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佐和田さんと私
佐和田さんと私 その3
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年末だというのに――いや、年末だからこそ非常に慌ただしい日々が続いた。空に浮かぶ新座に住んでいると、急に何か必要になってもすぐには用意出来ない。年末年始であるとなおさらである。ゆえに多くのものを余分に買い込む必要があって、新座市民はこの時期になると一日に三回はこの地と下とを往復する。
灯油、ミニコンロ用のガスボンベ、トイレットペーパーやティッシュペーパー、餅、おせちに飽きた時のためのレトルトカレー、カップ麺……などなど、私達は冬に備えて餌を集める蟻のように、生活必需品の数々を買い込んだ。
買い出しが終われば本格的な大掃除。それが終わればおせちの準備で、気が付けば大晦日である。せっかくの年末だということで、普段はめったに食べることのない蟹の鍋を家族で囲み、食後しばらくリビングのソファーでテレビを見ながらうつらうつらしていると、遠き平林寺からごぅんごぅんと除夜の鐘の音が聞こえてきた。
「もう年越しだ。早いもんだ」と父が言った。父は既にかなり眠いのか、まぶたが半分以上閉じていた。
「この歳になると一年が本当に早い。スーパーカーが通ってるようだよ」
「そりゃ大変だ。僕はまだまだ、亀が歩いてるようなものだから」
「大事にしなさい、そのゆっくり流れる時間を」
その時、胸の上に置いていた私の携帯が震え、青前さんからの着信を告げた。電話を取ると、彼女のはつらつとした声が鼓膜に刺さり、私の眠気はそこで吹き飛んだ。
「やっほーナリヒラくんっ! あけおめことよろーっ!」
「はい。明けましておめでとうございます。今年もまた、よろしくお願いします」
新年のあいさつをしながら、私はぺこりと頭を下げた。
「しかし、青前さんは年明けから元気ですねぇ」
「年明けだから元気じゃなくちゃいけないんじゃないの。てことでナリヒラくん、初詣行くよ! 朝の五時にお店まで来ること!」
「初詣は構いませんが……平林寺の開門は八時からのはずですよ」
「そんなことわかってるって。だから、下に行こうって言ってるの!」
「下ですか」と言って私は父をちらりと見た。父は親指と人差し指で丸を作ると、小さくウインクして柄にもなくカッコつけてみせた。
「いいですよ。たまには珍しいことをやらなければ」
「そうこなくっちゃね」と明るい調子で言った青前さんは、「遅れないでよ!」と念押しして電話を切った。相変わらずつむじ風のように突然で、太陽のように賑やかな人である。年が明けた程度では変わらない彼女に嬉しくなって、私の口元からは笑みがこぼれた。
通話を終えた私に、父はそっと壱万円の新札を手渡してきた。大学生になってからバイトを始めた私は、年を越す前から「もうお年玉は要らない」と断っている。そのことを忘れているのだろうかと思った私は、「ありがたいけど、要らないよ」と受け取った壱万円札を返そうとしたが、父は「ダメだ」と言ってそれを受け取ろうとしなかった。
「でも、お年玉なんてこの歳になって受け取れない」
「安心しなさい。それはお年玉じゃない」
父は私の肩に片手を置いて、もう片方の手の親指をグッと突き立てた。
「青前さんと出かけるんだろう? どこか食事へ寄った時はそれを使いなさい。もちろん、お前が全額出すんだぞ」
〇
四時間ほど仮眠を取ってから、私はまだ寝ている両親を起こさないようにそっと家を出た。年明けの新座の朝はいつもと変わらずシンとしている。初詣のためだとか初日の出を拝みに行くためだとかで、まだ日も昇っていない時間から外に出る人は、この町にとってはもはや絶滅危惧種である。クリスマスもお正月も、ここではただの三百六十五分の一として消化されていく。
