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ガシャドクロ
ガシャドクロ①
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ようやく異世界にいるのだと閻鬼にも理解できた。色香を無差別に振り撒く妖狐なんかに教えられたのは癪だが、事実として認めなくてはならない。
では何故、自分は――おそらく就学旅行のバスに乗っていた妖怪全ても――異世界にやってきてしまったのか。
「それならそうと、旅の栞に書いておいて――」
くれれば――と続ける言葉の前に気付いた。
確か、何か書いてあった。それが、思い出せない。
「ねえ、あそこ?」
燃尾の問にキュピエルがしっかりと頷いた。
小さな天狗が暮らしていた場所。そこは閻鬼らがいた世界の天狗が暮らすような山奥とは違って、それなりの規模の村であった。
キュピエルはここで自分が天狗とは知らず、人間と共に暮らしていたらしい。
亜人などという存在がいる世界では、少し翼を持っている位では普通の範疇であったのだろう。
先にキュピエルが走り出せば、心配したスネコスリが燃尾の肩から下りて、彼女を追った。
閻鬼は一度ここを訪れている。惨状を目の当たりにしても感情に大きな変化はなかったが、大声で泣いたキュピエルの姿には切なさを覚えた。
「死体は……?」
聞いていた惨状とは違う光景に燃尾が首を傾げた。
「こっちよ」
村外れに歩きだした閻鬼に、
「ちょっと、待ちなさいよ」
燃尾が慌ててついていく。
村人の死体はなかった。血の跡は生々しく残ってはいたが、流した本体が一つもない。
あったのは、腐り始めたハーピーの死骸だけ。それも数は少なかった。
きっと、ジイジとかいうキュピエルを育てた人間がやったのね。
天狗のキュピエルがジイジは強い魔法使いだと言っていた。誇らしげに、涙を瞳に溜めながら。
前に来た時は、キュピエルに頼まれたから。だが、生き残っていた人間は一人もいなかったし、ハーピーの一体も見なかった。
「いたわ」
「は、はあ?!」
「なに、素っ頓狂な声を出して」
「出るわよ! 何で、ガシャドクロがいるわけ?」
そこは村外れの墓地だ。
ガシャドクロが、最後の村人を埋葬している。
「前に来た時に、ここで会ったのよ。村人の無念に引き寄せられたのね」
ガシャドクロは強い怨みを残して死んだ人間の念の集合体。山賊に襲われ、人知れず亡くなった者は埋葬されず、成仏できずに彷徨い集まる。
彼が埋葬を買ってでてくれた。どんな存在よりも村人らの無念が解るが故。
「ガシャドクロ……」
声をかけると振り返り、頷いた。
彼の開けた穴を覗き込んで、キュピエルが泣いている。
最後に埋葬されるのが、ジイジだったから。
「ジイジ……、う、うう……」
胸が締め付けられる。鬼だって泣く。泣かない事が強さではなく、他者を想い泣ける存在でしか辿り着けない境地があると、棟梁は言っていたが、関係なく悲しかった。
こんな顔をしては燃尾に笑われるか。
「キュピエルぅ、うわぁあ……、あ、あたしがきっと……、うわぁあ……」
「まさかの号泣?!」
燃尾の意外な一面を見た。
「悪い?」
「悪くはないわ。ただ……」
そんなに近くで泣かれたら、自分は泣けなくなってしまった。
ガシャドクロがそっとキュピエルの肩に手を乗せ、伝わったのか、小さな天狗は頷いた。
土を掛けてやる。辛くとも健気に、キュピエルが両手に土を掬ったその時だった。
遺体が淡く光り、白い何かが昇ってくる。それはガシャドクロに吸い込まれ、妖怪が僅かに震えた。
「あれは……」
「ああ、取り込んだのね。それとも……」
ジイジが選び、一体となる事を望んだのか。
答えは直に聞けそうだ。ガシャドクロの姿が変化して、人間を形作る。
キュピエルが呟く。
「ジイジ……」
と。
――――
「さて、何からお話しようか」
白髪に長い白髭の彼がそう言った。
彼が生前、キュピエルと共に過ごした家に招かれている。
テーブルに温められたミルクが出され、もてなされていた。
「まずは貴方の名前をお聞かせください」
