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ガシャドクロ
ガシャドクロ②
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天空の覇者と呼ばれ、飛行能力のある魔物の頂点に君臨し続けた。
それが四肢の頭を持つ怪鳥アンズーである。
荒野に降り立ち、その四肢の顔を怒りに歪めるのだ。
「おのれ……、どこのどいつだ! 俺の可愛い小鳥どもをこんな姿に変えたのは!」
怒気が一帯の大気を震わせ、側近たる鳥の魔物らを慄かせる。
腐り始めたハーピー達の肉体に蝿がたかり、どの死骸も無断に肉体を砕かれ、焼かれていた。
確か、破滅神様の声に従い、進軍する先見として、人間どもの村へと向かわせたものらのはずだ。
「アンズー様、ハーピーどもは、この先の村へと向かったはずでは――」
部下の言葉に苛立って睨み付ける。
「んな事は分かってんだ!」
ヒイっと悲鳴を発して、離れていく一羽。
少しは冷静になれ。
そう、考えなくてはならない。
人間が簡単にハーピーを倒す事などできない。稀に地上を歩いているところを襲われれば、まぬけが殺られてしまう事もあろうが、飛んでいるうちに攻撃を受ける事すらほぼ皆無なのだ。
我ら鳥の魔物は素早く、そして頭上を支配する。戦いにおいて、これ程有利な事はない。
また別の一羽が傍にやってきた。
「アンズー様、かの村には確か、人間の賢者がいたとか」
「賢者か……」
人間にも魔法を使う者はいる。多くは、空高くにまで上れば、魔法の射程から外れるが、賢者ともなると話は違うのかもしれない。
「そいつの仕業ではないかと」
「そうか……、いや、小鳥ちゃんらの傷は魔法とは思えないのだが」
「魔法で、投石の威力を高める事ができる者もいます」
そんな魔法もあるのか。
となれば、犯人はそいつしか考えられない。
「よし、その村に向かうぞ。その賢者とやら、八つ裂きにしてくれる」
アンズーが飛行する魔物の軍勢を率いてきたのは、破滅神の声を聞き、他の魔物の勢力よりも先に混沌を広げ、魔王となる為。過去、幾度となく出現した魔王に、鳥の魔物はいない。だから、これは鳥の魔物の悲願でもある。
ただ今は、怒りに駆られ、私怨で行動するのだ。
だからどうした?
感情と欲望の赴くままに行動するからこそ、我らは魔物なのだ。
翼を広げ、大空へと舞い上がる。
風に乗り、件の村まで瞬きの内に辿り着いて見せよう。
「人間如きが、魔物に歯向かえばどうなるか、教えてやる」
殺戮の本能だけが、愛でていたハーピーらの死を悲しむ心を覆ってくれた。
――――
人間であった自分が、妖怪となった。
この事実を簡単に受け入れたのは、また愛しき娘の傍にいられる喜びだけではないのだろう。きっと、同じく志半ばに殺された無念を抱いた者らと同化しているからだ。
真に気持ちが分かるのは、彼らしかいない。
その為か、ハクレウスとしての姿を続ける事も、意識の代表でいる事も許してくれている。
同時に、怨念とは、これ程に心優しき者らでも持つのだと知った。
彼らの記憶が共有できると、多くはごく普通の人間ばかり。
中には特異な才能を持つ者もいたが、武芸家であったり、僧侶までいた。そういう自分も賢者とか呼ばれる存在だったから、笑える事でもない。
「もう直ぐ、一つ目の砦が見えてきます」
野原を脇に見る街道を通り、王都へと向かう途中だ。
「砦ね。ちょっと中途半端な場所にあるのですね」
鬼の少女が疑問を口にする。
彼女の肩にはスネコスリが乗り、少し後ろには疲れたキュピエルを妖狐がおんぶしてくれていた。
「昔は、ここが魔物との戦いの最前線だったのです。それから、何人かの勇者様の活躍で、魔物が退き、西方の開拓は可能になったという経緯があるのです」