午前五時前の町は夜よりも暗く、そして寒い。顔半分をマフラーに埋めながらアンリまで行くと、準備を済ませた青前さんが店内のカウンター席で私の到着を待っていた。
私は店のガラス戸を開けながら、改めて「あけましておめでとうございます」と挨拶した。
「寒いですねぇ。まったくもって寒い」
青前さんは「だね」と言いながらカップにコーヒーをこぽこぽと注いだ。香ばしくて苦い香りがぱっと広がり、僅かに残っていた眠気はそこでさっぱり立ち消えた。
「はい、年明け一杯目のコーヒーでもどうぞ」
しばしコーヒーを飲みながらのんびりとした私達は、五時半になるころ店を出た。そこで今日の予定を訊ねたところ、青前さんは「今日は神田明神へ行ってみたいんだよね」と答えた。
商売繁盛、社運隆昌を祈願するサラリーマンが一月四日の仕事始めにこぞってお参りすることは、毎年のようにその混雑具合が新年のニュースで報道されるためよく知っているが、遠い場所の話なのでそれ以上は詳しく知らない。
始発を待つ人が誰もいないバス停を見て、私は本当にバスが来るのだろうかと若干心配になった。青前さんも同じようなことを考えているらしく、バスを待つ間なんとなく落ち着かない様子であった。
私達の不安を余所に、やがてバスがやってきた。バス停で立つ私達を見た運転手の驚いた顔といえば、眠そうにしていた目を見開き、口を大きくあんぐりと開けて、まるで幽霊でも見たかのようであった。年明け早々に客を乗せるのが初めてだったに違いない。
私達だけを乗せたバスは定刻通りに出発した。それから終点である大泉学園駅に到着するまで、新たな乗客が現れることはなかった。
私達は大泉学園駅から池袋駅行きの電車に乗り込んだ。各駅電車に乗ったこともあって、車内に人はまばらであった。
私は隣り合って座る青前さんに尋ねた。
「しかし、なぜまた急に下へ行こうと思ったのですか」
「今年は挑戦の年にしようって思ったの」
「なるほど。つまりはいつもの思いつきですか」
「見てなさい。今年こそは本気なんだからね」
池袋駅で乗り換えた私達は、そこから丸の内線でお茶の水まで出て神田明神へ向かった。しかしそこの混み具合といったら、私の想定を遥かに上回っていて、二車線道路の半分を人混みが占拠しているほどであった。列の最後尾からでは鳥居すら見えない。道路の端を見れば警察車両まで出動している始末で、これではお賽銭を投げ入れるために何時間待たされるか見当もつかない。
行列に並ぶことが大の苦手で、千葉にあるテーマパークへ行った時でさえ、アトラクションに乗るよりも園内を歩き回ることを優先させた青前さんが、並ばずして「やめとこっか」と言ったのも無理はないことであった。
「先ほど言っていた〝本気〟とやらはどこへ行ったのですか」
「今日はお正月休みみたい」と青前さんはとぼけた調子で言った。
「でも、このまま帰るのも少しもったいないね」
「でしたら、どこかで食事をしてからまた来るというのはどうでしょうか」
「素敵なお誘いじゃない。奢ってくれるの?」
「もちろん。誘ったのは私ですからね」
食事に行くことに決めた私達であったが、時間はまだ午前七時過ぎ。おまけに正月である。大した店が開いているわけもなく、私達は歩き回った挙句、秋葉原の駅前にあるファストフード店に落ち着いた。父から預かった諭吉先生は、その力の五分の一すら発揮されることはなかった。
食事を終えてからも私達はひたすら店内で粘り続け、十時を過ぎるころになってようやく店を出た。それから再度、神田明神へ向かったが、混雑具合は相変わらずであった。
「さて、ナリヒラくん。いよいよ並ぼうか」
「いいんですか? 少なく見積もっても、あと一時間は並ぶことになりますよ」
「いいのいいの。一時間くらい、話してたらあっという間でしょ」
寒空の下でおよそ一時間じっと立ち続けているというのは、苦痛以外の何物でもない。しかし、ここは発起人である彼女の言うことに従うべきであろう。覚悟を決めた私は、自らの頬をぴしゃりと叩いて気合を入れた。