丁寧に閻鬼は聞く。
「ガシャドクロであり、その一部である。生前は賢者と呼ばれておりました。名はハクレウス」
キュピエルはジイジにしがみついたまま離れず、燃尾は黙っているところを見れば尋ねる役は任されたようだ。スネコスリも床でミルクに舌を伸ばすだけ。
「貴方の強い想いが、ガシャドクロとの融合を果たしたのですね」
キュピエルを一人残しては逝けなかったのだ。
「左様……。いや、驚く事ばかり。ガシャドクロの他の者らの記憶が流れ込んできて、貴方がたとは、会ったばかりとは思えません」
「なら、私達がどんな存在かご理解頂けますね」
「ええ。今は代表権を譲ってもらえて、こうして生前の姿をしておりますが、ガシャドクロである事は間違いありません」
彼は愛しそうにキュピエルを撫でていた。見えるのは本当の家族としての絆。
「色々と教えてちょうだい。こちらの世界の事はさっぱりで」
賢者は大きく頷いた。
「では、私の知っている範囲で――」
まず世界であるが、このベトランゼ王国を含め、十三の国と地域が存在する。これはハクレウスが知っている範囲であり、東方の山脈を越えた向こうになにがあるかまでは分かっていない。また海を越えた向こうも未開であった。
現在いるのはベトランゼ王国といって、その西側の開拓地域で閻鬼は目覚めたようだ。
ベトランゼ王国は小国ではあったが、歴史をたどれば常に勇者と共に魔物と戦い勝利してきた事で、誇り高き民族とも呼ばれている。
「勇者?」
「ええ、勇者です。魔物が活性化する時、神により異世界から勇者が召喚されてきたのです。丁度、貴女がた、いえ、我々のように」
「じゃあ、私たちがここに来たのはこの世界の神に呼ばれて?」
「考えにくいですね。これまで召喚された勇者は皆、人間です。ガシャドクロの中の他の人の記憶から推察するに、歴史的な人物が多いですが、やはり、妖怪はいません」
「今の人間にそんな英雄的な存在……、スポーツの世界になればいるかも、だけど……」
だから、妖怪にした?
「二刀流の彼とか、異世界に来ても活躍しそうね」
燃尾が口を挟んだが、それに頷くと話が進まなくなりそうでやめた。
「あれは、召喚された、って感じじゃなかった気がする」
閻鬼が呟くように言えば、今度こそ、皆が頷いた。
「私が聞いた伝承と、日本の妖怪がこちらに来た状況はまるで違いますね。過去の勇者らは、こちらに来る時に神と会っています。そこで、特別な力も与えられているのです」
「まるで、ラノベね」
偶然に迷い込んだ、という可能性も否定はできない。人間から隠れる為に、迷い家的な場所に引き籠っている妖怪もいて、ある意味、そこも異世界なのだから。
だが――、
「誰か、旅の栞を持っていない?」
全員の首が横に振られた。
ここに来たのには意味がある。
仮に向こうの世界とこちらの世界で同じ時間の流れであるなら、修学旅行に行こうとしていた妖怪の乗ったバスが行方不明な事はとっくに上に知られている。
そう、今の妖怪らの纏め役である鬼族の棟梁なら、かの白き衣の神に頼んで、迎えに来る事だってできるのだ。
閻鬼すら足の竦む超絶な力の持ち主が、こちらの世界に現われれば、必ず気付く。絶対なる最強者。それが白き衣の神なのだ。
「今、それに悩んでも仕方がないわね。まずは、この世界で、これからどう動くべきかを考えましょう。で、種族について教えて」
この世界、あくまでも賢者ハクレウスの知識の範囲であり、この周辺では、であるが、人間種が約七割と圧倒的に多く、他に亜人種がいて、エルフ、ドワーフ、獣人族がいる。獣人に関しては、更に細分化されるのだが、その説明を聞くと長くなりそうだ。
「国の盟主は殆どが人間種なのね」
「はい。ただ、エルフの国が一つ、ドワーフの国も一つあります。獣人族の国はありませんが、地方の豪族が幾つか。その多くは人間の国の一部となっていますが、一つ、獣人だけの自治区もあります」
つまり、十の人間の国と三つの亜人の国、または自治区があるのだ。
「通貨は? まあ、妖怪の私たちはそんなに興味はないのだけど、知っておいた方が役立つ事もあるでしょ」