「成程……。で、最初の大きな町までは、そこを越えてまだ先なのね」
「はは、閻鬼さんや燃尾さんの足なら、とっくに辿り着いているでしょうが」
「幼子を連れているのだから、仕方ないわ。まだ、沢山は飛べないのでしょ、あの子」
「天狗としての教育はしていませんので」
「仕方ないわ。知らなかったのだから。でも、向こうの天狗でも、キュピエルの歳なら、あんなものよ」
気を使っているようではなく、きっと真実なのだろう。
元からのガシャドクロの記憶もあるから、閻鬼の性格は大よそ把握している。そして、その強さも。
修学旅行に向かった妖怪らの中でも群を抜いて最強なのが、彼女だ。教師もいたが、戦闘能力だけを比べれば、やはり閻鬼に並ぶ存在はいない。
そんな彼女でも向こうの世界では、頂点からはまだ遠い。
鬼族の中では五本の指に入る実力者だが、その更に上に神がいて、大魔王がいる。
おそらく、そういった最強の中の最強といった存在は、こちらの神よりも強い。
なら、何故、妖怪らが異世界に紛れ込むような事態を見逃したのか。
もしかして、既に計算されて事であるなら――。
「あれが、砦?」
閻鬼が指を前に向ける。
その方角が確かに砦のあった場所なので、頷こうとして、できなかった。
「こ、これは……」
崩壊している。
強固な石を積み重ねた壁が全て崩れ、左右の森まで続く木製だが高い塀もまた粉々にされていた。飛び散った壁に使われた石の破片が、足元にまで届いている。
急ぎ足で近付いていく。
すると、人影が何人か分、見えてきた。
軽装備であったが、どうやら、この先にあるカサブランダルの兵士らのようだ。
遠目の雰囲気や、聞こえてきた声の調子から、緊迫した状態ではなさそうだが。
なので、足の速度を落とし、瓦礫の上に立つ、彼らに近付いていった。
どうやら、向こうもこちらに気付いた様子で、最初は警戒したようだが、直ぐに手を振ってくる。
「おお、西から来た人間。無事だった者もいたのだな」
口髭を生やした中年兵が、少し嬉しそうに言ってきた。
「ここより先の村からやってきた。その口ぶり、開拓の村々が魔物に襲われている事を知っているのだな」
「村だけじゃないさ。ほら、ここを壊して、カサブランダルまで魔獣オルトロスがやってきたんだ」
「何と! オルトロスじゃと」
獣型の魔物の中でもかなり強力な存在だ。ハクレウスの知識とガシャドクロの記憶を合わせて考えるに、燃尾でも倒せるが、人間や亜人で構成された軍隊ではかなり苦戦したはずだ。
「オルトロスだけじゃなくて、無数のヘルハウンドを引き連れてきやがって……、あの時は死んだと思ったぞ」
「ここにお主等がいるという事は、町は――」
「ああ、勇者――ではないか、と噂されるモッコリ殿が現われて、彼の活躍で町は救われたんだ」
「モッコリ……」
後ろから閻鬼が口を挟んだ。
「なにその、下品な名前」
そして燃尾の背中で目を覚ましたキュピエルが、
「モッコリ、てなに?」
と聞いてきた。
答えたのが燃尾である。
「モッコリってのはね、男の股間の膨らみで――」
「言わんでいい!」
頬を赤らめた閻鬼が燃尾の頭を叩いた。
コホンとハクレウスは咳払いをした。
「ああ、儂はハクレウスという。以前は、王家に仕え――」
「おお、貴方が賢者ハクレウス様。成程、魔物の襲来にも生き延びたわけだ。えーと、そちらの方々は?」
若く麗しい娘が二人もいれば、瓦礫を片付けていた若い兵士らは手を止めて、こちらを見てくるのだ。
「異国の旅の姫に、狐獣人の踊り子、小さいのは儂の孫じゃ」
スネコスリは見事に姿を消していて、閻鬼は角を幻術で見えなくさせている。
見た感じで、閻鬼は姫とし、燃尾は踊り子とした方が、その格好がまだ自然に思えたのだ。
で、その燃尾の乳から若い兵士らの視線は動かなかった。透けてるしね。
「変わった取り合わせですな」
