精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

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2章

2−56

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 「あなたにもしてやられましたよ、商家の娘と思いきや伯爵家の御令嬢だったとはね。精霊を連れている子供はあまり見かけないので、興味から声を掛けましたが、こんなことなら声をかけるんじゃなかったですね」

 マリウス神父はやれやれと言った風でため息をついた。

 「まあ、今更後悔しても遅いですね」
 
 そう言ってマリウス神父は短剣をこちらに向けた。途端に短剣から黒いモヤのようなものが溢れ出す。まるで蛇のようにウネウネと辺りを漂う。
 黒いモヤはしばらくすると本物のような赤い目の蛇に変化しはじめる。

 「魔物か」

 レイ様が呟きにマリウス神父は答えた。

 「いいえ、これは魔導具で具現化したモノなので純粋な魔物とは少し違うんですよ、魔物と違って言うことを聞くし、攻撃だってそこそこ出来るんですよ」

 こちらを向いていた蛇はすぐさま飛んできた。蛇は口を大きく開けてレイ様の右腕に腕に噛み付いた。

 「くっ……!」
 「ほらね」

 蛇はレイ様に噛み付いた後ぐるぐると腕に巻き付いていく。牙が右腕に食い込みレイ様は痛みにうめき声をあげた。
 ミシミシと嫌な音を立ててレイ様の腕を締め付けていく。

 「レイ様!」

 思わず悲鳴に似た叫びが漏れる。動こうとするもやはり手足は縫い付けられたように動かない。その間にもレイ様の腕から血が滴り落ちている。

 「このまま腕を食いちぎってしまいましょうか」

 マリウス神父は愉快そうに笑みを浮かべながら苦痛の表情のレイ様を見ている。

 「やめてえええ!!」

 必死の叫びにマリウス神父は鬱陶しいといった表情で私を見て短剣を軽く振った。
 するとレイ様に噛み付いていた蛇がスルスルとレイ様から移動して今度は私の身体を這い、スルスルと全体に巻きついた。
 身体が動かず、なすがままで抵抗できない。蛇は私の身体に巻き付くと締め付け出した。
 肺も圧迫されて、あまりの苦しさに肺が空気をとりこめなくなる。

 「ハッ……! あ……っ」
 「アリア!」

 ヨシュアが私の方を見て叫ぶ。抵抗することもできず蛇が身体を這い、首元まで巻きつかれていく。

 苦しい、痛い、なんて、なんて私は無力なの……。ただ、首を突っ込んで喚いて何も役に立ってないじゃない。

 そんな感情が駆け巡る。自分の身体の骨の軋む音が頭の中で響く。痛みなのか苦しさなのか、自分の無力さを思い知らされてなのか私の目から涙がこぼれる。
 だんだん意識が朦朧もうろうとしてくる。

 私、このまま死ぬのかな。

 おぼろげな意識でそんなことを考える。お父様、お母様、ティアお姉様、エヴァンお兄様、ハンナ、屋敷のみんなの顔が浮かぶ。

 ああ、もうだめだ。そう思ったときだった。

 

 いきなりフッと締め付けていたものがなくなり身体が解放された。膝から崩れ落ちた後、地面に倒れてしまう。
 誰かの叫び声が聞こえる。全身に血液が巡っていき、ドクンドクンと心音がうるさい。身体が空気を吸い込もうとして思わず咳き込んでしまう。
 ごほごほと咳き込んでいると身体をゆっくりと起こされた。

 「大丈夫か!」


 荒い息遣いのまま見上げると私の顔をヨシュアが心配そうに覗き込んでいた。

 「ど……どう、なったの?」

 息も絶え絶えにたずねるとヨシュアが私を抱き起こして「それが……」と視線を移した。ヨシュアの視線の先を見てみると、何やら叫びながら倒れ込むマリウス神父の姿があった。
 
 「私のっ! 私の、腕があああ!!」

 霞んでいた視界が鮮明になっていくのを感じながら、マリウス神父を見るとマリウス神父の周りに血溜まりができていた。
 いつのまにか蛇は姿を消し、よく見るとマリウス神父の短剣を持っていた腕が斬られたかのようになくなっている。
 腕があったはずの場所からはぼたぼたと血が流れ落ちている。
 マリウス神父の目の前には見慣れた小さな背中があった。けれど、私のいつも知っている背中とは全く違う雰囲気を放っていた。

 「リク……?」

 小さな声で呼びかけると、リクはピクリと反応した。

 「アリアお嬢様、レイ殿を」

 静かな声で言われ、ハッとしてレイ様の方を見るとレイ様は噛まれた腕を押さえながら膝をついていた。

 「レイ様!」

 慌てて駆け寄ると、レイ様は私を見て微笑んだ。

 「ちょーっと痛いんだよね、しかも毒にやられたっぽいし」

 そう言ったレイ様の額には脂汗が滲んでいる。心なしか顔色も悪い。

 「とりあえず止血しようぜ」

 ヨシュアの言葉に頷きポケットからハンカチを取り出すとヨシュアは受け取ったそれをぎゅっと腕を縛っていく。
 少しでも楽な体勢にしようとレイ様の身体を支える。ふと視界の端に地面に何か転がっているのを確認する。よく見るとそれは人の腕だった。
 先程みた金の短剣が握られており、切り落とされたマリウス神父の腕だということがわかる。金の短剣からは禍々しいオーラを放っていた。
 思わず「ヒッ」と声が出てしまうも、それ以上声を出さないように飲み込んだ。ヨシュアも転がっている腕に気づいたのか顔を顰めた。

 「貴様あああああ!! よくも、よくも私の腕をおお!! 精霊ごときが!精霊ごときが!」

 髪を振り乱し、目は血走った怒りの表情でマリウス神父は目の前に立ちはだかるリクを憎しみのこもった目で睨みつけている。
 マリウス神父が残った左腕で懐を探ろうとしたときだった。風切り音がしたかと思うとマリウス神父は目を見開いたまま音を立てて倒れ込んだ。
 一瞬のことに反応できず、辺りを静けさだけが漂った。マリウス神父を見ると胸にぽっかりと風穴ができており、赤黒く周りが染まっていた。



 「お前なぞ契約する精霊がいるものか」


 ぽつりとリクが冷たくなった物言わないマリウス神父に向かって呟く。

  
 こうしてあっけなくマリウス神父は亡くなってしまったのだった。最後はリクを憎しみのこもった表情のまま睨みつけて。

 私はマリウス神父に言い放ったリクの言葉がなぜか鉛のように重たく心にのしかかった。
 
 

 
 

 
 

 

 
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