ゆっくりと、しかし確実に行列は消化されていく。冷たい風が吹く中で、寒さに耐えながら列になってよちよち歩いていると、なんだか南極に住むペンギンになった気分になる。やがて私達初詣ペンギンは鳥居をくぐり緩やかな坂に差し掛かった。朱色の随神門も、もう視界に入っている。
事件が起きたのは坂を半分まで来た辺りでのことだった。私達の20mほど前で並んでいた男性が、「おおうっ!」と野太い声を上げたのである。それに続けて聞こえてくる「きゃあ」とか「ひえぇ」だとかの悲鳴の連鎖。何か事件が起きていることを予感した私は身構えたが、一方の青前さんは目を輝かせ、「なにかななにかな」と正月早々のハプニングに心躍らせている。
悲鳴の原因は確実にこちらへと近づいてきている。皆の視線を見るに、足元に何かがいるらしい。大きなゴキブリか、それとも一足先に冬眠から目覚めた蛇か蛙か――。
次の瞬間、私の前に並んでいたおじさんが「うへぇ」と声を上げて飛び退いた。開けた視界、足元に現れたのは――なんと新座のマスコットキャラクター、ゾウキリンであった。
背丈は私の膝まで無いくらいだろうか。獲物を取ることも出来そうにないほど短い腕に、よく走れるものだと感心するほど短くて太い脚。それにあの、キリン色に塗り分けられた身体、垂れ下がった長い鼻。見間違いなどではない。やはり、どこからどう見てもゾウキリンである。
私が彼をまじまじ観察する暇があったのは、彼の方も私をまじまじ見ていたからに他ならない。まるで運命の再会を果たした恋人同士の如くしばし見つめ合った私達であったが、青前さんが「ゾウキリンだ!」と声を上げたのをきっかけにして、彼はその短い脚をせっせと動かし勢いよく走り去ってしまった。
列に並んでいた一部の物好きな人が、「待て!」と叫びながらそれを追いかけて、野次馬根性に駆られた人がそれに続く。芋づる式にそれを追う人が出てきて、最終的には行列に並んでいた人のうちの半数以上がゾウキリンを追いかけていった。
流れていく人ごみに流されぬよう私の両肩をしっかり掴んだ青前さんは、「ゾウキリンってホントにいたんだねぇ」としみじみ呟いた。
灯油、ミニコンロ用のガスボンベ、トイレットペーパーやティッシュペーパー、餅、おせちに飽きた時のためのレトルトカレー、カップ麺……などなど、私達は冬に備えて餌を集める蟻のように、生活必需品の数々を買い込んだ。
買い出しが終われば本格的な大掃除。それが終わればおせちの準備で、気が付けば大晦日である。せっかくの年末だということで、普段はめったに食べることのない蟹の鍋を家族で囲み、食後しばらくリビングのソファーでテレビを見ながらうつらうつらしていると、遠き平林寺からごぅんごぅんと除夜の鐘の音が聞こえてきた。
「もう年越しだ。早いもんだ」と父が言った。父は既にかなり眠いのか、まぶたが半分以上閉じていた。
「この歳になると一年が本当に早い。スーパーカーが通ってるようだよ」
「そりゃ大変だ。僕はまだまだ、亀が歩いてるようなものだから」
「大事にしなさい、そのゆっくり流れる時間を」
その時、胸の上に置いていた私の携帯が震え、青前さんからの着信を告げた。電話を取ると、彼女のはつらつとした声が鼓膜に刺さり、私の眠気はそこで吹き飛んだ。
「やっほーナリヒラくんっ! あけおめことよろーっ!」
「はい。明けましておめでとうございます。今年もまた、よろしくお願いします」
新年のあいさつをしながら、私はぺこりと頭を下げた。
「しかし、青前さんは年明けから元気ですねぇ」
「年明けだから元気じゃなくちゃいけないんじゃないの。てことでナリヒラくん、初詣行くよ! 朝の五時にお店まで来ること!」
「初詣は構いませんが……平林寺の開門は八時からのはずですよ」
「そんなことわかってるって。だから、下に行こうって言ってるの!」