中年兵の方は閻鬼を見れば、その可憐さに相貌を崩す。
「ああ、お二方とも旅の途中で仲間を逸れ、村に立ち寄ったところをハーピーに襲われ、こうして一緒に非難してきたところじゃ」
うんうん、と中年兵は頷いた。
「我々は西方の西方を確認に来た調査部隊です。持参してきた食料もありますから、どうぞ、召し上がってください」
「良いのかね?」
「ええ。賢者様からお話が聞ければ、その分、調査の期間が短縮できますしね」
「うむ、それなら――」
嫌な気配を察知して、振り返った。
どうやら、閻鬼と燃尾はもう気付いていたようで、じっと西の空を見詰めている。
「あの、どうかされたので?」
「…………兵士らに臨戦態勢を取らせるのじゃ。早く!」
ガシャドクロでなかったら、まだ気付けていなかっただろう。
「魔物の集団ね。厄介だわ。全部、飛行タイプ」
厄介と言いながら、焦っている様子はない閻鬼だ。
「そうね。できれば、ここの兵士らも殺させないでおきたいけど。恩を売る為にね」
燃尾の言う通り、自分達だけならどうとでもなるが、人間の兵士らを守りながら、となると難易度は途端に跳ね上がる。
直ぐに人間の兵士らの視界にも奴らは見えてくる。
「中心にいるのは……アンズーか!」
忌々しそうにハクレウスが言えば、兵士らが動揺した。
「大空の覇者だと……。い、いかん、全員、対空防御態勢!」
無駄だ。
こちらの攻撃が届くような場所に奴らは下りてはこないし、逃げては直ぐに追いつかれ、守っても疾風を発生させて、吹き飛ばしてくるだろう。
「先手を打てる、淫乱狐?」
「狐火が操れる範囲まで来てくれたらね」
「飛べないの? 貴女が敬愛する赤い九尾みたいに」
「…………」
「できないのね」
「あと一本、尻尾が増えたら、きっと飛べるようになるわよ」
涙目の燃尾に、鼻で笑う閻鬼がいる。
もう自分も含めて、になるが、妖怪とは緊迫感のない連中だ。
そんな会話のうちに、もう飛行する魔物らが、迫ってきている。
大声が聞こえた。
「おい、賢者はどいつだ! 俺様の可愛い小鳥ちゃんらの仇っ、出てこいや!」
奴の言葉の意味が直ぐは理解できなかったが、とても怒っている事と、賢者である自分を指名している事は分かった。
できれば、閻鬼や燃尾の力を兵士らには見せたくはない。妖怪と知れれば、いらぬ不安を煽るし、警戒されてしまうと行動し辛くなる。
「ここは、儂が出ていきましょう」
前に出ていけば、血走った獅子の瞳が頭上から睨んできた。
「てめえが賢者か」
これから殺し合うのが明確な殺気を向けてきている。
それなのに、いらぬ会話を求めてくるアンズーを鼻で笑いたい気分であったが、それでは向こうのレベルと変わらない。
「ああん、恐ろしくて、声も出ねえのか?」
相手を殺すと決めたなら、言葉よりも行動を先にするものだ。
呪文の詠唱を始める。
「てめえ、舐めんのか!」
超高速で降下してきたアンズーの鉤爪が鋭利な輝きを放って迫りくる。
兵士らが悲鳴を上げた。
焦る必要はない。
「既に儂は死んでいるのだからな。そして――」
的確に喉を狙ってきた爪が抉り込んできた。
掻っ切られたかのように見えただろう。兵士の悲痛な叫びが聞こえる。
鮮血が舞った。
が、それは賢者から噴出した物ではない。
「いってぇ――」
上昇していくアンズーの腹部が真っ赤に裂けて、地に血を落としていく。
「たわいもなし」
ハクレウスの右半身が武者となっていた。
体の半分を無者の怨念と変え、彼の放った刃の一閃が、アンズーを斬ったのである。
舐めていたのは怪鳥の方だった。
魔法が発動され、アンズーが傷を塞いでいく。
「こいつ……」
奴が離れたなら、今度こそ、魔法を放つのだ。詠唱は既に終わっている。
「落雷よ、愚か者を穿て!」
アンズーの頭上に魔法陣を描き、電撃を見舞わせる。
「ぐ……」