「意外と思われるかもしれませんが、紙幣が存在します。向こうの世界のような印刷技術があるわけではありませんが、魔法による信用を刻むのです」
一枚見せてもらえば、西洋魔力に近い物を感じて、金額らしい物と魔法陣に似た刻印が描かれていた。
「紙は?」
「樹木から生成するくらいの技術はあります」
ベトランゼ王国と周辺の三国では、ストンという通貨が一般的で、硬貨もあった。一ストンでどれくらいの価値があるかは比べるのが難しいが、一万ストンで町の住人――人家族五人――が一月暮らしていけるらしい。
「ここは王国と言ってたけど、政治体制は中世の欧州に近いのかしら?」
「そう考えていただいて結構です」
大よその情勢が分かったところで、自分達の次の行動を考える。細かい部分は、ハクレウスがいるので、その都度、確認すればいい。
「私たちの目的を整理しましょう。まずは、逸れた仲間と合流したいわね」
この世界に来た事に意味があるとしても、それが分からない今は、最優先はそれだ。
「動き回ると、留まるのと、どっちがいいの?」
燃尾の疑問は難しい選択だ。探す側になるのか、探してもらう側になるのか。
「安全策なら、留まるのもありね。でも、皆が同じ考えをしたら、ずっと会えないわ」
「じゃあ、あたし、王様の所に行きたいわ」
「どうして?」
「若いイケメンなんでしょ?」
うんざりする溜息をついた。
「この発情狐……」
「あら、権力と金を持った牡を求めるのは、牝として自然でしょ。いつ帰れるか、分からないなら、いっそ、妖狐の本懐をここで果たすのもいい」
舌なめずりをする燃尾は、既に国王をロックオンしているようだ。
「なら、一人で――」
「いえ、国王陛下にお会いするのも手かと」
「どういう事、ハクレウス?」
「個人の操作能力は限られますが、国の力と情報網を借りられれば、仲間の居場所を掴みやすいのではないかと」
それは確かにその通りだが。
「一国の王に、簡単に会えるものなの? まあ、会う、というだけなら、簡単なのだけど」
妖怪らしい手を使えば、という事だ。闇に隠れながら接近する事ができるし、力ずくで城まで押し通る事だってできる。
「この村で生活する前は、陛下の魔法の師であったのですよ、私は」
「あら、知り合いだったのね」
「賢者ハクレウスの名は、この国では便利に使えます」
ならば、目指すは王都か。
当面の目的として、ベトランゼ王、アウレックス・サファイアスに接触する事に異論のある者はいなかった。
では何故、自分は――おそらく就学旅行のバスに乗っていた妖怪全ても――異世界にやってきてしまったのか。
「それならそうと、旅の栞に書いておいて――」
くれれば――と続ける言葉の前に気付いた。
確か、何か書いてあった。それが、思い出せない。
「ねえ、あそこ?」
燃尾の問にキュピエルがしっかりと頷いた。
小さな天狗が暮らしていた場所。そこは閻鬼らがいた世界の天狗が暮らすような山奥とは違って、それなりの規模の村であった。
キュピエルはここで自分が天狗とは知らず、人間と共に暮らしていたらしい。
亜人などという存在がいる世界では、少し翼を持っている位では普通の範疇であったのだろう。
先にキュピエルが走り出せば、心配したスネコスリが燃尾の肩から下りて、彼女を追った。
閻鬼は一度ここを訪れている。惨状を目の当たりにしても感情に大きな変化はなかったが、大声で泣いたキュピエルの姿には切なさを覚えた。
「死体は……?」
聞いていた惨状とは違う光景に燃尾が首を傾げた。
「こっちよ」
村外れに歩きだした閻鬼に、
「ちょっと、待ちなさいよ」
燃尾が慌ててついていく。
村人の死体はなかった。血の跡は生々しく残ってはいたが、流した本体が一つもない。
あったのは、腐り始めたハーピーの死骸だけ。それも数は少なかった。
きっと、ジイジとかいうキュピエルを育てた人間がやったのね。
天狗のキュピエルがジイジは強い魔法使いだと言っていた。誇らしげに、涙を瞳に溜めながら。
前に来た時は、キュピエルに頼まれたから。だが、生き残っていた人間は一人もいなかったし、ハーピーの一体も見なかった。
「いたわ」
「は、はあ?!」
