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部下が女を拐ってきた。エリスはそれを快く向かえ、ジュリア・バートンを椅子に座らせた。
「初めまして、バートンさん。アタシはエリス・トマス。あのハムスターの飼い主よ」
手際よくバートンにロープが巻かれるのを見遣り、エリスはその髪を一房すくい上げた。
「私を拐って、一体どうするつもり?」
怒りの奥に、明らかな恐怖が垣間見える。エリスはクスクス笑うと、バートンの前でクルリと回って見せた。
「貴方は餌よ。貴方の仲間が、アタシのハムスターをなかなか返してくれないから、ね」
「貴女が必要なのはハムスターじゃなくて、その中のダイヤでしょう?しかもそれは、貴女のものじゃないじゃない!」
ピシャリ、とバートンの頬を打った。生意気な女だ。それに、いらない事まで知っているようだった。
「夫のものは、妻であるアタシのものよ!」
そう言って部下に目配せし、ブラインを連れてこさせた。夫は衰弱し、一回り小さくなってしまったようだ。
「アタシの夫よ。貴方が言う事を聞かなければ、悲しい運命に突き落としてやるんだから!」
エリスはそう言うと、部下から銃をもぎ取ってブラインのこめかみに押しあてた。すると丸々と太った体が震え、小さな目は命乞いの為に潤んだ。
「さぁ、お友達に連絡して、ハムスターをここへ持ってくるよう連絡しなさい!けど、変な事を喋ったら、直ぐ様引き金を引くからね」
バートンも怯え、エリスを見つめていた。だが暫くすると、分かったわ、と言って頷いた。
「電話をするから、ロープをほどいて」
「ダメよ。アタシが代わりにかけたげるわ」
部下にバートンのポケットから携帯を探させる。そしてそれを受け取ると、エリスはニコリと笑った。
携帯の待ち受けは、つまらない宇宙の景色だ。
「誰にかける?」
アドレス帳を開くと、名前と番号が登録されている。
「……アンディ……アンディ・ハルバートにお願い」
操作し、呼び出し音が聞こえると、エリスは携帯をバートンの耳に押し付けてやった。
携帯が着信を告げる。静寂の中でそのデビルマンの着メロは、異様に大きく響いた。
「も……もしもし?ジュリア?」
拐われたジュリアからだ。早速相手は、チェイスが言っていたように交渉を持ちかけてきたらしい。携帯を握る手に、じっとりと汗が滲む。
『今、グレッグの飼い主のトマスさん夫妻のところにいるの。グレッグはどうしてる?』
「も、もちろん、元気だよ!カゴの中でモゾモソしてる」
実際、ハムスターのグレッグはアンディの前にはいない。
『そう、良かった……あのね、飼い主も見つかった事だし、お返ししようと思うのよ。悪いんだけど、連れてきてくれない?』
受話器の向こうは驚くほど静かだ。かく言うこっちも、知らないクラシックが流れていて静かだが。
「あぁ、うん、勿論いいよ。それで、何処へ?」
あのホテルだろうか?だとしたら、既にミカとチェイスは張り込みをしている。
だが暫くの沈黙の後、ホテルではない場所を指定された。
『トレント空港脇にある、格納庫まで来てくれない?』
「え?格納庫?」
また沈黙。微かに女性の声が聞こえる気がする。
『トマス夫妻は、グレッグが戻り次第、またハネムーンに向かうつもりなのよ』
アンディは唾を飲んだ。このパターンからすると、ドラマでは殺されかかる場面だ。そして品物も人質も奪われ、逃走されてしまう。
だが断る訳にはいかない。不審に思われたら、ジュリアの命も危なくなってしまう。
「分かったよ。支度してから行くから、ちょっと時間がかかるけど、必行くから!」
『お願いね……アンディ……』
そこで通話は切られ、虚しい空音が耳に残った。
──きっと彼女は脅されてる!