上空での素早い反転で、奴は傍にいた部下の鳥魔物の下に隠せた。
一体が絶命して落下していく。
やはり愚か。ハーピーの死に怒りを見せながら、結局は部下を盾にしたのだ。
それにしても今の雷撃は威力が生前よりも増していた。
――そうか、魔力と妖力の源は同じなのだな。つまりは、そう、コンピューターの言語が違うようなもの。
コンピューターなどという本来は知らぬはずの物が自然に頭に浮かんできて、ハクレウスの意識は苦笑いをした。
妖力は魔力に変換され、付け加える事ができるのなら、人間であった頃よりも格段に上がっていてもおかしくはない。
「凄い……」
呟いたのは名も知らぬ兵士か。もしも自分が生きていて、別の誰かがこれと同じ事を行っていたなら、やはり呟いていただろう。
「飛べもしねえ奴に負けるか!」
アンズーが高度を上げていく。直ぐに魔王の射程距離から離れるだろう。こちらの攻撃が届かない高さから、一方的に嬲ってくるはずだ。
逃がしはしない。
賢者の名声はやはり便利だ。目を疑うような現象を起こしても、特別な魔法だとでも言えば信じてもらえるのだから。
「ははは、人間の割には強かったぞ、お前。だが、超高度から攻撃ができる俺様に、てめえは、なすすべな――、へ?」
巨大な骸骨の手が、怪鳥に迫り、そいつを掴んだ。
ガシャドクロがその本性を見せ、崩れた砦に巨大なスケルトンのようなものが現われたのだ。
「ぐぎゃぁあああ――――」
アンズーが苦悶に叫ぶ。怨念の熱が奴を焼き、羽が黒に染まっていく。
身を焦がす怨嗟の熱に、子を、妻を、夫を、親を、そして己を殺された村人らの怒りを追加して、怪鳥をじわりじわりとゆっくり焼いていくのだ。
慄いているアンズーの部下らを、燃尾の狐火が焼き、閻鬼の石礫が貫いていく。それは単純な作業であって、戦いではなく駆除だった。
怪鳥を握り潰した時、それはただの炭でしかなかった。
それが四肢の頭を持つ怪鳥アンズーである。
荒野に降り立ち、その四肢の顔を怒りに歪めるのだ。
「おのれ……、どこのどいつだ! 俺の可愛い小鳥どもをこんな姿に変えたのは!」
怒気が一帯の大気を震わせ、側近たる鳥の魔物らを慄かせる。
腐り始めたハーピー達の肉体に蝿がたかり、どの死骸も無断に肉体を砕かれ、焼かれていた。
確か、破滅神様の声に従い、進軍する先見として、人間どもの村へと向かわせたものらのはずだ。
「アンズー様、ハーピーどもは、この先の村へと向かったはずでは――」
部下の言葉に苛立って睨み付ける。
「んな事は分かってんだ!」
ヒイっと悲鳴を発して、離れていく一羽。
少しは冷静になれ。
そう、考えなくてはならない。
人間が簡単にハーピーを倒す事などできない。稀に地上を歩いているところを襲われれば、まぬけが殺られてしまう事もあろうが、飛んでいるうちに攻撃を受ける事すらほぼ皆無なのだ。
我ら鳥の魔物は素早く、そして頭上を支配する。戦いにおいて、これ程有利な事はない。
また別の一羽が傍にやってきた。
「アンズー様、かの村には確か、人間の賢者がいたとか」
「賢者か……」
人間にも魔法を使う者はいる。多くは、空高くにまで上れば、魔法の射程から外れるが、賢者ともなると話は違うのかもしれない。
「そいつの仕業ではないかと」
「そうか……、いや、小鳥ちゃんらの傷は魔法とは思えないのだが」
「魔法で、投石の威力を高める事ができる者もいます」
そんな魔法もあるのか。
となれば、犯人はそいつしか考えられない。
「よし、その村に向かうぞ。その賢者とやら、八つ裂きにしてくれる」
アンズーが飛行する魔物の軍勢を率いてきたのは、破滅神の声を聞き、他の魔物の勢力よりも先に混沌を広げ、魔王となる為。過去、幾度となく出現した魔王に、鳥の魔物はいない。だから、これは鳥の魔物の悲願でもある。
ただ今は、怒りに駆られ、私怨で行動するのだ。
だからどうした?
