Prisoner

たける

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第9章

2.

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苛立ちにも似た愛おしい感情を抱きながら、ゲイナーは執務室に戻った。
またクレイズを刑務所へと送らなければならない。


──悔しい。


救いたいと願いながらも、何1つクレイズを救えていない自分に腹が立った。それをみっともないぐらいに見せてしまい、ゲイナーは後悔と共に恥ずかしさを感じた。
結局、クレイズの発砲した本当の理由が分からなかった。囚人がからかうように言っていた言葉に腹を立てた、と言っていたが、それだけではない筈だ。もっと他に理由がある。そう思っていたものの、クレイズはその理由を話さなかった。


──話したくないのだろうか?


そう考えながら移送手続きの為の書類を掴み、深呼吸をした。


──感情的になるな。冷静になれ。


そう言い聞かせてから執務室を出ると、ゲイナーは独房へと向かった。
廊下を歩き囚人達の罵りを無視して進むと、見張りの警官がゲイナーに気付き頭を下げた。

「クレイズは独房の中です」
「ありがとう。後は私が」

そう言うと、警官は独房の鍵をゲイナーに手渡し足早に廊下を歩いて行った。その姿が見えなくなってから、ゲイナーは独房の鍵を開け中に入った。
独房に入れられたクレイズは、静かにベッドに座っていた。そんなクレイズは笑顔でゲイナーを迎えると、分かりきった事を聞いてきた。

「今度は、何の用だ?」

そう尋ねるクレイズに、ゲイナーは手に持っていた書類を軽く上げて見せた。

「ブレイブ刑務所への移送手続きをする」

そう言いながらクレイズの前に立つと、ゲイナーは辺りを見回した。
独房は相変わらず四方をコンクリート壁に囲まれ、外界から遮断されるかのように窓もなく薄暗かった。簡素なベッドに座っているクレイズは拘束着に着替えさせられていて、両足を投げ出している。

「じゃあ、手続きを始めよう」

騒ぐ胸を落ち着かせながら、ゲイナーは書類に視線を落とした。

「なぁ、ゲイナー」
「何だ?」

ベッドが軋む音がして顔を上げると、クレイズがベッドの上で胡座をかき、ゲイナーを見上げていた。
ふと、初めてクレイズに移送手続きをした時の事を思い出し、ゲイナーは切なくなった。あの時はまさかクレイズと、人に言えないような関係になるとは思っていなかったし、ましてや、こんなにも惹かれるとも思っていなかった。
好意はあった。とても美しかったから。

「刑務所へは行きたくない。ここに、警察署にいさせてくれ」

上目にクレイズはゲイナーを見つめてくる。その目に緊張しながら、ゲイナーは首を振った。

「そう言う訳にはいかない。君は銃で人を傷つけたんだ。罪は重いし、償わなければならん」

少し口調を厳しくして言った。罪は罪だと、分からせなければいけない。それがいくら愛している女性であっても。

「罰金じゃなくて?」
「あぁ、そうだ。保釈は認められん。君はまだ保護観察中だったんだからな」

そう言うと、クレイズは嫌だと言って駄々をこねた。

「嫌だ、あの屋敷に戻るのは」

辛そうだった。拘束着の下ではきっと震えているだろう。そして、あの日クレイズの口から聞いたドーズの、異常とも言える過保護さ。

「じゃあ、教えてくれ。発砲した本当の理由は何なんだ?」

ゲイナーはクレイズを見下ろして尋ねた。するとクレイズはゆっくりと瞬きをした後、その目を鋭く光らせた。

「口で説明しないと分からないか?」

そう言うなり、クレイズはベッドから立ち上がり床へと下りた。そして拘束着をつけられている体を擦り寄せ、ゲイナーを見上げた。

「どう言う意味だ?」

クレイズの髪から愛おしい香りがして、ゲイナーは胸を締め付けられるようだった。

「ゲイナー」

そう呟くなり、クレイズはゲイナーの胸元へ額を寄せると壁へ押してきた。不意をつかれたゲイナーは足元をふらつかせて壁に背中をつけると、クレイズを見遣った。

「クレイズ、どうしたんだ」

そう尋ねると、クレイズは少しだけ背伸びをし、ゲイナーの包帯を巻いた首へとキスをしてきた。

「クレイズ、ここは独房だ」

ゲイナーは、そんなクレイズの肩を掴んで少し距離を置かせると、困惑を悟られまいとごまかすように眼鏡を人差し指で上げた。
鼓動が早くなっているのが自分でも分かる。顔が熱くなり、体の芯までも熱を発しているようだった。