「なに、素っ頓狂な声を出して」
「出るわよ! 何で、ガシャドクロがいるわけ?」
そこは村外れの墓地だ。
ガシャドクロが、最後の村人を埋葬している。
「前に来た時に、ここで会ったのよ。村人の無念に引き寄せられたのね」
ガシャドクロは強い怨みを残して死んだ人間の念の集合体。山賊に襲われ、人知れず亡くなった者は埋葬されず、成仏できずに彷徨い集まる。
彼が埋葬を買ってでてくれた。どんな存在よりも村人らの無念が解るが故。
「ガシャドクロ……」
声をかけると振り返り、頷いた。
彼の開けた穴を覗き込んで、キュピエルが泣いている。
最後に埋葬されるのが、ジイジだったから。
「ジイジ……、う、うう……」
胸が締め付けられる。鬼だって泣く。泣かない事が強さではなく、他者を想い泣ける存在でしか辿り着けない境地があると、棟梁は言っていたが、関係なく悲しかった。
こんな顔をしては燃尾に笑われるか。
「キュピエルぅ、うわぁあ……、あ、あたしがきっと……、うわぁあ……」
「まさかの号泣?!」
燃尾の意外な一面を見た。
「悪い?」
「悪くはないわ。ただ……」
そんなに近くで泣かれたら、自分は泣けなくなってしまった。
ガシャドクロがそっとキュピエルの肩に手を乗せ、伝わったのか、小さな天狗は頷いた。
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「あれは……」
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ジイジが選び、一体となる事を望んだのか。
答えは直に聞けそうだ。ガシャドクロの姿が変化して、人間を形作る。
キュピエルが呟く。
「ジイジ……」
と。
――――
「さて、何からお話しようか」
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彼が生前、キュピエルと共に過ごした家に招かれている。
テーブルに温められたミルクが出され、もてなされていた。
「まずは貴方の名前をお聞かせください」
丁寧に閻鬼は聞く。
「ガシャドクロであり、その一部である。生前は賢者と呼ばれておりました。名はハクレウス」
キュピエルはジイジにしがみついたまま離れず、燃尾は黙っているところを見れば尋ねる役は任されたようだ。スネコスリも床でミルクに舌を伸ばすだけ。
「貴方の強い想いが、ガシャドクロとの融合を果たしたのですね」
キュピエルを一人残しては逝けなかったのだ。
「左様……。いや、驚く事ばかり。ガシャドクロの他の者らの記憶が流れ込んできて、貴方がたとは、会ったばかりとは思えません」
「なら、私達がどんな存在かご理解頂けますね」
「ええ。今は代表権を譲ってもらえて、こうして生前の姿をしておりますが、ガシャドクロである事は間違いありません」
彼は愛しそうにキュピエルを撫でていた。見えるのは本当の家族としての絆。
「色々と教えてちょうだい。こちらの世界の事はさっぱりで」
賢者は大きく頷いた。
「では、私の知っている範囲で――」
まず世界であるが、このベトランゼ王国を含め、十三の国と地域が存在する。これはハクレウスが知っている範囲であり、東方の山脈を越えた向こうになにがあるかまでは分かっていない。また海を越えた向こうも未開であった。
現在いるのはベトランゼ王国といって、その西側の開拓地域で閻鬼は目覚めたようだ。
ベトランゼ王国は小国ではあったが、歴史をたどれば常に勇者と共に魔物と戦い勝利してきた事で、誇り高き民族とも呼ばれている。
「勇者?」
「ええ、勇者です。魔物が活性化する時、神により異世界から勇者が召喚されてきたのです。丁度、貴女がた、いえ、我々のように」
「じゃあ、私たちがここに来たのはこの世界の神に呼ばれて?」
「考えにくいですね。これまで召喚された勇者は皆、人間です。ガシャドクロの中の他の人の記憶から推察するに、歴史的な人物が多いですが、やはり、妖怪はいません」
「今の人間にそんな英雄的な存在……、スポーツの世界になればいるかも、だけど……」
だから、妖怪にした?