感情と欲望の赴くままに行動するからこそ、我らは魔物なのだ。
翼を広げ、大空へと舞い上がる。
風に乗り、件の村まで瞬きの内に辿り着いて見せよう。
「人間如きが、魔物に歯向かえばどうなるか、教えてやる」
殺戮の本能だけが、愛でていたハーピーらの死を悲しむ心を覆ってくれた。
――――
人間であった自分が、妖怪となった。
この事実を簡単に受け入れたのは、また愛しき娘の傍にいられる喜びだけではないのだろう。きっと、同じく志半ばに殺された無念を抱いた者らと同化しているからだ。
真に気持ちが分かるのは、彼らしかいない。
その為か、ハクレウスとしての姿を続ける事も、意識の代表でいる事も許してくれている。
同時に、怨念とは、これ程に心優しき者らでも持つのだと知った。
彼らの記憶が共有できると、多くはごく普通の人間ばかり。
中には特異な才能を持つ者もいたが、武芸家であったり、僧侶までいた。そういう自分も賢者とか呼ばれる存在だったから、笑える事でもない。
「もう直ぐ、一つ目の砦が見えてきます」
野原を脇に見る街道を通り、王都へと向かう途中だ。
「砦ね。ちょっと中途半端な場所にあるのですね」
鬼の少女が疑問を口にする。
彼女の肩にはスネコスリが乗り、少し後ろには疲れたキュピエルを妖狐がおんぶしてくれていた。
「昔は、ここが魔物との戦いの最前線だったのです。それから、何人かの勇者様の活躍で、魔物が退き、西方の開拓は可能になったという経緯があるのです」
「成程……。で、最初の大きな町までは、そこを越えてまだ先なのね」
「はは、閻鬼さんや燃尾さんの足なら、とっくに辿り着いているでしょうが」
「幼子を連れているのだから、仕方ないわ。まだ、沢山は飛べないのでしょ、あの子」
「天狗としての教育はしていませんので」
「仕方ないわ。知らなかったのだから。でも、向こうの天狗でも、キュピエルの歳なら、あんなものよ」
気を使っているようではなく、きっと真実なのだろう。
元からのガシャドクロの記憶もあるから、閻鬼の性格は大よそ把握している。そして、その強さも。
修学旅行に向かった妖怪らの中でも群を抜いて最強なのが、彼女だ。教師もいたが、戦闘能力だけを比べれば、やはり閻鬼に並ぶ存在はいない。
そんな彼女でも向こうの世界では、頂点からはまだ遠い。
鬼族の中では五本の指に入る実力者だが、その更に上に神がいて、大魔王がいる。
おそらく、そういった最強の中の最強といった存在は、こちらの神よりも強い。
なら、何故、妖怪らが異世界に紛れ込むような事態を見逃したのか。
もしかして、既に計算されて事であるなら――。
「あれが、砦?」
閻鬼が指を前に向ける。
その方角が確かに砦のあった場所なので、頷こうとして、できなかった。
「こ、これは……」
崩壊している。
強固な石を積み重ねた壁が全て崩れ、左右の森まで続く木製だが高い塀もまた粉々にされていた。飛び散った壁に使われた石の破片が、足元にまで届いている。
急ぎ足で近付いていく。
すると、人影が何人か分、見えてきた。
軽装備であったが、どうやら、この先にあるカサブランダルの兵士らのようだ。
遠目の雰囲気や、聞こえてきた声の調子から、緊迫した状態ではなさそうだが。
なので、足の速度を落とし、瓦礫の上に立つ、彼らに近付いていった。
どうやら、向こうもこちらに気付いた様子で、最初は警戒したようだが、直ぐに手を振ってくる。
「おお、西から来た人間。無事だった者もいたのだな」
口髭を生やした中年兵が、少し嬉しそうに言ってきた。
「ここより先の村からやってきた。その口ぶり、開拓の村々が魔物に襲われている事を知っているのだな」
「村だけじゃないさ。ほら、ここを壊して、カサブランダルまで魔獣オルトロスがやってきたんだ」
「何と! オルトロスじゃと」
獣型の魔物の中でもかなり強力な存在だ。ハクレウスの知識とガシャドクロの記憶を合わせて考えるに、燃尾でも倒せるが、人間や亜人で構成された軍隊ではかなり苦戦したはずだ。
「オルトロスだけじゃなくて、無数のヘルハウンドを引き連れてきやがって……、あの時は死んだと思ったぞ」
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「モッコリ……」
後ろから閻鬼が口を挟んだ。
