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片恋切符は天の川をこえて
8、下関市とお守り
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高校へはバスで通っている。
自転車でも通えない距離でもなかったけど、転校時に自転車を持っていなかったため、必然的にバスに乗るようになってそのまま今も変わっていない。
御裳川のバス停から高校の最寄りのバス停まではだいたい十分ほどで到着するが、帰りは乗り換える必要があるため、一度下関駅で下車をしなくてはならない。乗り換えのバスはすぐやってくるため、いつもはできるだけ急ぎ足で乗り換えて自宅に向かうのだけど、食材や日用品が足りていなかったりすればそのまま駅前で買い物をしてから帰ることもある。
駅前には『シーモール』や『大丸』があって、放課後の時間になると制服姿の学生で溢れ返っている。
友達がいたらこのあたりで遊んだりするのかもしれないけど、友達なんていないため、考えても仕方がない。
その日はそこまで日差しも強くなかったため、折りたたみ式の日傘を差し、海沿いを歩くことにした。
セイと出会ってから、外を歩くことが苦痛ではなくなった。
ここは、東京とはまったく違う。
まったく違うけど、違う分だけ良いところもたくさんある。
歴史の詰まった街だからあちらこちらに教科書で見たことのある歴史上の人物の石碑を見たり、その史跡を辿ることができた。
『赤間神宮には源平合戦で敗れ、入水した安徳天皇が祀られているんだ』
『唐戸市場から宮本武蔵と佐々木小次郎の決戦の地である巌流島に船で渡ることができる』
『フグは下関弁でフクって言うんだ』
この地は悪いところではない。むしろとっても素敵なところなんだ。
優しい笑みを浮かべるセイはそう伝えたいのだとわたしも素直に耳を傾け、うなずいた。
穏やかな低い声で語られるこの街は魅力にあふれていた。
一緒に行ってみよう。
そんな言葉はわたしたちの間では存在しなかったけど、いつか目にするならこの人の隣で見たいと思えるようになった。
会話を思い出して歩く関門海峡沿いの道は心地よく、気付けばあっという間に唐戸市場の当たりまで来ていた。
この辺りは休日の朝になると名前の通り市場が開かれ、新鮮な海の幸を購入するためにたくさんの人が集まるのだという。出歩くことがほとんどないため、実際にはその光景を見たことがないのだけど、見るものすべてが新鮮に感じられた。
『下関には床屋発祥の地もあるんだ』
セイの言葉を思い出しながら、少しずつ自分の知るエリアを増やしていったのは、この地に引っ越してきた半年を超えたあたりからだった。
それまでは外を歩くことを恐れていた。気にしていないようで学校で向けられる視線や言葉がトラウマになっているらしく、人と会うことがとても怖かった。いや、学校だけではない。他の女の子たちよりも背の高い自分はいつもどこにいてもじろじろと見られる対象で、誰にも見えない透明人間になりたいとさえ思っていた。
『マミちゃんはきれいだからついつい見ちゃうんだろうね。本能のままに見ちゃうんだと思うから仕方ないとは思うけど、マミちゃん本人はいい気はしないよね』
自分がいるときに見られようものなら全力で隠すから安心してくれ、とセイは白い歯を見せた。そんなセイ本人もずいぶん目立つ人だとは思うけど、セイのように気の利いた言葉が出てこない気がして、何も言い返すことはできなかった。
『大丈夫。怖くないから』
大丈夫。
そう言われたら、本当にそんな気がして前を向いて歩くことができるようになった。
少しずつ少しずつ。
自分のペースだけど、セイがいない日でも少しずつ呼吸がしやすくなっていった。
その頃から、自分自身が変わっていくのが感じられた。
あんなにも嫌だ嫌だと思っていた下関での暮らしが、いつの間にか嫌ではなくなっていた。
『マミちゃん、大丈夫だよ』
その言葉は、わたしのお守りだった。
自転車でも通えない距離でもなかったけど、転校時に自転車を持っていなかったため、必然的にバスに乗るようになってそのまま今も変わっていない。
御裳川のバス停から高校の最寄りのバス停まではだいたい十分ほどで到着するが、帰りは乗り換える必要があるため、一度下関駅で下車をしなくてはならない。乗り換えのバスはすぐやってくるため、いつもはできるだけ急ぎ足で乗り換えて自宅に向かうのだけど、食材や日用品が足りていなかったりすればそのまま駅前で買い物をしてから帰ることもある。
駅前には『シーモール』や『大丸』があって、放課後の時間になると制服姿の学生で溢れ返っている。
友達がいたらこのあたりで遊んだりするのかもしれないけど、友達なんていないため、考えても仕方がない。
その日はそこまで日差しも強くなかったため、折りたたみ式の日傘を差し、海沿いを歩くことにした。
セイと出会ってから、外を歩くことが苦痛ではなくなった。
ここは、東京とはまったく違う。
まったく違うけど、違う分だけ良いところもたくさんある。
歴史の詰まった街だからあちらこちらに教科書で見たことのある歴史上の人物の石碑を見たり、その史跡を辿ることができた。
『赤間神宮には源平合戦で敗れ、入水した安徳天皇が祀られているんだ』
『唐戸市場から宮本武蔵と佐々木小次郎の決戦の地である巌流島に船で渡ることができる』
『フグは下関弁でフクって言うんだ』
この地は悪いところではない。むしろとっても素敵なところなんだ。
優しい笑みを浮かべるセイはそう伝えたいのだとわたしも素直に耳を傾け、うなずいた。
穏やかな低い声で語られるこの街は魅力にあふれていた。
一緒に行ってみよう。
そんな言葉はわたしたちの間では存在しなかったけど、いつか目にするならこの人の隣で見たいと思えるようになった。
会話を思い出して歩く関門海峡沿いの道は心地よく、気付けばあっという間に唐戸市場の当たりまで来ていた。
この辺りは休日の朝になると名前の通り市場が開かれ、新鮮な海の幸を購入するためにたくさんの人が集まるのだという。出歩くことがほとんどないため、実際にはその光景を見たことがないのだけど、見るものすべてが新鮮に感じられた。
『下関には床屋発祥の地もあるんだ』
セイの言葉を思い出しながら、少しずつ自分の知るエリアを増やしていったのは、この地に引っ越してきた半年を超えたあたりからだった。
それまでは外を歩くことを恐れていた。気にしていないようで学校で向けられる視線や言葉がトラウマになっているらしく、人と会うことがとても怖かった。いや、学校だけではない。他の女の子たちよりも背の高い自分はいつもどこにいてもじろじろと見られる対象で、誰にも見えない透明人間になりたいとさえ思っていた。
『マミちゃんはきれいだからついつい見ちゃうんだろうね。本能のままに見ちゃうんだと思うから仕方ないとは思うけど、マミちゃん本人はいい気はしないよね』
自分がいるときに見られようものなら全力で隠すから安心してくれ、とセイは白い歯を見せた。そんなセイ本人もずいぶん目立つ人だとは思うけど、セイのように気の利いた言葉が出てこない気がして、何も言い返すことはできなかった。
『大丈夫。怖くないから』
大丈夫。
そう言われたら、本当にそんな気がして前を向いて歩くことができるようになった。
少しずつ少しずつ。
自分のペースだけど、セイがいない日でも少しずつ呼吸がしやすくなっていった。
その頃から、自分自身が変わっていくのが感じられた。
あんなにも嫌だ嫌だと思っていた下関での暮らしが、いつの間にか嫌ではなくなっていた。
『マミちゃん、大丈夫だよ』
その言葉は、わたしのお守りだった。
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