩を震わせた。カイの方へ視線を移すと悲しそうな表情をしている。

 「だ、だって……」

 なおも言い返そうとするリリュに対してリクがすかさず厳しい口調で告げた。

 「お前、名をもらっておきながら契約主に対して歯向かうのか」

 その言葉が効いたのかリリュは面食らいながらも私をキッと睨みつけてからフンと横を向いた。攻撃される心配は無くなったとホッとした途端、横でカイがうめき声をあげてうずくまる。突然のことに驚いて駆け寄る。よくみると顔色が悪い。

 「大丈夫? どこか具合が悪いの?」
 「大丈夫だよ。ちょっと疲れが溜まっててね」

 そう言ってカイは微笑んだ。思わず背中をさするとカイは「ありがとう」と小さく笑ったが、その顔色は白い。

 「カイに触るな!」

 キーキーと騒ぎながらリリュが私の前にくる。すると突然風が巻き起こり小さなつむじ風がリリュの身体を巻き込んで押さえつけた。

 「お前は少し黙っていろ」
 「な、離せ!」

 その様子を見て驚いたカイは「すごい精霊だね、リリュが押されている」と目を丸くした。「リクは無闇に傷つけたりしないから心配しないで」と声をかけるとカイはまた笑った。向日葵の髪の色をしているが笑った顔は優しいひだまりのような雰囲気だ。

 「突然で申し訳ないんだけど何か食べるもの持ってない?」
 「食べるもの? お腹が空いているの?」

 そうたずねながらも、リクに目配せをするとリクはすぐさまお腹のポケットからサンドイッチの包みを取り出した。
 それを私の手から手渡すとカイは中のサンドイッチを見て「ああ」と感嘆の声をあげたかと思うとサンドイッチを食べ始めた。その間リリュはリクに縛られながらも「カイ! そんな怪しい奴からのものを口にするんじゃない!」と叫んでいる。途中、飲み水の入った水筒を手渡すと「ありがとう」と笑顔で受け取ってゴクゴクと飲み始める。サンドイッチを半分ほど食べたところでカイは大事そうに包み直して持っていた鞄にしまった。顔色も先程よりだいぶ良くなっている。カイは私の顔を見てにっこりと笑った。

 「助かったよ、ありがとう」
 「ここに寝泊まりしているの?」

 カイが食べている間に周りをよく観察してみると近くに焚き火の跡と、雨風を凌ぐためであろう小さなテントのようなものがあった。カイは「そうだよ」とうなずいた。聞けば数週間ここで寝泊まりしていて飲み水なんかは近くの川で調達できるものの、食べ物は用意していた食料が底を尽きかけており、ここ数日木の実などを食べて過ごしていたらしい。そんな栄養状態ならば出会ったとき顔色が悪かったのもうなずく。

 「だから君をここに引きこんだのも何か持ってないかなーって思ったんだ。あ! もちろんさっき言ったゴブリン達との戦いに巻き込まれそうで危ないからってのは本当だよ」

 先程から気になっていたことを確認するために私は思い切ってカイにたずねた。

 「そんなお腹が空いていた状態ならさっきの大人達に助けは呼ばなくていいの?」

 そうたずねた途端、カイは困ったような表情をした。

 「うーん……さっきの自警団の人たちでしょ? 君も含めてかはわからないけどさっきの人達は僕達を探しているんでしょう?」

 どうやら捜索されているのは分かっていたようだ。黙っているとカイは苦笑しながら言った。

 「信じられる大人がいたらいいんだけどね」

 寂しそうに言うカイに私はなんとも言えない気持ちになった──。

 
 
 

 
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