「二刀流の彼とか、異世界に来ても活躍しそうね」
燃尾が口を挟んだが、それに頷くと話が進まなくなりそうでやめた。
「あれは、召喚された、って感じじゃなかった気がする」
閻鬼が呟くように言えば、今度こそ、皆が頷いた。
「私が聞いた伝承と、日本の妖怪がこちらに来た状況はまるで違いますね。過去の勇者らは、こちらに来る時に神と会っています。そこで、特別な力も与えられているのです」
「まるで、ラノベね」
偶然に迷い込んだ、という可能性も否定はできない。人間から隠れる為に、迷い家的な場所に引き籠っている妖怪もいて、ある意味、そこも異世界なのだから。
だが――、
「誰か、旅の栞を持っていない?」
全員の首が横に振られた。
ここに来たのには意味がある。
仮に向こうの世界とこちらの世界で同じ時間の流れであるなら、修学旅行に行こうとしていた妖怪の乗ったバスが行方不明な事はとっくに上に知られている。
そう、今の妖怪らの纏め役である鬼族の棟梁なら、かの白き衣の神に頼んで、迎えに来る事だってできるのだ。
閻鬼すら足の竦む超絶な力の持ち主が、こちらの世界に現われれば、必ず気付く。絶対なる最強者。それが白き衣の神なのだ。
「今、それに悩んでも仕方がないわね。まずは、この世界で、これからどう動くべきかを考えましょう。で、種族について教えて」
この世界、あくまでも賢者ハクレウスの知識の範囲であり、この周辺では、であるが、人間種が約七割と圧倒的に多く、他に亜人種がいて、エルフ、ドワーフ、獣人族がいる。獣人に関しては、更に細分化されるのだが、その説明を聞くと長くなりそうだ。
「国の盟主は殆どが人間種なのね」
「はい。ただ、エルフの国が一つ、ドワーフの国も一つあります。獣人族の国はありませんが、地方の豪族が幾つか。その多くは人間の国の一部となっていますが、一つ、獣人だけの自治区もあります」
つまり、十の人間の国と三つの亜人の国、または自治区があるのだ。
「通貨は? まあ、妖怪の私たちはそんなに興味はないのだけど、知っておいた方が役立つ事もあるでしょ」
「意外と思われるかもしれませんが、紙幣が存在します。向こうの世界のような印刷技術があるわけではありませんが、魔法による信用を刻むのです」
一枚見せてもらえば、西洋魔力に近い物を感じて、金額らしい物と魔法陣に似た刻印が描かれていた。
「紙は?」
「樹木から生成するくらいの技術はあります」
ベトランゼ王国と周辺の三国では、ストンという通貨が一般的で、硬貨もあった。一ストンでどれくらいの価値があるかは比べるのが難しいが、一万ストンで町の住人――人家族五人――が一月暮らしていけるらしい。
「ここは王国と言ってたけど、政治体制は中世の欧州に近いのかしら?」
「そう考えていただいて結構です」
大よその情勢が分かったところで、自分達の次の行動を考える。細かい部分は、ハクレウスがいるので、その都度、確認すればいい。
「私たちの目的を整理しましょう。まずは、逸れた仲間と合流したいわね」
この世界に来た事に意味があるとしても、それが分からない今は、最優先はそれだ。
「動き回ると、留まるのと、どっちがいいの?」
燃尾の疑問は難しい選択だ。探す側になるのか、探してもらう側になるのか。
「安全策なら、留まるのもありね。でも、皆が同じ考えをしたら、ずっと会えないわ」
「じゃあ、あたし、王様の所に行きたいわ」
「どうして?」
「若いイケメンなんでしょ?」
うんざりする溜息をついた。
「この発情狐……」
「あら、権力と金を持った牡を求めるのは、牝として自然でしょ。いつ帰れるか、分からないなら、いっそ、妖狐の本懐をここで果たすのもいい」
舌なめずりをする燃尾は、既に国王をロックオンしているようだ。
「なら、一人で――」
「いえ、国王陛下にお会いするのも手かと」
「どういう事、ハクレウス?」
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それは確かにその通りだが。
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妖怪らしい手を使えば、という事だ。闇に隠れながら接近する事ができるし、力ずくで城まで押し通る事だってできる。
「この村で生活する前は、陛下の魔法の師であったのですよ、私は」
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−−−−−−
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誤字・脱字・文章修正 随時行います。
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