トム・チェイスの悩み

たける

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翌朝、トムはインターネット上の捜索掲示板に、このトレントシティで行方不明になったハムスターの書き込みを見つけた。


──賞金100万か……悪くない。


写真がアップされていて、ハムスターの特徴は背中にあるハート柄だとあった。
早速トムは報告がてら、ミカの働くカフェへ向かう事にした。
暑い陽射しが中庭を照らしている。軽い汗をかきながらカフェに入ると、ミカが不機嫌な顔でトムを迎えた。

「いらっしゃい」
「コーヒー。あと、少し話が出来ないか?」

店内はまだ空いていて、他に客はいない。ミカは頷くと、コーヒーを運んできた。

「店長は今、面接中なの。5分は大丈夫よ」

トムの向かいに座り、ミカは赤いフリルのスカートを揺らしながら言った。

「仕事だ。ハムスターを探すだけで100万もらえる」

プリントアウトしておいた書き込みを、テーブルに置く。

「そんなにもらえるの?」

ミカが驚きに目を丸くすると、奥の事務所から見た事のある女が出てきた。

「いいんですか?」
「あぁ、勿論。着替えはあっちでね」

トムが女──確かバートンと言ったか──を見つめていると、ミカが不審げに見遣ってきた。

「知り合い?」

バートンが更衣室に消えたのを確認してから再びミカに向き直ると、質間を無視して言った。

「俺は詳しい話を、依頼人に連絡して聞いてみる」
「じゃあ私は、彼女から色々聞き出しておくわ」

何をだ、と言わんばかりの顔をしてミカを睨んだが、彼女はトムの視線に気付かないフリをしていた。





「今日からうちで働いてもらう事になった、ジュリア・バートンだ。バートン、こっちはミカ・ゲイル。分からない事があったら彼女に聞いてくれ」

店長はそう言い、ミカとジュリアを紹介した。

「よろしくお願いします」

礼儀正しく会釈するジュリアを見つめ、ミカは微笑んだ。守ってやりたくなるタイプの女だ。愛らしく、華奢で、いい匂いもする。


──いかにも、チェイスの好みそうだけど……


ふと、カフェの向かいにある書店へ目を向けた。そこにミカの恋人と一緒に、チェイスは働いている。

「こちらこそよろしくね。私の事はミカって呼んで」

そう言うと、ジュリアの顔がパッと明るくなった。

「じゃあ私の事はジュリアで」





休憩時間になると、ジュリアはミカと共に書店へ向かった。
本当は電気屋に行くつもりだったのだが、プリンターが必要なんだと言うと、ミカが書店に友達がいるから、貸してもらえばいいと言ったのだ。


──本当にいいのかしら……


半信半疑のまま書店に入ると、数人の客達が立ち読みをしていた。ミカは入るなり、レジに立つ青年に声をかける。

「ハァイ、アンディ」
「やぁ!ミカ、どうしたの?」

か細い、アンディと呼ばれた青年は満面の笑みでミカを見つめた。青い瞳が照明でキラキラしている。

「プリンターを貸して欲しいのよ。いいかしら?」
「え、いいよ。けど、君ん家にプリンターはあるだろ?」

レジにしっかり鍵をかけ、アンディが出てきた。小さなジュリアから見れば、まるで電信柱のようだ。

「こちらのジュリアが借りるのよ」

手で示され、ジュリアはペコリと頭を下げて名乗った。その時客の1人がレジに来た為に、アンディは別の人間を呼んだ。現れたのは、チェイスだった。

「プリンターを貸して」

ミ力は素っ気なく言った。怪話な顔をしたチェイスは、アンディを見遣る。そして彼が頷くのを見てから、ついてこい、と身振りで示した。

「あ、あの……やっぱり、自分で買います。だから……」

事務所に通され、店長らしきいかつい男に睨まれ、ついジュリアは畏縮してしまう。

「いいじゃない。使わせてもらいなさいよ」

ミカはそう言ってくれたが、チェイスはジュリアが使うと分かって眉間に皺を寄せた。

「君が使うのか?一体どんな重要な事にだ?」

語気を強く言われ、私用に使うのだと言い出せなくなった。ジュリアは顔に熱を感じながら、恥ずかしさに店を飛び出した。




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