「好きだ、ゲイナー。お前を誰かに奪われたくない。そう思う事は駄目な事なのか?」

少しだけ悲しげな目をしてそう言うと、クレイズは俯いた。それを見たゲイナーは書類を床へ落とすと、その体を引き寄せ強く抱きしめた。


──罪じゃない、と言えれば、彼女は幾分か救われるだろう。


それを分かっていながら、そう言えない自分の不甲斐なさを嘆くように、強く強くクレイズを抱きしめた。
幸い外からは独房の様子は分からない。何も気にする事なく、ゲイナーはクレイズをずっと抱きしめていた。

「君を救いたいと言ったのに、ちっとも君を救えない。余計に苦しめているようだ」

ゲイナーはクレイズの耳元にそう囁くと、拘束着の上からその背中を撫で、魅惑的な唇にキスを返した。

「そんなに自分を責めないでくれ。オレはお前に救われてる」

そう言い返すクレイズの体を捻って、ゲイナーは壁へとそっと背中をもたれさせた。

「本当に?本当に私は、君を全てから救えているか?」

そんな筈はない。そうゲイナーは思っていた。現にドーズの事からクレイズを救えていない。

「そうだな……もうお前に嘘をつき難くなっているから、正直に話そう」

そう言いながら、クレイズは拘束着の中で小さく身じろいだ。

「こうしてお前と見つめ合っている時が、1番幸せだ。救われてる。だがその反面、苦しめてる」
「あぁクレイズ……許してくれ。こんな不甲斐ない私を」

また抱きしめた。
やはり自分がクレイズを苦しめている。その事実に、ゲイナーは体を引き裂かれそうになった。
家族を捨てる事も、クレイズを選ぶ事でさえも出来ない中途半端な自分が、これ程嫌になった事はなかった。

「許すも何もないさ。オレがそんなお前を好きになったんだ」

そうクレイズは漏らすと、発砲してすまないと言った。その目には涙が滲んでいる。


──やはり、彼女が好きだ


まだ諦めきれない。中途半端でも構わない。もう少し、もう少しだけ、クレイズの心を占めていたかった。

「好きだ、君が」

そう呟き、ゲイナーはクレイズの唇に唇を重ねた。警察署の独房だと言う事も忘れ、夢中で口づけた。クレイズは唇を重ね直す度、熱いため息を漏らし、ゲイナーに身を委ねていた。

「今すぐお前が欲しい」

そうクレイズに言われ、ゲイナーは我に返った。
ここは独房だ。
すっかり忘れていた事にゲイナーは戸惑いつつ、クレイズの頬を撫でた。

「ここは独房だぞ?」

そう言った自分は狡い。クレイズに同意を求めている。もしクレイズが構わないと言えば、多分もう押さえられないだろう。
するとクレイズは、そんなゲイナーの内心を見透かしたように耳元で構わない、と囁いた。
クレイズも狡い。分かっていて誘ったに違いない。そう思いながらも、先に仕掛けたのは自分だったな、と思い返した。

「あまり声を出さないでくれ」

そう言ってゲイナーはクレイズの白い首筋に唇を這わせると、黒いズボンを脱がせ両足を抱え上げた。弾力のある柔らかなふとももに、指が押し返される。
足を抱え上げられたクレイズは、背中を壁にもたれさせながら、自由にならない腕を忌ま忌ましく思っているように不服そうな顔をしている。

