精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

文字の大きさ
89 / 91
2章

2−60

しおりを挟む
 「いや、あいつのことだ。うまく片付けられるようにお嬢さんに黙ってあえて泳がせてことを運んだりしたんだろう」

 ヒューズさんは謝る私にそう言うとドアの向こうへ鋭い視線を送った。

 不思議に思い、口を開こうとするもローランドさんが話を続けるのでとりあえず集中することにした。

 「それからレイ殿にも協力してもらって子供の行方不明事件について調べてもらい、私達は不正の証拠を集めていきマリウス神父が行っている人身売買の証拠を突き止めるだけとなって、それからは……あとは知ってのとおりだ。マリウス神父は亡くなって、売買に関わっていた自警団員の亡くなった者以外は拘束し、町長と父の部下だった男も罪を認めた」

 「行方不明の事件についてはローランドさんはどこまでわかっていたんですの?」
 
 「噂の広がりようから精霊が間違いなく絡んでいるのはわかっていた。噂がまるで外部の人間をキヨラに向けさせることがなんのためかがはっきりしなくてこちらとしてもどう動くべきかわかりかねていた。まさか……子供が起こしたこととは……」

 カイとヨシュアも聴取を受けたそうなので正直に話したのだろう。

 「私が不甲斐ないばかりに子供達に不安な思いをさせてしまった。マリウス神父に売られて行方がわからなくなっている子供達は今あらゆる手段を使って全力で行方を探している」

 そう言ったローランドさんは悲痛な表情で視線を伏せた。ローランドさんの前で組まれた手は硬く握りしめたまま少し震えていた。
 どうか売られた子供達が無事であることを祈るしかない。

 「それについてはミルランタのギルドも全面的に協力しましょう。さすがにこれで引き上げじゃ俺らも寝覚めが悪い」

 ヒューズさんが苦虫を噛み潰したような表情で告げるとローランドさんは「感謝する」と言って真剣な表情で頷いた。

 「それで、君はサーナイト家の伯爵令嬢というのは聞いたが、どうして冒険者とメイド、精霊だけで旅をしているんだい?」

 ローランドさんがそれまでの空気を払拭するかのように私にたずねる。

 私は精霊の件はもちろん伏せて他の領地の民の暮らしを学ぶための勉強でハーベストを訪れることを話すとローランドさんは感心したように「さすがサーナイト伯爵だな、こんなに幼い娘にまで伯爵家の人間であることを自覚させようとは」と勝手にいい方に解釈してくれた。それに少しホッとしていると、ヒューズさんはローランドさんと違って苦い表情を見せた。

 「それにしたってスパルタすぎません? 引き連れているのが冒険者とメイドと精霊とは……いくらハーベストが治安の良い街だからって何かあったらどうするんだ。しかも護衛の冒険者がとは……」

 ぶっきらぼうに呟くも、ヒューズさんはどうやら心配してくれているようだ。そう思ったところでドアが勢いよく開かれた。

 「だーいじょうぶ! お嬢は俺が守るよ!」

 レイ様が部屋に入室するなり高らかに声を上げた。いくら自警団との捜索で関わりがあったとはいえ、仮にもハインツ子爵であるローランドさんがその場にいるのに無作法と言ってもいい入室の仕方に思わず慌てた。するとヒューズさんがおもむろに立ち上がり、スタスタとレイ様の方へいくといきなりレイ様の胸ぐらを掴んだ。

 「おーまーえーはー! ちったあ礼儀というものを身につけろ!」

 ガクガクとヒューズさんに揺さぶられるもレイ様はニコニコと笑顔のまま私の方を見てひらひらと手を振った。
 まったくヒューズさんの話を聞く気のないレイ様に思わず私は「ははは」と渇いた笑いが出る。
 その様子を見たヒューズさんは苦笑しながらもレイ様に席をすすめると、レイ様はヒューズさんの手からするりと離れて私の隣に腰掛けた。

 「しかもお前、神父を死なせやがってええ! あいつにはまだいろいろ聞かなきやいけねえことあったのによおお!」

 ヒューズさんはすぐさまレイ様の元へ行きレイ様の横でなおも言い募るとレイ様は耳を塞いだ。

 「俺じゃないもーん。それに不可抗力っしょ、死ぬとこだったし」

 脳裏にリクの姿が浮かぶ。この二人にはリクははぐれ精霊ということは伝えてあるので、契約者のいない誰の指示も聞かないはぐれ精霊の仕業と聞けばこれ以上何も言えない。そのことを思い出したのかヒューズさんはぐぬぬと悔しそうに歯軋りをした。

 「はぐれ精霊のしたことならばしょうがない。まあ、マリウス神父の聴取が途中だったのは痛いが残っていた書類や、町長への聞き取りで調査していくしかないだろう。レイ殿、アリア嬢には感謝している。俺達だけではこの事件の真相には辿り着かなかった」
 
 ローランドさんがそう言って微笑んだ。レイ様は口の端を上げたままローランドさんの方を見た。

 「いいですよ~、俺はギルマスの命で動いただけですし。ちゃんと別で報酬も頂いていますしね」

 そう言ってレイ様は私の方を見てにっこりと笑った。

 「お前!サーナイト伯爵家の令嬢の護衛任務なんて聞いてないぞ! ちゃんと報告しろ!」
 「お嬢の護衛は俺の母親からの依頼でもあるもーん。サーナイト伯爵の依頼は俺の中でつ・い・で」
 「なんだそれは……」

 同じ護衛依頼でも伯爵家の依頼をついで呼ばわりしたことに呆れたようにヒューズさんは肩を落とした。
 最初会ったときはクールそうなイメージだったがレイ様の前だと苦労人のような印象を受ける。


 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

過労死して転生したので絶対に働かないと決めたのに、何をしても才能がバレる件

やんやんつけバー
ファンタジー
過労死して異世界転生。今度こそ絶対に働かないと決めたのに、何をやっても才能がバレてしまう——。農村で静かに暮らすはずが、魔力、農業、医療……気づけば誰も放っておかない。チートで穏やか系の異世界スローライフ。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

処理中です...