奮起したアンディは、急いでその内容をチェイスに連絡した。
『分かった。こちらも武装してから向かう。そっちの手筈はどうだ?』
チェイスの落ち着いた、低い声がする。アンディは別室を見遣ってから、順調だと報告した。
「もうすぐ終わるよ。僕はグレッグを連れて格納庫に向かうから、必ず助けてね」
頼りはもう、チェイスしかいない。あと、ミカと。
『勿論だ。じゃあ、向こうで会おう』
「初めまして、バートンさん。アタシはエリス・トマス。あのハムスターの飼い主よ」
手際よくバートンにロープが巻かれるのを見遣り、エリスはその髪を一房すくい上げた。
「私を拐って、一体どうするつもり?」
怒りの奥に、明らかな恐怖が垣間見える。エリスはクスクス笑うと、バートンの前でクルリと回って見せた。
「貴方は餌よ。貴方の仲間が、アタシのハムスターをなかなか返してくれないから、ね」
「貴女が必要なのはハムスターじゃなくて、その中のダイヤでしょう?しかもそれは、貴女のものじゃないじゃない!」
ピシャリ、とバートンの頬を打った。生意気な女だ。それに、いらない事まで知っているようだった。
「夫のものは、妻であるアタシのものよ!」
そう言って部下に目配せし、ブラインを連れてこさせた。夫は衰弱し、一回り小さくなってしまったようだ。
「アタシの夫よ。貴方が言う事を聞かなければ、悲しい運命に突き落としてやるんだから!」
エリスはそう言うと、部下から銃をもぎ取ってブラインのこめかみに押しあてた。すると丸々と太った体が震え、小さな目は命乞いの為に潤んだ。
「さぁ、お友達に連絡して、ハムスターをここへ持ってくるよう連絡しなさい!けど、変な事を喋ったら、直ぐ様引き金を引くからね」
バートンも怯え、エリスを見つめていた。だが暫くすると、分かったわ、と言って頷いた。
「電話をするから、ロープをほどいて」
「ダメよ。アタシが代わりにかけたげるわ」
部下にバートンのポケットから携帯を探させる。そしてそれを受け取ると、エリスはニコリと笑った。
携帯の待ち受けは、つまらない宇宙の景色だ。
「誰にかける?」
アドレス帳を開くと、名前と番号が登録されている。
「……アンディ……アンディ・ハルバートにお願い」
操作し、呼び出し音が聞こえると、エリスは携帯をバートンの耳に押し付けてやった。
携帯が着信を告げる。静寂の中でそのデビルマンの着メロは、異様に大きく響いた。
「も……もしもし?ジュリア?」
拐われたジュリアからだ。早速相手は、チェイスが言っていたように交渉を持ちかけてきたらしい。携帯を握る手に、じっとりと汗が滲む。
『今、グレッグの飼い主のトマスさん夫妻のところにいるの。グレッグはどうしてる?』
「も、もちろん、元気だよ!カゴの中でモゾモソしてる」
実際、ハムスターのグレッグはアンディの前にはいない。
『そう、良かった……あのね、飼い主も見つかった事だし、お返ししようと思うのよ。悪いんだけど、連れてきてくれない?』
受話器の向こうは驚くほど静かだ。かく言うこっちも、知らないクラシックが流れていて静かだが。
「あぁ、うん、勿論いいよ。それで、何処へ?」
あのホテルだろうか?だとしたら、既にミカとチェイスは張り込みをしている。
だが暫くの沈黙の後、ホテルではない場所を指定された。
『トレント空港脇にある、格納庫まで来てくれない?』
「え?格納庫?」
また沈黙。微かに女性の声が聞こえる気がする。
『トマス夫妻は、グレッグが戻り次第、またハネムーンに向かうつもりなのよ』
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だが断る訳にはいかない。不審に思われたら、ジュリアの命も危なくなってしまう。
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『お願いね……アンディ……』
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『分かった。こちらも武装してから向かう。そっちの手筈はどうだ?』
チェイスの落ち着いた、低い声がする。アンディは別室を見遣ってから、順調だと報告した。
「もうすぐ終わるよ。僕はグレッグを連れて格納庫に向かうから、必ず助けてね」
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