「それは無理かも知れないな。ゲイナーは激しいから」

そう言ってクレイズが笑いかけるなり、ゲイナーは自身をまだ慣らしてもいないクレイズの恥部へと挿入した。

「んっ……はっ……あぁ……」

愛撫をする余裕はなかった。内心で申し訳ないと思いつつも、ゲイナーは苦しそうに声を漏らすクレイズを見つめた。

「さすがに……きついな」

そう言いながらクレイズを抱え直すと、ゲイナーは更に奥へと自身を挿入した。

「あぁっ……!あっ……ゲイナー……」

クレイズが熱い吐息を漏らしている。拘束着を着させられていても分かるその豊満な胸を抱き寄せ、自身の胸板で押し潰すと、ゲイナーはクレイズを強く突き上げ始めた。

「んぁっ……!あっあっ!ひぃっ……あっ……!」

強く揺する度、クレイズの恥部がゲイナーを絞めつけ、痺れにも似た快感を感じる。その快感に声を漏らし、抑える事の出来ない欲望をクレイズにぶつけるように何度も突き上げた。

「声が大きい……」

嗜めるようにそう言うと、クレイズは途切れる言葉で快感を紡いだ。

「だ……めだ……はっ……あぁんっ……凄い感じ……るから……ひゃあんっ……!」

耳が痺れるような甘い嬌声に、ゲイナーはクレイズの首筋に吸い付いた。そしてクレイズがしがみつけない分を補うように、鼻先が触れてしまいそうなぐらいに体を寄せ、突き上げた。
体が熱い。クレイズの体も自分との境が分からないぐらいに熱い。

「あぁっ……ゲイナー!あんっ……あっあっ…!」

絶頂を感じ始めたのか、クレイズの恥部が更にゲイナーを強く絞めつける。その圧迫感にゲイナーは眉間にシワを寄せると、苦しそうにクレイズから自身を引き抜いた。

「危ない……君の中に出してしまいそうになった」

そう言いながらベッドに座らせると、ゲイナーは濡れたクレイズの恥部へと指を挿入し、強く中を掻き回した。
中は柔らかく温かい。ゲイナーは緩んでいる顔を見られまいと顔を隠すように俯きクレイズを刺激した。

「やぁあっ……!ず……るいぞ……!ゲイナー……やっ……あぁんっ!」

ビクビクと体を震わせながらクレイズが果てると、ゲイナーはゆっくりと指を引き抜いた。指先にはねっとりとしたものが糸を引いている。
感じてくれているのだな、と思うと嬉しくなり、ゲイナーはその指を舐めた。

「狡いと言われても、君の中に出す訳にはいかないからな」

そう強がって言ったものの、ゲイナー自身も早く果てたくて仕方がなかった。
意地悪をしてそのまま中に出してしまえばよかったと思っていると、クレイズがゲイナーの前で体を折り、屈んだ。
一体何を、と思った瞬間、クレイズはゲイナーの、まだ興奮しているペニスをくわえた。

「クレイズ……駄目だそんな事」

慌ててクレイズを押し放そうとするが、クレイズがペニスを軽く吸い上げたので、ゲイナーは力なくその肩に手を置くだけになった。
本音を言えば、クレイズが今からしてくれる事をして欲しいと言いたかった。だが、そこまでさせる訳にはいかない、と思い留まっていたのだが、結局はさせてしまう事になっている。
嬉しかった。
目を細めクレイズを見下ろし、その髪を撫でる。クレイズは手も使えないのに、不器用ながらも、丁寧に舐めてくれている。時折喉の奥までくわえては、舌先で遊ぶようにし、吸い付く。そんなクレイズにゲイナーは抑え切れないものを吐き出した。
クレイズは咥内に放たれた白濁を飲み込むと、ゲイナーを見上げてきた。口元には零れた白濁がついていて、ゲイナーは屈んでそれを拭ってやった。
嬉しさと申し訳なさが胸の内でうごめいている。

「すまない……」

そう謝ると、クレイズは目を細めて笑った。

「構わないさ」




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