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「モッコリ、てなに?」
と聞いてきた。
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「言わんでいい!」
頬を赤らめた閻鬼が燃尾の頭を叩いた。
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「おお、貴方が賢者ハクレウス様。成程、魔物の襲来にも生き延びたわけだ。えーと、そちらの方々は?」
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スネコスリは見事に姿を消していて、閻鬼は角を幻術で見えなくさせている。
見た感じで、閻鬼は姫とし、燃尾は踊り子とした方が、その格好がまだ自然に思えたのだ。
で、その燃尾の乳から若い兵士らの視線は動かなかった。透けてるしね。
「変わった取り合わせですな」
中年兵の方は閻鬼を見れば、その可憐さに相貌を崩す。
「ああ、お二方とも旅の途中で仲間を逸れ、村に立ち寄ったところをハーピーに襲われ、こうして一緒に非難してきたところじゃ」
うんうん、と中年兵は頷いた。
「我々は西方の西方を確認に来た調査部隊です。持参してきた食料もありますから、どうぞ、召し上がってください」
「良いのかね?」
「ええ。賢者様からお話が聞ければ、その分、調査の期間が短縮できますしね」
「うむ、それなら――」
嫌な気配を察知して、振り返った。
どうやら、閻鬼と燃尾はもう気付いていたようで、じっと西の空を見詰めている。
「あの、どうかされたので?」
「…………兵士らに臨戦態勢を取らせるのじゃ。早く!」
ガシャドクロでなかったら、まだ気付けていなかっただろう。
「魔物の集団ね。厄介だわ。全部、飛行タイプ」
厄介と言いながら、焦っている様子はない閻鬼だ。
「そうね。できれば、ここの兵士らも殺させないでおきたいけど。恩を売る為にね」
燃尾の言う通り、自分達だけならどうとでもなるが、人間の兵士らを守りながら、となると難易度は途端に跳ね上がる。
直ぐに人間の兵士らの視界にも奴らは見えてくる。
「中心にいるのは……アンズーか!」
忌々しそうにハクレウスが言えば、兵士らが動揺した。
「大空の覇者だと……。い、いかん、全員、対空防御態勢!」
無駄だ。
こちらの攻撃が届くような場所に奴らは下りてはこないし、逃げては直ぐに追いつかれ、守っても疾風を発生させて、吹き飛ばしてくるだろう。
「先手を打てる、淫乱狐?」
「狐火が操れる範囲まで来てくれたらね」
「飛べないの? 貴女が敬愛する赤い九尾みたいに」
「…………」
「できないのね」
「あと一本、尻尾が増えたら、きっと飛べるようになるわよ」
涙目の燃尾に、鼻で笑う閻鬼がいる。
もう自分も含めて、になるが、妖怪とは緊迫感のない連中だ。
そんな会話のうちに、もう飛行する魔物らが、迫ってきている。
大声が聞こえた。
「おい、賢者はどいつだ! 俺様の可愛い小鳥ちゃんらの仇っ、出てこいや!」
奴の言葉の意味が直ぐは理解できなかったが、とても怒っている事と、賢者である自分を指名している事は分かった。
できれば、閻鬼や燃尾の力を兵士らには見せたくはない。妖怪と知れれば、いらぬ不安を煽るし、警戒されてしまうと行動し辛くなる。
「ここは、儂が出ていきましょう」
前に出ていけば、血走った獅子の瞳が頭上から睨んできた。
「てめえが賢者か」
これから殺し合うのが明確な殺気を向けてきている。
それなのに、いらぬ会話を求めてくるアンズーを鼻で笑いたい気分であったが、それでは向こうのレベルと変わらない。
「ああん、恐ろしくて、声も出ねえのか?」
相手を殺すと決めたなら、言葉よりも行動を先にするものだ。
呪文の詠唱を始める。
「てめえ、舐めんのか!」
超高速で降下してきたアンズーの鉤爪が鋭利な輝きを放って迫りくる。
兵士らが悲鳴を上げた。
焦る必要はない。
「既に儂は死んでいるのだからな。そして――」
的確に喉を狙ってきた爪が抉り込んできた。
掻っ切られたかのように見えただろう。兵士の悲痛な叫びが聞こえる。
鮮血が舞った。
が、それは賢者から噴出した物ではない。
「いってぇ――」
上昇していくアンズーの腹部が真っ赤に裂けて、地に血を落としていく。