「下ですか」と言って私は父をちらりと見た。父は親指と人差し指で丸を作ると、小さくウインクして柄にもなくカッコつけてみせた。
「いいですよ。たまには珍しいことをやらなければ」
「そうこなくっちゃね」と明るい調子で言った青前さんは、「遅れないでよ!」と念押しして電話を切った。相変わらずつむじ風のように突然で、太陽のように賑やかな人である。年が明けた程度では変わらない彼女に嬉しくなって、私の口元からは笑みがこぼれた。
通話を終えた私に、父はそっと壱万円の新札を手渡してきた。大学生になってからバイトを始めた私は、年を越す前から「もうお年玉は要らない」と断っている。そのことを忘れているのだろうかと思った私は、「ありがたいけど、要らないよ」と受け取った壱万円札を返そうとしたが、父は「ダメだ」と言ってそれを受け取ろうとしなかった。
「でも、お年玉なんてこの歳になって受け取れない」
「安心しなさい。それはお年玉じゃない」
父は私の肩に片手を置いて、もう片方の手の親指をグッと突き立てた。
「青前さんと出かけるんだろう? どこか食事へ寄った時はそれを使いなさい。もちろん、お前が全額出すんだぞ」
〇
四時間ほど仮眠を取ってから、私はまだ寝ている両親を起こさないようにそっと家を出た。年明けの新座の朝はいつもと変わらずシンとしている。初詣のためだとか初日の出を拝みに行くためだとかで、まだ日も昇っていない時間から外に出る人は、この町にとってはもはや絶滅危惧種である。クリスマスもお正月も、ここではただの三百六十五分の一として消化されていく。
午前五時前の町は夜よりも暗く、そして寒い。顔半分をマフラーに埋めながらアンリまで行くと、準備を済ませた青前さんが店内のカウンター席で私の到着を待っていた。
私は店のガラス戸を開けながら、改めて「あけましておめでとうございます」と挨拶した。
「寒いですねぇ。まったくもって寒い」
青前さんは「だね」と言いながらカップにコーヒーをこぽこぽと注いだ。香ばしくて苦い香りがぱっと広がり、僅かに残っていた眠気はそこでさっぱり立ち消えた。
「はい、年明け一杯目のコーヒーでもどうぞ」
しばしコーヒーを飲みながらのんびりとした私達は、五時半になるころ店を出た。そこで今日の予定を訊ねたところ、青前さんは「今日は神田明神へ行ってみたいんだよね」と答えた。
商売繁盛、社運隆昌を祈願するサラリーマンが一月四日の仕事始めにこぞってお参りすることは、毎年のようにその混雑具合が新年のニュースで報道されるためよく知っているが、遠い場所の話なのでそれ以上は詳しく知らない。
始発を待つ人が誰もいないバス停を見て、私は本当にバスが来るのだろうかと若干心配になった。青前さんも同じようなことを考えているらしく、バスを待つ間なんとなく落ち着かない様子であった。
私達の不安を余所に、やがてバスがやってきた。バス停で立つ私達を見た運転手の驚いた顔といえば、眠そうにしていた目を見開き、口を大きくあんぐりと開けて、まるで幽霊でも見たかのようであった。年明け早々に客を乗せるのが初めてだったに違いない。
私達だけを乗せたバスは定刻通りに出発した。それから終点である大泉学園駅に到着するまで、新たな乗客が現れることはなかった。
私達は大泉学園駅から池袋駅行きの電車に乗り込んだ。各駅電車に乗ったこともあって、車内に人はまばらであった。
私は隣り合って座る青前さんに尋ねた。
「しかし、なぜまた急に下へ行こうと思ったのですか」
「今年は挑戦の年にしようって思ったの」
「なるほど。つまりはいつもの思いつきですか」
「見てなさい。今年こそは本気なんだからね」
池袋駅で乗り換えた私達は、そこから丸の内線でお茶の水まで出て神田明神へ向かった。しかしそこの混み具合といったら、私の想定を遥かに上回っていて、二車線道路の半分を人混みが占拠しているほどであった。列の最後尾からでは鳥居すら見えない。道路の端を見れば警察車両まで出動している始末で、これではお賽銭を投げ入れるために何時間待たされるか見当もつかない。
