精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

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2章

2−43

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 「おい! いつまで寝てるんだ!」

 乱暴な口調で起こされ、ハッと目を覚ますとそこは見覚えのある森の中だった。辺りを見渡すと風が木々の葉を揺らす音がする。

 私、何してたんだっけ?

 「いいかげん起きろ!」

 自分に言われていると思っていたがどうやら違うらしい。声のする方を見ると、側にはあの夢で見る白銀の髪の人物が石階段に腰掛けていた。
 手を伸ばせば届きそうな距離にいるにも関わらず、目の前の相手にはやはり私の姿は見えないらしい。 そして相手の顔はいつものようにもやがかかったように見えない。
 白銀の髪の人物の目の前には前世の私、アズが白銀の髪の人物の膝に寄りかかって眠っているようだった。あんなに大きな声で起きろと言われたのにも関わらず起きる気配もなくすやすやと寝息を立てている。
 
 「まったく……」

 そう呟いて起こすのを諦めたのか大きくため息をついた。そして次の瞬間獣耳とふさふさの尻尾が現れた。ゆらゆらと尻尾は揺れている。
 尻尾をよく観察すると、髪の色と同じで時折陽の光に当たってキラキラと輝いて見える。尻尾は身体に対して大きく、もふもふで暖かそうだ。

 何の獣人なんだろう……。

 ぼんやりとそんなことを考えていると、アズが「ううーん」と声をあげてもぞもぞと動き出した。身体が冷えるのか縮こまって自分の腕をぎゅっと抱きしめる。
 それを見た白銀の髪の人物はふさふさの尻尾をアズの身体の上にそっと載せた。尻尾は大きくアズの身体の半分を覆っている。身体が暖かくなったのかアズは幸せそうな笑みを浮かべて眠っている。

 「こんなところに来なくてもお前にはやるべきことがいくらでもあるだろう……」

 消え入りそうな声で呟いて白銀の髪の人物は寝ているアズの頬を優しく指で撫でた。その様子になぜか胸がキュッと締め付けられるも、白銀の髪の人物の言葉に妙な引っ掛かりを覚える。

 やるべきこと……。そういえば私、何か忘れている気がする。
 
 そう思った途端、霧が立ち込めて二人の姿が遠くなる。──そのまま二人の姿は見えなくなった。


 
 「アリアちゃん! 起きて!」

 瞼を開けると目の前には必死な形相のイアンの顔があった。

 「イアン……?」

 イアンはホッとした表情で「よかった、全然起きないから心配したよ」と息を吐いた。なぜイアンが目の前にいるのか不思議に思いながらも辺りを見渡すと、そこは簡素な椅子もテーブルも何も置いていない部屋だった。部屋の中は私たち二人だけのようだ。

 「ここは?」

 状況が飲み込めずにいるとイアンはポツリと話し出した。
 いつもの魔法訓練の途中でマリウス神父がいきなり練習を切り上げたそうだ。自習をするように言い付けられたが、いつもの様子と違うマリウス神父を不思議に思ったイアンはマリウス神父の後を後から追いかけたそうだ。マリウス神父は教会にいるだろうと思い向かっていると、大きな袋を担ぐ見知らぬ男が教会の裏口の方から出ていくところを目撃したという。閉じられた袋のわずかな隙間から私と同じ色の髪の毛が一房流れていたので慌ててそのまま後をついていくと、後ろから違う男にはがいじめにされ捕まったらしい。そして気を失ってしまい、目が覚めたらここに私と二人転がされていたという。
 そこまで聞いて私は先程までいた教会での出来事を脳裏で思い起こしていた。

 迂闊だった……。すぐにでも教会から逃げ出してリクに助けを求めるべきだった。結果としてイアンを巻き込んでしまった。

 マリウス神父の話を聞いている途中から気分が悪くなって意識が朦朧としてきたことからあれも魔導具の類だろう。自分の迂闊さが嫌になるも切り替えなければと寝転がった状態で辺りを見渡した。身体を起こそうにも両手両足を縄で縛られている。きつめに縛られていて、動くと手足に縄が肌に食い込んで痛い。
 何とか痛みを堪えながら身じろぎして身体を起こす。よく見ると部屋の端に薪が積み重なって置かれていた。耳をそばだててみると外から風の音が聞こえる。入り口が一つしかないことからここはどうやら物置小屋のようだ。

 「ここは多分、森の中だと思う」

 イアンが言うには時折風に乗って森にしかならないロアの実の香りがするという。ロアの実は森に自生する柘榴に似た黄色い果実だ。イアンは目線で高い位置にある格子窓を指した。言われてみれば微かに甘い香りがする。窓から隙間風が漏れているのか少し肌寒い。

 「前にカイお兄ちゃんとヨシュアお兄ちゃんで森に行ったときに生えてるのを見つけて食べごろになったらまた食べに来ようって言ってたんだ」

 そう言うとイアンは少し寂しそうな表情を見せた。慌てた私は「みんなで食べれるわよ、そう近いうちに!」と励ました。イアンは少し笑って「そうだね、ありがとう」と言うとすぐに真剣な表情になった。

 「アリアちゃんは僕が守るからね」

 同い年ではあるが自分より幼く見える男の子に「守る」と言われてこんな状況で私は少し微笑ましく思ってしまった。

 「ありがとう。まずは二人でここから脱出する方法を考えましょう」と言うとイアンは少し不服そうな表情を見せながらもうなずいた。



 


 

 
 
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