「たわいもなし」
ハクレウスの右半身が武者となっていた。
体の半分を無者の怨念と変え、彼の放った刃の一閃が、アンズーを斬ったのである。
舐めていたのは怪鳥の方だった。
魔法が発動され、アンズーが傷を塞いでいく。
「こいつ……」
奴が離れたなら、今度こそ、魔法を放つのだ。詠唱は既に終わっている。
「落雷よ、愚か者を穿て!」
アンズーの頭上に魔法陣を描き、電撃を見舞わせる。
「ぐ……」
上空での素早い反転で、奴は傍にいた部下の鳥魔物の下に隠せた。
一体が絶命して落下していく。
やはり愚か。ハーピーの死に怒りを見せながら、結局は部下を盾にしたのだ。
それにしても今の雷撃は威力が生前よりも増していた。
――そうか、魔力と妖力の源は同じなのだな。つまりは、そう、コンピューターの言語が違うようなもの。
コンピューターなどという本来は知らぬはずの物が自然に頭に浮かんできて、ハクレウスの意識は苦笑いをした。
妖力は魔力に変換され、付け加える事ができるのなら、人間であった頃よりも格段に上がっていてもおかしくはない。
「凄い……」
呟いたのは名も知らぬ兵士か。もしも自分が生きていて、別の誰かがこれと同じ事を行っていたなら、やはり呟いていただろう。
「飛べもしねえ奴に負けるか!」
アンズーが高度を上げていく。直ぐに魔王の射程距離から離れるだろう。こちらの攻撃が届かない高さから、一方的に嬲ってくるはずだ。
逃がしはしない。
賢者の名声はやはり便利だ。目を疑うような現象を起こしても、特別な魔法だとでも言えば信じてもらえるのだから。
「ははは、人間の割には強かったぞ、お前。だが、超高度から攻撃ができる俺様に、てめえは、なすすべな――、へ?」
巨大な骸骨の手が、怪鳥に迫り、そいつを掴んだ。
ガシャドクロがその本性を見せ、崩れた砦に巨大なスケルトンのようなものが現われたのだ。
「ぐぎゃぁあああ――――」
アンズーが苦悶に叫ぶ。怨念の熱が奴を焼き、羽が黒に染まっていく。
身を焦がす怨嗟の熱に、子を、妻を、夫を、親を、そして己を殺された村人らの怒りを追加して、怪鳥をじわりじわりとゆっくり焼いていくのだ。
慄いているアンズーの部下らを、燃尾の狐火が焼き、閻鬼の石礫が貫いていく。それは単純な作業であって、戦いではなく駆除だった。
怪鳥を握り潰した時、それはただの炭でしかなかった。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
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冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
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しかし、運命の職業選定で彼が得たのは――【遊び人】。
それも、三つの職業スロットすべてが【遊び人】で埋まるという、前代未聞の怪現象だった。
「期待外れだ」
「国の恥晒しめ」
掌を返した周囲によって、ディランは着の身着のままで街を追放される。 だが、かつて神童と呼ばれた彼の「分析力」は死んでいなかった。
『……Lv1なのに、ステータスが異常に高い? それに経験値が分散せず、すべて加算されている……?』
彼だけが気づいた真実。
それは【遊び人】という名に偽装された、この世界の管理者権限(Free-Hander)であり、全職業のスキルを制限なく使用・強化できるバグ技(デバッグモード)への入り口だったのだ。
これは、理不尽に捨てられた元・神童が、その頭脳とバグ能力で世界を「攻略」し、同じく不遇な扱いを受けていた美少女騎士(中身は脳筋)と共に、誰よりも自由に成り上がる物語。
【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
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そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
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