行列に並ぶことが大の苦手で、千葉にあるテーマパークへ行った時でさえ、アトラクションに乗るよりも園内を歩き回ることを優先させた青前さんが、並ばずして「やめとこっか」と言ったのも無理はないことであった。
「先ほど言っていた〝本気〟とやらはどこへ行ったのですか」
「今日はお正月休みみたい」と青前さんはとぼけた調子で言った。
「でも、このまま帰るのも少しもったいないね」
「でしたら、どこかで食事をしてからまた来るというのはどうでしょうか」
「素敵なお誘いじゃない。奢ってくれるの?」
「もちろん。誘ったのは私ですからね」
食事に行くことに決めた私達であったが、時間はまだ午前七時過ぎ。おまけに正月である。大した店が開いているわけもなく、私達は歩き回った挙句、秋葉原の駅前にあるファストフード店に落ち着いた。父から預かった諭吉先生は、その力の五分の一すら発揮されることはなかった。
食事を終えてからも私達はひたすら店内で粘り続け、十時を過ぎるころになってようやく店を出た。それから再度、神田明神へ向かったが、混雑具合は相変わらずであった。
「さて、ナリヒラくん。いよいよ並ぼうか」
「いいんですか? 少なく見積もっても、あと一時間は並ぶことになりますよ」
「いいのいいの。一時間くらい、話してたらあっという間でしょ」
寒空の下でおよそ一時間じっと立ち続けているというのは、苦痛以外の何物でもない。しかし、ここは発起人である彼女の言うことに従うべきであろう。覚悟を決めた私は、自らの頬をぴしゃりと叩いて気合を入れた。
ゆっくりと、しかし確実に行列は消化されていく。冷たい風が吹く中で、寒さに耐えながら列になってよちよち歩いていると、なんだか南極に住むペンギンになった気分になる。やがて私達初詣ペンギンは鳥居をくぐり緩やかな坂に差し掛かった。朱色の随神門も、もう視界に入っている。
事件が起きたのは坂を半分まで来た辺りでのことだった。私達の20mほど前で並んでいた男性が、「おおうっ!」と野太い声を上げたのである。それに続けて聞こえてくる「きゃあ」とか「ひえぇ」だとかの悲鳴の連鎖。何か事件が起きていることを予感した私は身構えたが、一方の青前さんは目を輝かせ、「なにかななにかな」と正月早々のハプニングに心躍らせている。
悲鳴の原因は確実にこちらへと近づいてきている。皆の視線を見るに、足元に何かがいるらしい。大きなゴキブリか、それとも一足先に冬眠から目覚めた蛇か蛙か――。
次の瞬間、私の前に並んでいたおじさんが「うへぇ」と声を上げて飛び退いた。開けた視界、足元に現れたのは――なんと新座のマスコットキャラクター、ゾウキリンであった。
背丈は私の膝まで無いくらいだろうか。獲物を取ることも出来そうにないほど短い腕に、よく走れるものだと感心するほど短くて太い脚。それにあの、キリン色に塗り分けられた身体、垂れ下がった長い鼻。見間違いなどではない。やはり、どこからどう見てもゾウキリンである。
私が彼をまじまじ観察する暇があったのは、彼の方も私をまじまじ見ていたからに他ならない。まるで運命の再会を果たした恋人同士の如くしばし見つめ合った私達であったが、青前さんが「ゾウキリンだ!」と声を上げたのをきっかけにして、彼はその短い脚をせっせと動かし勢いよく走り去ってしまった。
列に並んでいた一部の物好きな人が、「待て!」と叫びながらそれを追いかけて、野次馬根性に駆られた人がそれに続く。芋づる式にそれを追う人が出てきて、最終的には行列に並んでいた人のうちの半数以上がゾウキリンを追いかけていった。
流れていく人ごみに流されぬよう私の両肩をしっかり掴んだ青前さんは、「ゾウキリンってホントにいたんだねぇ」としみじみ呟いた。
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